どうしようもない話
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1月1日。
「……湊。」
「ん……やっぱり、その格好なんだね?」
「混んでると、ウィッグって不安だから」
黒のタートルネック。白のジャケット。同系色のスカートに、ロングブーツ。髪は地毛をそのまま外に晒し、目は青色のカラコンをしている。湊にいつだか貰った小さな花の髪留めで前髪を簡単に止めて、「ま、バレたら大変だけど」と付け足した。
「いや……中々バレないと思うよ?……そういう服を買ったって事自体ビックリだけど」
「コンタクト代を考えるとこっちの方が安上がりだしな」
ずっとデパートのものを医師に勧められて使っているからか、カラコンは普通出回っているものより少し割高だった気がする。バイトでは安い青色を使ってるから問題はないし、外に買い物をする時はウィッグもいっそ外して女装した方がマシだし安い、という結論に至った。
湊もそれは多少理解出来たのか、苦笑して「行こうか」と手を差し出す。
「ほら、はぐれたら大変でしょ?」
「そうだな」
首を傾げた俺に彼は言い、指輪のついた右手を握っては歩き出した。
集合場所であった寮の前とは違い、神社に近づくと、徐々に人が増えていく。
湊はこういう場所に慣れているのか、するすると間をすり抜け(それでも時間は多少かかったが)、あっという間に賽銭箱の前まで辿りついた。
小銭入れから50円玉を取り出し放り投げ、ガラガラと鈴を鳴らす。
「……両親が、どうかゆっくり眠れていますように」
両手を合わせポソリと呟き顔を上げれば、もう用はなくなったと脇に避ける。
湊はまだいたのか分からない。人が多くて、よく見えなかったから。
フラフラとなんとなく、夏祭りによくいた穴場まで行くと、白い犬が木につながれジッとしているのが視界に入った。
「……コロ丸?」
「ワンッ!」
コロ丸は此方に気付き、そして元気よく吠えた。
屈んでパタパタと尻尾を振るその頭を撫でてやれば、気持ちよさそうに目を細める。
「あれ、ウサギさん……じゃ、ない?」
そう声が聞こえて、コロ丸を撫でながら振り返る。
するとそこには順平達がいて、湊も合流したのか後ろに立っているのが見えた。
「えっと……どちら様ですか?」
「…………」
どう答えようか、少し悩む。
するとコロ丸がアイギスに向かって「ワンワンッ」と吠え、アイギスが何度か頷いた。
「彼女は湊さんの彼女だそうです!」
「「「は?」」」
彼らだけでなく、俺や湊もそんな声を出した。
彼女。彼女ってなんだっけ?確か、恋愛感情を持つ異性同士の女性側の事をそういうんだったか。
(……まあ、正体がバレるよりはいいかな)
俺はそう思いながら、湊に近づいてグイと腕を引っ張り彼等の方を見た。
「………初めまして?」
声を上ずらせて”それらしいこと”をしながら、そういえば身長がほぼ同じだから、ヒールを履くと自分の方が高くなるのかと考える。
少なくとも男子には見られなかったのだろう。彼等は俺と湊を見比べ、順平が「うっそだあ……」と呟く。
「え、ガイジン?湊、お前いつこんな美少女ゲットしてたんだよ!」
「……外人じゃない、日本人、だけど」
「あ、そうなの?え、ええと、名前は……」
「……」
面倒だ。
考えるのが億劫だから、影時間の時も”ウサギ”だったのに。
何かに関連づけて、簡単な……
「……にと、ましろ」
ボソリ、と、湊が呟くように答えた。
「ましろちゃん、っていうのか!オレ、伊織順平っていいます!」
デレデレとした順平と湊を交互に見やれば、湊は肩を竦めた。
誤魔化せ、ということらしい。
「……順平?」
おずおずと、名前を繰り返す。
するとそれだけで充分だったのか、彼は満足げに何処かへと消えていった。
「えっと……ましろちゃん?」
「……何?」
風花に話しかけられ、顔を戻す。
彼女は恐る恐るといった様子で、俺に尋ねた。
「その……ましろちゃんに、赤い目のお兄さんか、弟、いないかな?」
そう言われ、少し悩んでから口を開く。
「……にいさまが、なにか?」
「あ、ええと……お兄さんと、よく会ってるんだけど……」
彼女はしどろもどろ、視線を彷徨わせて言葉を探した。
(……で、なんで湊がそんなに何かを耐えているような表情をしてるのか、わかんないんだけど)
そっぽを向いた彼は、明らかに耳が赤い。
それまでおかしな事言ったのか?と考えながら、風花の方を見直す。
「お兄さん、最近様子が変だったりする事とか、ないかな?例えば、えっと……」
「死に急いでるとか」
ゆかりが彼女の言葉を継いで言った。
まあ、大体は正解なんだろう。
だって本当に、今月中に俺は死ぬんだから。
……でも、
「……それが貴方達に関係あるんでしょうか?」
それがアンタ等に関係あるのか?
「え……」
「どうせ、にいさまは約束さえなければ、事故の時点で自殺していました」
どうせ、俺は約束がなければここまで生きるなんてしなかった。
「約束が叶った後も、私たちを見る目は変わらないし、私たちの最も大切だった人も還ってなんてこない」
約束が叶っても、何も変わらない。
「中途半端に人を知って、傷つけて。
それで貴方たちがにいさまを無理矢理止めようと言うのでしたら、」
俺を救いたいとかそんなくだらない事を、アンタ等が望んでいるなら、
「私は一生、にいさまの約束を、にいさまの”生きてきた意味”を奪った貴方たちを恨みます」
俺は一生、死んだように生きるだろう。
そう告げて、湊の腕を掴んでいた力を僅かに強める。
(……頭の中で変換しながら言うのって、すっごい疲れるなあ……)
まあ、そもそも他人を恨むなんてこと、感情の無い俺にはできっこないけど。
湊は俺の頭を撫で、悲しそうな眼で微笑んだ。
コロ丸がじれったくなったのか、自らリードを外し、俺のもとに飛び込んでくる。
「わっ……」
「クーン……」
「……『ごめんなさい』、だそうであります」
アイギスが、ボソリと言う。
俺は「謝る必要、ない」とコロ丸の頭を撫でてやり、そして再び、彼女らの方を向いた。
「……貴方たちは悪くない。全部、色々と、しょうがないものだった。
小さなものが積み重なって、結果、こうなってしまっただけだから」
「……でも……っ!」
「世界を滅ぼされたら、両親と過ごせなくなる。それが嫌で、にいさまは”約束”した。
その後、親を殺してしまったことが……少しずつ、今に重なっているだけ」
誰も悪くない話。
一人しか悪くない話。
一人しか犠牲にならない話。
―一人以外を、救える話。
「ましろ、といったか……君は、兄が死んだら、哀しくないのか?」
美鶴が問う。切実な、辛そうな顔をして。
「……やりたい事を全うして、生きてきた意味があったのだと思えたのなら、止める気はない」
命を投げうって、失われていく記憶に恐怖して、最期、それに耐えてきた意味があったと思えたのなら。
「だってそれは……とても素敵な事だと思うから」
(ところで、湊。にとましろ、って、誰?)
(二匹の兎、ユキの白い髪から取って、二兎真白。ダメだった?)
(ううん、助かった)
「……湊。」
「ん……やっぱり、その格好なんだね?」
「混んでると、ウィッグって不安だから」
黒のタートルネック。白のジャケット。同系色のスカートに、ロングブーツ。髪は地毛をそのまま外に晒し、目は青色のカラコンをしている。湊にいつだか貰った小さな花の髪留めで前髪を簡単に止めて、「ま、バレたら大変だけど」と付け足した。
「いや……中々バレないと思うよ?……そういう服を買ったって事自体ビックリだけど」
「コンタクト代を考えるとこっちの方が安上がりだしな」
ずっとデパートのものを医師に勧められて使っているからか、カラコンは普通出回っているものより少し割高だった気がする。バイトでは安い青色を使ってるから問題はないし、外に買い物をする時はウィッグもいっそ外して女装した方がマシだし安い、という結論に至った。
湊もそれは多少理解出来たのか、苦笑して「行こうか」と手を差し出す。
「ほら、はぐれたら大変でしょ?」
「そうだな」
首を傾げた俺に彼は言い、指輪のついた右手を握っては歩き出した。
集合場所であった寮の前とは違い、神社に近づくと、徐々に人が増えていく。
湊はこういう場所に慣れているのか、するすると間をすり抜け(それでも時間は多少かかったが)、あっという間に賽銭箱の前まで辿りついた。
小銭入れから50円玉を取り出し放り投げ、ガラガラと鈴を鳴らす。
「……両親が、どうかゆっくり眠れていますように」
両手を合わせポソリと呟き顔を上げれば、もう用はなくなったと脇に避ける。
湊はまだいたのか分からない。人が多くて、よく見えなかったから。
フラフラとなんとなく、夏祭りによくいた穴場まで行くと、白い犬が木につながれジッとしているのが視界に入った。
「……コロ丸?」
「ワンッ!」
コロ丸は此方に気付き、そして元気よく吠えた。
屈んでパタパタと尻尾を振るその頭を撫でてやれば、気持ちよさそうに目を細める。
「あれ、ウサギさん……じゃ、ない?」
そう声が聞こえて、コロ丸を撫でながら振り返る。
するとそこには順平達がいて、湊も合流したのか後ろに立っているのが見えた。
「えっと……どちら様ですか?」
「…………」
どう答えようか、少し悩む。
するとコロ丸がアイギスに向かって「ワンワンッ」と吠え、アイギスが何度か頷いた。
「彼女は湊さんの彼女だそうです!」
「「「は?」」」
彼らだけでなく、俺や湊もそんな声を出した。
彼女。彼女ってなんだっけ?確か、恋愛感情を持つ異性同士の女性側の事をそういうんだったか。
(……まあ、正体がバレるよりはいいかな)
俺はそう思いながら、湊に近づいてグイと腕を引っ張り彼等の方を見た。
「………初めまして?」
声を上ずらせて”それらしいこと”をしながら、そういえば身長がほぼ同じだから、ヒールを履くと自分の方が高くなるのかと考える。
少なくとも男子には見られなかったのだろう。彼等は俺と湊を見比べ、順平が「うっそだあ……」と呟く。
「え、ガイジン?湊、お前いつこんな美少女ゲットしてたんだよ!」
「……外人じゃない、日本人、だけど」
「あ、そうなの?え、ええと、名前は……」
「……」
面倒だ。
考えるのが億劫だから、影時間の時も”ウサギ”だったのに。
何かに関連づけて、簡単な……
「……にと、ましろ」
ボソリ、と、湊が呟くように答えた。
「ましろちゃん、っていうのか!オレ、伊織順平っていいます!」
デレデレとした順平と湊を交互に見やれば、湊は肩を竦めた。
誤魔化せ、ということらしい。
「……順平?」
おずおずと、名前を繰り返す。
するとそれだけで充分だったのか、彼は満足げに何処かへと消えていった。
「えっと……ましろちゃん?」
「……何?」
風花に話しかけられ、顔を戻す。
彼女は恐る恐るといった様子で、俺に尋ねた。
「その……ましろちゃんに、赤い目のお兄さんか、弟、いないかな?」
そう言われ、少し悩んでから口を開く。
「……にいさまが、なにか?」
「あ、ええと……お兄さんと、よく会ってるんだけど……」
彼女はしどろもどろ、視線を彷徨わせて言葉を探した。
(……で、なんで湊がそんなに何かを耐えているような表情をしてるのか、わかんないんだけど)
そっぽを向いた彼は、明らかに耳が赤い。
それまでおかしな事言ったのか?と考えながら、風花の方を見直す。
「お兄さん、最近様子が変だったりする事とか、ないかな?例えば、えっと……」
「死に急いでるとか」
ゆかりが彼女の言葉を継いで言った。
まあ、大体は正解なんだろう。
だって本当に、今月中に俺は死ぬんだから。
……でも、
「……それが貴方達に関係あるんでしょうか?」
それがアンタ等に関係あるのか?
「え……」
「どうせ、にいさまは約束さえなければ、事故の時点で自殺していました」
どうせ、俺は約束がなければここまで生きるなんてしなかった。
「約束が叶った後も、私たちを見る目は変わらないし、私たちの最も大切だった人も還ってなんてこない」
約束が叶っても、何も変わらない。
「中途半端に人を知って、傷つけて。
それで貴方たちがにいさまを無理矢理止めようと言うのでしたら、」
俺を救いたいとかそんなくだらない事を、アンタ等が望んでいるなら、
「私は一生、にいさまの約束を、にいさまの”生きてきた意味”を奪った貴方たちを恨みます」
俺は一生、死んだように生きるだろう。
そう告げて、湊の腕を掴んでいた力を僅かに強める。
(……頭の中で変換しながら言うのって、すっごい疲れるなあ……)
まあ、そもそも他人を恨むなんてこと、感情の無い俺にはできっこないけど。
湊は俺の頭を撫で、悲しそうな眼で微笑んだ。
コロ丸がじれったくなったのか、自らリードを外し、俺のもとに飛び込んでくる。
「わっ……」
「クーン……」
「……『ごめんなさい』、だそうであります」
アイギスが、ボソリと言う。
俺は「謝る必要、ない」とコロ丸の頭を撫でてやり、そして再び、彼女らの方を向いた。
「……貴方たちは悪くない。全部、色々と、しょうがないものだった。
小さなものが積み重なって、結果、こうなってしまっただけだから」
「……でも……っ!」
「世界を滅ぼされたら、両親と過ごせなくなる。それが嫌で、にいさまは”約束”した。
その後、親を殺してしまったことが……少しずつ、今に重なっているだけ」
誰も悪くない話。
一人しか悪くない話。
一人しか犠牲にならない話。
―一人以外を、救える話。
「ましろ、といったか……君は、兄が死んだら、哀しくないのか?」
美鶴が問う。切実な、辛そうな顔をして。
「……やりたい事を全うして、生きてきた意味があったのだと思えたのなら、止める気はない」
命を投げうって、失われていく記憶に恐怖して、最期、それに耐えてきた意味があったと思えたのなら。
「だってそれは……とても素敵な事だと思うから」
(ところで、湊。にとましろ、って、誰?)
(二匹の兎、ユキの白い髪から取って、二兎真白。ダメだった?)
(ううん、助かった)