噂なんて、聞いたのいつ以来だろう。
そう思いながらのんびりとラウンジのソファに腰掛けると、小さく伸びをした。
つい冗談めかしてしまったけれど、彼らには関係の無いことだしいいかと時計を見る。
まだ6時。バイトは9時からだから、余裕だ。
「そういえば、さっきから湊は何を見てるんだ？」
ふと、向かいのソファーに腰かけていた青髪に声をかける。
湊は手に持っていた本を掲げながら「単語帳。今度、テストあるし」となんてことない口調で答えた。
「さっすがリーダー……俺っちなんて全然やる気でねーよ……」
「……言っておくが、テストで赤点出したらタルタロスには行かせないからな、伊織」
「マジっすか！？」
オーマイガ！！順平が頭を抱えて叫びだす。ゆかりはこの光景に慣れているようで「ちょっとは勉強しなさいよ」と呆れ顔だった。
「中間テストの勉強ね……分からないところあるなら教えるけど」
ボソッとそう言うと、どうやら聞こえていたようでガバっと此方を向く。
その勢いに少し身を引いて、「……何？」とだけ口にした。
「マジ？え、つーか勉強できんの？」
「……高校の範囲なら、人並みには」
「じ、じゃあここ！ここの意味どーなってんだ！？」
順平は慌てて階段を駆け上がっては降りてきて、バッと数学の教科書を開く。
そこは丁度この前湊に教えていたところで、俺は同じようにゆっくり教えた。
「……ってなるから、後はどうなると思う？」
「え、えーと……ああ！y=6か！おおおお！！！ウサギすげえな！」
バンバンと勢いよく背中を叩かれ「……別に、すごくはないと思う」と呟くと、「またわかんねーとこ教えてください！」と懇願された。断る理由も無かったから頷いておいたら、凄い喜ばれたのでまた身を引いたけど。
喜ばれるのは苦手だ。謝られるのも、感謝されるのも。
どう反応したらいいのか、どんな『感情』で対応したら正解なのか、未だによく分かっていない自分がいた。