どうしようもない話
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12月24日。
「サンタさんって、信じてた?」
天皇誕生日の翌日。夕方のバイトが終わってすぐ家を訪れた湊を迎えれば、彼はコートを脱ぎながらそう言った。
ああ、今日はクリスマスイブだったか。俺はソファーで本を読みながらぼんやりと答える。
「……さあ。もう覚えてない」
「そっか」
湊は苦笑して、どうやら持ってきたらしいケーキの箱をテーブルに置き中からショートケーキを二つ、取り出した。
最近の湊は本当に、ここに来慣れている。
食器の場所なんかも把握しているからか、てきぱきとそれらを棚から出して此方に笑いかけてきて、俺は「ケーキ、今から食べるわけ?」と首を傾げる。
今はまだ7時だ。夕食もまだ食べていないだろうに彼はそれでいいんだろうか。すると彼は「すこし食べてきたから」と答え俺に席につくよう勧めた。
ソファーから身体を起こしテーブルの椅子に腰をおろせば、ほのかな甘い匂いが鼻を刺激する。
フォークを持って早速食べようとすると、湊にずいとフォークで刺されたケーキの欠片を突き出された。
「あーん」
「…………」
こっちを食べろ、ということだろうか。
口を開けてそれを受け入れれば、湊は満足そうな顔をした。
「……嬉しそうだね」
「誰かとクリスマスを過ごすなんて、久しぶりだから」
「……俺もそうだな」
簡単なお返しに自分もフォークでケーキを切り、欠片を突き出す。彼はそれを口に含んで、「美味しい」と呟いた。
しばらく黙々と、食べるだけの音が響く。
(これだけ食べたら、またしばらくは食べなくても大丈夫だな)
まあ正直、最近は今まで以上に食べてないのだけれど。
綾時が宣告してから、正確には、綾時が学校から消えてから。
昼に強制的に誘うやつもいなくなり、また湊達もやる気が出てきたのか何人かが共に地下に潜る事を要請してきて、それにただ応じ、テオにも手伝ってもらって力を溜めるだけの日々に戻った。
1月31日に全てが終わるのなら―自分が死ぬのなら―もう貯める必要もない貯金も、まだまだ数を増やしている。
学校に行っても眠くなることはなく、ただ大人しく頭を伏せているだけ。
(余命一ヶ月と少し……なんて、意外と呆気ないものなんだな)
テオは、いつも少しだけ悲しそうな目をしているし、湊達も、時折こちらをどうにかできないのかと困惑したような目で見てくるけど。
これはどうしようもないのだ。
自分で選んだから。
選べないのでなく、選ばなかったのだから。
死に抗う気もなく、死を拒む気もなく。
ただ受け入れ、守るだけ。
「湊」
ふとなんとなく、彼の名を呼んだ。
すると彼は「?」と疑問符を浮かべながら、俯いていた顔をあげる。
「元旦、空いてる?」
「空いてるけど……どうして?」
「一緒に初詣、行かないかなって」
なんとなく口から出た言葉だった。
元旦が空いているのは事実だったけれど、どうやって過ごすかなんて特に決めてなかったし。
彼は目を見開き、そして次には嬉しそうに細めた。
「いいよ。というか……僕が誘いたかったんだけどな……」
「そうなの?でも、どっちが誘っても同じじゃない?」
「うーん……」
「?」
湊は困ったように頬杖をつき、俺は訳も分からず首を傾げて。
「まあ、当日楽しみにしてる」と返した彼は、安心したように苦笑していた。
「サンタさんって、信じてた?」
天皇誕生日の翌日。夕方のバイトが終わってすぐ家を訪れた湊を迎えれば、彼はコートを脱ぎながらそう言った。
ああ、今日はクリスマスイブだったか。俺はソファーで本を読みながらぼんやりと答える。
「……さあ。もう覚えてない」
「そっか」
湊は苦笑して、どうやら持ってきたらしいケーキの箱をテーブルに置き中からショートケーキを二つ、取り出した。
最近の湊は本当に、ここに来慣れている。
食器の場所なんかも把握しているからか、てきぱきとそれらを棚から出して此方に笑いかけてきて、俺は「ケーキ、今から食べるわけ?」と首を傾げる。
今はまだ7時だ。夕食もまだ食べていないだろうに彼はそれでいいんだろうか。すると彼は「すこし食べてきたから」と答え俺に席につくよう勧めた。
ソファーから身体を起こしテーブルの椅子に腰をおろせば、ほのかな甘い匂いが鼻を刺激する。
フォークを持って早速食べようとすると、湊にずいとフォークで刺されたケーキの欠片を突き出された。
「あーん」
「…………」
こっちを食べろ、ということだろうか。
口を開けてそれを受け入れれば、湊は満足そうな顔をした。
「……嬉しそうだね」
「誰かとクリスマスを過ごすなんて、久しぶりだから」
「……俺もそうだな」
簡単なお返しに自分もフォークでケーキを切り、欠片を突き出す。彼はそれを口に含んで、「美味しい」と呟いた。
しばらく黙々と、食べるだけの音が響く。
(これだけ食べたら、またしばらくは食べなくても大丈夫だな)
まあ正直、最近は今まで以上に食べてないのだけれど。
綾時が宣告してから、正確には、綾時が学校から消えてから。
昼に強制的に誘うやつもいなくなり、また湊達もやる気が出てきたのか何人かが共に地下に潜る事を要請してきて、それにただ応じ、テオにも手伝ってもらって力を溜めるだけの日々に戻った。
1月31日に全てが終わるのなら―自分が死ぬのなら―もう貯める必要もない貯金も、まだまだ数を増やしている。
学校に行っても眠くなることはなく、ただ大人しく頭を伏せているだけ。
(余命一ヶ月と少し……なんて、意外と呆気ないものなんだな)
テオは、いつも少しだけ悲しそうな目をしているし、湊達も、時折こちらをどうにかできないのかと困惑したような目で見てくるけど。
これはどうしようもないのだ。
自分で選んだから。
選べないのでなく、選ばなかったのだから。
死に抗う気もなく、死を拒む気もなく。
ただ受け入れ、守るだけ。
「湊」
ふとなんとなく、彼の名を呼んだ。
すると彼は「?」と疑問符を浮かべながら、俯いていた顔をあげる。
「元旦、空いてる?」
「空いてるけど……どうして?」
「一緒に初詣、行かないかなって」
なんとなく口から出た言葉だった。
元旦が空いているのは事実だったけれど、どうやって過ごすかなんて特に決めてなかったし。
彼は目を見開き、そして次には嬉しそうに細めた。
「いいよ。というか……僕が誘いたかったんだけどな……」
「そうなの?でも、どっちが誘っても同じじゃない?」
「うーん……」
「?」
湊は困ったように頬杖をつき、俺は訳も分からず首を傾げて。
「まあ、当日楽しみにしてる」と返した彼は、安心したように苦笑していた。