「いよいよ真田先輩も復帰かあ……」
病院の帰り道。岳羽はそう言って軽く伸びをする。
伊織は「それより、風花ちゃんって子早く仲間になってほしーな！」と有里に同意を求め、「近い」と一蹴されていた。
「……てか有里君、桜木君と知り合いだったんだね」
岳羽が思い出したかのように言うと、有里はコクリと頷く。
「道に迷って、その時案内してもらってたから」
「へえ……彼、あんな風に喋るなんて知らなかった」
「俺も俺も！そもそもアイツずーっと寝てるし、放課後もすぐ帰っちまうし！」
「……そうなんだ」
まあ、そりゃあ機会もないだろうな。有里は心の中でそう返す。
学校に来ては寝、体育すら堂々とサボり、放課後は誰よりも早く教室から出て行く。
まして、彼を街中で見かけるのなんて滅多にないのだから。
「なあなあ湊、桜木ってどんな奴なんだ？」
伊織が肩を組んでそう尋ねる。彼は少し思考を巡らせて、「気になるなら、話しかけてみれば？」と返した。
すると二人共ブンブンと首を振り、「そんな事出来るわけない」とため息をつく。
「どうして？」
「だってアイツ起こしたらめっちゃ機嫌悪くなるらしいし、先公にも目え付けられてるみてえでよ……」
関わりたくない。
要は、それだけなのだろう。伊織も岳羽もそれは分かっているのか、所在なさげに有里から目を逸らした。
「いい人だよ」
有里は口を開く。それに二人は目を見開き、彼の次の言葉を待った。
「一週間分の授業の進度とかも教えてくれたし、道迷ってたらすぐ声かけてくれるし。いい人だよ」
「……へえ……そう、なんだ」
岳羽が信じられないと言うような顔でそう呟くと、コクンと頷いて有里は先を歩いた。
―そう、ユキは優しいんだ。
―さっきだって、『噂話』ではなく『自分で見てきたこと』を教えてくれた。
心の中で、そう肯定しながら。