第一章
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クジャの毒味役になったと聞くと、メリッサは「ええ~っ!?」と驚きの声を上げた。朝食の席で報告したせいで、隣で紅茶を飲んでいたノーラが彼女の声に驚き、びくりと肩を震わせて紅茶を溢しそうになった。周りにいた兵士達の注目を浴び、それに気付いたノーラがメリッサの脇を小突いた。
「ちょっとメリッサ! いきなり大声出さないでよ!」
「ご、ごめん……。ええ? でも、ルカ。ほんとに大丈夫? 毒味役なんて」
「もし、万が一のことがあったら……」とその先を言い淀むメリッサに、ルカも少し複雑そうな顔をするが、すぐに「大丈夫!」と努めて明るく返した。
「ブラネ様の客人に毒を盛ろうなんて考える人いないよ。毒味役って言っても、たいした役じゃないと思うよ」
大丈夫大丈夫と笑うルカに、二人は未だ不安そうに互いの顔を見合わせるのだった。
昼近く、クジャの為に作られた料理がテーブルに整然と並べられると、彼は「ほら、キミの出番だよ」とルカを手招いた。呼ばれたルカはクジャの傍まで行き、彼が引いた椅子にすとんと座る。テーブルには鮭のムニエルとマッシュポテトが載った皿をメインにパンと野菜スープ、果実酒が小さなグラスに注がれた物があった。自分達が普段食べているパンとスープだけの食事よりずっと豪華なものなので、ルカは密かに心が躍った。ぱあ、と表情を輝かせている彼女にクジャは自分の方を向くように言って、彼女の注意を向けさせると、また幼い子供に言い含めるような口調で言った。
「良いかい? キミはあくまで『毒味役』だ。だから、この料理全部食べるんじゃないよ」
「わ、分かってます! 私のこと、何だと思ってるんですかっ!?」
「がさつな女兵士」
「しっ、失礼なっ!」
「事実だろう? 他人が入浴中に無断で入って来るような奴じゃないか。キミって」
「あ、あれは、不可抗力で……」
「ほら、早く毒味してくれたまえ。料理が冷めるじゃないか」
「むむむぅ…………もうっ!」
納得いかないという顔でルカは毒味をしようと料理に手を付ける前、「いただきます」と手を合わせる。それを傍で見ていたクジャは「なんだい? それ」と不思議そうな顔をする。それにルカも不思議そうな顔をして答えた。
「食前の挨拶のようなものです。私は命を頂くことに感謝して残さず食べますという意味で使ってます」
「ふぅ~ん……まぁ、そんなことよりさっさと毒味しておくれ」
あまり興味の無さそうなクジャの返答にまた何か言いたくなったルカだったが、余計なことを言うと、また魔法を掛けられるかもしれないと思い、鮭のムニエルにナイフを入れようとした。が、突然クジャにその手首を掴まれて止められた。
「えっ!? な、何ですか?」
突然のことに驚いて彼の方を見ると、彼は信じられないものを見るような目でルカを凝視し、口を開く。
「キミ、まさかそんな食べ方で食べる気かい?」
「え? あ、あの、仰ってる意味が……」
いつもと同じ食べ方をしようとしたルカだったが、クジャにはそれが気に入らなかったらしく、心底呆れたと言いたげな大袈裟な溜息を吐いた。頭痛がするように米神を指で押さえつつ、彼は隣に座ると、彼女の手からカトラリーを奪い取った。
「クジャ様?」
「キミの食べ方じゃ、『綺麗に食べる』なんてとてもできそうにないからね。癪だけど、僕が手ずから食べさせてあげる。光栄なことだと思いなよ」
「え、ええ? 私、子供じゃな――」
「ほら、口を開けなよ」
ずい、と問答無用で口の前まで差し出された鮭のムニエルにルカは抵抗を諦め、そっと口を開けた。クジャはその小さな口に滑らせるようにしてフォークを入れ、ルカがしっかり鮭の切れ端を口内に収めたと見ると、静かにフォークを抜く。もぐもぐと咀嚼し、次いで顔が緩む彼女にクジャは「どうだい?」と訊いてみる。その問いに彼女は「おいひいでひゅ」とにこにこ答えるが、その答えにも彼はもう一度呆れた溜息を吐いた。その笑顔にとくん、と一瞬胸の内が高鳴ったような気がしたのは、多分気のせいだろう。
「そうじゃなくて、変な味がしたり、舌が痺れるような感覚は無いかって訊いてるんだけど?」
「んんっ!? しゅみましぇん……んん……大丈夫です。変な感じはしません」
「そうかい。じゃあ、次はスープだよ。ほら、口を開けるんだ」
「ん……これも美味しいですっ」
「全く……雛鳥に餌付けしているみたいだねえ」
「ん~……このパンもおいひいですっ」
全ての料理を一口ずつ貰ったルカは、あまりの美味しさに幸せいっぱいで毒味役の本来の意味をすっかり忘れていたが、料理が美味しかったので、今日はとても良い日だと思っていた。そうして、最後に果実酒を一口貰うと、飲み慣れていないせいか、何だかふわふわした気分になってきた。
「はい、ご苦労様。毒味は終わったから、さっさと退きなよ」
「んん……ふぁい」
「ちょっと、キミ……」
「んぇ? なんでしゅかぁ?」
クジャはぎくりと動きを止めた。見ると、ルカの頬は紅潮し、しゃべり方もどこかふわふわしていると気が付いたのだ。嫌な予感に襲われた彼は、とにかくすぐ彼女を離そうとその腕をぐい、と引っ張った。
「厨房に行って水でももらって来なよ。そんなんじゃ仕事にならないだろ」
「ん~……やぁですっ! クジャしゃまと一緒にいますぅ!」
「駄々っ子になってるじゃないか。酔ってないで、自分の仕事をしなよ」
やだやだと駄々を捏ねるルカを何とか自分の席と交換させる形で座らせたクジャは、そのまま彼女を放っておくこともできずにさっさと寝かしつけてしまおうとスリプルを唱えようとしたが、むにゃむにゃと呟かれた言葉に、魔力を込める手を止めた。
「クジャしゃま、私、クジャしゃまの敵じゃないれすよ……。クジャしゃまのこと、心配なだけなんれしゅ……。れも、クジャしゃまにヤなこと言われりゅのは……寂しいでしゅ……」
「ちょ、ちょっと……キミ――」
ルカの両目にだんだん涙が溜まっていくのを見ると、クジャは焦りのようなものを感じる。いくら普段がさつだの何だのと言っている彼だが、本来女性に紳士的な面もあるクジャにとって、兵士だろうと仮にも『女性を泣かせた』という事実があるのは己のポリシーが許せなかった。いくら相手が酒に酔っている状態でも、さすがにバツが悪い。クジャは仕方ないと言いたげにルカの頬を伝う涙を手で拭ってやった。
「分かったから、泣くんじゃないよ。仕方ない子だね」
「ふ、ふぇ……ひっく…………ふぇえ…………っ」
子供のように泣く彼女にどうしたら良いか分からないクジャは、ぎこちないながらも、ルカを引き寄せ、兜を外してその頭を撫でてやる。兜を外せば覗くただの少女の顔に、クジャはそこではたと思い至った。自分もルカも今まで互いの顔をあまり見たことが無かったのだと。二度目に見た彼女の顔はどこか幼さが強調されており、クジャは今まで自分が彼女にしてきたことを思い返し、きゅっと眉を寄せた。罪悪感ではない。自分が今まで彼女にやってきたことは躾けなのだから、間違ってなんかいないと確信にも似た思いがある。しかし、胸の内に広がるもやもやとしたものに苛立ちを覚えたクジャは、なかなか泣き止まないルカを抱き締め、あやすように背中を摩ってやった。
「本当に幼児みたいだね。主人にこんな手間を取らせるなんて、全く大した従者だよ」
口ではそんな憎まれ口を叩きながらも、ルカの頭や背を撫でる彼の口元に微笑みが浮かんでいるのは、ルカは勿論、彼自身ですらも気付かなかった。
「ちょっとメリッサ! いきなり大声出さないでよ!」
「ご、ごめん……。ええ? でも、ルカ。ほんとに大丈夫? 毒味役なんて」
「もし、万が一のことがあったら……」とその先を言い淀むメリッサに、ルカも少し複雑そうな顔をするが、すぐに「大丈夫!」と努めて明るく返した。
「ブラネ様の客人に毒を盛ろうなんて考える人いないよ。毒味役って言っても、たいした役じゃないと思うよ」
大丈夫大丈夫と笑うルカに、二人は未だ不安そうに互いの顔を見合わせるのだった。
昼近く、クジャの為に作られた料理がテーブルに整然と並べられると、彼は「ほら、キミの出番だよ」とルカを手招いた。呼ばれたルカはクジャの傍まで行き、彼が引いた椅子にすとんと座る。テーブルには鮭のムニエルとマッシュポテトが載った皿をメインにパンと野菜スープ、果実酒が小さなグラスに注がれた物があった。自分達が普段食べているパンとスープだけの食事よりずっと豪華なものなので、ルカは密かに心が躍った。ぱあ、と表情を輝かせている彼女にクジャは自分の方を向くように言って、彼女の注意を向けさせると、また幼い子供に言い含めるような口調で言った。
「良いかい? キミはあくまで『毒味役』だ。だから、この料理全部食べるんじゃないよ」
「わ、分かってます! 私のこと、何だと思ってるんですかっ!?」
「がさつな女兵士」
「しっ、失礼なっ!」
「事実だろう? 他人が入浴中に無断で入って来るような奴じゃないか。キミって」
「あ、あれは、不可抗力で……」
「ほら、早く毒味してくれたまえ。料理が冷めるじゃないか」
「むむむぅ…………もうっ!」
納得いかないという顔でルカは毒味をしようと料理に手を付ける前、「いただきます」と手を合わせる。それを傍で見ていたクジャは「なんだい? それ」と不思議そうな顔をする。それにルカも不思議そうな顔をして答えた。
「食前の挨拶のようなものです。私は命を頂くことに感謝して残さず食べますという意味で使ってます」
「ふぅ~ん……まぁ、そんなことよりさっさと毒味しておくれ」
あまり興味の無さそうなクジャの返答にまた何か言いたくなったルカだったが、余計なことを言うと、また魔法を掛けられるかもしれないと思い、鮭のムニエルにナイフを入れようとした。が、突然クジャにその手首を掴まれて止められた。
「えっ!? な、何ですか?」
突然のことに驚いて彼の方を見ると、彼は信じられないものを見るような目でルカを凝視し、口を開く。
「キミ、まさかそんな食べ方で食べる気かい?」
「え? あ、あの、仰ってる意味が……」
いつもと同じ食べ方をしようとしたルカだったが、クジャにはそれが気に入らなかったらしく、心底呆れたと言いたげな大袈裟な溜息を吐いた。頭痛がするように米神を指で押さえつつ、彼は隣に座ると、彼女の手からカトラリーを奪い取った。
「クジャ様?」
「キミの食べ方じゃ、『綺麗に食べる』なんてとてもできそうにないからね。癪だけど、僕が手ずから食べさせてあげる。光栄なことだと思いなよ」
「え、ええ? 私、子供じゃな――」
「ほら、口を開けなよ」
ずい、と問答無用で口の前まで差し出された鮭のムニエルにルカは抵抗を諦め、そっと口を開けた。クジャはその小さな口に滑らせるようにしてフォークを入れ、ルカがしっかり鮭の切れ端を口内に収めたと見ると、静かにフォークを抜く。もぐもぐと咀嚼し、次いで顔が緩む彼女にクジャは「どうだい?」と訊いてみる。その問いに彼女は「おいひいでひゅ」とにこにこ答えるが、その答えにも彼はもう一度呆れた溜息を吐いた。その笑顔にとくん、と一瞬胸の内が高鳴ったような気がしたのは、多分気のせいだろう。
「そうじゃなくて、変な味がしたり、舌が痺れるような感覚は無いかって訊いてるんだけど?」
「んんっ!? しゅみましぇん……んん……大丈夫です。変な感じはしません」
「そうかい。じゃあ、次はスープだよ。ほら、口を開けるんだ」
「ん……これも美味しいですっ」
「全く……雛鳥に餌付けしているみたいだねえ」
「ん~……このパンもおいひいですっ」
全ての料理を一口ずつ貰ったルカは、あまりの美味しさに幸せいっぱいで毒味役の本来の意味をすっかり忘れていたが、料理が美味しかったので、今日はとても良い日だと思っていた。そうして、最後に果実酒を一口貰うと、飲み慣れていないせいか、何だかふわふわした気分になってきた。
「はい、ご苦労様。毒味は終わったから、さっさと退きなよ」
「んん……ふぁい」
「ちょっと、キミ……」
「んぇ? なんでしゅかぁ?」
クジャはぎくりと動きを止めた。見ると、ルカの頬は紅潮し、しゃべり方もどこかふわふわしていると気が付いたのだ。嫌な予感に襲われた彼は、とにかくすぐ彼女を離そうとその腕をぐい、と引っ張った。
「厨房に行って水でももらって来なよ。そんなんじゃ仕事にならないだろ」
「ん~……やぁですっ! クジャしゃまと一緒にいますぅ!」
「駄々っ子になってるじゃないか。酔ってないで、自分の仕事をしなよ」
やだやだと駄々を捏ねるルカを何とか自分の席と交換させる形で座らせたクジャは、そのまま彼女を放っておくこともできずにさっさと寝かしつけてしまおうとスリプルを唱えようとしたが、むにゃむにゃと呟かれた言葉に、魔力を込める手を止めた。
「クジャしゃま、私、クジャしゃまの敵じゃないれすよ……。クジャしゃまのこと、心配なだけなんれしゅ……。れも、クジャしゃまにヤなこと言われりゅのは……寂しいでしゅ……」
「ちょ、ちょっと……キミ――」
ルカの両目にだんだん涙が溜まっていくのを見ると、クジャは焦りのようなものを感じる。いくら普段がさつだの何だのと言っている彼だが、本来女性に紳士的な面もあるクジャにとって、兵士だろうと仮にも『女性を泣かせた』という事実があるのは己のポリシーが許せなかった。いくら相手が酒に酔っている状態でも、さすがにバツが悪い。クジャは仕方ないと言いたげにルカの頬を伝う涙を手で拭ってやった。
「分かったから、泣くんじゃないよ。仕方ない子だね」
「ふ、ふぇ……ひっく…………ふぇえ…………っ」
子供のように泣く彼女にどうしたら良いか分からないクジャは、ぎこちないながらも、ルカを引き寄せ、兜を外してその頭を撫でてやる。兜を外せば覗くただの少女の顔に、クジャはそこではたと思い至った。自分もルカも今まで互いの顔をあまり見たことが無かったのだと。二度目に見た彼女の顔はどこか幼さが強調されており、クジャは今まで自分が彼女にしてきたことを思い返し、きゅっと眉を寄せた。罪悪感ではない。自分が今まで彼女にやってきたことは躾けなのだから、間違ってなんかいないと確信にも似た思いがある。しかし、胸の内に広がるもやもやとしたものに苛立ちを覚えたクジャは、なかなか泣き止まないルカを抱き締め、あやすように背中を摩ってやった。
「本当に幼児みたいだね。主人にこんな手間を取らせるなんて、全く大した従者だよ」
口ではそんな憎まれ口を叩きながらも、ルカの頭や背を撫でる彼の口元に微笑みが浮かんでいるのは、ルカは勿論、彼自身ですらも気付かなかった。
