決別
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
12月2日。
「……ニュクス、ね……この戦いが本当に終わるなら、そうしてほしいところだけど」
放課後の、寮のラウンジ。
昨夜共にいなかったウサギはそう言いながら、チラリと望月―ニュクスを見る。
10年前の事故の真実を明かされてもなお淡々とした様子に望月や他のメンバーは驚いたように彼を見るも、彼は「でも」と繋げた。
「俺はお前と約束をしているから、その提案は願い下げる」
提案。
それは綾時―全てに終わりをもたらすニュクスを今殺し、滅亡を逃れるという方法だった。
そうすれば有里達も影時間での記憶を消す代わりに、完全な平穏を手にすることができる。
だが、それはウサギの約束を反古にするものだったらしく、彼は当たり前と告げるように首を振った。
「……ええと……ウサギさん、だっけ?桜木君とおんなじこと言うんだね?」
ピクリ。ウサギの肩が少し動くも、表情は凍てついたまま溶けることはない。
「その桜木と何処が同じなんだ?」
「”約束”したって。ああでも、彼の場合はそもそも不思議だからわかんないんだけど」
望月は苦笑し、「君は、僕とどんな約束を?」と促す。
「……ニュクスの封印」
静かな声だった。ただ、それだけしか言わないという意志を持った声だった。
望月は目を見開いたが、すぐに笑い「君なら、やってくれそうだね」と口を開く。
「にしても、当時まだ小さい子だったでしょ?よくそんな突拍子もない約束したね?」
「まあ、死ぬより親とまだ生きていたかったからな」
「…………ええと、親?」
「約束をした後すぐに自分の手で殺した。今はいない」
「……」
どう返したらいい。望月は困ったように有里を見ると、彼は小さくため息をついて口を開いた。
「取り敢えず、僕らが例え君を殺す決断をしてもウサギさんは約束を叶える為にそれを止めると思う。
それに、僕らも一度決めてるから」
「……そう、ならいいんだけど……ウサギさん、少しいい?」
「?」
ウサギは首を傾げながら、「なに」と尋ねる。
すると望月はすっと彼に近づき、彼の黒に包まれた身体を抱きしめた。
「「「「!?」」」」
「……」
ウサギは一瞬目を見開くも、特に抵抗せずハアとため息をつき身を委ねる。
「んー……」
「……何してるんだ?」
「え?いや、死んでたら怖いなって思って」
「…………腕の脈で測れるだろ、そのくらい」
「あ、そっか。でもなんか、腕より心臓の脈の音の方が好きなんだよねー」
グリグリと胸元に耳を当てられ、ウサギは手持ち無沙汰に彼の頭を撫でた。
「生きてるのが確認出来たら離せよ」
「はーい」
望月が返事をすれば、ウサギはポケットから本を取り出し栞を取って読み始める。
もう聞くべき話は全て聞いたという事なのだろう。桐条達も少し困ったように顔を見合わせるも、パラパラと自分たちの部屋へ戻っていった。
残ったのは有里と望月、ウサギとコロ丸のみ。
「……桜木君、だよね?」
ポソリ。出来る限り周りに聞こえないような声で望月がそう言うと、ウサギは本に目を向けたまま小さく頷いた。
「バレるとは思ってた」
「どうして?」
「なんとなく。湊もすぐ気づいたし、だったら綾時も気づくと思った」
綾時。サラリと呼び捨てにされて望月は顔を上げ目を見開くも、「そっか」とすぐに笑みを見せる。
「君の本当の色、やっぱりすごい綺麗だ。透き通ってて、濁ってない」
「……そう?」
「うん。カラコンしてた時も綺麗だなって思ったけどさ」
「……おかしな奴だな」
本から望月へと視線を移し、「もう、生きているか分かったか?」と彼は訊く。
「うん、君は生きてる。……だから、死なないでね?」
「約束までは死なない」
「その後死ぬ気なんでしょ?そのくらい分かるよー」
「……」
望月の言葉に桜木はため息をつきながら、何を思ったかわしゃわしゃと彼の頭をかいぐった。
「うわっ」
「……」
「ちょ、桜木君!?いきなり何!?」
「……」
「無視!?え、有里君ヘルプヘルプ!」
「……どうしたの、ユキ?」
有里が尋ねると、桜木は顔を上げて「なんとなく」と呟く。
「人類を滅ぼしにかかっている奴が、それを封印する為の代償の命を惜しむなんて可笑しなものだと思っただけ」
「それを言われると痛いけどさあ!でも僕だって、滅ぼしたくて滅ぼすんじゃないって!」
「知ってる。冗談だ」
全くの無表情でそう言われ、望月は「えー……」と不服そうな顔をするも、髪をほぐしながらなんとか離れた。
「……じゃあ、僕行くね?」
それは、完全な別れの挨拶。
桜木は目を細め、「ん」と望月の掌に触れる。
「今度に会うのは、1月31日だよな?」
「うん。……それまでに、死なないでね」
「当たり前だ」
その言葉に望月は嬉しそうに笑い、そして夜の闇の中へと姿を消した。
―翌日。望月綾時はまた急に転校が決まったと教師に告げられた。
―桜木の隣でまた空いてしまった席は、昼休み誰かの手によって片付けられ、また前と同じ空白へと戻っていった。
「……ニュクス、ね……この戦いが本当に終わるなら、そうしてほしいところだけど」
放課後の、寮のラウンジ。
昨夜共にいなかったウサギはそう言いながら、チラリと望月―ニュクスを見る。
10年前の事故の真実を明かされてもなお淡々とした様子に望月や他のメンバーは驚いたように彼を見るも、彼は「でも」と繋げた。
「俺はお前と約束をしているから、その提案は願い下げる」
提案。
それは綾時―全てに終わりをもたらすニュクスを今殺し、滅亡を逃れるという方法だった。
そうすれば有里達も影時間での記憶を消す代わりに、完全な平穏を手にすることができる。
だが、それはウサギの約束を反古にするものだったらしく、彼は当たり前と告げるように首を振った。
「……ええと……ウサギさん、だっけ?桜木君とおんなじこと言うんだね?」
ピクリ。ウサギの肩が少し動くも、表情は凍てついたまま溶けることはない。
「その桜木と何処が同じなんだ?」
「”約束”したって。ああでも、彼の場合はそもそも不思議だからわかんないんだけど」
望月は苦笑し、「君は、僕とどんな約束を?」と促す。
「……ニュクスの封印」
静かな声だった。ただ、それだけしか言わないという意志を持った声だった。
望月は目を見開いたが、すぐに笑い「君なら、やってくれそうだね」と口を開く。
「にしても、当時まだ小さい子だったでしょ?よくそんな突拍子もない約束したね?」
「まあ、死ぬより親とまだ生きていたかったからな」
「…………ええと、親?」
「約束をした後すぐに自分の手で殺した。今はいない」
「……」
どう返したらいい。望月は困ったように有里を見ると、彼は小さくため息をついて口を開いた。
「取り敢えず、僕らが例え君を殺す決断をしてもウサギさんは約束を叶える為にそれを止めると思う。
それに、僕らも一度決めてるから」
「……そう、ならいいんだけど……ウサギさん、少しいい?」
「?」
ウサギは首を傾げながら、「なに」と尋ねる。
すると望月はすっと彼に近づき、彼の黒に包まれた身体を抱きしめた。
「「「「!?」」」」
「……」
ウサギは一瞬目を見開くも、特に抵抗せずハアとため息をつき身を委ねる。
「んー……」
「……何してるんだ?」
「え?いや、死んでたら怖いなって思って」
「…………腕の脈で測れるだろ、そのくらい」
「あ、そっか。でもなんか、腕より心臓の脈の音の方が好きなんだよねー」
グリグリと胸元に耳を当てられ、ウサギは手持ち無沙汰に彼の頭を撫でた。
「生きてるのが確認出来たら離せよ」
「はーい」
望月が返事をすれば、ウサギはポケットから本を取り出し栞を取って読み始める。
もう聞くべき話は全て聞いたという事なのだろう。桐条達も少し困ったように顔を見合わせるも、パラパラと自分たちの部屋へ戻っていった。
残ったのは有里と望月、ウサギとコロ丸のみ。
「……桜木君、だよね?」
ポソリ。出来る限り周りに聞こえないような声で望月がそう言うと、ウサギは本に目を向けたまま小さく頷いた。
「バレるとは思ってた」
「どうして?」
「なんとなく。湊もすぐ気づいたし、だったら綾時も気づくと思った」
綾時。サラリと呼び捨てにされて望月は顔を上げ目を見開くも、「そっか」とすぐに笑みを見せる。
「君の本当の色、やっぱりすごい綺麗だ。透き通ってて、濁ってない」
「……そう?」
「うん。カラコンしてた時も綺麗だなって思ったけどさ」
「……おかしな奴だな」
本から望月へと視線を移し、「もう、生きているか分かったか?」と彼は訊く。
「うん、君は生きてる。……だから、死なないでね?」
「約束までは死なない」
「その後死ぬ気なんでしょ?そのくらい分かるよー」
「……」
望月の言葉に桜木はため息をつきながら、何を思ったかわしゃわしゃと彼の頭をかいぐった。
「うわっ」
「……」
「ちょ、桜木君!?いきなり何!?」
「……」
「無視!?え、有里君ヘルプヘルプ!」
「……どうしたの、ユキ?」
有里が尋ねると、桜木は顔を上げて「なんとなく」と呟く。
「人類を滅ぼしにかかっている奴が、それを封印する為の代償の命を惜しむなんて可笑しなものだと思っただけ」
「それを言われると痛いけどさあ!でも僕だって、滅ぼしたくて滅ぼすんじゃないって!」
「知ってる。冗談だ」
全くの無表情でそう言われ、望月は「えー……」と不服そうな顔をするも、髪をほぐしながらなんとか離れた。
「……じゃあ、僕行くね?」
それは、完全な別れの挨拶。
桜木は目を細め、「ん」と望月の掌に触れる。
「今度に会うのは、1月31日だよな?」
「うん。……それまでに、死なないでね」
「当たり前だ」
その言葉に望月は嬉しそうに笑い、そして夜の闇の中へと姿を消した。
―翌日。望月綾時はまた急に転校が決まったと教師に告げられた。
―桜木の隣でまた空いてしまった席は、昼休み誰かの手によって片付けられ、また前と同じ空白へと戻っていった。