第一章
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それからしばらくして、どこか不服そうなスタイナーを伴ってジタンが再び部屋に入って来た時、彼は何故か晴れ晴れとした顔をしていた。
「待たせたな、ビビ、ルカ。お姫様救出作戦開始だ!」
その言葉を聞くと、ルカとビビは喜びを露わにして互いに顔を見合わせ、それぞれジタンへ言葉を返す。
「良かった。気を付けてね!」
「ありがとう、ジタンさん! 早く行きましょう!」
「ああっと、行く前にルカもビビも。名前、呼び捨てにしてくれて良いぜ。『よぉ、ジタン!』って感じにな。それに、ビビも一緒に来てくれ」
「えっ……ボクが? ボクなんかが行っても、きっと何の役にも立たないよ!」
ジタンの頼みを聞いて突然自信を失くしてしまうビビに、スタイナーが励ましの言葉を掛ける。
「いや、森の魔物に対してビビ殿の黒魔法は有効であった! こんな半端者の盗賊より余程、頼りになるのである!」
「半端もんって……ま、いいか。責任を感じるなら、自ら行動する。それが男ってもんだろ。な? ルカ」
「へ? な、なんで私に訊くの……?」
「あれ? ルカは男らしいのは好きじゃない? だったら、どんなタイプが好きなのか教えてくれよ。オレ、頑張っちゃうからさ」
「なっ!? も、もうっ! ふざけてないで行くよっ!」
本気なのか、ふざけているのか分からないジタンの態度に怒りつつも、ルカは部屋を出て行く。そんな彼女に絡みながら、ジタンも後に続く。残されたスタイナーはビビに何事か話しかけ、ビビはそれを聞き入れると「やってみる」と頷いた。
二人が部屋から出てくるのを待ってルカ達はプリマビスタを出発しようと、外を目指す。そんな中、ルカは気まずそうにスタイナーに話しかけた。
「あ、あの、スタイナー隊長」
「む? どうしたのだ? ルカ」
「あの……すみませんでした。隊長を巻き込むつもりは無かったんですけど……」
それを聞くとスタイナーは足を止め、いつもの説教のように腕を組む。少し思案した後、彼は口を開いた。
「確かに、今回のことはルカ、お前にも責任がある。アレクサンドリアの一兵士として、姫様をお守りすることができなかったのは遺憾だ。だが、これで分かっただろう? 城の外ではお前はまだまだ未熟者だ!」
「おいおい、おっさん! そんな言い方ないだろ!? それを言ったら、おっさんだって同じじゃねぇか!」
「いいの、ジタン。私が未熟なのは、事実だから……」
しかし、そんな彼女にスタイナーは言葉を続けた。
「だが、それ故にこういった有事の際は全て一人で解決しようとするな! 我らはいがみ合ってはいるが、志を同じくしている同志! 頼るべきところは頼れ! それがお前に欠けている部分なのだぞっ!」
その言葉がガーネット姫を守れなかったという事実からくる焦りで、周りが見えていなかったルカの心にじんと染み渡った。同時に不安だった気持ちが解きほぐされ、涙となって彼女の目に滲む。突然、涙目になった彼女にスタイナーは慌てた。
「なっ!? 泣くなっ! 別にこれはお前を叱っている訳では……」
「だ、だいじょぶ、です……。スタイナー隊長の言ってること、ちゃんと分かりますから……」
ごしごしとブラウスの袖で涙を拭うルカと今度はその所作が気になったのか、「年頃の娘がそんな粗野な所作をするものではない!」と結局叱ることになってしまうスタイナー。それをきっかけにすぐまた言い返すルカ。そんな二人の様子を見守りながら、ジタンとビビはしみじみと呟いた。
「おっさんも部下には熱い男なのかと思ってたけど、ありゃあ口うるさい父親ってとこだな」
「そうなの? でも、ルカお姉ちゃん。元気になって良かったね」
「そうだな。――ってわけで、ほら、そろそろ行くぞ! お二人さん」
ジタンが間に入ったことでなんとかその場は治まったが、スタイナーとルカはいつものようにぷいっと互いに顔を背けるようになってしまった。そんな二人を気にしないようにして、ジタンは外へ通じる抜け穴へ先導する。
もう少しで外に出られるところまで来ると、そこにはブランクが待っていた。どうやら、ジタンだけに用があるらしく、ジタンはそれを察すると、ルカ達に「先に出ててくれ」と促して行かせた。ルカ達が外に出て行くと、彼はブランクへ向き直る。
「で、なんだよ。ブランク」
「こいつを渡しとこうと思ってな」
ブランクが差し出したのは、ビビとスタイナーに飲ませた薬だった。ここ魔の森には植物を模した魔物が多く生息しており、倒すと近くにいる生物へ自身の種子を産み付ける習性がある。発芽すると、獲物の養分を全て吸い取って復活してしまう上に生息域を拡大させる厄介なものだ。ブランクの用意した薬は少々時間はかかるが、その効果を打ち消し、体外に排出するものだ。それを分かってはいたが、敢えてジタンは長年の仲間らしく、おちゃらけてみせた。
「惚れ薬なんて必要ないって! これ以上、モテちゃったら、困るだろ」
「そんなんじゃねぇ! これはおっさん達にも飲ませた種を取り除く薬だ」
「なんだ。そうなら、早く言ってくれよ。ブランク」
「お前が最後まで他人の話を聞かないからだろうが!」
ブランクから薬を受け取ったジタンに、彼は尚も続ける。
「サンキューな! ブランク」
「それと、ボスから伝言だ。後で目を通しとけ」
そう言ってブランクは折り畳まれた紙切れを渡し、これで自分の仕事は終わったと言うように壁に背中を預ける。文面を見たジタンはゆらゆらと尻尾を揺らしながら頷き、「オッケー」と言ってそれを懐にしまい込む。そして、とてもタンタラスを脱退したとは思えない軽さで「後は頼むな」と言い残し、ジタンはルカ達の後を追った。
「二度とその面、俺に見せるな……」
「ムカつく」と言葉にはしていたが、呟かれた一言の響きはどこか寂しげでもあり、心配の色が隠せないでいた。
「待たせたな、みんな! 行こうぜ!」
「もういいの? ジタン」
「ああ、もう大丈夫。さ、早くガーネット姫を助けに行ってやらないとな!」
そう言って先頭を行くジタンにルカ達も続いて森の奥を目指し始めた。
アレクサンドリアからそれ程遠くない夜の街・トレノ。眠らない街と言われているここは別名貴族の街とも呼ばれ、街の間を流れる川の周辺は閑静で景観が良いという理由で貴族達が独占している。故に街の高所には平民・貧民が溢れ、どうしても埋まらない貧富の差に喘いでいる。そんな表裏激しい街だ。
そんな中、数ある貴族達の中でも一際目立つ資産と館を持つ貴族・キング家がクジャの隠れ蓑だった。アレクサンドリアの劇場への熱から逃れていた彼は、手早く明日に向けての手配を済ませ、今は窓辺に腰掛けてただ流れる川の音に聞き入っている。束の間の休息だ。窓の向こうは他の家々の灯りが漏れ、美しい夜景を作り出している。
「今夜は良い夜だね」
「……そのようですな」
独り言のように呟かれた彼の言葉に、返す相手がすぐ目の前に佇んでいた。丸眼鏡を掛けた背の高い男で、表向きはキング家が開催しているオークションを取り仕切っているオークショニアだ。しかし、その裏で彼だけがクジャの裏の仕事を手伝っていた。
不意にクジャは興味を無くしたように窓の向こうから男の方へ視線を戻し、淡々と告げる。
「ああ、そうだ。明日からここで働く子が来るよ。キミの同僚……になるんだけれど、無闇に触れるんじゃないぞ。素性を調べるのも禁止する」
「は、畏まりました」
男のシンプルな返事に気を良くしたのか、クジャは微笑みを浮かべて楽しげに付け加える。
「その代わり、指導は厳しくしても良いかもしれないねえ。なかなか生意気だから。フフフ」
「一つ、確認したいのですが、その者にもあちらの手伝いを?」
男の質問にクジャは少し思案した後、またあの嗜虐的な笑みを浮かべて言った。
「ふむ……それは良いかもしれない。僕としても、あの娘を共犯にするのはさぞ愉しいことだろうねえ」
「楽しいこと……ですか?」
「ああ、とても愉快なことだよ。全てを知った時、どんな顔をするのか。見物というものさ」
心底おかしそうにくすくすと悪意に満ちた笑いを溢すクジャに、男は何も言わなかった。
「待たせたな、ビビ、ルカ。お姫様救出作戦開始だ!」
その言葉を聞くと、ルカとビビは喜びを露わにして互いに顔を見合わせ、それぞれジタンへ言葉を返す。
「良かった。気を付けてね!」
「ありがとう、ジタンさん! 早く行きましょう!」
「ああっと、行く前にルカもビビも。名前、呼び捨てにしてくれて良いぜ。『よぉ、ジタン!』って感じにな。それに、ビビも一緒に来てくれ」
「えっ……ボクが? ボクなんかが行っても、きっと何の役にも立たないよ!」
ジタンの頼みを聞いて突然自信を失くしてしまうビビに、スタイナーが励ましの言葉を掛ける。
「いや、森の魔物に対してビビ殿の黒魔法は有効であった! こんな半端者の盗賊より余程、頼りになるのである!」
「半端もんって……ま、いいか。責任を感じるなら、自ら行動する。それが男ってもんだろ。な? ルカ」
「へ? な、なんで私に訊くの……?」
「あれ? ルカは男らしいのは好きじゃない? だったら、どんなタイプが好きなのか教えてくれよ。オレ、頑張っちゃうからさ」
「なっ!? も、もうっ! ふざけてないで行くよっ!」
本気なのか、ふざけているのか分からないジタンの態度に怒りつつも、ルカは部屋を出て行く。そんな彼女に絡みながら、ジタンも後に続く。残されたスタイナーはビビに何事か話しかけ、ビビはそれを聞き入れると「やってみる」と頷いた。
二人が部屋から出てくるのを待ってルカ達はプリマビスタを出発しようと、外を目指す。そんな中、ルカは気まずそうにスタイナーに話しかけた。
「あ、あの、スタイナー隊長」
「む? どうしたのだ? ルカ」
「あの……すみませんでした。隊長を巻き込むつもりは無かったんですけど……」
それを聞くとスタイナーは足を止め、いつもの説教のように腕を組む。少し思案した後、彼は口を開いた。
「確かに、今回のことはルカ、お前にも責任がある。アレクサンドリアの一兵士として、姫様をお守りすることができなかったのは遺憾だ。だが、これで分かっただろう? 城の外ではお前はまだまだ未熟者だ!」
「おいおい、おっさん! そんな言い方ないだろ!? それを言ったら、おっさんだって同じじゃねぇか!」
「いいの、ジタン。私が未熟なのは、事実だから……」
しかし、そんな彼女にスタイナーは言葉を続けた。
「だが、それ故にこういった有事の際は全て一人で解決しようとするな! 我らはいがみ合ってはいるが、志を同じくしている同志! 頼るべきところは頼れ! それがお前に欠けている部分なのだぞっ!」
その言葉がガーネット姫を守れなかったという事実からくる焦りで、周りが見えていなかったルカの心にじんと染み渡った。同時に不安だった気持ちが解きほぐされ、涙となって彼女の目に滲む。突然、涙目になった彼女にスタイナーは慌てた。
「なっ!? 泣くなっ! 別にこれはお前を叱っている訳では……」
「だ、だいじょぶ、です……。スタイナー隊長の言ってること、ちゃんと分かりますから……」
ごしごしとブラウスの袖で涙を拭うルカと今度はその所作が気になったのか、「年頃の娘がそんな粗野な所作をするものではない!」と結局叱ることになってしまうスタイナー。それをきっかけにすぐまた言い返すルカ。そんな二人の様子を見守りながら、ジタンとビビはしみじみと呟いた。
「おっさんも部下には熱い男なのかと思ってたけど、ありゃあ口うるさい父親ってとこだな」
「そうなの? でも、ルカお姉ちゃん。元気になって良かったね」
「そうだな。――ってわけで、ほら、そろそろ行くぞ! お二人さん」
ジタンが間に入ったことでなんとかその場は治まったが、スタイナーとルカはいつものようにぷいっと互いに顔を背けるようになってしまった。そんな二人を気にしないようにして、ジタンは外へ通じる抜け穴へ先導する。
もう少しで外に出られるところまで来ると、そこにはブランクが待っていた。どうやら、ジタンだけに用があるらしく、ジタンはそれを察すると、ルカ達に「先に出ててくれ」と促して行かせた。ルカ達が外に出て行くと、彼はブランクへ向き直る。
「で、なんだよ。ブランク」
「こいつを渡しとこうと思ってな」
ブランクが差し出したのは、ビビとスタイナーに飲ませた薬だった。ここ魔の森には植物を模した魔物が多く生息しており、倒すと近くにいる生物へ自身の種子を産み付ける習性がある。発芽すると、獲物の養分を全て吸い取って復活してしまう上に生息域を拡大させる厄介なものだ。ブランクの用意した薬は少々時間はかかるが、その効果を打ち消し、体外に排出するものだ。それを分かってはいたが、敢えてジタンは長年の仲間らしく、おちゃらけてみせた。
「惚れ薬なんて必要ないって! これ以上、モテちゃったら、困るだろ」
「そんなんじゃねぇ! これはおっさん達にも飲ませた種を取り除く薬だ」
「なんだ。そうなら、早く言ってくれよ。ブランク」
「お前が最後まで他人の話を聞かないからだろうが!」
ブランクから薬を受け取ったジタンに、彼は尚も続ける。
「サンキューな! ブランク」
「それと、ボスから伝言だ。後で目を通しとけ」
そう言ってブランクは折り畳まれた紙切れを渡し、これで自分の仕事は終わったと言うように壁に背中を預ける。文面を見たジタンはゆらゆらと尻尾を揺らしながら頷き、「オッケー」と言ってそれを懐にしまい込む。そして、とてもタンタラスを脱退したとは思えない軽さで「後は頼むな」と言い残し、ジタンはルカ達の後を追った。
「二度とその面、俺に見せるな……」
「ムカつく」と言葉にはしていたが、呟かれた一言の響きはどこか寂しげでもあり、心配の色が隠せないでいた。
「待たせたな、みんな! 行こうぜ!」
「もういいの? ジタン」
「ああ、もう大丈夫。さ、早くガーネット姫を助けに行ってやらないとな!」
そう言って先頭を行くジタンにルカ達も続いて森の奥を目指し始めた。
アレクサンドリアからそれ程遠くない夜の街・トレノ。眠らない街と言われているここは別名貴族の街とも呼ばれ、街の間を流れる川の周辺は閑静で景観が良いという理由で貴族達が独占している。故に街の高所には平民・貧民が溢れ、どうしても埋まらない貧富の差に喘いでいる。そんな表裏激しい街だ。
そんな中、数ある貴族達の中でも一際目立つ資産と館を持つ貴族・キング家がクジャの隠れ蓑だった。アレクサンドリアの劇場への熱から逃れていた彼は、手早く明日に向けての手配を済ませ、今は窓辺に腰掛けてただ流れる川の音に聞き入っている。束の間の休息だ。窓の向こうは他の家々の灯りが漏れ、美しい夜景を作り出している。
「今夜は良い夜だね」
「……そのようですな」
独り言のように呟かれた彼の言葉に、返す相手がすぐ目の前に佇んでいた。丸眼鏡を掛けた背の高い男で、表向きはキング家が開催しているオークションを取り仕切っているオークショニアだ。しかし、その裏で彼だけがクジャの裏の仕事を手伝っていた。
不意にクジャは興味を無くしたように窓の向こうから男の方へ視線を戻し、淡々と告げる。
「ああ、そうだ。明日からここで働く子が来るよ。キミの同僚……になるんだけれど、無闇に触れるんじゃないぞ。素性を調べるのも禁止する」
「は、畏まりました」
男のシンプルな返事に気を良くしたのか、クジャは微笑みを浮かべて楽しげに付け加える。
「その代わり、指導は厳しくしても良いかもしれないねえ。なかなか生意気だから。フフフ」
「一つ、確認したいのですが、その者にもあちらの手伝いを?」
男の質問にクジャは少し思案した後、またあの嗜虐的な笑みを浮かべて言った。
「ふむ……それは良いかもしれない。僕としても、あの娘を共犯にするのはさぞ愉しいことだろうねえ」
「楽しいこと……ですか?」
「ああ、とても愉快なことだよ。全てを知った時、どんな顔をするのか。見物というものさ」
心底おかしそうにくすくすと悪意に満ちた笑いを溢すクジャに、男は何も言わなかった。
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