第一章
夢小説設定
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「今すぐ答えを聞くつもりはありません。わたくしの誕生日前日まで待ちます。ルカ、どうかよく考えてみてくださいね」
そう言われてルカはクッキーも勧められるが、もうそれどころではない。彼女の様子を察してか、ガーネット姫は部屋を出るよう促す。未だ呆然としながらもルカは素直に従った。退室する間際、不安げにガーネット姫へ向き直り、いつになく俯いてしまう。
「あの、姫様。私……」
「今は何も言わずとも大丈夫です。……ただ、少し狡いことを言ってしまうと、ルカ。わたくしはあなたを同い年の友人だと思ってお話ししました。これは姫と兵士としてではなく、友人同士のお願いだと思ってくださいね」
「いえ、そんな……友人だなんて、恐れ多いです。私はただの一兵士で――」
そこまで言って、ルカははっとした。同時にどきりと心臓が高鳴った。何を悩む必要があるんだ、と兵士としての意識が頭をもたげ、彼女は突然頭を殴られたような心地がした。主の願いを叶えるかどうか迷うなんて、従者としてしてはいけないことをしてしまったのではないだろうか。如何なる時でも従者が主に融通してもらうなど、言語道断だと普段からスタイナーにもベアトリクスにも言われていたことではないか。
そこまで考えが至ったルカは慌てて顔を上げ、勢い込んで答えた。
「いえ、姫様。私は間違っていました。姫様を護衛する重大任務、私で良ければお引き受けいたします」
その言葉を聞いたガーネット姫は、一瞬何か言いたげな表情をしたが、それもすぐに薄い微笑みの中に消えていく。言葉とは裏腹にどこか不安そうなルカの顔を見つめていた彼女は、それ以上追求することはなかった。代わりに意を決したように頷き、「では、よろしくお願いしますね。ルカ」ともう一度、席に着くよう促す。
「わたくし達の秘密ができた証として、誓いのお茶会をいたしましょう」
「誓いのお茶会ですか? ふふ、なんだか楽しそう!」
自分の道を決めてしまうと、なんだか安心したルカは再び席に着いてティーカップをそっと持ち上げて口を付けた。温くなってしまったが、その味は優しく、これから先の未来が少しだけ良いものに思えた。
ガーネット姫との誓いのお茶会を終えたルカは、急いでクジャの許へ帰ると、遅れたことを謝った。いつもならそこで嫌味の一つでももらうところなのだが、今日の彼は少し様子が違った。
遅れてきた彼女を責めるでもなく、クジャはもっと近くに来いと手招きする。
「何でしょうか?」
「――以前から僕は思っていたんだけどねえ、キミには本当に洒落っ気というものが無いね」
「なっ!? なんですか急に!」
「だから……これをキミに進呈しよう。有り難く受け取ると良いよ」
相変わらず、失礼な物言いをするクジャにむっとするルカだったが、デスクの上に置かれた小さな箱と細長い紙袋に視線を奪われる。一つは真四角の藍色の箱、もう一つは赤いストライプ模様の紙袋だ。金色のシールと緑色のリボンが付いている。
「クジャ様、これは……?」
「言っただろう? 女性なのに洒落っ気というものが全く無いキミに進呈するって」
「そ、れはちょっと余計ですっ!」
「何か言ったかい?」
「いえ、別に……。開けてみてもいいですか?」
「ああ、いいよ」
期待半分、不安半分という表情でまずは紙袋を持ち上げ、丁寧にシールを剥がして中身を取り出した。現れた物にルカは喜色満面になった。
「わぁ、可愛いリボン! ……でも、なんで二本あるんですか?」
中に入っていたのは黄色のリボンだった。髪飾りに丁度良さそうな長さでそれが何故か二本入っている。ルカはクジャに訊いてしまってから、もしかしたら一本は予備なのかもしれないと思ったが、そうではなかった。クジャはわざとらしく溜息を吐いてみせてから、自分に貸すように手を差し出す。
「ほら、貸してごらんよ」
「え? はい」
言われた通りにクジャへリボンを渡すと、彼は立ち上がってデスク越しにルカを抱きすくめるような形で彼女の髪にリボンを付けてやる。思ったよりクジャと近くなり、ふわりと彼が付けている香水の香りがして、ルカはどきりと胸が高鳴った。当のクジャはそんな彼女の様子に気付かず、左右に一本ずつ結んでやり、最後に左右差が無いか確認すると薄く微笑んだ。
「思った通り、騒がしいキミにぴったりの色だね」
「さ、騒がしいって……もうっ!」
「ククク……さぁ、もう一つも開けてごらんよ。おしゃれに関してはずぶの素人さん」
「言われなくても開けますっ!」
ぷりぷりと怒りながらルカはもう一つの箱を持ち上げ、包装紙を丁寧に剥がして開けてみた。箱の中にはブローチが入っていた。紫色のすべすべした石が填まっており、石の中は霞がかかったように見えるインクルージョンがあり、角度によって色の濃さが変わるようだ。
「きれい……」
「お気に召したようで何より。それはちょっと特殊なブローチでね。正直、キミの手には余る物さ。僕に感謝することだね」
「ありがとうございます。でも、どうしていきなりこんな高価そうな物を?」
ルカがそう言うとクジャはぴたりと静止し、今度は何故か彼がむっとする番になった。
「別に何でもいいじゃないか。さっさと付けてみたらどうだい?」
「え? は、はい」
どこに付けようかと迷っている彼女にクジャは痺れを切らしたように「ああもう、貸してごらん」と殆ど奪い取るようにして彼女からブローチを取り上げると、右胸近くのレオタード生地に針を通した。
「こういうのは、本当はタイとかスカーフの上から付けたり、シャツがあればそっちに付けたりするんだけどねえ。……全く、この服は改善の余地しかないみたいだね」
「ほら、完成だよ」という一言と共にクジャが身を引くと、ルカは自分の右胸に付けられたブローチを戸惑いつつも嬉しそうに見つめる。
「あ、ありがとうございます」
「ふむ……悪くないね。それだけ付けてれば、キミの位置がすぐに分かる」
「え? 私の位置、ですか?」
どういうことかとルカが目で問うと、クジャはいつもの癖でつんとそっぽを向いて言った。彼がそういう風にそっぽを向いて何か言う時は、照れ隠しをする時だ。
「今朝、初めてキミが訓練しているところを見たけど、あの集団の中じゃ、誰が誰だか分からないからね。僕が秘書であるキミの位置を把握できてないなんて屈辱だから、それだけ目印を付けてやったんだよ。ふん、精々過ごしにくい日常生活を送るんだね。……絶対外すんじゃないぞ」
その理由ははっきり言ってルカにはよく分からないものだったが、クジャが自分のために用意してくれた物と思い、もう戸惑いは無く、嬉しさだけが込み上げてくる。
「えへへ。ありがとうございます。大切にしますね」
そう笑顔で返すと、いつものようにクジャは慌てて弁明のようなことを言う。
「別にキミの為に贈ったんじゃないからね。僕が困るからやったんだ」
「ふふ。分かってますよぉ」
「何だい、その緩みきった顔は。……やっぱり返せ」
「ええ!? 嫌です! それに一度、贈った物を返すなんて失礼じゃないですかっ!」
「うるさい。返せって言ったら、返せ」
「嫌ですってば!」
ブローチとリボンを守るようにして部屋の中を逃げ回るルカとそんな彼女を大股で追いかけるクジャ。出会ったばかりの頃の彼なら、魔法で何とかしてしまっただろうが、今はそんな気配も無く、ルカの戯れに付き合ってやっている。その姿は、あの冷酷な彼とは似ても似つかない。
ルカは内心、彼にはもう自分は必要無いなと感じていた。
そう言われてルカはクッキーも勧められるが、もうそれどころではない。彼女の様子を察してか、ガーネット姫は部屋を出るよう促す。未だ呆然としながらもルカは素直に従った。退室する間際、不安げにガーネット姫へ向き直り、いつになく俯いてしまう。
「あの、姫様。私……」
「今は何も言わずとも大丈夫です。……ただ、少し狡いことを言ってしまうと、ルカ。わたくしはあなたを同い年の友人だと思ってお話ししました。これは姫と兵士としてではなく、友人同士のお願いだと思ってくださいね」
「いえ、そんな……友人だなんて、恐れ多いです。私はただの一兵士で――」
そこまで言って、ルカははっとした。同時にどきりと心臓が高鳴った。何を悩む必要があるんだ、と兵士としての意識が頭をもたげ、彼女は突然頭を殴られたような心地がした。主の願いを叶えるかどうか迷うなんて、従者としてしてはいけないことをしてしまったのではないだろうか。如何なる時でも従者が主に融通してもらうなど、言語道断だと普段からスタイナーにもベアトリクスにも言われていたことではないか。
そこまで考えが至ったルカは慌てて顔を上げ、勢い込んで答えた。
「いえ、姫様。私は間違っていました。姫様を護衛する重大任務、私で良ければお引き受けいたします」
その言葉を聞いたガーネット姫は、一瞬何か言いたげな表情をしたが、それもすぐに薄い微笑みの中に消えていく。言葉とは裏腹にどこか不安そうなルカの顔を見つめていた彼女は、それ以上追求することはなかった。代わりに意を決したように頷き、「では、よろしくお願いしますね。ルカ」ともう一度、席に着くよう促す。
「わたくし達の秘密ができた証として、誓いのお茶会をいたしましょう」
「誓いのお茶会ですか? ふふ、なんだか楽しそう!」
自分の道を決めてしまうと、なんだか安心したルカは再び席に着いてティーカップをそっと持ち上げて口を付けた。温くなってしまったが、その味は優しく、これから先の未来が少しだけ良いものに思えた。
ガーネット姫との誓いのお茶会を終えたルカは、急いでクジャの許へ帰ると、遅れたことを謝った。いつもならそこで嫌味の一つでももらうところなのだが、今日の彼は少し様子が違った。
遅れてきた彼女を責めるでもなく、クジャはもっと近くに来いと手招きする。
「何でしょうか?」
「――以前から僕は思っていたんだけどねえ、キミには本当に洒落っ気というものが無いね」
「なっ!? なんですか急に!」
「だから……これをキミに進呈しよう。有り難く受け取ると良いよ」
相変わらず、失礼な物言いをするクジャにむっとするルカだったが、デスクの上に置かれた小さな箱と細長い紙袋に視線を奪われる。一つは真四角の藍色の箱、もう一つは赤いストライプ模様の紙袋だ。金色のシールと緑色のリボンが付いている。
「クジャ様、これは……?」
「言っただろう? 女性なのに洒落っ気というものが全く無いキミに進呈するって」
「そ、れはちょっと余計ですっ!」
「何か言ったかい?」
「いえ、別に……。開けてみてもいいですか?」
「ああ、いいよ」
期待半分、不安半分という表情でまずは紙袋を持ち上げ、丁寧にシールを剥がして中身を取り出した。現れた物にルカは喜色満面になった。
「わぁ、可愛いリボン! ……でも、なんで二本あるんですか?」
中に入っていたのは黄色のリボンだった。髪飾りに丁度良さそうな長さでそれが何故か二本入っている。ルカはクジャに訊いてしまってから、もしかしたら一本は予備なのかもしれないと思ったが、そうではなかった。クジャはわざとらしく溜息を吐いてみせてから、自分に貸すように手を差し出す。
「ほら、貸してごらんよ」
「え? はい」
言われた通りにクジャへリボンを渡すと、彼は立ち上がってデスク越しにルカを抱きすくめるような形で彼女の髪にリボンを付けてやる。思ったよりクジャと近くなり、ふわりと彼が付けている香水の香りがして、ルカはどきりと胸が高鳴った。当のクジャはそんな彼女の様子に気付かず、左右に一本ずつ結んでやり、最後に左右差が無いか確認すると薄く微笑んだ。
「思った通り、騒がしいキミにぴったりの色だね」
「さ、騒がしいって……もうっ!」
「ククク……さぁ、もう一つも開けてごらんよ。おしゃれに関してはずぶの素人さん」
「言われなくても開けますっ!」
ぷりぷりと怒りながらルカはもう一つの箱を持ち上げ、包装紙を丁寧に剥がして開けてみた。箱の中にはブローチが入っていた。紫色のすべすべした石が填まっており、石の中は霞がかかったように見えるインクルージョンがあり、角度によって色の濃さが変わるようだ。
「きれい……」
「お気に召したようで何より。それはちょっと特殊なブローチでね。正直、キミの手には余る物さ。僕に感謝することだね」
「ありがとうございます。でも、どうしていきなりこんな高価そうな物を?」
ルカがそう言うとクジャはぴたりと静止し、今度は何故か彼がむっとする番になった。
「別に何でもいいじゃないか。さっさと付けてみたらどうだい?」
「え? は、はい」
どこに付けようかと迷っている彼女にクジャは痺れを切らしたように「ああもう、貸してごらん」と殆ど奪い取るようにして彼女からブローチを取り上げると、右胸近くのレオタード生地に針を通した。
「こういうのは、本当はタイとかスカーフの上から付けたり、シャツがあればそっちに付けたりするんだけどねえ。……全く、この服は改善の余地しかないみたいだね」
「ほら、完成だよ」という一言と共にクジャが身を引くと、ルカは自分の右胸に付けられたブローチを戸惑いつつも嬉しそうに見つめる。
「あ、ありがとうございます」
「ふむ……悪くないね。それだけ付けてれば、キミの位置がすぐに分かる」
「え? 私の位置、ですか?」
どういうことかとルカが目で問うと、クジャはいつもの癖でつんとそっぽを向いて言った。彼がそういう風にそっぽを向いて何か言う時は、照れ隠しをする時だ。
「今朝、初めてキミが訓練しているところを見たけど、あの集団の中じゃ、誰が誰だか分からないからね。僕が秘書であるキミの位置を把握できてないなんて屈辱だから、それだけ目印を付けてやったんだよ。ふん、精々過ごしにくい日常生活を送るんだね。……絶対外すんじゃないぞ」
その理由ははっきり言ってルカにはよく分からないものだったが、クジャが自分のために用意してくれた物と思い、もう戸惑いは無く、嬉しさだけが込み上げてくる。
「えへへ。ありがとうございます。大切にしますね」
そう笑顔で返すと、いつものようにクジャは慌てて弁明のようなことを言う。
「別にキミの為に贈ったんじゃないからね。僕が困るからやったんだ」
「ふふ。分かってますよぉ」
「何だい、その緩みきった顔は。……やっぱり返せ」
「ええ!? 嫌です! それに一度、贈った物を返すなんて失礼じゃないですかっ!」
「うるさい。返せって言ったら、返せ」
「嫌ですってば!」
ブローチとリボンを守るようにして部屋の中を逃げ回るルカとそんな彼女を大股で追いかけるクジャ。出会ったばかりの頃の彼なら、魔法で何とかしてしまっただろうが、今はそんな気配も無く、ルカの戯れに付き合ってやっている。その姿は、あの冷酷な彼とは似ても似つかない。
ルカは内心、彼にはもう自分は必要無いなと感じていた。
