第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
カミラの安全を守る為に、思わずドアを閉めてしまってからルカは大いに後悔した。浴室で知り合ったばかりの異性と二人きり。しかも、相手は全裸でさっきまで自分を殺そうとしてきた男だ。そもそも勝手に侵入したルカ達の方が悪いのだが、脳内でパニックを起こしている彼女は、ただドアの前で縮こまっていることしかできない。そんな彼女の背中をじっと見つめていたクジャは、浴槽の端まで来て頬杖をつき、ルカへ声を掛ける。
「キミ」
「んひゃいっ!?? な、何でしょうっ?」
クジャの声に大きな音を出された猫のように驚き、反射的に振り返ったルカは、慌てて自分の目元を手で隠した。その初心な反応に彼はアレクサンドリア兵士の装束には何も思わないのかこの女と思いながらも、まるで犬や猫を追い払う時にするように手を振った。
「キミもさっさと出て行ってくれないか。後、その反応はどういうことだい? それじゃ、まるで僕が醜い者みたいじゃないか」
「く、クジャ様はっ……醜くなんてありませんっ! き、綺麗、だから……その…………すみませんっ」
「待て」
目を覆ったまま口を滑らせ、慌てて出て行こうとするルカがドアに手を掛けた時、クジャは魔法で鍵を掛ける。いつまでも開かないドアに今度こそパニックになって、涙を浮かべるルカへクジャはもう一度声を掛けた。
「僕が、何だって?」
依然として目を隠している彼女の行動は気に入らないが、クジャは何かを確かめようと浴槽から上がり、ルカの肩を掴んで自分の方へ振り向かせた。彼の声色から怒っているのだと勘違いした彼女は、なかなか言い出さない。それにクジャは苛立ちを覚えた。
「早く答えないとまた酷い目に遭わせるよ?」
「……き、れい、です」
恐る恐る口にされたその言葉に、クジャは彼女が自分を見ていないことを良いことに、満足気な笑みを浮かべる。しかし、自分を綺麗だと評する癖に自身の目で見ようとしない彼女にもどかしくなる。綺麗だと言うならもっとちゃんと見ろ、と叱りつけるような気持ちで彼女の右手を取り、無理矢理目元から引き剥がした。
「あっ……わっ……」
「綺麗だって言うなら、ちゃんと僕を見ろ。説得力が無いだろ」
「で、でも、クジャ様。今、裸で……」
「それが何だ。言い訳にすらならないよ」
クジャはぐい、と強引にルカの顎を掴んで無理矢理目を合わせる。観念したルカが恐る恐る目を開けると、そこにはあの月を思わせる微笑があった。光の加減によって青くも白くも見える長い銀髪に包まれた端正だが、男だと分かる顔。冷たくもどこか寂しささえ湛えているような淡い青の瞳。こんなに近くで見つめると、その顔はやはりあの時、夢想した麗人の顔で、ルカは不覚にもまた頬が熱くなるのを感じた。
「……なに赤くなってるんだい? そんなに見ていたければ、手伝いなよ」
「え? 手伝う? ですか?」
「ほら」とクジャの手で何か差し出される。顎から手を放され、目線を彼の手元に落とすと、そこには泡でいっぱいの大きなスポンジが握られていた。
「……へ?」
「特別に僕の背中を流させてあげるよ。僕の美しさを保つ手伝いができるんだ。礼を言ってくれても構わないよ」
やはり、この男は意地が悪い。何か文句の一つでも言ってやろうと、ルカは顔を上げた。
「? 何だい?」
「――――な、んでもない、です……」
見上げた先にある整った顔立ちに、ルカは惚れた弱みにつけ込まれたような気がして、怒りが急速に萎え、代わりに『顔が良い』という事実を心中で噛み締めた。
浴槽の縁に腰掛け、こちらに背を向けるクジャ。ルカはまず、甲冑が濡れると手入れが面倒な為、手袋と一緒に脱いで濡れないよう洗面台に置いてからスポンジを取った。
「し、失礼します」
魔法で髪を纏め上げたクジャの背中と向き合い、ルカは緊張と気恥ずかしさから恐る恐るスポンジを彼の背中に付けた。その瞬間、「ちょっと!!」と鋭い声が飛んできて、彼女は慌ててスポンジを離す。
「まさか、スポンジで直接僕の背中を洗おうっていうのかいっ!?」
「へ? え、でも……」
「スポンジから泡を取って、キミの手で洗うんだよ! 常識だろう!?」
「は、はいっ……!」
まさか怒られるとは思っていなかったルカは、しゅんと肩を落としながらも、言われた通りにスポンジから泡を取って、彼の背中へ手を滑らせる。背中とはいえ、初めて触れる異性の体に若干、心臓の鼓動が速くなる。それを努めて意識しないようにしながら、彼女は丁寧に洗っていった。すべすべとしたクジャの背中は広く、それでいて殆ど無駄な脂肪が付いていない。体の線を柔らかくする為の最低限の脂肪は付いているが、案外と硬い感触にルカは密かに感心した。加えて、彼は背が高い。立っている状態ではルカの頭一つ分は高いので、洗うのにも全身を使わなければならなかった。
「腕もちゃんと洗うんだよ」
「はい」
腕の裏側にも泡を足し、滑らせる。ルカの丁寧な仕事にクジャは満足そうに目を閉じる。不意に彼女が掌を洗い始めた時、びくりと彼は驚き、目を開けた。クジャが彼女の方へ振り向くとばち、と二人の目が合う。普段は兜に隠れてよく見えない彼女の素顔を初めて見たクジャは、物珍し気な顔をした。
「……今朝から思っていたけれど、キミ、随分珍しい髪色をしているね」
「そう、ですか?」
「ああ。ここの兵士は皆揃いも揃って金髪だから、その色はよく目立つよ。どこの出身だい?」
今までそんなことを訊かれたことは無かったルカは虚をつかれ、言い淀む。自分の記憶が無いことは隊に入った時、ベアトリクスが気を利かせて説明してくれたが、果たして外部の人間に話して良いものか悩む。ルカが悩み、まごついていると、またクジャの冷たい声が飛んで来た。
「質問には答えなよ。失礼じゃないか」
「す、すみません。えっと……でも、私…………」
「もしかしてキミ、訳ありかい? 時々いるよ。どこの世界にもね。ああ、そうだ。訳ありと言えば、この前開催したオークションでね……」
『訳あり』という単語から何か連想したのか、そこからは全く別の話になってしまったので、ルカはそれ以上考えるのを止め、彼の話を聞きながらもう片方の腕に取り掛かった。
「まあまあだったよ」
「はあ……? ありがとうございます」
ついでにとルカがやったハンドマッサージが思いの外お気に召したのか、クジャにしては珍しく褒めたのだが、ルカにはあまり伝わっていないようだった。気の無い返事に彼は少しだけ彼女を睨む。
「なんだい、そのやる気の無い返事は。まぁ、いいよ。それと、あの気性の荒い女の手綱をしっかり握っておきなよ」
「へっ?」
一瞬何のことか分からなかったルカは、ありのままを表情に出す。そのぽけっとした顔に呆れたのか、毒気を抜かれたのか、クジャは仕方なさそうに重く深い溜息をこれ見よがしに吐いて見せた。その態度に自分はまた何か粗相をしてしまったのかと思い至ったルカは「すみません」と申し訳なさそうに頭を下げる。
「もう忘れてしまったのかい? ほら、キミをここに閉じ込めた原因のことだよ」
その一言で漸くカミラのことを指していると理解したルカは「あ、ああっ!」と頷き、次いでだいぶ遅れてだが、むっと頬を少々膨らませる。尊敬している先輩のことをそんな風に言われたら、誰でも同じような表情をするだろう。弁明をしようとルカは口を開く。
「先輩は、悪気があってあんなことをした訳では――」
「それで下の者が上の者にあんな口を利いてもいいと?」
「そ、れは……」
言い淀んでしまうルカにクジャは「もういいよ。ほら、早く出て行ってくれ」とだけ言い残し、また彼女に向かってしっしと手を振るのだった。
「キミ」
「んひゃいっ!?? な、何でしょうっ?」
クジャの声に大きな音を出された猫のように驚き、反射的に振り返ったルカは、慌てて自分の目元を手で隠した。その初心な反応に彼はアレクサンドリア兵士の装束には何も思わないのかこの女と思いながらも、まるで犬や猫を追い払う時にするように手を振った。
「キミもさっさと出て行ってくれないか。後、その反応はどういうことだい? それじゃ、まるで僕が醜い者みたいじゃないか」
「く、クジャ様はっ……醜くなんてありませんっ! き、綺麗、だから……その…………すみませんっ」
「待て」
目を覆ったまま口を滑らせ、慌てて出て行こうとするルカがドアに手を掛けた時、クジャは魔法で鍵を掛ける。いつまでも開かないドアに今度こそパニックになって、涙を浮かべるルカへクジャはもう一度声を掛けた。
「僕が、何だって?」
依然として目を隠している彼女の行動は気に入らないが、クジャは何かを確かめようと浴槽から上がり、ルカの肩を掴んで自分の方へ振り向かせた。彼の声色から怒っているのだと勘違いした彼女は、なかなか言い出さない。それにクジャは苛立ちを覚えた。
「早く答えないとまた酷い目に遭わせるよ?」
「……き、れい、です」
恐る恐る口にされたその言葉に、クジャは彼女が自分を見ていないことを良いことに、満足気な笑みを浮かべる。しかし、自分を綺麗だと評する癖に自身の目で見ようとしない彼女にもどかしくなる。綺麗だと言うならもっとちゃんと見ろ、と叱りつけるような気持ちで彼女の右手を取り、無理矢理目元から引き剥がした。
「あっ……わっ……」
「綺麗だって言うなら、ちゃんと僕を見ろ。説得力が無いだろ」
「で、でも、クジャ様。今、裸で……」
「それが何だ。言い訳にすらならないよ」
クジャはぐい、と強引にルカの顎を掴んで無理矢理目を合わせる。観念したルカが恐る恐る目を開けると、そこにはあの月を思わせる微笑があった。光の加減によって青くも白くも見える長い銀髪に包まれた端正だが、男だと分かる顔。冷たくもどこか寂しささえ湛えているような淡い青の瞳。こんなに近くで見つめると、その顔はやはりあの時、夢想した麗人の顔で、ルカは不覚にもまた頬が熱くなるのを感じた。
「……なに赤くなってるんだい? そんなに見ていたければ、手伝いなよ」
「え? 手伝う? ですか?」
「ほら」とクジャの手で何か差し出される。顎から手を放され、目線を彼の手元に落とすと、そこには泡でいっぱいの大きなスポンジが握られていた。
「……へ?」
「特別に僕の背中を流させてあげるよ。僕の美しさを保つ手伝いができるんだ。礼を言ってくれても構わないよ」
やはり、この男は意地が悪い。何か文句の一つでも言ってやろうと、ルカは顔を上げた。
「? 何だい?」
「――――な、んでもない、です……」
見上げた先にある整った顔立ちに、ルカは惚れた弱みにつけ込まれたような気がして、怒りが急速に萎え、代わりに『顔が良い』という事実を心中で噛み締めた。
浴槽の縁に腰掛け、こちらに背を向けるクジャ。ルカはまず、甲冑が濡れると手入れが面倒な為、手袋と一緒に脱いで濡れないよう洗面台に置いてからスポンジを取った。
「し、失礼します」
魔法で髪を纏め上げたクジャの背中と向き合い、ルカは緊張と気恥ずかしさから恐る恐るスポンジを彼の背中に付けた。その瞬間、「ちょっと!!」と鋭い声が飛んできて、彼女は慌ててスポンジを離す。
「まさか、スポンジで直接僕の背中を洗おうっていうのかいっ!?」
「へ? え、でも……」
「スポンジから泡を取って、キミの手で洗うんだよ! 常識だろう!?」
「は、はいっ……!」
まさか怒られるとは思っていなかったルカは、しゅんと肩を落としながらも、言われた通りにスポンジから泡を取って、彼の背中へ手を滑らせる。背中とはいえ、初めて触れる異性の体に若干、心臓の鼓動が速くなる。それを努めて意識しないようにしながら、彼女は丁寧に洗っていった。すべすべとしたクジャの背中は広く、それでいて殆ど無駄な脂肪が付いていない。体の線を柔らかくする為の最低限の脂肪は付いているが、案外と硬い感触にルカは密かに感心した。加えて、彼は背が高い。立っている状態ではルカの頭一つ分は高いので、洗うのにも全身を使わなければならなかった。
「腕もちゃんと洗うんだよ」
「はい」
腕の裏側にも泡を足し、滑らせる。ルカの丁寧な仕事にクジャは満足そうに目を閉じる。不意に彼女が掌を洗い始めた時、びくりと彼は驚き、目を開けた。クジャが彼女の方へ振り向くとばち、と二人の目が合う。普段は兜に隠れてよく見えない彼女の素顔を初めて見たクジャは、物珍し気な顔をした。
「……今朝から思っていたけれど、キミ、随分珍しい髪色をしているね」
「そう、ですか?」
「ああ。ここの兵士は皆揃いも揃って金髪だから、その色はよく目立つよ。どこの出身だい?」
今までそんなことを訊かれたことは無かったルカは虚をつかれ、言い淀む。自分の記憶が無いことは隊に入った時、ベアトリクスが気を利かせて説明してくれたが、果たして外部の人間に話して良いものか悩む。ルカが悩み、まごついていると、またクジャの冷たい声が飛んで来た。
「質問には答えなよ。失礼じゃないか」
「す、すみません。えっと……でも、私…………」
「もしかしてキミ、訳ありかい? 時々いるよ。どこの世界にもね。ああ、そうだ。訳ありと言えば、この前開催したオークションでね……」
『訳あり』という単語から何か連想したのか、そこからは全く別の話になってしまったので、ルカはそれ以上考えるのを止め、彼の話を聞きながらもう片方の腕に取り掛かった。
「まあまあだったよ」
「はあ……? ありがとうございます」
ついでにとルカがやったハンドマッサージが思いの外お気に召したのか、クジャにしては珍しく褒めたのだが、ルカにはあまり伝わっていないようだった。気の無い返事に彼は少しだけ彼女を睨む。
「なんだい、そのやる気の無い返事は。まぁ、いいよ。それと、あの気性の荒い女の手綱をしっかり握っておきなよ」
「へっ?」
一瞬何のことか分からなかったルカは、ありのままを表情に出す。そのぽけっとした顔に呆れたのか、毒気を抜かれたのか、クジャは仕方なさそうに重く深い溜息をこれ見よがしに吐いて見せた。その態度に自分はまた何か粗相をしてしまったのかと思い至ったルカは「すみません」と申し訳なさそうに頭を下げる。
「もう忘れてしまったのかい? ほら、キミをここに閉じ込めた原因のことだよ」
その一言で漸くカミラのことを指していると理解したルカは「あ、ああっ!」と頷き、次いでだいぶ遅れてだが、むっと頬を少々膨らませる。尊敬している先輩のことをそんな風に言われたら、誰でも同じような表情をするだろう。弁明をしようとルカは口を開く。
「先輩は、悪気があってあんなことをした訳では――」
「それで下の者が上の者にあんな口を利いてもいいと?」
「そ、れは……」
言い淀んでしまうルカにクジャは「もういいよ。ほら、早く出て行ってくれ」とだけ言い残し、また彼女に向かってしっしと手を振るのだった。
