第一章
夢小説設定
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ふと、ルカが目を覚ますと辺りはもうすっかり暗くなっていた。彼女は一瞬、自分がどこにいるのか理解できず、のそのそと寝ぼけた頭で起き上がる。いつの間にかベッドに寝かされており、体の上にはタオルケットが掛けられていた。鎧と武器はベッド脇に立てかけられており、今着ているのはレオタードのみだと分かる。
「あれ? なんで私、寝てたんだっけ……?」
ベッドに入った記憶も無く、それどころか寝てしまう前の記憶が全く無い。ルカは今朝からあったことを順を追って思い出そうとしたが、やはり昼食の毒味をした辺りで記憶が無くなっている。今は何時なのだろうと部屋にある壁掛け時計を見ると、夜の七時を回ったところだった。もうクジャの夕食も終わっている時間であり、それに思い至ると、ルカは慌てて起き出して武装した。
「も、申し訳ありませんっ! クジャ様!」
身だしなみを整えてすぐにクジャの部屋へ入ったルカは、デスクで仕事をしている彼に頭を下げる。いつもなら怒号と共に魔法が飛んでくる程の失態だが、クジャはそうしなかった。代わりにルカが入って来たと分かると、何でも無いように言ってのける。
「ああ、起きたのかい?」
「あ、あ、あの、クジャ様。私、その……」
顔面蒼白で何と言っていいか分からないルカは、はくはくと金魚のように口を開閉するしかない。その様子を見てとったクジャは、何がおかしいのかくつくつと笑った。
「遅れたことが気がかりかい? なら、別にいいよ。代わりに面白いものを見せてもらったからねえ」
「あ、え? お、面白いもの……ですか?」
彼の言う『面白いもの』が何なのか、よく分かっていないルカは不思議そうに小首を傾げるが、クジャはそれを教えるつもりは無いようで、すっと立ち上がると彼女の傍まで歩み寄る。クジャの長身に威圧感を覚えたルカは、びくりと身を震わせて無意識に一歩下がってしまう。一瞬、その動きに不快そうに眉を寄せたクジャは彼女の手を掴んで引き寄せた。また痛い目に遭わされると思った彼女は、いつでも痛みに備えようとぎゅっと目を瞑る。しかし、予想していたものは無く、代わりに兜を固定する金具を外すぱちんっという音が響いた。
「…………クジャ様?」
「なんだい?」
「あの、なんで兜を……?」
すっとクジャの手によって外された兜の意味が分からないルカに、彼は兜を後方に放り出して言った。
「こんな無粋な物は要らないよ。良いかい? これから僕の前に出る時は無骨な兜なんか被るんじゃないよ。分かったね?」
「え? え? でも……ええ?」
突然、何の前触れも無く変わった彼の態度にルカは困惑を隠せず、クジャがどうしてそんなことを言うのかも分からない。どうしてと理由を問うと、「別に」と彼はすげなく返した後、またいつもの意地悪を言うのだった。
「顔が見えないと他の兵士と見分けが付かないからねえ。ここの兵士はみんな同じような格好をしているし、いつキミ達に混じって妙な奴が入り込むとも限らない。だから、僕の前ではその平凡な顔を晒していなよ」
「へいぼ……!? むぅ……確かに、そうですけど……」
確かにクジャに比べたら、自分は平凡な顔だろうが、はっきりと言わなくてもいいだろうとルカは思う。彼女の気がそちらに逸れてくれたお陰で、クジャの真意はそれ以上探られることは無くなり、クジャは内心安堵した。
「そういえば、クジャ様。夕食はどうされましたか?」
「キミがいないんだから、食べる訳ないだろう」
「うぅ……すみません……」
「いいよ、別に。一食くらい抜いたって構わないさ」
「だ、ダメですよっ! ご飯はちゃんと食べないと!」
「ああ、そういえば、もうすぐ一般兵の食堂は閉まってしまうんじゃないかい?」
「え? あ……」
クジャに指し示されて再度、時計を見るともう七時半だ。確かに彼の言う通り、一般兵の食堂は八時には閉まってしまう。しかし、ただでさえ今日はまともに仕事をしていなかったのにと明らかに迷っているルカに、クジャは意地の悪い笑みを浮かべた。
「どうするんだい? 僕を置いて行っていいのかな?」
「あ……う……その…………」
どうしようと迷っている彼女を面白そうに見つめていたクジャだったが、次の彼女の言葉に呆気に取られ、つい呆然としてしまったせいで、彼女を叱る機会を逃してしまった。
「ご、ごめんなさい! クジャ様!」
その言葉を残して慌てて部屋を出て行ってしまった彼女の後ろ姿を見送り、ぱたぱたと駆けていく足音が遠ざかった頃にやっとクジャは我に返り、驚愕と怒りの声を上げた。
「はあああああっ!!?? なんだい、あれ!! 規則違反もいいところだよっ!!」
一瞬、「僕のことが心配なんじゃなかったのか」と言いかけて、すぐに手で口を押さえてつぐんだ。
「いや、僕は何を言っているんだ。これじゃあ、まるで……」
僕の方が寂しがってるみたいじゃないか。不意に頭に浮かんできた考えをクジャは急いで打ち消す。バカな、と思わずにはいられない。この僕が寂しいだって?
落ち着こうと口にした紅茶の味は全く分からず、それどころか、喉奥に入り込んで咳き込む羽目になってしまった。自分で思っているよりもかなり動揺していることを思い知らされ、クジャはまた理不尽な怒りを抱かずにはいられなかった。
「こんな……この僕が……! あの子のせいだね。全く、他人の心に土足で踏み入るような真似をして……!」
自分だけこんな目に遭うのは割に合わないと思ったクジャは、今度はどんな理由をつけてルカを仕置してやろうかと、悔しさから考えを巡らせるのだった。
なんとか閉まるギリギリに食事を終わらせることができたルカは、厨房に食器を下げてクイナ達に遅れてしまったことへの謝意を述べ、礼を言う。
「大丈夫アルよ。ワタシの心得が活かされたみたいで良かったアル」
「そうなの? よく分からないけど、ありがとう」
一瞬、クジャにも軽食を持って行った方が良いかと思ったルカだったが、少し眠そうに瞬きをしているクイナを見ていると、頼むのは気が引けて、何も言わずに食堂を出ることにした。クジャには申し訳ないが、また明日毒味役としてしっかり仕事をこなさなければと思いつつ、彼の部屋へと戻った。
「主人を放って楽しんだ食事は美味しかったかい?」
部屋に帰って最初に向けられたのは、天使を思わせるクジャの愛想笑いと本日最大の嫌味だった。いつものように言い返す言葉が見付からず、ルカは言葉に詰まる。謝るしかない彼女に、クジャは「ほら、ぼーっとしてないで、入浴の準備をしなよ」と命じた。
いつものように入浴の準備が終わり、いつでも入れる状態だとルカがクジャに声を掛けると、彼は当然のように彼女の手を取って浴室に入ろうとした。いつもと違う彼の行動にルカはあわあわと慌て出す。
「えっ? えっ? えっ? あ、あの、クジャ様。どうして私まで一緒に――」
「当然だろう。いつも僕の体を洗ってるんだから、キミも一緒に入った方が効率が良いしね」
「で、でしたら、装備を外してから……!」
何とか心の準備をしようと咄嗟に言ったルカの言い分に、クジャはあっさりと手を放して「早くしなよ」と何故かその場で待ってくれるようだった。昨日までと何もかも違う彼の行動と態度に困惑しきりのルカだったが、またいつもの気まぐれかもしれないと思い、急いで手袋、防具と武器を脱いでレオタードだけの格好になった。身軽になったルカを見て、クジャはまた当然のように手を差し出し、「おいで」と声を掛ける。いつもより少しだけ優しい口調に、やはりルカは不思議そうな顔をしながらも素直に従い、その手を取った。
「あれ? なんで私、寝てたんだっけ……?」
ベッドに入った記憶も無く、それどころか寝てしまう前の記憶が全く無い。ルカは今朝からあったことを順を追って思い出そうとしたが、やはり昼食の毒味をした辺りで記憶が無くなっている。今は何時なのだろうと部屋にある壁掛け時計を見ると、夜の七時を回ったところだった。もうクジャの夕食も終わっている時間であり、それに思い至ると、ルカは慌てて起き出して武装した。
「も、申し訳ありませんっ! クジャ様!」
身だしなみを整えてすぐにクジャの部屋へ入ったルカは、デスクで仕事をしている彼に頭を下げる。いつもなら怒号と共に魔法が飛んでくる程の失態だが、クジャはそうしなかった。代わりにルカが入って来たと分かると、何でも無いように言ってのける。
「ああ、起きたのかい?」
「あ、あ、あの、クジャ様。私、その……」
顔面蒼白で何と言っていいか分からないルカは、はくはくと金魚のように口を開閉するしかない。その様子を見てとったクジャは、何がおかしいのかくつくつと笑った。
「遅れたことが気がかりかい? なら、別にいいよ。代わりに面白いものを見せてもらったからねえ」
「あ、え? お、面白いもの……ですか?」
彼の言う『面白いもの』が何なのか、よく分かっていないルカは不思議そうに小首を傾げるが、クジャはそれを教えるつもりは無いようで、すっと立ち上がると彼女の傍まで歩み寄る。クジャの長身に威圧感を覚えたルカは、びくりと身を震わせて無意識に一歩下がってしまう。一瞬、その動きに不快そうに眉を寄せたクジャは彼女の手を掴んで引き寄せた。また痛い目に遭わされると思った彼女は、いつでも痛みに備えようとぎゅっと目を瞑る。しかし、予想していたものは無く、代わりに兜を固定する金具を外すぱちんっという音が響いた。
「…………クジャ様?」
「なんだい?」
「あの、なんで兜を……?」
すっとクジャの手によって外された兜の意味が分からないルカに、彼は兜を後方に放り出して言った。
「こんな無粋な物は要らないよ。良いかい? これから僕の前に出る時は無骨な兜なんか被るんじゃないよ。分かったね?」
「え? え? でも……ええ?」
突然、何の前触れも無く変わった彼の態度にルカは困惑を隠せず、クジャがどうしてそんなことを言うのかも分からない。どうしてと理由を問うと、「別に」と彼はすげなく返した後、またいつもの意地悪を言うのだった。
「顔が見えないと他の兵士と見分けが付かないからねえ。ここの兵士はみんな同じような格好をしているし、いつキミ達に混じって妙な奴が入り込むとも限らない。だから、僕の前ではその平凡な顔を晒していなよ」
「へいぼ……!? むぅ……確かに、そうですけど……」
確かにクジャに比べたら、自分は平凡な顔だろうが、はっきりと言わなくてもいいだろうとルカは思う。彼女の気がそちらに逸れてくれたお陰で、クジャの真意はそれ以上探られることは無くなり、クジャは内心安堵した。
「そういえば、クジャ様。夕食はどうされましたか?」
「キミがいないんだから、食べる訳ないだろう」
「うぅ……すみません……」
「いいよ、別に。一食くらい抜いたって構わないさ」
「だ、ダメですよっ! ご飯はちゃんと食べないと!」
「ああ、そういえば、もうすぐ一般兵の食堂は閉まってしまうんじゃないかい?」
「え? あ……」
クジャに指し示されて再度、時計を見るともう七時半だ。確かに彼の言う通り、一般兵の食堂は八時には閉まってしまう。しかし、ただでさえ今日はまともに仕事をしていなかったのにと明らかに迷っているルカに、クジャは意地の悪い笑みを浮かべた。
「どうするんだい? 僕を置いて行っていいのかな?」
「あ……う……その…………」
どうしようと迷っている彼女を面白そうに見つめていたクジャだったが、次の彼女の言葉に呆気に取られ、つい呆然としてしまったせいで、彼女を叱る機会を逃してしまった。
「ご、ごめんなさい! クジャ様!」
その言葉を残して慌てて部屋を出て行ってしまった彼女の後ろ姿を見送り、ぱたぱたと駆けていく足音が遠ざかった頃にやっとクジャは我に返り、驚愕と怒りの声を上げた。
「はあああああっ!!?? なんだい、あれ!! 規則違反もいいところだよっ!!」
一瞬、「僕のことが心配なんじゃなかったのか」と言いかけて、すぐに手で口を押さえてつぐんだ。
「いや、僕は何を言っているんだ。これじゃあ、まるで……」
僕の方が寂しがってるみたいじゃないか。不意に頭に浮かんできた考えをクジャは急いで打ち消す。バカな、と思わずにはいられない。この僕が寂しいだって?
落ち着こうと口にした紅茶の味は全く分からず、それどころか、喉奥に入り込んで咳き込む羽目になってしまった。自分で思っているよりもかなり動揺していることを思い知らされ、クジャはまた理不尽な怒りを抱かずにはいられなかった。
「こんな……この僕が……! あの子のせいだね。全く、他人の心に土足で踏み入るような真似をして……!」
自分だけこんな目に遭うのは割に合わないと思ったクジャは、今度はどんな理由をつけてルカを仕置してやろうかと、悔しさから考えを巡らせるのだった。
なんとか閉まるギリギリに食事を終わらせることができたルカは、厨房に食器を下げてクイナ達に遅れてしまったことへの謝意を述べ、礼を言う。
「大丈夫アルよ。ワタシの心得が活かされたみたいで良かったアル」
「そうなの? よく分からないけど、ありがとう」
一瞬、クジャにも軽食を持って行った方が良いかと思ったルカだったが、少し眠そうに瞬きをしているクイナを見ていると、頼むのは気が引けて、何も言わずに食堂を出ることにした。クジャには申し訳ないが、また明日毒味役としてしっかり仕事をこなさなければと思いつつ、彼の部屋へと戻った。
「主人を放って楽しんだ食事は美味しかったかい?」
部屋に帰って最初に向けられたのは、天使を思わせるクジャの愛想笑いと本日最大の嫌味だった。いつものように言い返す言葉が見付からず、ルカは言葉に詰まる。謝るしかない彼女に、クジャは「ほら、ぼーっとしてないで、入浴の準備をしなよ」と命じた。
いつものように入浴の準備が終わり、いつでも入れる状態だとルカがクジャに声を掛けると、彼は当然のように彼女の手を取って浴室に入ろうとした。いつもと違う彼の行動にルカはあわあわと慌て出す。
「えっ? えっ? えっ? あ、あの、クジャ様。どうして私まで一緒に――」
「当然だろう。いつも僕の体を洗ってるんだから、キミも一緒に入った方が効率が良いしね」
「で、でしたら、装備を外してから……!」
何とか心の準備をしようと咄嗟に言ったルカの言い分に、クジャはあっさりと手を放して「早くしなよ」と何故かその場で待ってくれるようだった。昨日までと何もかも違う彼の行動と態度に困惑しきりのルカだったが、またいつもの気まぐれかもしれないと思い、急いで手袋、防具と武器を脱いでレオタードだけの格好になった。身軽になったルカを見て、クジャはまた当然のように手を差し出し、「おいで」と声を掛ける。いつもより少しだけ優しい口調に、やはりルカは不思議そうな顔をしながらも素直に従い、その手を取った。
