第一章
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それからは何事も無かったかのようにいつもと同じようにクジャの体を洗い、ついでに自分の体も洗って良いと彼に許可をもらったので、ルカも頭と体を洗い、それが終わると髪をまとめてまた浴槽に二人で入って温まった。クジャは何故かルカとくっつくことに抵抗を示さず、それどころか自ら望んでそうしているようにルカには思えた。だが、最初にルカが危惧していたような雰囲気にはならず、クジャは至って紳士的な所作と態度だった。彼女が体を洗う時は彼にしては珍しく、こちらに背を向けて温まっていたくらいだ。
「あの、クジャ様」
「何だい?」
「今日はどうして、その……私も一緒に?」
「言っただろう? 効率の問題だって。僕の話を聞いていなかったのかい?」
「いえ、聞いてはいましたけど……。でも、それでも私も一緒に入る必要は無いんじゃ……?」
「…………うるさい。ただの気まぐれだよ」
もうそれ以上、質問は受け付けないと言うかのようにクジャは彼女の首筋に顔を埋めて黙らせた。
「僕が先に上がるから、キミは後から来なよ。余計な気を回さなくていいから。分かるかい? 僕に恥をかかせるんじゃないよ」
先に上がるクジャに気を遣おうと立ち上がりかけたルカに彼はびっと指で示しながらそう言って、浴槽の中で待っているように命じると、魔法で自分の服を引き寄せる。浴槽から立ち上がろうと縁に手を掛けたところでルカの視線に気付き、また意地悪く微笑む。
「もしかして、キミは僕の着替えに興味があるのかな?」
「え? あっ、ち、違いますっ」
そう言われてさっとまた頬に紅が差した彼女は、クジャに背を向ける。彼女がそうしている間、ざばりと浴槽から立ち上がったクジャは魔法で体や髪の表面に付いた水分を飛ばし、いつもの服に袖を通す。最後にファウルカップと腰布を身につけると、背後のルカに声を掛けた。
「上がったら、水差しを持っておいで。冷たい方だよ」
「は、はい、分かりましたっ」
ドアノブに掛けてあったストップの魔法を解いて退室するクジャを見送った後、先程まで彼にされていたことを思い返したルカは、改めて恥ずかしさから顔を覆い、ぶくぶくと湯の中に身を沈ませた。
心臓が落ち着いた頃に漸く上がる気になった彼女は、浴槽から出たところであることを思い出す。
「あ、どうしよう。服、びしょびしょ……」
そう思っていたルカだが、いつの間にかクジャの服が置いてあった場所に自分の服が丁寧に置いてあるのを見付けた。そっと近付いて触ってみると、あんなにぐっしょりと濡れていた筈のレオタードはすっかり乾いていた。一瞬、不思議に思ったルカはすぐに誰がこんなことをしたのか思い至る。
「もしかして、クジャ様が……?」
そのすぐ脇には甲冑も置いてあり、これは自分で持って来た記憶が無いので、確信を持ったルカは素直じゃない彼の行動を微笑ましく思った。装備を全て着け終わった彼女が浴室を出ると、クジャはソファに座ってスキンケアに勤しんでいた。彼は集中しているようなので、ルカは邪魔をしないよう声を掛けずにそっと部屋を出て水差しとコップを取りに行った。
水差しとコップを盆に載せて戻って来ると、クジャはまだ鏡を見つめていたので、ルカはそっと声を掛けてみた。
「クジャ様、お水を持って参りました」
クジャはルカの存在に気が付くと、鏡越しに彼女を見て口を開いた。
「ああ、キミか。こっちに持って来ておくれ。……って、まさか何も付けずにいたのかい?」
「へ? えっと……はい」
ルカが気まずそうに肯定すると、クジャは呆気に取られたように口を半開きにしたまま固まっていたかと思うと、肩をすくめて首を振り、ルカへ手招きする。
「呆れたねえ。肌の手入れもしないのかい、キミは。全く、野生児じゃないか。ほら」
そう言って自分が座っていた椅子を空けると、クジャはルカにそこへ座るよう示す。戸惑うルカがまごついていると、また彼は彼女の手を引いて座らせた。
「良いかい? 僕の秘書という前にキミは女性なんだ。若いからって油断してると酷いことになるよ。それに、僕の秘書が美しくないなんて、許されないからね」
最後の理由は後から付け足したような響きがあったが、頬に触れるクジャの手にルカは何だかこそばゆいような思いになる。冷たい化粧水の感触に驚いてびくりと身を竦ませる彼女にクジャはふ、と微笑んで「冷たかった? 仕方のない子だねえ」と呟く。何となく兄のような姉のようなその態度に、ルカは思わず思ったままを呟いた。
「何だか、クジャ様。お兄ちゃんみたいですね?」
「…………調子に乗るんじゃないよ」
ぶに、と片手で両頬を押されて無理矢理変顔にされてしまい、もごもごと抗議するルカをクジャはまたおかしそうに笑った。そんな調子で彼が普段使っているであろう化粧品を使ってもらったルカは、自分の顔を触ってみようとしたが、その手はクジャに掴まれて阻止されてしまう。
「顔は触らないんだよ。手は雑菌の温床なんだから」
「ざ、雑菌って……。でも、本当に良いんですか? こんな高そうな化粧水とか……」
「良いよ、別に。少しくらいならね」
今日のクジャはいつもと何もかも違う。が、彼に仕えるなら、こんな日がずっと続けば良いのにと思うルカは無意識のうちに口を滑らせていた。
「ふふ。何だか今日のクジャ様、優しい」
「なんだい。それじゃあ、いつもの僕は優しくないみたいじゃないか。そろそろ口が過ぎるよ、キミ」
「あ、いえ、そういう意味じゃなくて……。その、今日みたいな日がずっと続けば良いのになぁって思って。優しいクジャ様は、その……好きですから」
「…………は?」
その純粋に何を言われたのか分からないという表情に、ルカは自分が何を言ったのか、そこで漸く理解してぼんっと音が出ているのではないかと思うくらいの勢いで赤面し、慌てて弁明する。
「え、あ、うぇ、えっと……! い、今のは違くて! そういう意味じゃなくてですね……!?」
「はあ……。変なこと言ってないで、もう下がっていいよ。僕ももう寝るから」
「あ、は、はい。分かりました」
しっしと犬や猫を追い払う時の仕草をするクジャに、また機嫌を損ねてしまったと思ったルカは、失敗したと思いつつ、一礼して退室する。後に残されたクジャはその場に立ち尽くしていたかと思うと、苛立ち紛れに髪をかき上げ、「くそっ……」と悪態を吐いた。
「何なんだ、あの娘……!」
頭には「好きです」と言った時のルカの顔が過ぎる。微かに頬を染め、恥ずかしそうに伏せた顔のまま、目だけはクジャを熱っぽく見つめるあの表情に、心の底から戸惑っている自分がいる。今の自分は恋などにうつつを抜かしている暇は無い。そんなことり余程重要な計画を着実に進めなければならない使命がある。眠るにはまだ早い、と時間を見たクジャは、ルカの存在を頭から振り払うようにデスクの上にある計画書の束を手に取った。そこに描かれているのは、ある『兵器』の設計図面だった。
「ククク……これを上手く利用すれば、この国とあの召喚獣を手に入れて、最後には奴を……!」
怒りのまま、ぐしゃりと握られた図面。クジャの瞳には誰に向けたものなのか分からないが、確かに憎しみの炎が燃えていた。はっと我に返った彼は、そっと図面に付いた皺を白魚の手で伸ばす。
「いけない、いけない。僕としたことが憎しみに囚われるなんて、美しくない振る舞いを……。ふん。いずれ僕をバカにした奴らから何もかも奪い取ってやる。最後に華々しいフィナーレを飾るのはこの僕さ!」
「自分の優秀さが怖いねえ」と嗤うクジャの声が、アレクサンドリアの夜に響いていた。
「あの、クジャ様」
「何だい?」
「今日はどうして、その……私も一緒に?」
「言っただろう? 効率の問題だって。僕の話を聞いていなかったのかい?」
「いえ、聞いてはいましたけど……。でも、それでも私も一緒に入る必要は無いんじゃ……?」
「…………うるさい。ただの気まぐれだよ」
もうそれ以上、質問は受け付けないと言うかのようにクジャは彼女の首筋に顔を埋めて黙らせた。
「僕が先に上がるから、キミは後から来なよ。余計な気を回さなくていいから。分かるかい? 僕に恥をかかせるんじゃないよ」
先に上がるクジャに気を遣おうと立ち上がりかけたルカに彼はびっと指で示しながらそう言って、浴槽の中で待っているように命じると、魔法で自分の服を引き寄せる。浴槽から立ち上がろうと縁に手を掛けたところでルカの視線に気付き、また意地悪く微笑む。
「もしかして、キミは僕の着替えに興味があるのかな?」
「え? あっ、ち、違いますっ」
そう言われてさっとまた頬に紅が差した彼女は、クジャに背を向ける。彼女がそうしている間、ざばりと浴槽から立ち上がったクジャは魔法で体や髪の表面に付いた水分を飛ばし、いつもの服に袖を通す。最後にファウルカップと腰布を身につけると、背後のルカに声を掛けた。
「上がったら、水差しを持っておいで。冷たい方だよ」
「は、はい、分かりましたっ」
ドアノブに掛けてあったストップの魔法を解いて退室するクジャを見送った後、先程まで彼にされていたことを思い返したルカは、改めて恥ずかしさから顔を覆い、ぶくぶくと湯の中に身を沈ませた。
心臓が落ち着いた頃に漸く上がる気になった彼女は、浴槽から出たところであることを思い出す。
「あ、どうしよう。服、びしょびしょ……」
そう思っていたルカだが、いつの間にかクジャの服が置いてあった場所に自分の服が丁寧に置いてあるのを見付けた。そっと近付いて触ってみると、あんなにぐっしょりと濡れていた筈のレオタードはすっかり乾いていた。一瞬、不思議に思ったルカはすぐに誰がこんなことをしたのか思い至る。
「もしかして、クジャ様が……?」
そのすぐ脇には甲冑も置いてあり、これは自分で持って来た記憶が無いので、確信を持ったルカは素直じゃない彼の行動を微笑ましく思った。装備を全て着け終わった彼女が浴室を出ると、クジャはソファに座ってスキンケアに勤しんでいた。彼は集中しているようなので、ルカは邪魔をしないよう声を掛けずにそっと部屋を出て水差しとコップを取りに行った。
水差しとコップを盆に載せて戻って来ると、クジャはまだ鏡を見つめていたので、ルカはそっと声を掛けてみた。
「クジャ様、お水を持って参りました」
クジャはルカの存在に気が付くと、鏡越しに彼女を見て口を開いた。
「ああ、キミか。こっちに持って来ておくれ。……って、まさか何も付けずにいたのかい?」
「へ? えっと……はい」
ルカが気まずそうに肯定すると、クジャは呆気に取られたように口を半開きにしたまま固まっていたかと思うと、肩をすくめて首を振り、ルカへ手招きする。
「呆れたねえ。肌の手入れもしないのかい、キミは。全く、野生児じゃないか。ほら」
そう言って自分が座っていた椅子を空けると、クジャはルカにそこへ座るよう示す。戸惑うルカがまごついていると、また彼は彼女の手を引いて座らせた。
「良いかい? 僕の秘書という前にキミは女性なんだ。若いからって油断してると酷いことになるよ。それに、僕の秘書が美しくないなんて、許されないからね」
最後の理由は後から付け足したような響きがあったが、頬に触れるクジャの手にルカは何だかこそばゆいような思いになる。冷たい化粧水の感触に驚いてびくりと身を竦ませる彼女にクジャはふ、と微笑んで「冷たかった? 仕方のない子だねえ」と呟く。何となく兄のような姉のようなその態度に、ルカは思わず思ったままを呟いた。
「何だか、クジャ様。お兄ちゃんみたいですね?」
「…………調子に乗るんじゃないよ」
ぶに、と片手で両頬を押されて無理矢理変顔にされてしまい、もごもごと抗議するルカをクジャはまたおかしそうに笑った。そんな調子で彼が普段使っているであろう化粧品を使ってもらったルカは、自分の顔を触ってみようとしたが、その手はクジャに掴まれて阻止されてしまう。
「顔は触らないんだよ。手は雑菌の温床なんだから」
「ざ、雑菌って……。でも、本当に良いんですか? こんな高そうな化粧水とか……」
「良いよ、別に。少しくらいならね」
今日のクジャはいつもと何もかも違う。が、彼に仕えるなら、こんな日がずっと続けば良いのにと思うルカは無意識のうちに口を滑らせていた。
「ふふ。何だか今日のクジャ様、優しい」
「なんだい。それじゃあ、いつもの僕は優しくないみたいじゃないか。そろそろ口が過ぎるよ、キミ」
「あ、いえ、そういう意味じゃなくて……。その、今日みたいな日がずっと続けば良いのになぁって思って。優しいクジャ様は、その……好きですから」
「…………は?」
その純粋に何を言われたのか分からないという表情に、ルカは自分が何を言ったのか、そこで漸く理解してぼんっと音が出ているのではないかと思うくらいの勢いで赤面し、慌てて弁明する。
「え、あ、うぇ、えっと……! い、今のは違くて! そういう意味じゃなくてですね……!?」
「はあ……。変なこと言ってないで、もう下がっていいよ。僕ももう寝るから」
「あ、は、はい。分かりました」
しっしと犬や猫を追い払う時の仕草をするクジャに、また機嫌を損ねてしまったと思ったルカは、失敗したと思いつつ、一礼して退室する。後に残されたクジャはその場に立ち尽くしていたかと思うと、苛立ち紛れに髪をかき上げ、「くそっ……」と悪態を吐いた。
「何なんだ、あの娘……!」
頭には「好きです」と言った時のルカの顔が過ぎる。微かに頬を染め、恥ずかしそうに伏せた顔のまま、目だけはクジャを熱っぽく見つめるあの表情に、心の底から戸惑っている自分がいる。今の自分は恋などにうつつを抜かしている暇は無い。そんなことり余程重要な計画を着実に進めなければならない使命がある。眠るにはまだ早い、と時間を見たクジャは、ルカの存在を頭から振り払うようにデスクの上にある計画書の束を手に取った。そこに描かれているのは、ある『兵器』の設計図面だった。
「ククク……これを上手く利用すれば、この国とあの召喚獣を手に入れて、最後には奴を……!」
怒りのまま、ぐしゃりと握られた図面。クジャの瞳には誰に向けたものなのか分からないが、確かに憎しみの炎が燃えていた。はっと我に返った彼は、そっと図面に付いた皺を白魚の手で伸ばす。
「いけない、いけない。僕としたことが憎しみに囚われるなんて、美しくない振る舞いを……。ふん。いずれ僕をバカにした奴らから何もかも奪い取ってやる。最後に華々しいフィナーレを飾るのはこの僕さ!」
「自分の優秀さが怖いねえ」と嗤うクジャの声が、アレクサンドリアの夜に響いていた。
