二度目の満月
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その頃、伊織はシャドウを追いかけながら舌打ちしていた。
(クッソ……なんでアイツばっかなんだよ!そりゃアイツはつえーし、俺らとは違う『特別な何か』を感じるけど……!)
前方を移動するシャドウはまるで此方に合わせるかのようにゆっくりと奥へ奥へ進み、しかし中々武器がかすらない。
それが更に彼の心に拍車をかけ、彼はまた舌打ちしてスピードを上げる。
(こんくらいで何ビビってんだよあいつら……!)
こんくらい、俺だってやれる。そう思いながら、また近づいたその時。
ピタリ。
急に、シャドウは動きを止める。
そしてくるりと振り返ると、オオオと声を上げた。
(……!?)
何か蠢く気配を感じ周りを見て、絶句した。
いつの間にか、大量のシャドウに囲まれてる。
(まさか……ハメられた………!?)
伊織はサアアと顔を青くし、持っている武器を落とさないようにガタガタと構える。
これだけの敵、本当に倒せるだろうか。
(……ハハ。一人でキレて突っ走って……結局このザマかよ……)
一体一体ペルソナを使いながら切っていくも、敵は減る気配もなく次から次へと現れる。
(俺、カッコわる……)
自嘲気味に笑い、その時ガクンとその体が大きく前に傾いた。
ガス欠だ。最早、手立てはない。
(あーらら……俺、此処で終わりか……)
外には大きな満月が見える。仰々しいそれが、今はなんだか落ち着くような――
「『回転説法』」
涼やかな声が聞こえたかと思うと、シャドウたちの足元に光る陣が現れ、次々にその光に飲まれていく。
呆然とその残骸を見つめていると、後ろから「大丈夫?」と声がした。
白い髪、全然目が見えない、茶色のゴーグル。
「……う…さぎ……?」
「走るの速いね。おかげで追いつくの遅れた」
青年は淡々とそう言い、伊織に手を差し出す。
彼は恐る恐るそれを取り、ゆっくりと立ち上がった。
ウサギと喋るのは、実はこれで二度目だった。
最初に彼と会って以降、桐条が助っ人を頼もうと一度声をかけたのだが「アンタ、信用もしてない相手に『仲間の背中を預けたい』なんて、仲間をなんだと思ってるワケ?俺は要請があれば応じるとは言ったけど、策を講じられない愚将の下につく気もない。冗談を言う暇があるならアンタ自身も戦えよ」と感情のこもってない声で返し、それからずっと喋る機会もなかったのだ。
「他の人は?」
「……後から来るんじゃねーの」
「そう」
「……なんで、助けたんだ?」
伊織がそう尋ねると、彼は首をコテンと傾げ「別に」とだけ返す。
「ただ、アンタが凄い何かに苛立ってて、危なっかしかったから。それだけかな」
「……ハハ、お見通しかよ……」
「何に腹を立てているかはわからないけどね。……ほら、お仲間の到着だ」
彼がそう言うと同時。車両の扉が開き、有里と岳羽が飛び込んできた。
彼等はウサギのいるのに驚き、ついで伊織を見て安堵の息を漏らす。
「ったく……このバカ!勝手に行くんじゃないわよ!」
「わ、悪かったって……」
「……ウサギ、どうやって此処に?」
「なんか、駅前散策してたら変なとこで扉開いてたから。これ動いてるの、シャドウの仕業?」
どうやら有里たちとは違うドアから入ってきたらしいウサギは、クアと一つ欠伸して尋ねた。
「あ、そうだ!早くいかないと衝突するって!」
岳羽がそう告げると、全員が駆け出す。伊織は疲れているのか少しふらついていて、隣にウサギが駆け寄り腕を肩にかけさせ支えるように走った。
「……こんなに疲れるもんなの?」
『恐らく、召喚による疲労だ。ペルソナの召喚は精神を削る。召喚とはいえ自らの頭に銃を向け引き金を引くという無意識下の『恐怖』とそれに立ち向かう『意志』が明確となるからな』
「……へえ、そうなんだ」
ウサギは通信機から聞こえる声に感心したように頷き、伊織をチラリと見る。
「……えっと、順平君?スピード速かったら言ってね」
「……は、……別に、気にしなくていーっすよ……」
「やだよ。流石に俺、完全に歩けなくなった男一人運べる腕力はないからな」
「はは……そりゃ、気をつけます……」
会話で気が抜けたか、伊織は苦笑してそりゃそうだと呟いた。
前方では有里と岳羽が、必死に敵を倒してくれている。
「……俺、カッコわる……」
「別に、カッコわるくはないんじゃない?」
独り言のつもりだったが、聞こえていたようだ。ウサギは「俺もよく順平君みたいに突っ走ってたし」と淡々と告げる。
「……マジ?」
「うん、それに一人だったから止める人もいなくて、よく倒れたまんま朝迎えたり死ぬギリギリで勝ったりがザラだったよ」
「……」
「ヒーローが最初から強いわけじゃない。何回も戦って、コツを掴んで、強くなる。それと一緒だ。
さっきのアンタは、まあ無謀ではあったけどカッコ悪いわけじゃなかった。イラついてたとはいえ、臆せず戦ってただろ?」
「……でも、アイツは……」
口ごもった伊織に、「湊のこと?」とウサギは首を傾げた。
「湊は、確かに凄いよ。でも、完璧超人じゃない」
「……まあ、結構変な奴だし」
「それに、弱点だってある。今は見えなくても、いずれそれは顕著になる」
それを、アンタが補ってやればいい。
足は決して止めず、彼は言う。
「ヒーローは独りじゃない。仲間が必ずいて、それぞれに個性や、弱点がある。それを互いに支えあえるくらい強くなれば、もっとカッコいいと思う」
「……そっか。そう、だよな……」
うんとウサギが頷くと、有里が振り向き、「此処が先頭車両だ」と扉の前で告げた。
「順平は、いけるか?」
「何かあったら俺がカバーするから、気にせず倒せ」
ウサギがそう言うと二人は頷き、先に中に入っていく。
そして彼もその後を追い、伊織を支え駆け出した。
(クッソ……なんでアイツばっかなんだよ!そりゃアイツはつえーし、俺らとは違う『特別な何か』を感じるけど……!)
前方を移動するシャドウはまるで此方に合わせるかのようにゆっくりと奥へ奥へ進み、しかし中々武器がかすらない。
それが更に彼の心に拍車をかけ、彼はまた舌打ちしてスピードを上げる。
(こんくらいで何ビビってんだよあいつら……!)
こんくらい、俺だってやれる。そう思いながら、また近づいたその時。
ピタリ。
急に、シャドウは動きを止める。
そしてくるりと振り返ると、オオオと声を上げた。
(……!?)
何か蠢く気配を感じ周りを見て、絶句した。
いつの間にか、大量のシャドウに囲まれてる。
(まさか……ハメられた………!?)
伊織はサアアと顔を青くし、持っている武器を落とさないようにガタガタと構える。
これだけの敵、本当に倒せるだろうか。
(……ハハ。一人でキレて突っ走って……結局このザマかよ……)
一体一体ペルソナを使いながら切っていくも、敵は減る気配もなく次から次へと現れる。
(俺、カッコわる……)
自嘲気味に笑い、その時ガクンとその体が大きく前に傾いた。
ガス欠だ。最早、手立てはない。
(あーらら……俺、此処で終わりか……)
外には大きな満月が見える。仰々しいそれが、今はなんだか落ち着くような――
「『回転説法』」
涼やかな声が聞こえたかと思うと、シャドウたちの足元に光る陣が現れ、次々にその光に飲まれていく。
呆然とその残骸を見つめていると、後ろから「大丈夫?」と声がした。
白い髪、全然目が見えない、茶色のゴーグル。
「……う…さぎ……?」
「走るの速いね。おかげで追いつくの遅れた」
青年は淡々とそう言い、伊織に手を差し出す。
彼は恐る恐るそれを取り、ゆっくりと立ち上がった。
ウサギと喋るのは、実はこれで二度目だった。
最初に彼と会って以降、桐条が助っ人を頼もうと一度声をかけたのだが「アンタ、信用もしてない相手に『仲間の背中を預けたい』なんて、仲間をなんだと思ってるワケ?俺は要請があれば応じるとは言ったけど、策を講じられない愚将の下につく気もない。冗談を言う暇があるならアンタ自身も戦えよ」と感情のこもってない声で返し、それからずっと喋る機会もなかったのだ。
「他の人は?」
「……後から来るんじゃねーの」
「そう」
「……なんで、助けたんだ?」
伊織がそう尋ねると、彼は首をコテンと傾げ「別に」とだけ返す。
「ただ、アンタが凄い何かに苛立ってて、危なっかしかったから。それだけかな」
「……ハハ、お見通しかよ……」
「何に腹を立てているかはわからないけどね。……ほら、お仲間の到着だ」
彼がそう言うと同時。車両の扉が開き、有里と岳羽が飛び込んできた。
彼等はウサギのいるのに驚き、ついで伊織を見て安堵の息を漏らす。
「ったく……このバカ!勝手に行くんじゃないわよ!」
「わ、悪かったって……」
「……ウサギ、どうやって此処に?」
「なんか、駅前散策してたら変なとこで扉開いてたから。これ動いてるの、シャドウの仕業?」
どうやら有里たちとは違うドアから入ってきたらしいウサギは、クアと一つ欠伸して尋ねた。
「あ、そうだ!早くいかないと衝突するって!」
岳羽がそう告げると、全員が駆け出す。伊織は疲れているのか少しふらついていて、隣にウサギが駆け寄り腕を肩にかけさせ支えるように走った。
「……こんなに疲れるもんなの?」
『恐らく、召喚による疲労だ。ペルソナの召喚は精神を削る。召喚とはいえ自らの頭に銃を向け引き金を引くという無意識下の『恐怖』とそれに立ち向かう『意志』が明確となるからな』
「……へえ、そうなんだ」
ウサギは通信機から聞こえる声に感心したように頷き、伊織をチラリと見る。
「……えっと、順平君?スピード速かったら言ってね」
「……は、……別に、気にしなくていーっすよ……」
「やだよ。流石に俺、完全に歩けなくなった男一人運べる腕力はないからな」
「はは……そりゃ、気をつけます……」
会話で気が抜けたか、伊織は苦笑してそりゃそうだと呟いた。
前方では有里と岳羽が、必死に敵を倒してくれている。
「……俺、カッコわる……」
「別に、カッコわるくはないんじゃない?」
独り言のつもりだったが、聞こえていたようだ。ウサギは「俺もよく順平君みたいに突っ走ってたし」と淡々と告げる。
「……マジ?」
「うん、それに一人だったから止める人もいなくて、よく倒れたまんま朝迎えたり死ぬギリギリで勝ったりがザラだったよ」
「……」
「ヒーローが最初から強いわけじゃない。何回も戦って、コツを掴んで、強くなる。それと一緒だ。
さっきのアンタは、まあ無謀ではあったけどカッコ悪いわけじゃなかった。イラついてたとはいえ、臆せず戦ってただろ?」
「……でも、アイツは……」
口ごもった伊織に、「湊のこと?」とウサギは首を傾げた。
「湊は、確かに凄いよ。でも、完璧超人じゃない」
「……まあ、結構変な奴だし」
「それに、弱点だってある。今は見えなくても、いずれそれは顕著になる」
それを、アンタが補ってやればいい。
足は決して止めず、彼は言う。
「ヒーローは独りじゃない。仲間が必ずいて、それぞれに個性や、弱点がある。それを互いに支えあえるくらい強くなれば、もっとカッコいいと思う」
「……そっか。そう、だよな……」
うんとウサギが頷くと、有里が振り向き、「此処が先頭車両だ」と扉の前で告げた。
「順平は、いけるか?」
「何かあったら俺がカバーするから、気にせず倒せ」
ウサギがそう言うと二人は頷き、先に中に入っていく。
そして彼もその後を追い、伊織を支え駆け出した。