第一章
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それからというもの、何だかんだと理由を付けてハーブティだけでも飲んで貰おうとルカが工夫を凝らした成果か、文句を言いながらもクジャはルカの淹れるお茶を飲むようになってきた。ハーブティに始まり、普段の仕事の合間に出す紅茶にも変わらず文句は言うが、飲まないということは無くなっていった。これはそろそろお茶菓子を出しても良いかもしれないと思ったルカは、あるお菓子を作ろうと厨房に掛け合ってみた。
「お菓子の材料アルか」
料理長であるクイナにクジャに出すお茶菓子の相談をすると、分かったことなのだが、彼の話を聞くと、クジャは今までこの厨房の料理を口にしたことが無いようだった。理由を訊くと、クイナにも分からないらしい。ただ、ここでの食事は必要無いと事前に言われていたので、今まで彼に食事を出したことは無いのだそうだ。この理由については後で本人に確認した方が良いかもしれないと思った彼女は頭の片隅に留めておくことにし、本題に戻る。しかし、クイナはぽりぽりと額を――ク族に額があるのかはよく分からないが――掻いて殆ど表情が変わらないながらにも難しい顔をした。――ク族は元々他種族から見ると、表情の変化が乏しいようにしか見えないのだ――
「ダメ、かな?」
「ウムム……ダメ、というより難しいアル。こういう材料はこの辺では手に入りにくいアルよ」
「他のお菓子なら作れるアルよ」と代替案を提示されて少し残念に思ったルカだったが、ただでさえ片手間に材料を用意してもらうのだからとそれ以上こだわることはせず、クイナの提案を呑むことにした。
「ルカが言った材料は手に入りにくいアルが、こっちで作れる物なら、メニューに追加しておくアルよ」
「ありがとう。じゃあ、クジャ様に確認して来るね」
「待ってるアルよー」
手を振るクイナにつられてルカもにこやかに手を振り返しながら、大急ぎでクジャの許へと駆けて行った。
「嫌だね」
クジャの部屋へ戻って早々、ルカはお茶菓子の提案をしたが、案の定彼は簡単には許可をくれないようだった。持っている書類から一切目を離さずに切り捨てた彼の機嫌を伺いつつ、ルカは尚も食い下がる。
「あの、理由をお聞きしても?」
恐る恐る訊くルカにクジャは「そんなことも分からないのかい?」と言いたげにふ、と笑んでから答えた。相変わらず、こちらをバカにしてくるような態度に、ルカはほんの少しだけ眉を寄せた。
「僕は味だけじゃなく、見た目も重視するからね。……ここの料理は僕の美意識に合わないんだよ」
そう言ってふいとそっぽを向く彼の様子に、少し心配になったルカは「でも……」と口を開く。
「クジャ様。こちらにいらしても飲み物ばかりなので、せめてお茶菓子だけでも――」
「うるさいな。また酷い目に遭いたいのかい?」
ピリ、と空気がひりつく。分かりやすく殺気を放つクジャに、ルカはびくっと反射的に怯えて一歩後退った。彼女の怯えように興が乗ったようで、またあの残酷な笑みを口元に浮かべたクジャは、彼女とは逆に数歩踏み出し、その手首を掴んで引き寄せた。
「いっ……!?」
強い力で掴まれたせいで痛みが走り、顔を歪めるルカにクジャはわざとらしく言葉でつついた。
「なんだい? その反抗的な顔は」
「ち、違います……っ! 手が、痛くて……!」
「へぇ、そうかい。さて、今日はどうしてやろうかな。また僕に生意気な口を利いた罰として、そうだねぇ……じゃあ、こうしよう」
「あっ……痛っ……」
手を放されるとほぼ同時に肩を強く押されたルカは、床へ強かに尻餅をついてしまう。あの時のようにクジャが彼女へ手を翳すと、ルカは押し潰されるのではないかという程の圧力に襲われる。黒紫色の魔力が彼の手に集中しているのが見える。おそらく対象に魔力相応の重力操作ができるグラビデだろう。起き上がろうとした体勢のまま、上から圧殺されるのではないかと思う程の圧力に彼女は為す術無く屈するしかなかった。胸が容赦なく圧迫され、息ができない。手足がそのままへし折れるのではないかと思うくらいに床へ押し付けられる。抵抗しようと体に力を込めるが、それすら許さないとでも言うようにクジャは手に少しずつ魔力を込めていく。その度に圧迫される力が強まり、骨が軋み、内臓が悲鳴を上げているのが分かった。
「けほっ……あ゛っ!? かはっ……!? あ゛あっ!?」
「どんな気分だろうねぇ。生きながら押し潰されるっていうのは。さぞ苦しいだろうねぇ。フフフフ……ああ、ほら。良い顔になってきたじゃないか」
息を吸おうとしても無駄だと、頭では分かっているのに体は生命活動を維持しようと反射で口を開けて空気を吸おうとする。しかし、胸がひどく圧迫されているせいで入って来る酸素は本当に僅かなものだ。殆ど呼吸ができない彼女は段々と暗くなる視界に怯え、自分を見下ろして嗤っている長身の男クジャに怯えた。勝手に流れる彼女の涙にいくらか満足した様子のクジャは手に集中していた魔力を霧散させ、すっと下ろした。その瞬間、気絶寸前まで追い込まれていたルカの意識は呼吸ができることで強制的に急浮上させられ、また反射で今度は咳き込んだ。それでも構うこと無く、クジャは彼女の結んであるうちの片方の髪を掴んで持ち上げ、苦しそうな顔をじいっと見つめている。
「げほっ……げほっ……! はぁ……はぁ……」
「これでキミもいい加減、理解しただろう? 僕に意見なんて二度とするんじゃないよ。分かったら、仕事に戻りなよ」
興味を失ったように手を放したクジャはそれだけ言うと、未だ床に転がっているルカを放置して自分の仕事に戻って行く。しかし、ルカは諦めずにゆっくり起き上がると、クジャへ少し近付き、「で、でも、クジャ様……」と遠慮がちに切り出そうとするが、完全に無視されてしまう。そうして、何事も無かったかのようにいつもの仕事を言いつけられてしまうのだった。
それから夜まで食事のことを言い出せずにいたルカは、いつものように夜のハーブティを出す時に漸く切り出すことができた。
「あの、クジャ様。やっぱり食事はちゃんと摂った方が」
「キミもしつこいね。食べないって言ってるだろ」
「で、でも……」
ぎろりと睨んでくるクジャに、ルカはまたびくりと恐怖で身を固くし、俯いてしまう。すると、暫し黙っていた彼は一際大きな溜息をつくと、「じゃあ」と口を開いた。
「キミが毒味をしなよ。そうしたら、食べないこともないよ」
「本当ですかっ!?」
「なんだい、キミ。そんなに大声を出して」
「あ、い、いえ、嬉しくて。え、でも、毒味、ですか?」
『毒味』と聞いて不思議そうな顔をするルカに、クジャは少々呆れたように首を振り、嫌味を込めて懇切丁寧に説明してやることにした。
「毒味っていうのは、食事に毒が入ってないか、僕より先に味見して調べる役のことだよ。要人を毒から守る為に昔からある方法だけど、大丈夫かい? 僕の言ってる意味、分かるかい?」
まるで幼児に言い聞かせるような声音と態度にルカはむっとして、「そのくらい分かります!」と返す。小馬鹿にしたように笑むクジャだったが、次の言葉にその表情は引っ込んだ。
「でも、私が毒味役になったら、ちゃんとご飯食べてくれるんですね。嬉しいです! 私、頑張りますね!」
そう言ってにぱっと笑う彼女に、もう一度くらい嫌味を言ってやろうと思っていたクジャは、逆に何も言えなくなってしまい、せめてもの抵抗に「そう。せいぜい頑張りなよ」としか言えなかった。
「お菓子の材料アルか」
料理長であるクイナにクジャに出すお茶菓子の相談をすると、分かったことなのだが、彼の話を聞くと、クジャは今までこの厨房の料理を口にしたことが無いようだった。理由を訊くと、クイナにも分からないらしい。ただ、ここでの食事は必要無いと事前に言われていたので、今まで彼に食事を出したことは無いのだそうだ。この理由については後で本人に確認した方が良いかもしれないと思った彼女は頭の片隅に留めておくことにし、本題に戻る。しかし、クイナはぽりぽりと額を――ク族に額があるのかはよく分からないが――掻いて殆ど表情が変わらないながらにも難しい顔をした。――ク族は元々他種族から見ると、表情の変化が乏しいようにしか見えないのだ――
「ダメ、かな?」
「ウムム……ダメ、というより難しいアル。こういう材料はこの辺では手に入りにくいアルよ」
「他のお菓子なら作れるアルよ」と代替案を提示されて少し残念に思ったルカだったが、ただでさえ片手間に材料を用意してもらうのだからとそれ以上こだわることはせず、クイナの提案を呑むことにした。
「ルカが言った材料は手に入りにくいアルが、こっちで作れる物なら、メニューに追加しておくアルよ」
「ありがとう。じゃあ、クジャ様に確認して来るね」
「待ってるアルよー」
手を振るクイナにつられてルカもにこやかに手を振り返しながら、大急ぎでクジャの許へと駆けて行った。
「嫌だね」
クジャの部屋へ戻って早々、ルカはお茶菓子の提案をしたが、案の定彼は簡単には許可をくれないようだった。持っている書類から一切目を離さずに切り捨てた彼の機嫌を伺いつつ、ルカは尚も食い下がる。
「あの、理由をお聞きしても?」
恐る恐る訊くルカにクジャは「そんなことも分からないのかい?」と言いたげにふ、と笑んでから答えた。相変わらず、こちらをバカにしてくるような態度に、ルカはほんの少しだけ眉を寄せた。
「僕は味だけじゃなく、見た目も重視するからね。……ここの料理は僕の美意識に合わないんだよ」
そう言ってふいとそっぽを向く彼の様子に、少し心配になったルカは「でも……」と口を開く。
「クジャ様。こちらにいらしても飲み物ばかりなので、せめてお茶菓子だけでも――」
「うるさいな。また酷い目に遭いたいのかい?」
ピリ、と空気がひりつく。分かりやすく殺気を放つクジャに、ルカはびくっと反射的に怯えて一歩後退った。彼女の怯えように興が乗ったようで、またあの残酷な笑みを口元に浮かべたクジャは、彼女とは逆に数歩踏み出し、その手首を掴んで引き寄せた。
「いっ……!?」
強い力で掴まれたせいで痛みが走り、顔を歪めるルカにクジャはわざとらしく言葉でつついた。
「なんだい? その反抗的な顔は」
「ち、違います……っ! 手が、痛くて……!」
「へぇ、そうかい。さて、今日はどうしてやろうかな。また僕に生意気な口を利いた罰として、そうだねぇ……じゃあ、こうしよう」
「あっ……痛っ……」
手を放されるとほぼ同時に肩を強く押されたルカは、床へ強かに尻餅をついてしまう。あの時のようにクジャが彼女へ手を翳すと、ルカは押し潰されるのではないかという程の圧力に襲われる。黒紫色の魔力が彼の手に集中しているのが見える。おそらく対象に魔力相応の重力操作ができるグラビデだろう。起き上がろうとした体勢のまま、上から圧殺されるのではないかと思う程の圧力に彼女は為す術無く屈するしかなかった。胸が容赦なく圧迫され、息ができない。手足がそのままへし折れるのではないかと思うくらいに床へ押し付けられる。抵抗しようと体に力を込めるが、それすら許さないとでも言うようにクジャは手に少しずつ魔力を込めていく。その度に圧迫される力が強まり、骨が軋み、内臓が悲鳴を上げているのが分かった。
「けほっ……あ゛っ!? かはっ……!? あ゛あっ!?」
「どんな気分だろうねぇ。生きながら押し潰されるっていうのは。さぞ苦しいだろうねぇ。フフフフ……ああ、ほら。良い顔になってきたじゃないか」
息を吸おうとしても無駄だと、頭では分かっているのに体は生命活動を維持しようと反射で口を開けて空気を吸おうとする。しかし、胸がひどく圧迫されているせいで入って来る酸素は本当に僅かなものだ。殆ど呼吸ができない彼女は段々と暗くなる視界に怯え、自分を見下ろして嗤っている長身の男クジャに怯えた。勝手に流れる彼女の涙にいくらか満足した様子のクジャは手に集中していた魔力を霧散させ、すっと下ろした。その瞬間、気絶寸前まで追い込まれていたルカの意識は呼吸ができることで強制的に急浮上させられ、また反射で今度は咳き込んだ。それでも構うこと無く、クジャは彼女の結んであるうちの片方の髪を掴んで持ち上げ、苦しそうな顔をじいっと見つめている。
「げほっ……げほっ……! はぁ……はぁ……」
「これでキミもいい加減、理解しただろう? 僕に意見なんて二度とするんじゃないよ。分かったら、仕事に戻りなよ」
興味を失ったように手を放したクジャはそれだけ言うと、未だ床に転がっているルカを放置して自分の仕事に戻って行く。しかし、ルカは諦めずにゆっくり起き上がると、クジャへ少し近付き、「で、でも、クジャ様……」と遠慮がちに切り出そうとするが、完全に無視されてしまう。そうして、何事も無かったかのようにいつもの仕事を言いつけられてしまうのだった。
それから夜まで食事のことを言い出せずにいたルカは、いつものように夜のハーブティを出す時に漸く切り出すことができた。
「あの、クジャ様。やっぱり食事はちゃんと摂った方が」
「キミもしつこいね。食べないって言ってるだろ」
「で、でも……」
ぎろりと睨んでくるクジャに、ルカはまたびくりと恐怖で身を固くし、俯いてしまう。すると、暫し黙っていた彼は一際大きな溜息をつくと、「じゃあ」と口を開いた。
「キミが毒味をしなよ。そうしたら、食べないこともないよ」
「本当ですかっ!?」
「なんだい、キミ。そんなに大声を出して」
「あ、い、いえ、嬉しくて。え、でも、毒味、ですか?」
『毒味』と聞いて不思議そうな顔をするルカに、クジャは少々呆れたように首を振り、嫌味を込めて懇切丁寧に説明してやることにした。
「毒味っていうのは、食事に毒が入ってないか、僕より先に味見して調べる役のことだよ。要人を毒から守る為に昔からある方法だけど、大丈夫かい? 僕の言ってる意味、分かるかい?」
まるで幼児に言い聞かせるような声音と態度にルカはむっとして、「そのくらい分かります!」と返す。小馬鹿にしたように笑むクジャだったが、次の言葉にその表情は引っ込んだ。
「でも、私が毒味役になったら、ちゃんとご飯食べてくれるんですね。嬉しいです! 私、頑張りますね!」
そう言ってにぱっと笑う彼女に、もう一度くらい嫌味を言ってやろうと思っていたクジャは、逆に何も言えなくなってしまい、せめてもの抵抗に「そう。せいぜい頑張りなよ」としか言えなかった。
