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『次は、巌戸台駅。巌戸台駅。お出口は―』
電車のアナウンスが、線路を走る音に混じってイヤホン越しに微かに聞こえてくる。
有里湊はそろそろかと軽く荷物の確認をしつつ、窓から見える夜の景色をぼんやりと眺めていた。
時刻は12時になる少し前。灯がポツリポツリと見えるその街並みは、夜空の星の輝きをそのままに人の営みを感じさせ、思わず携帯を見ていた手を止めて魅入ってしまう。
しばらくそのまま眺めていると大きな音を立てて電車が止まり、向かい側のドアが開いた。
降りていく人に倣い、改札を抜ける。
電光掲示板の近くの時計がもうすぐその針を重ねようとしているところだった。
カチッ…カチッ…カチッ…
ボーン……ボーン………ボーン……
余韻の大きな時計の音に目を細めたその瞬間、唐突にイヤホンから流れていた音楽が止まり、構内の灯りもなくなった。
有里はキョロキョロと周りを見るも、『誰も』人がいない。
(……?)
駅員のいるはずの改札前も、隣を忙しなく駆け抜けていったサラリーマンも、いなくなっている。
不思議に思いながら外へ出ると、目の前には異様な程大きな月。
ビルや建物の合間には奇妙な棺が並んでいて、何かのイベントかと首を傾げ鞄の中から寮への地図を探す。
その時。
「……何をしているんだ?」
ふと背後からそんな声が聞こえて思わず振り返ると、目に白が飛び込んできた。
(凄い……真っ白な髪に、紅い目……初めて見た……)
有里は駅の階段に座る青年から、目を離せなくなる。
雪のように白い髪に、煌々と輝く柘榴の瞳。制服は同じ月光館学園のものだろうか、上に大きな黒のフード付パーカを着ているせいで、髪の白がやけに際立って見えた。
青年はややつり気味の丸い瞳で、黙っている有里をジッと見つめる。
「もう一度言う。何をしているんだ?」
「……地図を探してる」
「ふうん……格好からして、学生寮か?」
その問いに有里は目を見開くが、彼は構わず言葉を続けた。
「場所。案内するか?」
「……いいのか?」
「いいよ。ただし、俺に会った事は誰にも言わないでくれ。誰にも、だ」
青年はゆっくりと立ちあがり、小さく頷いた有里の手を取って歩き出す。
背丈が同じくらいのせいか、目の前で白い髪がフワフワと揺れているのが見えた。
(……細い指。でも長くて、冷たい)
有里が彼の手に引かれるままに足を運ばせながらなんとなく月を眺めていると、「着いたぞ」という声が聞こえて視線を落とす。
「此処でいいんだろう?」
青年はいつの間にか黒いフードを被っており、髪も目も見ることが出来ない。
コクリと頷くと、「それならよかった」と声が返ってきた。
「……名前」
「俺は桜木ユキ。学校に居ても話しかけないでほしいが、この時間にはたまにさっきのような場所にいる」
桜木と名乗る青年はそう淡々と口に出すと、「アンタは?」と訊ねてきた。
「……僕は、有里湊。……ありがとう、案内してくれて」
「今の時間だと何処も危険だからな。もうすぐ終わるだろうが、アンタもあんまりこの時間外に出るな。学校近くは特にな」
「?わかった。じゃあ、また」
「ああ」
桜木は踵を返し、有里は磐戸台分寮に向き直る。
ギイと音を鳴らして、寮の扉が開かれた。
電車のアナウンスが、線路を走る音に混じってイヤホン越しに微かに聞こえてくる。
有里湊はそろそろかと軽く荷物の確認をしつつ、窓から見える夜の景色をぼんやりと眺めていた。
時刻は12時になる少し前。灯がポツリポツリと見えるその街並みは、夜空の星の輝きをそのままに人の営みを感じさせ、思わず携帯を見ていた手を止めて魅入ってしまう。
しばらくそのまま眺めていると大きな音を立てて電車が止まり、向かい側のドアが開いた。
降りていく人に倣い、改札を抜ける。
電光掲示板の近くの時計がもうすぐその針を重ねようとしているところだった。
カチッ…カチッ…カチッ…
ボーン……ボーン………ボーン……
余韻の大きな時計の音に目を細めたその瞬間、唐突にイヤホンから流れていた音楽が止まり、構内の灯りもなくなった。
有里はキョロキョロと周りを見るも、『誰も』人がいない。
(……?)
駅員のいるはずの改札前も、隣を忙しなく駆け抜けていったサラリーマンも、いなくなっている。
不思議に思いながら外へ出ると、目の前には異様な程大きな月。
ビルや建物の合間には奇妙な棺が並んでいて、何かのイベントかと首を傾げ鞄の中から寮への地図を探す。
その時。
「……何をしているんだ?」
ふと背後からそんな声が聞こえて思わず振り返ると、目に白が飛び込んできた。
(凄い……真っ白な髪に、紅い目……初めて見た……)
有里は駅の階段に座る青年から、目を離せなくなる。
雪のように白い髪に、煌々と輝く柘榴の瞳。制服は同じ月光館学園のものだろうか、上に大きな黒のフード付パーカを着ているせいで、髪の白がやけに際立って見えた。
青年はややつり気味の丸い瞳で、黙っている有里をジッと見つめる。
「もう一度言う。何をしているんだ?」
「……地図を探してる」
「ふうん……格好からして、学生寮か?」
その問いに有里は目を見開くが、彼は構わず言葉を続けた。
「場所。案内するか?」
「……いいのか?」
「いいよ。ただし、俺に会った事は誰にも言わないでくれ。誰にも、だ」
青年はゆっくりと立ちあがり、小さく頷いた有里の手を取って歩き出す。
背丈が同じくらいのせいか、目の前で白い髪がフワフワと揺れているのが見えた。
(……細い指。でも長くて、冷たい)
有里が彼の手に引かれるままに足を運ばせながらなんとなく月を眺めていると、「着いたぞ」という声が聞こえて視線を落とす。
「此処でいいんだろう?」
青年はいつの間にか黒いフードを被っており、髪も目も見ることが出来ない。
コクリと頷くと、「それならよかった」と声が返ってきた。
「……名前」
「俺は桜木ユキ。学校に居ても話しかけないでほしいが、この時間にはたまにさっきのような場所にいる」
桜木と名乗る青年はそう淡々と口に出すと、「アンタは?」と訊ねてきた。
「……僕は、有里湊。……ありがとう、案内してくれて」
「今の時間だと何処も危険だからな。もうすぐ終わるだろうが、アンタもあんまりこの時間外に出るな。学校近くは特にな」
「?わかった。じゃあ、また」
「ああ」
桜木は踵を返し、有里は磐戸台分寮に向き直る。
ギイと音を鳴らして、寮の扉が開かれた。