テストと病院
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テスト最終日。テストも終わればもうやることはないと、湧き上がる教室を出てさっさと昇降口に行くと、下駄箱はいつもの通り荒らされていた。
生ゴミに紙くず、外靴は元から入れてないにしても、これは周りの奴らがいい迷惑だろうに。
(取り敢えず、ここの掃除しよ。異臭とか報告されたら面倒だ)
教科書等は一切入ってないカバンからビニール袋を取り出して、素手で掴んでは中につめていく。
全部つめ終わると袋の口を縛り、近くにあったゴミ箱に捨てておいた。
ベトベトの下駄箱を濡らしたティッシュで拭けば、なんとか臭いもしなくなってほっと息をつく。
そしてカバンに入れていた外靴と上履きを入れ替え、何事もなかったように外へ出た。
(今日は検診と…薬をもらうんだっけ)
携帯をチラリと確認し、すぐにしまう。
一瞬だけ目に入った液晶の画面は今日のスケジュールを示していて、『病院 検診』とだけ打たれた字は予定通りの時刻をさしていた。
「木の絵を描いてみてくれるかな?」
かかりつけ医の男性が、そう言って画用紙とカラーペンを渡す。
ここは診察室。看護師とその男性、そして自分しかしないこの部屋は、真っ白でとても静かだった。
俺はそれを受け取り、少し悩んでから書き始めた。
木を書いて、それに合わせて地面を描く。少し、木を左下に描いてしまったけれど、ペンだから仕方ないと一応隣にももう一つ木を描いた。そして暫く描き進めて、満足したところでペンを置く。
「終わりました」
「……うん。ありがとう」
医師はそれを看護師に手渡し、そして軽い質問を始めた。
毎月二、三回は、こうやって診察をする。最初にやるのは、絵を描いたり、絵を見たりと色々あるけれど、どうやら自分の心理状態を見ているらしい。
両親が死んで、10年。生きていた時には俺には確かに感情や表情というものがあったのに、その日を境に丸っきり現れないでいた。
精神病なのではないかと検査を受けたけれどそこまで異常もなく、ただ『感情が剥がれ落ちている』状態なだけだった。
しかし、それでも両親の死が残した爪痕は目に存在する。
―暗所恐怖症。
暗闇が全くダメというわけではなく、真っ暗な状況に長く居続けると少しパニック状態になってしまうらしい。
らしいというのは中々発症しないからで、最近は念の為安定剤が渡されそれをバイト前に飲んでいるのだけど。
「最近、学校はどう?」
医師が訊く。その声は事務的で、俺も事務的に返した。
「特に何も。変わったこともないです」
「そう。じゃあ薬は今まで通りのを出すね。副作用がキツかったら早めに言って」
「わかりました」
立ち上がって礼をし、部屋を去る。
医師が何か深刻な顔をして看護師と喋っていたが、それは無視することにした。
階段を下りて待合室に出る。薬剤師に調剤の紙を出すと20分程で薬が出された。それを鞄にしまって出ようとすると、「ユキ」と後ろから声をかけられ立ちどまる。
首だけをそちらに向けると、湊、ゆかり、順平が自分を不思議そうに見ていた。
「…何?」
できるだけ、最低限に。待合室といえどここは病院だ。騒ぐのは好きじゃない。
少し落ちてきた眼鏡を指先で戻して首を傾げると、湊が口を開いた。
「どうして此処に?」
「……話す意味はないだろ。それに、そういうのならお前らもってところだ」
肩をすくめ、待合室の時計をチラリと見る。
まだ大丈夫。バイトを念の為遅くしておいてよかった。
「どうだった、テスト?」
「さあな。空欄は無いから、多分いつもどおりだと思うけど」
「いつもどおりって……そんな簡単に満点取っちゃうのかよ……」
ぼそり。順平が呟いた言葉に、眉を寄せる。彼はハッとその視線に気づいたのか、「あ、ええと」となんとかごまかそうとしていた。
「別に気にしてない。そう言われるのはもう慣れた」
「ハハ……ソウデスカ……」
「で、それ以外に用事ないなら、俺帰るけど」
踵を返すそぶりを見せると、湊はああと思い出したように喋りだした。
「山岸風花って生徒、知ってる?」
彼の後ろの二人が驚愕しているのを無視し、俺はぼんやりと記憶を探る。
「……外見は?あと、何年生?」
「えっと、僕らと同じ学年で、外見は……」
「水色のショートの髪の子」
ゆかりさんが付け足した言葉に、ふうんと声を漏らした。
「見たことはある。この前女子数人に絡まれてて、教科書落としてた」
「そう。他にはある?」
「特にない。ただ、放課後調理室から異臭がするのは彼女のせい、くらい」
廊下で汚れた上靴を洗っていたとき、よく見かけたから。
そう呟くと、湊は「ありがとう」と礼を言って二人と共に去っていった。
生ゴミに紙くず、外靴は元から入れてないにしても、これは周りの奴らがいい迷惑だろうに。
(取り敢えず、ここの掃除しよ。異臭とか報告されたら面倒だ)
教科書等は一切入ってないカバンからビニール袋を取り出して、素手で掴んでは中につめていく。
全部つめ終わると袋の口を縛り、近くにあったゴミ箱に捨てておいた。
ベトベトの下駄箱を濡らしたティッシュで拭けば、なんとか臭いもしなくなってほっと息をつく。
そしてカバンに入れていた外靴と上履きを入れ替え、何事もなかったように外へ出た。
(今日は検診と…薬をもらうんだっけ)
携帯をチラリと確認し、すぐにしまう。
一瞬だけ目に入った液晶の画面は今日のスケジュールを示していて、『病院 検診』とだけ打たれた字は予定通りの時刻をさしていた。
「木の絵を描いてみてくれるかな?」
かかりつけ医の男性が、そう言って画用紙とカラーペンを渡す。
ここは診察室。看護師とその男性、そして自分しかしないこの部屋は、真っ白でとても静かだった。
俺はそれを受け取り、少し悩んでから書き始めた。
木を書いて、それに合わせて地面を描く。少し、木を左下に描いてしまったけれど、ペンだから仕方ないと一応隣にももう一つ木を描いた。そして暫く描き進めて、満足したところでペンを置く。
「終わりました」
「……うん。ありがとう」
医師はそれを看護師に手渡し、そして軽い質問を始めた。
毎月二、三回は、こうやって診察をする。最初にやるのは、絵を描いたり、絵を見たりと色々あるけれど、どうやら自分の心理状態を見ているらしい。
両親が死んで、10年。生きていた時には俺には確かに感情や表情というものがあったのに、その日を境に丸っきり現れないでいた。
精神病なのではないかと検査を受けたけれどそこまで異常もなく、ただ『感情が剥がれ落ちている』状態なだけだった。
しかし、それでも両親の死が残した爪痕は目に存在する。
―暗所恐怖症。
暗闇が全くダメというわけではなく、真っ暗な状況に長く居続けると少しパニック状態になってしまうらしい。
らしいというのは中々発症しないからで、最近は念の為安定剤が渡されそれをバイト前に飲んでいるのだけど。
「最近、学校はどう?」
医師が訊く。その声は事務的で、俺も事務的に返した。
「特に何も。変わったこともないです」
「そう。じゃあ薬は今まで通りのを出すね。副作用がキツかったら早めに言って」
「わかりました」
立ち上がって礼をし、部屋を去る。
医師が何か深刻な顔をして看護師と喋っていたが、それは無視することにした。
階段を下りて待合室に出る。薬剤師に調剤の紙を出すと20分程で薬が出された。それを鞄にしまって出ようとすると、「ユキ」と後ろから声をかけられ立ちどまる。
首だけをそちらに向けると、湊、ゆかり、順平が自分を不思議そうに見ていた。
「…何?」
できるだけ、最低限に。待合室といえどここは病院だ。騒ぐのは好きじゃない。
少し落ちてきた眼鏡を指先で戻して首を傾げると、湊が口を開いた。
「どうして此処に?」
「……話す意味はないだろ。それに、そういうのならお前らもってところだ」
肩をすくめ、待合室の時計をチラリと見る。
まだ大丈夫。バイトを念の為遅くしておいてよかった。
「どうだった、テスト?」
「さあな。空欄は無いから、多分いつもどおりだと思うけど」
「いつもどおりって……そんな簡単に満点取っちゃうのかよ……」
ぼそり。順平が呟いた言葉に、眉を寄せる。彼はハッとその視線に気づいたのか、「あ、ええと」となんとかごまかそうとしていた。
「別に気にしてない。そう言われるのはもう慣れた」
「ハハ……ソウデスカ……」
「で、それ以外に用事ないなら、俺帰るけど」
踵を返すそぶりを見せると、湊はああと思い出したように喋りだした。
「山岸風花って生徒、知ってる?」
彼の後ろの二人が驚愕しているのを無視し、俺はぼんやりと記憶を探る。
「……外見は?あと、何年生?」
「えっと、僕らと同じ学年で、外見は……」
「水色のショートの髪の子」
ゆかりさんが付け足した言葉に、ふうんと声を漏らした。
「見たことはある。この前女子数人に絡まれてて、教科書落としてた」
「そう。他にはある?」
「特にない。ただ、放課後調理室から異臭がするのは彼女のせい、くらい」
廊下で汚れた上靴を洗っていたとき、よく見かけたから。
そう呟くと、湊は「ありがとう」と礼を言って二人と共に去っていった。