第一章
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もらったお菓子を食べ終わり、店を出たルカは外出着を買おうと大通りへ出た。確か広場の方に防具屋があったなと思い出しながら、歩いて行く。腕の中の紙袋から微かに薫る紅茶の香りにルカは少しだけ上機嫌になりつつも、広場に足を踏み入れると、迷わず防具屋のドアを開けた。
「すいませぇん」
「はいはい、いらっしゃい……ってルカちゃんじゃないか。どうしたんだい? うちに来るなんて珍しいね」
「こんにちは。こちらに弓術士の服って置いてますか?」
「弓術士? う~ん……うちには無いなぁ」
防具屋の主人にそう返され、予想はしていたが、これは少し骨が折れそうだとルカが残念そうに「そうですよね」と返すと、防具屋の主人は思い出したように言った。
「あ、でも、あそこにならあるかもしれないよ。ちょっと分かりにくい路地に入ったところにあるんだけど」
「お店、なんですか?」
「うん。うちの親父の知り合いの店でね。ちょっと気難しい人だから、なかなか紹介できないんだけど。その代わりに扱ってる革製品は良い物が多いんだ。ルカちゃんに売ってくれるかは俺にも分からないけど、どうする?」
「じゃあ、お願いします」
「分かった。じゃあ、ここからの行き方だけどね――」
それから口頭でその店までの道順を教えてもらったルカは、防具屋の主人に礼を言って店を出た。教えてもらった通りの道を歩いて行く。城から真っ直ぐ通る大通りを中ほど行ったところで左に曲がり、薄暗い路地に入る。普段、あまり行かない街並みへ入るのは少し勇気がいることだったが、彼女の警戒心とは裏腹に何事も無く、目的の店の前へと着いた。
その店の外観は他の民家と同じような造りで、店先に服屋の小さな看板がぽつんと掛かっているだけだ。周囲の家々に比べて明らかに目立とうとしていないところから、あまり大っぴらに商売をする気は無いのだろうことは窺える。この店構えから防具屋の主人が言っていた通り、何とも取っつきにくそうな雰囲気がある。しかし、ルカは内心で「あのクジャ様に仕えてるんだから、ちょっとやそっとのことでは気圧されない」と彼に対してなかなかに失礼なことを考えていたせいか、気後れしたのは少しの間ですぐに店のドアを開けた。
中は武器屋や防具屋と同じような造りだが、並べてある物はごく少数だった。空色なのに、どこか素っ気ない印象の壁には最低限の棚しか並んでおらず、その棚の中も革細工や見本の服がいくつか、無造作に飾ってあるだけだ。見た目の美しさは重視されているのか、それだけでも気品に溢れた雰囲気があるが、かといって積極的に人を寄せ付けるものは感じない。見たければ、勝手にどうぞといった印象をルカは受けた。
ドアを開けた時の音で気付くかと思い、少し待っていた彼女だったが、なかなか店の者が現れないので、ルカはカウンターに近付く。カウンターに人がいない場合、店によっては呼び出し用のベルが置いてあることがあるからだ。
しかし、カウンターにもそういった物は一切無く、仕方なくルカは奥へ少々身を乗り出しつつ、呼びかけてみた。
「すみませぇん!」
一度声をかけて様子を見ていたルカだったが、一向に誰かが来るような気配が無いので、二、三度呼びかけると、ようやく奥から誰かがやって来た。若い女性だ。顎までの短い金髪で右目を隠し、大振りの赤い石が嵌ったピアスが似合っている。店のエプロンを着けてはいるが、にこりともしない彼女はカウンターまで来ると、ルカを品定めするかのように頭のてっぺんからつま先までじっと見つめ、「いらっしゃいませ」とだけ呟くように言った。顔が整っているだけに、それだけでも少し迫力がある。
「あ、あの、大通りの防具屋さんからこちらのお店を紹介された者なんですけど……」
弓術士の服を売って欲しい旨を伝えると、女性は話を聞いているのかいないのか、よく分からない。何しろずっと無表情で黙っているからなのだが、不意に彼女は口を開いた。
「あんた、弓使うんだ? お城の兵士でしょ?」
「え? は、はい。そうですけど……」
「……私さ、どうせ売るんなら、ちゃんと使ってくれる人に売りたいんだよね。よくいるじゃない? 『革装備は弱いからやめた』とか言うやつ。私、ああいう奴大っ嫌いなんだけど、分かる?」
「え? えっと、あの……」
「だからさ、そこでちょっと弓構えてみてよ」
そう言って背後の壁に飾ってあった弓を渡されたルカは、戸惑いっぱなしでしばらくその場に突っ立っていた。何がどういう訳でこうなったのかは全く分からない。が、辛うじて目の前にいる女性がルカの何かを見極めようとしていることは理解し、おずおずとだが、彼女はカウンターから離れて渡された弓を構えた。矢をつがえてはいなかったが、いつもの癖で真剣な表情をするルカを女性はしばらくじっと観察していたが、不意に「もういいよ」と言われ、ルカは弓を返した。
「うん。あんたになら、売っても良いかな。物を大事にする性格みたいだし」
「へ? え、どうして分かったんですか?」
「あんたの身に付けてる物……特に鎧は手入れが行き届いてるし、履いてる靴もかなり年季が入ってる。弓の構え方も基本はできてるし……まぁ、及第点ってとこかな。変に高そうなブローチとか付けてるのは意味分かんないけど」
「じゃあ、売って頂けるんですか?」
「うん、いいよ」
「やったぁ! ありがとうございます!」
素直に喜ぶルカを見て、女性は思わずといった感じに噴き出した。くすくすと笑う女性の姿に、少し子供っぽかったかとルカが恥ずかしそうに俯くと、彼女はおかしそうに笑んで言った。
「あんた、噂通りの子なんだね」
「う、噂……ですか?」
「うん。大通りの方では結構有名だよ、あんた。城の兵士なのに全然偉ぶらない、礼儀正しくて真面目な良い子ちゃんだって」
「ね、ルカちゃん」と囁かれた名前にルカは驚き、何故か頬が熱くなった。体の反応に彼女が戸惑っていると、女性は「で、何が欲しいの?」と何事も無かったかのように店員としての仕事を開始した。
その切り替えの速さにぽかんと口を開けていたルカだったが、すぐに気を取り直してあらかじめ思い浮かべていた物を言う。
「あの……じゃあ、動きやすくて丈夫な服と胸当て。それから隠密用のコートをください」
「はぁい、ただいま」
そう言って女性は左手をひらひらと挙げて、奥の工房へ引っ込んでいった。その薬指には結婚指輪が鈍く光っていた。
しばらくして、女性は何着かの服と深緑色のフード付きコートを持って来た。それら全てをカウンターに並べていく。
「サイズごとに持って来たから、どれが良いのか試してみてよ」
「はい、ありがとうございます」
そうしてルカは一着ずつ試着していき、念入りにサイズ感や動きやすさを確かめていく。動きやすさはもちろん、デザインもさり気なく凝っていて、シンプルな物が多く、ルカは一目で気に入った。白く、襟に可愛らしいフリルが付いたブラウスに革の胸当て、体のラインにぴったりと合う革のパンツ。その上から深緑色のコートを着ると、すっかり旅の弓術士という出で立ちになった。コートのフードを被れば、顔も口元くらいしか見えなくなる。有事の際、顔を見られたくない場合には大いに役に立つだろう。クジャからもらったブローチはどこに付けようかと思案しているルカに、女性がある提案をした。
「こういう金具を付けてネックレスにしてみたら?」
それはブローチの針の部分を覆って、紐が通せるようになっている形状をしたネックレス用の金具だった。これに針を通して留めてしまえば、そうそう外れなさそうだ。「あげる」と言う女性にルカは「えっ!?」と頓狂な声を上げた。
「良いんですか?」
「良いって、良いって。それ、趣味みたいなもんだし。私からのサービスってことで」
「その代わり、その服大事にしてくれればいいから」と言う女性に、ルカはその言葉に従うことにした。
「すいませぇん」
「はいはい、いらっしゃい……ってルカちゃんじゃないか。どうしたんだい? うちに来るなんて珍しいね」
「こんにちは。こちらに弓術士の服って置いてますか?」
「弓術士? う~ん……うちには無いなぁ」
防具屋の主人にそう返され、予想はしていたが、これは少し骨が折れそうだとルカが残念そうに「そうですよね」と返すと、防具屋の主人は思い出したように言った。
「あ、でも、あそこにならあるかもしれないよ。ちょっと分かりにくい路地に入ったところにあるんだけど」
「お店、なんですか?」
「うん。うちの親父の知り合いの店でね。ちょっと気難しい人だから、なかなか紹介できないんだけど。その代わりに扱ってる革製品は良い物が多いんだ。ルカちゃんに売ってくれるかは俺にも分からないけど、どうする?」
「じゃあ、お願いします」
「分かった。じゃあ、ここからの行き方だけどね――」
それから口頭でその店までの道順を教えてもらったルカは、防具屋の主人に礼を言って店を出た。教えてもらった通りの道を歩いて行く。城から真っ直ぐ通る大通りを中ほど行ったところで左に曲がり、薄暗い路地に入る。普段、あまり行かない街並みへ入るのは少し勇気がいることだったが、彼女の警戒心とは裏腹に何事も無く、目的の店の前へと着いた。
その店の外観は他の民家と同じような造りで、店先に服屋の小さな看板がぽつんと掛かっているだけだ。周囲の家々に比べて明らかに目立とうとしていないところから、あまり大っぴらに商売をする気は無いのだろうことは窺える。この店構えから防具屋の主人が言っていた通り、何とも取っつきにくそうな雰囲気がある。しかし、ルカは内心で「あのクジャ様に仕えてるんだから、ちょっとやそっとのことでは気圧されない」と彼に対してなかなかに失礼なことを考えていたせいか、気後れしたのは少しの間ですぐに店のドアを開けた。
中は武器屋や防具屋と同じような造りだが、並べてある物はごく少数だった。空色なのに、どこか素っ気ない印象の壁には最低限の棚しか並んでおらず、その棚の中も革細工や見本の服がいくつか、無造作に飾ってあるだけだ。見た目の美しさは重視されているのか、それだけでも気品に溢れた雰囲気があるが、かといって積極的に人を寄せ付けるものは感じない。見たければ、勝手にどうぞといった印象をルカは受けた。
ドアを開けた時の音で気付くかと思い、少し待っていた彼女だったが、なかなか店の者が現れないので、ルカはカウンターに近付く。カウンターに人がいない場合、店によっては呼び出し用のベルが置いてあることがあるからだ。
しかし、カウンターにもそういった物は一切無く、仕方なくルカは奥へ少々身を乗り出しつつ、呼びかけてみた。
「すみませぇん!」
一度声をかけて様子を見ていたルカだったが、一向に誰かが来るような気配が無いので、二、三度呼びかけると、ようやく奥から誰かがやって来た。若い女性だ。顎までの短い金髪で右目を隠し、大振りの赤い石が嵌ったピアスが似合っている。店のエプロンを着けてはいるが、にこりともしない彼女はカウンターまで来ると、ルカを品定めするかのように頭のてっぺんからつま先までじっと見つめ、「いらっしゃいませ」とだけ呟くように言った。顔が整っているだけに、それだけでも少し迫力がある。
「あ、あの、大通りの防具屋さんからこちらのお店を紹介された者なんですけど……」
弓術士の服を売って欲しい旨を伝えると、女性は話を聞いているのかいないのか、よく分からない。何しろずっと無表情で黙っているからなのだが、不意に彼女は口を開いた。
「あんた、弓使うんだ? お城の兵士でしょ?」
「え? は、はい。そうですけど……」
「……私さ、どうせ売るんなら、ちゃんと使ってくれる人に売りたいんだよね。よくいるじゃない? 『革装備は弱いからやめた』とか言うやつ。私、ああいう奴大っ嫌いなんだけど、分かる?」
「え? えっと、あの……」
「だからさ、そこでちょっと弓構えてみてよ」
そう言って背後の壁に飾ってあった弓を渡されたルカは、戸惑いっぱなしでしばらくその場に突っ立っていた。何がどういう訳でこうなったのかは全く分からない。が、辛うじて目の前にいる女性がルカの何かを見極めようとしていることは理解し、おずおずとだが、彼女はカウンターから離れて渡された弓を構えた。矢をつがえてはいなかったが、いつもの癖で真剣な表情をするルカを女性はしばらくじっと観察していたが、不意に「もういいよ」と言われ、ルカは弓を返した。
「うん。あんたになら、売っても良いかな。物を大事にする性格みたいだし」
「へ? え、どうして分かったんですか?」
「あんたの身に付けてる物……特に鎧は手入れが行き届いてるし、履いてる靴もかなり年季が入ってる。弓の構え方も基本はできてるし……まぁ、及第点ってとこかな。変に高そうなブローチとか付けてるのは意味分かんないけど」
「じゃあ、売って頂けるんですか?」
「うん、いいよ」
「やったぁ! ありがとうございます!」
素直に喜ぶルカを見て、女性は思わずといった感じに噴き出した。くすくすと笑う女性の姿に、少し子供っぽかったかとルカが恥ずかしそうに俯くと、彼女はおかしそうに笑んで言った。
「あんた、噂通りの子なんだね」
「う、噂……ですか?」
「うん。大通りの方では結構有名だよ、あんた。城の兵士なのに全然偉ぶらない、礼儀正しくて真面目な良い子ちゃんだって」
「ね、ルカちゃん」と囁かれた名前にルカは驚き、何故か頬が熱くなった。体の反応に彼女が戸惑っていると、女性は「で、何が欲しいの?」と何事も無かったかのように店員としての仕事を開始した。
その切り替えの速さにぽかんと口を開けていたルカだったが、すぐに気を取り直してあらかじめ思い浮かべていた物を言う。
「あの……じゃあ、動きやすくて丈夫な服と胸当て。それから隠密用のコートをください」
「はぁい、ただいま」
そう言って女性は左手をひらひらと挙げて、奥の工房へ引っ込んでいった。その薬指には結婚指輪が鈍く光っていた。
しばらくして、女性は何着かの服と深緑色のフード付きコートを持って来た。それら全てをカウンターに並べていく。
「サイズごとに持って来たから、どれが良いのか試してみてよ」
「はい、ありがとうございます」
そうしてルカは一着ずつ試着していき、念入りにサイズ感や動きやすさを確かめていく。動きやすさはもちろん、デザインもさり気なく凝っていて、シンプルな物が多く、ルカは一目で気に入った。白く、襟に可愛らしいフリルが付いたブラウスに革の胸当て、体のラインにぴったりと合う革のパンツ。その上から深緑色のコートを着ると、すっかり旅の弓術士という出で立ちになった。コートのフードを被れば、顔も口元くらいしか見えなくなる。有事の際、顔を見られたくない場合には大いに役に立つだろう。クジャからもらったブローチはどこに付けようかと思案しているルカに、女性がある提案をした。
「こういう金具を付けてネックレスにしてみたら?」
それはブローチの針の部分を覆って、紐が通せるようになっている形状をしたネックレス用の金具だった。これに針を通して留めてしまえば、そうそう外れなさそうだ。「あげる」と言う女性にルカは「えっ!?」と頓狂な声を上げた。
「良いんですか?」
「良いって、良いって。それ、趣味みたいなもんだし。私からのサービスってことで」
「その代わり、その服大事にしてくれればいいから」と言う女性に、ルカはその言葉に従うことにした。
