第一章
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どうやらルカが落ちた先は小さな洞窟だったようで、湿気と霧で濡れた岩肌は差し込んでくる月光に照らされて、ぬらぬらと輝いている。悲鳴が上がったのは外からだ。ルカは未だ痛む背中に構わず、ゆっくりとしか歩けないが、洞窟の外へ向かった。
何とか洞窟の外へ出ると、森の木々に遮られ、僅かにしか降り注ぐことができない月光に照らされて、倒れている黒魔導師の少年とスタイナー、彼らを担ごうとしているジタンの姿があった。彼はルカの姿に気付くと、真っ先に駆け寄ってくる。ガーネット姫の姿は無い。
「大丈夫か!? ルカ!」
「だ、だい、丈夫……です……。あの、姫様は……?」
その言葉を聞いた途端、ジタンははっとした顔をして俯いた。その反応からルカは最悪の事態が起きたのではないかと青ざめる。
「もしかして……姫様は……」
「森のモンスターに連れて行かれてしまったんだ。――でも、大丈夫! 態勢を整えたらすぐに助けに……」
「私も……」
「え?」
痛みを押してルカはがしっとジタンの肩を掴む。必死の形相で彼女はジタンに訴えかけた。
「私も連れて行ってくださいっ!」
「お、おいおい、落ち着けよ。ルカも見たところ怪我してるみたいだし、まずは一度みんなと合流して体力を回復しないと、な? 大丈夫。ガーネット姫を助けに行く時は一緒だ」
「う……わ、たしも……」
その言葉を最後にルカの意識はまたしても失われ、気を失った彼女をジタンは咄嗟に支えた。両腕に脱力した少女の体の重みが加わり、彼は一度ルカを寝かせてから抱え直す。
「……焦ってんなぁ。ま、それも仕方ないか。――って、この人数、どうすんだぁ? オレ一人じゃ流石に運びきれないぜ」
「だと思って、来てやったぜ。ジタン」
声のする方を見ると、そこには仲間のブランクとマーカスがいた。ジタンが二人に気付くと、ブランクはシナと同じようなことを彼に言う。
「ったく、後先考えねぇからこういうことになるんだろ。勝手に一人で行っちまったり、劇場艇から飛び降りたり。よくもまぁ、やるもんだ」
「手伝いに来てくれたんなら、おっさんとそいつ、運んでやってくれよ」
両手が塞がっているジタンは二人にスタイナーと少年を顎でしゃくって示す。二人は呆れながらも彼に言われた通りにそれぞれ背負ったり、肩を貸したりして劇場艇へ戻って行く。ジタンはふと、腕に抱えているルカの顔を覗き込んだ。ガーネット姫と同じくフードを目深に被っているせいで今まで見えていなかったのだ。フードの奥を覗き込むと見えた彼女の顔は、ガーネット姫と比べるのは酷だが、それでも可愛らしい顔立ちをしていた。ちゃっかり美味しいポジションに就けたなと考えていると、不意に彼女の外套の前がずれ、首元のブローチが少しだけ顔を覗かせる。そのアメジストを思わせる石の色にジタンはどきりとした。彼に魔力は無いが、直感のようなものが働いたのだ。
「ち……ちょっと、ごめんよ。ルカ」
気絶している彼女に謝ってから、ジタンは柔らかな芝の上にそっと彼女を下ろし、そのブローチがよく見えるようにルカの外套をずらした。装飾や石自体に見覚えは無い。無いのだが、ジタンは何だかそのブローチが異様に気になった。何だかずっと見つめていると、胸の奥に不安のようなものが、胸騒ぎのようなものが込み上げてくる。ガーネット姫のことを「姫様」と呼んでいたところから、ジタンは彼女は姫の従者だろうと思っていたのだが、それにしては妙な物を持っているなと思った。
「ルカ……君は一体……?」
「おい、ジタン! 何やってんだ、置いてくぞ!」
「あ、ああ、悪ぃ! 今行く!」
なかなか来ないジタンに痺れを切らした様子のブランクに呼び掛けられて、我に返ったジタンは一先ず、今はブローチのことは考えないようにし、慌ててルカを抱き上げてブランク達の後を追った。
次にルカが目を覚ましたのは小さなベッドの上だった。大きくひびが入った天井が見え、意識を取り戻すと同時にガーネット姫のことを思い出し、起き上がろうとする。
「姫様っ……! あっ……くう……っ!?」
「お、起きたか――って、急に動かない方が良いぜ。お前、さっきまで歩くのがやっとだったんだからな」
声のする方を見ると、見覚えの無い男がいた。全身つぎはぎだらけの男だ。顔は上半分がヘアバンドのような物で見えず、ヘアバンドに押されて短い茶髪がツンツンと立っている。男はルカにそう声を掛けると、ベッド脇に来て彼女の顔色を見た。
「さっきポーションを使ったからだいぶ体力は戻ってると思うが、それでもまだ傷が完全に癒えたワケじゃない。もう少し休んどけ」
「ありがとうございます。あの、あなたは……?」
男はルカの疑問に答える形で簡単に自己紹介をした。ジタンより少しキザな印象だが、それは敢えてそういう風に振る舞っているように見えた。
「俺か。俺はブランク。今回の作戦では撹乱担当ってやつだな。ジタンからは一応聞いてるが、お前はモンスターの種を植え付けられた……訳じゃないな?」
「種……?」
「そっちのやつはモロに被っちまったらしくてな」
ブランクに顎で示され、隣を見ると、そこには規則正しい寝息を立てている黒魔導師の少年がいた。どうやら、団員のベッドを二つ並べているようだ。ルカが彼を認識すると同時にブランクが口を開く。
「寝る前に薬を飲ませたからもう体に植え付けられた種は死滅したと思うが、まだ体力が回復してないみたいだったから、休ませてる。だから、お前ももう少し寝てた方が良いぞ」
「でも、姫様が……」
不安げに俯くルカにブランクは言葉を掛ける。
「今焦って行動しても、またここに戻って来る羽目になると思うぜ。ガーネット姫のことなら、心配しなくてもうちのボスが策を考えてる。だから、そう心配するな」
「……」
ブランクがそう言っても、ルカはまだどこか不安げな顔をしていた。そんな彼女にこれ以上、何と声を掛けたらいいのか分からなかったブランクは「じゃあ、休んでろよ」とだけ言って部屋を出て行ってしまった。ドアを閉めた彼は先程のルカの様子を気にしながらも表情には出さないようにする。
「あの女兵士、妙なことを考えなきゃいいんだが……」
その呟きは誰に聞かれることもなく、宙に溶けていった。
ルカは上体だけを起こし、少年の方へ自身に掛けられている薄い毛布を掛けてやる。夜の森は冷える。毛布を剥がすと、湿気を伴う夜気にルカは思わずふるりと震えた。ブランクの言っていた通り、まだ体に痛みと痺れは少し残っているが、動けない程ではない。ベッドから降りようとした時、また部屋のドアが開かれ、今度はジタンが入って来た。
「調子はどうだ? ……って、ルカ!? まだ休んでろって言われてただろ!?」
「ジタンさん……でも、私行かなくちゃ……!」
そのまま駆け出そうとする彼女をジタンが何とか押し止め、その悶着で黒魔導師の少年が起き出してくる。二人が言い合っている姿を見て、少年が「ケンカはダメだよぉ!」と声を上げる。その声にびくっと驚いた二人は思わず少年の方を見た。
「いや、これは別にケンカしてた訳じゃ……」
「えっと、あなたは?」
「あ、ボクは……ビビ」
「ビビ、ごめんね。大きな声出しちゃって。でも、私早く姫様を助けに行かなくちゃいけないの」
「だから、それはもう少し待てって……」
「でも、こうしてる間にも姫様がどうなってるのか、分からないし、なるべく早く助けに行きたいの」
「分かってるよ、ルカ。だけど、ここで焦って行動して森の奥で動けなくなったらどうするんだ? それはガーネット姫を助けたとは言えないだろ」
「それは……そうだけど……」
「ガーネット姫はオレが助ける。その前に準備があるからもう少し辛抱してくれ」
「……分かった」
渋々とではあるが、納得してベッドに座り直したルカを見て、ジタンはビビへ目を向けて頷くと、部屋を出て行った。後に残されて俯くルカにビビが近づき、その顔を覗き込む。
「大丈夫?」
「う、うん。大丈夫だよ。ビビは? もう体は良いの?」
「うん。さっきブランクのお兄ちゃんがお薬飲ませてくれたから、大丈夫。変な味だったけど」
子供らしい言葉にルカは思わず笑みを零す。そんな彼女につられてビビもくすくすと笑った。
「ごめんね。あなたは何も関係ないのに、巻込んでしまって……」
「う、ううん! ボクもお芝居の邪魔しちゃったから……。お姫様、早く助かると良いね」
「うん。ありがとう、ビビ」
隣に座るビビの帽子をルカが優しくそっと撫でてやると、彼はくすぐったそうに目を細めた。
何とか洞窟の外へ出ると、森の木々に遮られ、僅かにしか降り注ぐことができない月光に照らされて、倒れている黒魔導師の少年とスタイナー、彼らを担ごうとしているジタンの姿があった。彼はルカの姿に気付くと、真っ先に駆け寄ってくる。ガーネット姫の姿は無い。
「大丈夫か!? ルカ!」
「だ、だい、丈夫……です……。あの、姫様は……?」
その言葉を聞いた途端、ジタンははっとした顔をして俯いた。その反応からルカは最悪の事態が起きたのではないかと青ざめる。
「もしかして……姫様は……」
「森のモンスターに連れて行かれてしまったんだ。――でも、大丈夫! 態勢を整えたらすぐに助けに……」
「私も……」
「え?」
痛みを押してルカはがしっとジタンの肩を掴む。必死の形相で彼女はジタンに訴えかけた。
「私も連れて行ってくださいっ!」
「お、おいおい、落ち着けよ。ルカも見たところ怪我してるみたいだし、まずは一度みんなと合流して体力を回復しないと、な? 大丈夫。ガーネット姫を助けに行く時は一緒だ」
「う……わ、たしも……」
その言葉を最後にルカの意識はまたしても失われ、気を失った彼女をジタンは咄嗟に支えた。両腕に脱力した少女の体の重みが加わり、彼は一度ルカを寝かせてから抱え直す。
「……焦ってんなぁ。ま、それも仕方ないか。――って、この人数、どうすんだぁ? オレ一人じゃ流石に運びきれないぜ」
「だと思って、来てやったぜ。ジタン」
声のする方を見ると、そこには仲間のブランクとマーカスがいた。ジタンが二人に気付くと、ブランクはシナと同じようなことを彼に言う。
「ったく、後先考えねぇからこういうことになるんだろ。勝手に一人で行っちまったり、劇場艇から飛び降りたり。よくもまぁ、やるもんだ」
「手伝いに来てくれたんなら、おっさんとそいつ、運んでやってくれよ」
両手が塞がっているジタンは二人にスタイナーと少年を顎でしゃくって示す。二人は呆れながらも彼に言われた通りにそれぞれ背負ったり、肩を貸したりして劇場艇へ戻って行く。ジタンはふと、腕に抱えているルカの顔を覗き込んだ。ガーネット姫と同じくフードを目深に被っているせいで今まで見えていなかったのだ。フードの奥を覗き込むと見えた彼女の顔は、ガーネット姫と比べるのは酷だが、それでも可愛らしい顔立ちをしていた。ちゃっかり美味しいポジションに就けたなと考えていると、不意に彼女の外套の前がずれ、首元のブローチが少しだけ顔を覗かせる。そのアメジストを思わせる石の色にジタンはどきりとした。彼に魔力は無いが、直感のようなものが働いたのだ。
「ち……ちょっと、ごめんよ。ルカ」
気絶している彼女に謝ってから、ジタンは柔らかな芝の上にそっと彼女を下ろし、そのブローチがよく見えるようにルカの外套をずらした。装飾や石自体に見覚えは無い。無いのだが、ジタンは何だかそのブローチが異様に気になった。何だかずっと見つめていると、胸の奥に不安のようなものが、胸騒ぎのようなものが込み上げてくる。ガーネット姫のことを「姫様」と呼んでいたところから、ジタンは彼女は姫の従者だろうと思っていたのだが、それにしては妙な物を持っているなと思った。
「ルカ……君は一体……?」
「おい、ジタン! 何やってんだ、置いてくぞ!」
「あ、ああ、悪ぃ! 今行く!」
なかなか来ないジタンに痺れを切らした様子のブランクに呼び掛けられて、我に返ったジタンは一先ず、今はブローチのことは考えないようにし、慌ててルカを抱き上げてブランク達の後を追った。
次にルカが目を覚ましたのは小さなベッドの上だった。大きくひびが入った天井が見え、意識を取り戻すと同時にガーネット姫のことを思い出し、起き上がろうとする。
「姫様っ……! あっ……くう……っ!?」
「お、起きたか――って、急に動かない方が良いぜ。お前、さっきまで歩くのがやっとだったんだからな」
声のする方を見ると、見覚えの無い男がいた。全身つぎはぎだらけの男だ。顔は上半分がヘアバンドのような物で見えず、ヘアバンドに押されて短い茶髪がツンツンと立っている。男はルカにそう声を掛けると、ベッド脇に来て彼女の顔色を見た。
「さっきポーションを使ったからだいぶ体力は戻ってると思うが、それでもまだ傷が完全に癒えたワケじゃない。もう少し休んどけ」
「ありがとうございます。あの、あなたは……?」
男はルカの疑問に答える形で簡単に自己紹介をした。ジタンより少しキザな印象だが、それは敢えてそういう風に振る舞っているように見えた。
「俺か。俺はブランク。今回の作戦では撹乱担当ってやつだな。ジタンからは一応聞いてるが、お前はモンスターの種を植え付けられた……訳じゃないな?」
「種……?」
「そっちのやつはモロに被っちまったらしくてな」
ブランクに顎で示され、隣を見ると、そこには規則正しい寝息を立てている黒魔導師の少年がいた。どうやら、団員のベッドを二つ並べているようだ。ルカが彼を認識すると同時にブランクが口を開く。
「寝る前に薬を飲ませたからもう体に植え付けられた種は死滅したと思うが、まだ体力が回復してないみたいだったから、休ませてる。だから、お前ももう少し寝てた方が良いぞ」
「でも、姫様が……」
不安げに俯くルカにブランクは言葉を掛ける。
「今焦って行動しても、またここに戻って来る羽目になると思うぜ。ガーネット姫のことなら、心配しなくてもうちのボスが策を考えてる。だから、そう心配するな」
「……」
ブランクがそう言っても、ルカはまだどこか不安げな顔をしていた。そんな彼女にこれ以上、何と声を掛けたらいいのか分からなかったブランクは「じゃあ、休んでろよ」とだけ言って部屋を出て行ってしまった。ドアを閉めた彼は先程のルカの様子を気にしながらも表情には出さないようにする。
「あの女兵士、妙なことを考えなきゃいいんだが……」
その呟きは誰に聞かれることもなく、宙に溶けていった。
ルカは上体だけを起こし、少年の方へ自身に掛けられている薄い毛布を掛けてやる。夜の森は冷える。毛布を剥がすと、湿気を伴う夜気にルカは思わずふるりと震えた。ブランクの言っていた通り、まだ体に痛みと痺れは少し残っているが、動けない程ではない。ベッドから降りようとした時、また部屋のドアが開かれ、今度はジタンが入って来た。
「調子はどうだ? ……って、ルカ!? まだ休んでろって言われてただろ!?」
「ジタンさん……でも、私行かなくちゃ……!」
そのまま駆け出そうとする彼女をジタンが何とか押し止め、その悶着で黒魔導師の少年が起き出してくる。二人が言い合っている姿を見て、少年が「ケンカはダメだよぉ!」と声を上げる。その声にびくっと驚いた二人は思わず少年の方を見た。
「いや、これは別にケンカしてた訳じゃ……」
「えっと、あなたは?」
「あ、ボクは……ビビ」
「ビビ、ごめんね。大きな声出しちゃって。でも、私早く姫様を助けに行かなくちゃいけないの」
「だから、それはもう少し待てって……」
「でも、こうしてる間にも姫様がどうなってるのか、分からないし、なるべく早く助けに行きたいの」
「分かってるよ、ルカ。だけど、ここで焦って行動して森の奥で動けなくなったらどうするんだ? それはガーネット姫を助けたとは言えないだろ」
「それは……そうだけど……」
「ガーネット姫はオレが助ける。その前に準備があるからもう少し辛抱してくれ」
「……分かった」
渋々とではあるが、納得してベッドに座り直したルカを見て、ジタンはビビへ目を向けて頷くと、部屋を出て行った。後に残されて俯くルカにビビが近づき、その顔を覗き込む。
「大丈夫?」
「う、うん。大丈夫だよ。ビビは? もう体は良いの?」
「うん。さっきブランクのお兄ちゃんがお薬飲ませてくれたから、大丈夫。変な味だったけど」
子供らしい言葉にルカは思わず笑みを零す。そんな彼女につられてビビもくすくすと笑った。
「ごめんね。あなたは何も関係ないのに、巻込んでしまって……」
「う、ううん! ボクもお芝居の邪魔しちゃったから……。お姫様、早く助かると良いね」
「うん。ありがとう、ビビ」
隣に座るビビの帽子をルカが優しくそっと撫でてやると、彼はくすぐったそうに目を細めた。
