第一章
夢小説設定
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給湯室に入る前、ルカは事前に図書室から借りていた紅茶の本を持って行った。紅茶には未だ慣れないながらも、本を見ながらなら、何とか今の彼の気分に合った物を出せそうだと思ったからだ。そう思ってこうして持ち出してはみたが、どの頁を捲って見ても今の彼に合うような紅茶は見付けられない。どうしようと悩んでいると、ふと、最後の方に少ないながらもハーブティーについての説明も載っていた。どれもリラックス効果や体調改善効果があるようで、今のクジャに持って行くなら紅茶よりこちらが相応しいだろうと彼女は考えた。その中でもリラックス効果の高い『カモミュール』が丁度良さそうだ。
ちょっとした紹介程度にしか載っていないが、幸い淹れ方は紅茶とあまり変わりないようだ。念の為、紅茶棚の中にハーブティーの茶葉が無いか確認しようと、ルカはシンク上にある紅茶棚の戸を開ける。紅茶缶がぎっしり入っている段の上は何も無く、一切物が乗っていない。ように見えた。一応、奥まで見ておこうとシンクに上ったルカはその段を覗いてみる。下から見ているだけでは分からなかった目当ての物はすぐに見付かった。
「あ、あった!」
まるで人の目から隠すように奥の方に紅茶缶のような物がいくつかあった。棚の中に手を伸ばしてそれらを取ると、ルカはシンクから下りて手に取った缶達を並べて見た。思った通り、それらはみなハーブティーの缶で、きっとカミラが自分用に隠していた物だろうと思い至ったルカは、先日までここにいたあのちゃっかりした先輩のことを思い出してふふ、と笑った。
ハーブティーを淹れる時は視覚的にも楽しめるよう、透明なポットの方が良いと本には書いてあったが、カミラはその辺りは重視していなかったらしく、陶器のポットしか無い。というのも、茶葉が湯に沈むと種類によっては花が咲くように広がるのだという。きっと凄く綺麗なのだろうなとルカは思うが、今回はそれが見られない。また怒られてしまうけれど仕方ないと思いつつ、ルカは夜に相応しく、あまり派手ではないポットとカップを選び、初めてハーブティーを淹れた。最後の蒸らす時間の間にクジャの許へ持って行けば、丁度良い。
盆にハーブティーセットを載せて戻って来たルカをクジャは先程とあまり変わらない、疲れた顔で出迎えた。微かに香る林檎のような香りに些か不審そうな顔をしていたが、ルカがハーブティーを用意したと言うと、合点がいったようだった。
「へえ。がさつなキミにしては気が利くじゃないか」
「あの、クジャ様。このところ、あまり眠れていないご様子だったので、今日はよく眠れるようにカモミュールを選んでみました」
「そのくらい香りで分かるよ。それにキミが淹れた物の場合、肝心なのは効果より味だよ。それにこのポットじゃ、茶葉が広がっている様を見られないじゃないか。キミが直すべきところはそういうところだよ」
「あ、私も本で見たのですが、透明なポットが無くて……」
「ふぅ~ん、そうかい。なら、手配しておこう。次はそれで淹れるんだよ」
「は、はい」
小言を言いつつ、いつものようにルカが注いだハーブティーを、少し香りを楽しんだ後に丁寧な所作で口に運ぶクジャ。今までの彼は「僕は忙しいんだ」というオーラを隠さず、それ故にあまり飲んでくれなかったが、今は作業らしいことは何もしていない。もしかしたら、今日はいつもよりは飲んでくれるかもという思いもあったが、それよりルカが考えていたのはやはり、ちゃんと休んで欲しいという心配だった。この傍若無人な美丈夫は普段からどうにも他人に対して必要以上の警戒心を持っているような気がして、「自分は敵じゃない」と分かってもらいたかった。かといって味方でもないが、敵意を向けられる謂れも無いのだ。それだけは分かって欲しいと思わずにはいられなかった。
一口飲んだ後も、彼にしては珍しく仕方ないと言いたげな顔のまま無言でカップを受け皿に置き、そのままルカに返す。また飲んでくれないのかと密かに残念に思う彼女に、クジャは言った。
「何してるんだい? 二杯目を注ぎなよ」
「へ?」
見ると、カップの中身は空になっており、白い陶器の底が見える。初めて飲んでくれたと感動するも束の間、「早くしなよ」の一言にまた棘が含まれていることを察知した彼女は、「は、はいっ」と返事をして二杯目を注いだ。
そうして、特に何か会話をするでもなく、ハーブティーを飲んだクジャは眠そうに額を押さえて、次の命令をルカに下す。
「ん……入浴の準備は?」
「できてます」
「なら、早くしてくれ。このまま眠るなんて、絶対許さないよ」
「はい、只今」
そのまま大急ぎで服やタオルの準備をして、ルカは眠そうなクジャを風呂に入れる。カミラが直談判したあの日から、彼の体を洗うのもすっかり彼女の役目となっていた。黙々といつもと同じように彼が湯に浸かっている間、彼女はスポンジで泡を作ったり、彼の手をマッサージしたりしていると、おもむろにクジャが口を開いた。
「ねえ」
「何でしょう?」
「………………今日のは、まぁまぁだったよ」
一瞬、ルカは何を言われたのかよく分からず、思わず顔を上げると彼と目が合った。そして、言われたことを噛み締めて理解すると、途端に心の底から嬉しさが込み上げてくる。じわ、と頬に熱を感じた彼女は照れ隠しに「えへへ」と笑った。
「ありがとうございます」
「ふ、ふん……。でも、あまり調子に乗らないことだね」
「ふふ。はい」
いつもと少し違う穏やかな時間を過ごした二人は、入浴が終わると、いつものようにクジャに「今日はもう下がっていいよ」と言われ、ルカは一礼して部屋を出て行った。
「では、おやすみなさいませ。クジャ様」
部屋を出て行く際にティーセットを持って出て行ったルカ。そんな彼女の評価をほんの少しだけ改めても良いかもしれない、とクジャはぼんやり考えていた。それと同時に、先程の嬉しそうな彼女の顔を思い浮かべる自分がいることに、はっとして彼はその光景を振り払うように吐き捨てた。
「全く……バカみたいな顔して」
少し頬が熱いのは、湯上がりだからだと自分に言い聞かせた。
翌朝、ベルでクジャが呼びつけると、ルカは大急ぎという様子で彼の前に現れる。「おはようございますっ」と元気よく挨拶する彼女を無視して、今日の予定を一方的に伝え、仕事に取りかかるように言った時だった。
「あの、クジャ様」
「なんだい?」
「昨日は、よく眠れました?」
クジャの脳裏に昨日のルカの笑顔が浮かぶ。そのせいだろうか、少し苛立ちを覚えた彼は書類に落としていた目を上げて、ルカを睨んだ。何故、自分が睨まれているのかまるで理解できていない彼女にクジャは近付いて、説明してやる。
「キミ、何か勘違いしてるみたいだから、言っておくけど。僕がキミみたいなどうでもいい奴の行いに影響されるとでも思ってるのかい? フフフ……思い上がるのも大概にしろ」
「あっ……いっ……!」
肩を突き飛ばしてルカを転ばせると、クジャは「早くしろ」と彼女を見下し、早速仕事に取りかかる。昨日は疲れていたからこの女の手に乗ってやったが、これ以上土足で自分の心に踏み入られるのは腹が立つし、許さない。そんな雰囲気を全身に纏う彼を見て、ルカはどうしたものかと立ち上がって考え込んでしまいそうになる。しかし、それも僅かの間で、すぐに鋭く飛んでくるクジャの声にはっと我に返って、慌てて彼の近くへ駆け寄るのだった。
ちょっとした紹介程度にしか載っていないが、幸い淹れ方は紅茶とあまり変わりないようだ。念の為、紅茶棚の中にハーブティーの茶葉が無いか確認しようと、ルカはシンク上にある紅茶棚の戸を開ける。紅茶缶がぎっしり入っている段の上は何も無く、一切物が乗っていない。ように見えた。一応、奥まで見ておこうとシンクに上ったルカはその段を覗いてみる。下から見ているだけでは分からなかった目当ての物はすぐに見付かった。
「あ、あった!」
まるで人の目から隠すように奥の方に紅茶缶のような物がいくつかあった。棚の中に手を伸ばしてそれらを取ると、ルカはシンクから下りて手に取った缶達を並べて見た。思った通り、それらはみなハーブティーの缶で、きっとカミラが自分用に隠していた物だろうと思い至ったルカは、先日までここにいたあのちゃっかりした先輩のことを思い出してふふ、と笑った。
ハーブティーを淹れる時は視覚的にも楽しめるよう、透明なポットの方が良いと本には書いてあったが、カミラはその辺りは重視していなかったらしく、陶器のポットしか無い。というのも、茶葉が湯に沈むと種類によっては花が咲くように広がるのだという。きっと凄く綺麗なのだろうなとルカは思うが、今回はそれが見られない。また怒られてしまうけれど仕方ないと思いつつ、ルカは夜に相応しく、あまり派手ではないポットとカップを選び、初めてハーブティーを淹れた。最後の蒸らす時間の間にクジャの許へ持って行けば、丁度良い。
盆にハーブティーセットを載せて戻って来たルカをクジャは先程とあまり変わらない、疲れた顔で出迎えた。微かに香る林檎のような香りに些か不審そうな顔をしていたが、ルカがハーブティーを用意したと言うと、合点がいったようだった。
「へえ。がさつなキミにしては気が利くじゃないか」
「あの、クジャ様。このところ、あまり眠れていないご様子だったので、今日はよく眠れるようにカモミュールを選んでみました」
「そのくらい香りで分かるよ。それにキミが淹れた物の場合、肝心なのは効果より味だよ。それにこのポットじゃ、茶葉が広がっている様を見られないじゃないか。キミが直すべきところはそういうところだよ」
「あ、私も本で見たのですが、透明なポットが無くて……」
「ふぅ~ん、そうかい。なら、手配しておこう。次はそれで淹れるんだよ」
「は、はい」
小言を言いつつ、いつものようにルカが注いだハーブティーを、少し香りを楽しんだ後に丁寧な所作で口に運ぶクジャ。今までの彼は「僕は忙しいんだ」というオーラを隠さず、それ故にあまり飲んでくれなかったが、今は作業らしいことは何もしていない。もしかしたら、今日はいつもよりは飲んでくれるかもという思いもあったが、それよりルカが考えていたのはやはり、ちゃんと休んで欲しいという心配だった。この傍若無人な美丈夫は普段からどうにも他人に対して必要以上の警戒心を持っているような気がして、「自分は敵じゃない」と分かってもらいたかった。かといって味方でもないが、敵意を向けられる謂れも無いのだ。それだけは分かって欲しいと思わずにはいられなかった。
一口飲んだ後も、彼にしては珍しく仕方ないと言いたげな顔のまま無言でカップを受け皿に置き、そのままルカに返す。また飲んでくれないのかと密かに残念に思う彼女に、クジャは言った。
「何してるんだい? 二杯目を注ぎなよ」
「へ?」
見ると、カップの中身は空になっており、白い陶器の底が見える。初めて飲んでくれたと感動するも束の間、「早くしなよ」の一言にまた棘が含まれていることを察知した彼女は、「は、はいっ」と返事をして二杯目を注いだ。
そうして、特に何か会話をするでもなく、ハーブティーを飲んだクジャは眠そうに額を押さえて、次の命令をルカに下す。
「ん……入浴の準備は?」
「できてます」
「なら、早くしてくれ。このまま眠るなんて、絶対許さないよ」
「はい、只今」
そのまま大急ぎで服やタオルの準備をして、ルカは眠そうなクジャを風呂に入れる。カミラが直談判したあの日から、彼の体を洗うのもすっかり彼女の役目となっていた。黙々といつもと同じように彼が湯に浸かっている間、彼女はスポンジで泡を作ったり、彼の手をマッサージしたりしていると、おもむろにクジャが口を開いた。
「ねえ」
「何でしょう?」
「………………今日のは、まぁまぁだったよ」
一瞬、ルカは何を言われたのかよく分からず、思わず顔を上げると彼と目が合った。そして、言われたことを噛み締めて理解すると、途端に心の底から嬉しさが込み上げてくる。じわ、と頬に熱を感じた彼女は照れ隠しに「えへへ」と笑った。
「ありがとうございます」
「ふ、ふん……。でも、あまり調子に乗らないことだね」
「ふふ。はい」
いつもと少し違う穏やかな時間を過ごした二人は、入浴が終わると、いつものようにクジャに「今日はもう下がっていいよ」と言われ、ルカは一礼して部屋を出て行った。
「では、おやすみなさいませ。クジャ様」
部屋を出て行く際にティーセットを持って出て行ったルカ。そんな彼女の評価をほんの少しだけ改めても良いかもしれない、とクジャはぼんやり考えていた。それと同時に、先程の嬉しそうな彼女の顔を思い浮かべる自分がいることに、はっとして彼はその光景を振り払うように吐き捨てた。
「全く……バカみたいな顔して」
少し頬が熱いのは、湯上がりだからだと自分に言い聞かせた。
翌朝、ベルでクジャが呼びつけると、ルカは大急ぎという様子で彼の前に現れる。「おはようございますっ」と元気よく挨拶する彼女を無視して、今日の予定を一方的に伝え、仕事に取りかかるように言った時だった。
「あの、クジャ様」
「なんだい?」
「昨日は、よく眠れました?」
クジャの脳裏に昨日のルカの笑顔が浮かぶ。そのせいだろうか、少し苛立ちを覚えた彼は書類に落としていた目を上げて、ルカを睨んだ。何故、自分が睨まれているのかまるで理解できていない彼女にクジャは近付いて、説明してやる。
「キミ、何か勘違いしてるみたいだから、言っておくけど。僕がキミみたいなどうでもいい奴の行いに影響されるとでも思ってるのかい? フフフ……思い上がるのも大概にしろ」
「あっ……いっ……!」
肩を突き飛ばしてルカを転ばせると、クジャは「早くしろ」と彼女を見下し、早速仕事に取りかかる。昨日は疲れていたからこの女の手に乗ってやったが、これ以上土足で自分の心に踏み入られるのは腹が立つし、許さない。そんな雰囲気を全身に纏う彼を見て、ルカはどうしたものかと立ち上がって考え込んでしまいそうになる。しかし、それも僅かの間で、すぐに鋭く飛んでくるクジャの声にはっと我に返って、慌てて彼の近くへ駆け寄るのだった。
