白い謎
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あれから、一週間。
ずっと寝たきりだったのだと有里が告げられたのは、辰巳記念病院というところの病室だった。
窓の外は桜の花が舞っている空が見えて、自然と心が落ち着く。
岳羽から謝罪と過去話を、桐条たちからも謝罪と、ねぎらいの言葉をかけられ、一人になった頃にはもう日が沈んでいた。
(あの時……自分に何が起こったのだろう)
有里は手を天井にかざし、ふうと息を吐く。
(それに……あの、時計兎と人間……)
彼は何者だったのだろう。
声からして、男だった。けれどそれ以外は黒いフードと月の光による逆光で見ることは出来なかったのだ。
思考を巡らせているとドタドタと看護師と医者がやってきて、軽く検査をした後退院となった。
けれど、正直病院から帰る道が分からない。
(……今度、地図でも買おうかな)
そう考えて取り敢えず歩こうと思った矢先、「何をしている?」と後方から声が聞こえた。
振り向くと、ビニール袋を手にした『黒髪』の桜木が首を傾げて後ろに立っていた。
「過労で倒れたらしいけど、やっと退院か?」
桜木はそう言って有里の前を歩き出す。
有里が首を傾げると、彼はスッと立ち止まった。
「寮までの道、教えるぞ?」と手を掴むと、有里は何も言わずに彼の後についていく。
「……ユキは、なんで此処に?」
「不足した薬もらいにきただけだ。そしたら何か見覚えのある奴がまたキョロキョロしてたから、声かけた」
桜木はそう言うと袋を小さく掲げ、「やっぱり迷ってたな」と淡々と言った。
「……ごめん」
「別に謝られることじゃない」
謝罪に訂正を入れて、彼は歩く。暫く無言の状態が続き、有里はふと今の彼の姿をもう一度見た。
きっちりと制服を着て、制服には一切手を加えていない。
黒髪は違和感なく風になびき、金色の目は黒い眼鏡によって少しだけ小さく見えるものの、目つきはそのままだ。
「……先生が、」
不意に、桜木が口を開いた。有里は首を傾げて「先生が?」と返す。
「先生が、アンタが休んだ分の勉強を教えてやれって」
「……でも、ユキって授業寝てるよね?」
三日くらいしか授業を受けていないが、それでも彼が一番後ろの窓際の席で寝ていることは有里も知っていた。
なにせ、彼は学校についてから帰りのHRが終わるまでずっと寝ているのだ。昼休みも寝てる時は流石に起こしたくなったが、たまにゆらりと起きて何かを口に入れているところは見ていたのでそうっとしていた。
桜木は有里の言葉に「一週間くらいなら、どこまで進んでるかくらいわかる」と呟くように言う。
「それとも、先生特製課題の方がいいか?あの人の課題、見るからに一週間どころじゃなかったけど」
「お願いします」
即答した。腰まで折って礼をした有里に、「顔をあげろ」と彼は淡々と呟く。
「教えるのに自信はないから。……今日はアンタも疲れが取れたばかりだろうし、明日からの好きな時間にでも言ってくれ。学校以外なら構わない」
「……学校以外だと、遭遇の確率低いと思うけど」
「なら、連絡先を教える。携帯出せ」
有里がポケットから携帯電話を取り出すと、桜木は「貸せ」と言って携帯のボタンを操作し、やがて有里の携帯の電話帳に『桜木ユキ』が追加された。
「慣れてるね」
携帯をしまいそう言うと、「バイトくらいでしか使わないけどな」と声が返ってくる。
「……ほら、着いたぞ。そろそろ道覚えろ。俺はいつもアンタと遭遇できるやつじゃないんだから」
「そうしたいんだけどね……でも今の道は覚えたから、多分大丈夫だよ」
有里の返事に桜木は頷いて、「じゃあ、またな」と踵を返した。
ずっと寝たきりだったのだと有里が告げられたのは、辰巳記念病院というところの病室だった。
窓の外は桜の花が舞っている空が見えて、自然と心が落ち着く。
岳羽から謝罪と過去話を、桐条たちからも謝罪と、ねぎらいの言葉をかけられ、一人になった頃にはもう日が沈んでいた。
(あの時……自分に何が起こったのだろう)
有里は手を天井にかざし、ふうと息を吐く。
(それに……あの、時計兎と人間……)
彼は何者だったのだろう。
声からして、男だった。けれどそれ以外は黒いフードと月の光による逆光で見ることは出来なかったのだ。
思考を巡らせているとドタドタと看護師と医者がやってきて、軽く検査をした後退院となった。
けれど、正直病院から帰る道が分からない。
(……今度、地図でも買おうかな)
そう考えて取り敢えず歩こうと思った矢先、「何をしている?」と後方から声が聞こえた。
振り向くと、ビニール袋を手にした『黒髪』の桜木が首を傾げて後ろに立っていた。
「過労で倒れたらしいけど、やっと退院か?」
桜木はそう言って有里の前を歩き出す。
有里が首を傾げると、彼はスッと立ち止まった。
「寮までの道、教えるぞ?」と手を掴むと、有里は何も言わずに彼の後についていく。
「……ユキは、なんで此処に?」
「不足した薬もらいにきただけだ。そしたら何か見覚えのある奴がまたキョロキョロしてたから、声かけた」
桜木はそう言うと袋を小さく掲げ、「やっぱり迷ってたな」と淡々と言った。
「……ごめん」
「別に謝られることじゃない」
謝罪に訂正を入れて、彼は歩く。暫く無言の状態が続き、有里はふと今の彼の姿をもう一度見た。
きっちりと制服を着て、制服には一切手を加えていない。
黒髪は違和感なく風になびき、金色の目は黒い眼鏡によって少しだけ小さく見えるものの、目つきはそのままだ。
「……先生が、」
不意に、桜木が口を開いた。有里は首を傾げて「先生が?」と返す。
「先生が、アンタが休んだ分の勉強を教えてやれって」
「……でも、ユキって授業寝てるよね?」
三日くらいしか授業を受けていないが、それでも彼が一番後ろの窓際の席で寝ていることは有里も知っていた。
なにせ、彼は学校についてから帰りのHRが終わるまでずっと寝ているのだ。昼休みも寝てる時は流石に起こしたくなったが、たまにゆらりと起きて何かを口に入れているところは見ていたのでそうっとしていた。
桜木は有里の言葉に「一週間くらいなら、どこまで進んでるかくらいわかる」と呟くように言う。
「それとも、先生特製課題の方がいいか?あの人の課題、見るからに一週間どころじゃなかったけど」
「お願いします」
即答した。腰まで折って礼をした有里に、「顔をあげろ」と彼は淡々と呟く。
「教えるのに自信はないから。……今日はアンタも疲れが取れたばかりだろうし、明日からの好きな時間にでも言ってくれ。学校以外なら構わない」
「……学校以外だと、遭遇の確率低いと思うけど」
「なら、連絡先を教える。携帯出せ」
有里がポケットから携帯電話を取り出すと、桜木は「貸せ」と言って携帯のボタンを操作し、やがて有里の携帯の電話帳に『桜木ユキ』が追加された。
「慣れてるね」
携帯をしまいそう言うと、「バイトくらいでしか使わないけどな」と声が返ってくる。
「……ほら、着いたぞ。そろそろ道覚えろ。俺はいつもアンタと遭遇できるやつじゃないんだから」
「そうしたいんだけどね……でも今の道は覚えたから、多分大丈夫だよ」
有里の返事に桜木は頷いて、「じゃあ、またな」と踵を返した。