Goodbye our earth

注意
同性愛、近親愛表現が含まれます























「ねえさま、」

 わたしが貴女をこいねがうことを、許してくれますか?

────

 自覚したのは12の時。
 周囲の少女たちが思春期へと入り、あの人がかっこいい、あの子はあの子が好きらしい、なんて話題に花を咲かせているとき、私は姉を見つめていました。
 私の気持ちが眉を顰められるものだと薄々理解はしていました。ですから表に出すことはなかったのですけれど、多分、ああ見えて敏感なお姉様は気づいていたのでしょう。
 ある時から、少しだけ私に優しくなりました。私だけにしかわからないような微細な変化です。けれど確実に、何かが変わっています。

 きらきらとまるで星屑の様に微笑む貴女を愛していました。
 私にだけ配給の菓子を分けてくださる貴女に恋していました。

 更に恋心へ拍車をかけたその優しさはまるで蠱毒のように、私を染めてゆきます。いつかその目に熱情を孕ませたい、いつか貴女の体に深く触れたいと願うようになりました。
 自身の欲望が熱を持つことは、どう考えても不可抗力でしょう。想いを注ぐ相手に性を求めるのは本能的なものだと考えていますから。

 ですが私の場合はやはり相手が駄目だったのでしょう。それは自覚していましたから、いつしか自分の生まれを恨むようになりました。誤解のないように言っておきますと、私は私をここまで育ててくださったお母様にも、お父様にも感謝しております。それは本当です。

 ですがもし私の手が、もっと骨張っていたら。もし私の声が、もっと男性らしく低かったら。
 そんなことを夢想しても現実は何も良くなりません。それは当たり前のことですが、私はその望みが実現することを半ば信じたかったのです。……実現していれば、こうして年頃の娘らしく思い悩むこともなかったのでしょう。

 お姉様は美しいです。身内贔屓を除いても、その容姿は群を抜いています。ですから当然、異性から好意を向けられることもしばしばでした。
 私はそれがとても嫌で、嫌でたまりませんでした。お姉様が他の誰かに恋情を抱くなど、考えたくもありませんし、ましてや結ばれるなど言語道断です。
 ですがそんな私の思いはただのエゴでしかありません。きっといつかお姉様は素敵なお相手を見つけて、私に子どもを抱かせてくれるのでしょう。それがお姉様の幸せなのですから。
 けれど、もし。

 お姉様が他の誰かを愛するのなら。

 それは私であって欲しいのです。
 なんて我儘なんでしょう。自分勝手にも、醜いにも程があると思います。自分でもそう思うのですから、お姉様には恥ずかしくて到底見せられたものではありませんね。
 ですが、それでも私は貴女に恋い焦がれるのです。

「────」

 ああ、今日も貴女が愛おしいです。

「姉様、」

 私のこの想いは、きっと結ばれることはないでしょう。だからせめて今だけでも、貴女の一番近くにいることを許してください。貴女だけを見つめることを許してください。
 貴女は優しいですから、きっと私の想いを見て見ぬふりしてくれるでしょう。

 そうしていつか、貴女が望む幸せを掴んだとき私は――お姉様への恋慕に、けじめをつけれると思うのです。
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