第一章 海神と迷子
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ぼちゅんっ、と連続して十五体の頭が弾ける。ポセイドンの投擲で飛んだ岩のような瓦礫に一直線に頭を貫かれたからだった。その隣では、ロキの鎖鎌によって投げられたいくつかの瓦礫が怪物達の頭上に降り注ぎ、前列の何体かが弾け死ぬ。いくら数が多い特攻要員とはいえ、直接触れられなければ、攻撃自体意味が無くなる。それを体現するように二柱の神は片方は武器を、片方は己の腕力でもって直接触れることなく、怪物達を爆死させていく。その様子をモニターを通して観察していたベルゼブブは、「すごい」と感心の声を漏らした。
「いくら失敗作の処理を兼ねているとはいえ、これだけの数をこんなに早く死滅させるなんて、つくづく化け物染みているなぁ」
ここに本神達がいたら、「その化け物を生み出した奴に言われたくない」と言うだろう。あまりにも高い戦闘力を見て、ここに辿り着くのにもそう時間は掛からないだろうと踏んだベルゼブブは、あることを決めた。
「うん。この分なら、あれを投入しても良いかもしれない」
その方が面白そうだ。表情だけでそう言った彼は、また何かのコードを入力し、ある部屋の扉を開けさせた。
怪物達が皆跡形もなく溶け、床に汚泥のように広がり、異様な臭気が立ち込める。先を急ぐ為、扉をこじ開けようとポセイドンが一歩踏み出したその時、扉が独りでに開き、また異形の怪物達が姿を現した。まず、目につくのは天井に貼り付いているエイだろう。その頭には人間の頭と胴が付いており、排泄孔からは大量の小さな虫が汚らしい粘液に塗れて零れている。時折、ぶるぶると全身を痙攣させると、ぼたぼたと虫が落ちてくる。通路には何本もの人間の足を繋ぎ合わせ、百足のような形態になった異様に大きな口の付いた巨大なナメクジが何体もいたが、皆何をするでもなく、ぼうっと佇んでいる。そして、一番奥には扉を守るように立っている巨人のような頭の無い怪物がいた。青白い継ぎ接ぎだらけの肌に通路を塞ぐ程の巨躯、体の表面には人間の脳や目玉や耳、口が出鱈目に配置され、埋まっている。と、巨人の肌に埋め込まれている口が一斉に怨嗟の声を上げた。
「いたい、いたいよぉ」
「かえしてぇ……」
「たすけてぇ」
「こんなはずじゃ……」
「だれかぁ」
「なにもみえない」
「こわい」
「……何これ」
「かえりたい」
「お゛があ゛ざぁ゛ん゛」
「先を急ぐ」
「やだよぉ」
「うで……おれのうでがぁ……!」
「やめてぇ」
「ゆる……ゆるざ、ないぃいいいいいい」
「ころしてくれぇええ」
「あくま、このあくまめぇ……!!」
「悪趣味ってレベルじゃない。イカレてるよ」
目の前の光景は果たして現実なのか。嫌悪感を顕にして目を背けるロキに、ポセイドンは至って冷静に返す。
「あれは悪魔と契約した愚か者の成れの果てだ。余らが救ってやる義理は無い。…………何より、千栄理をあれらと同等にされてなるものか。構えよ、ロキ」
「え?」
いつの間に目の前にいたのか、巨大ナメクジが目前まで迫っており、ロキはそのまま壁に弾き飛ばされていた。体当たりをされる際、肩に噛み付かれ、肉を食いちぎられる。
「ぐっ……!?」
そのまま巨体に壁に押し付けられ、押し潰そうと圧迫してくる。と同時に、壁の中からあの巨人の化け物と同じように微かな声がいくつもいくつも聞こえてきた。
「くらい」
「こわい」
「さみしい」
「だして」
「たすけて」
「かみさま」
「……うるさい。うるさいっ。何なんだよっ! ここは!!」
怖気が走り、武器を振るうも、リーチが長いせいで却って当たらない。足で押し返そうとしても、身はぐにゃぐにゃしていて、且つ気味の悪いぬらぬらとした粘液で滑り、全く手応えが無かった。まずい。本能的に身の危険を察知したが、どうすることもできない。更に抵抗しようと、武器を引き寄せようとした時だった。どちゅっ、と鈍い音がし、ナメクジが全身を痙攣させてがくんと頭を下ろす。背後からの一撃で白い体液を溢れさせ、ナメクジは息絶えていた。漸く壁から脱出できたロキはポセイドンを見やる。
「……なんで助けてくれたの?」
槍に付着した体液を払い、前を向いたポセイドンはただ一言放った。
「彼奴なら、千栄理なら、そう言うからだ」
千栄理。今、ポセイドンを突き動かしているのは、あの人間唯一人だ。あのお人好しで、グズでのろまなただの人間。でも、今ポセイドンに誰よりも想われている人間。あの人間が、冷酷だったポセイドンを変えたのだ。そう考えると、ロキは悔しいのか何なのか、言葉にできない思いが込み上げ、きゅっと唇を引き結んだ。
最後の項目を埋め、満足そうに笑んだベルゼブブはつらつらと独り言を呟き始める。
「君は不思議な人間だね。生育環境で変わっているところと言えば、父親がいないくらいだ。なのに、歪みもせず、品行方正。五体満足で健康的且つ、根は素直で真っ直ぐに育ち、故に魂の純度が高い。そんな君がある日突然、自らの死という運命を本能的に察知し、海神ポセイドンの許へ来た……。おかしいと思わない? この生き方、死に方はまるで……」
そこで改めて千栄理を見つめ、ベルゼブブは口を開く。
「神嫁になる為に生まれてきたようなものじゃないか」
「うぅ……」
「ああ、いいんだよ。君の言いたいことは分かってるから。自分の未来を知りたいんだろう? 前置きでも言ったけど、異類婚姻譚というのは、必ず人間と人外に永遠の別れが訪れる。君の故郷にもいくつかあったよね。ほら、天女の羽衣伝説とか、雪女や狐、二口女の話なんかがそうだ。理由は何であれ、彼らは一度は夫婦となり、愛を育む。でも、最後には必ず袂を分かってしまう。それは、人外側が秘密を暴かれて一緒にいられなくなったり、人間側が死んだり。この法則でいくと、君とあの海神の間にも、いずれは彼らと同じように永遠の別れが訪れると言っても良いんじゃないかなって。それとも、君はそんな運命からどんな手を使っても逃れるつもりかな? ……僕から見れば、君にそんな力があるとは到底思えない。君はそれ程、か弱く、儚い、まるで水中の泡のような存在だ。肉体を持っていた頃は虫程度の命でも、ここではそれ以下になる。でもね、長年君達人間と関わっていると、それなりに評価は変化するもので、たとえ生まれてくることに何の意味も無い、ボウフラのような君達でも、時には目を見張るような抵抗をしてくれる者がいる」
千栄理の話などまるで聞く気のない彼は、そこで一旦切り、彼女の顔の横に両手を付いた。だんっ、といきなり出された大きな音に千栄理はびくりと震える。
「僕は君に期待をしているんだよ、春川千栄理。これから訪れる死の未来に君は当然、抗ってくれるよね? 君みたいな純度の高い魂を堕とし、穢し、貪り食うのは簡単だし、大好きだけど、同時に君のこれからの行動にも凄く興味がある。ああ、でも、まずは君のその魂の純度について暴きたいな。それには前世も関わってくるから、遺伝子から記憶を抽出しないといけない。細胞の一部さえ貰えればいいんだ。もちろん、君は了承してくれるよね」
ふ、とベルゼブブから全ての表情が消えた。ただ、その瞳に宿る深淵だけが千栄理をいつまでも見つめていた。
「僕は君の全てを知りたい」
「……なんか」
「ん? 何かな?」
ばちんっと激しい打音が響き、ベルゼブブの顔が横を向く。打たれたと彼が認識すると同時に、千栄理ははっきりと言い放った。
「あなたなんか、大嫌いっ!!!!」
「消えろ。雑魚が」
急に視界からベルゼブブが消え、代わりに槍を携えたポセイドンの姿が現れる。千栄理は彼の名を言ったつもりだったが、またしても言葉として意味を成さなかった。彼のすぐ後ろにはロキの姿もある。千栄理は漸く安心できたのか、気が緩んで涙が滲み、精神的な疲労からそのまま意識を失う。
ポセイドンに蹴り飛ばされ、モニターに突っ込んだベルゼブブは咳き込みながらも、ゆっくり立ち上がる。その額からは夥しい量の血が流れていた。
「ひどいな。[[rb:他人 > ひと]]を蹴り飛ばすなんて……」
「避けたか。貴様の首を飛ばすつもりだったが」
「まさか、あれだけの数をこんなに早く倒して来るなんて、恐れ入ったよ。流石は最恐神と狡知の神と言われるだけはある」
「ベルゼブブさぁ、ボク相手に契約破るなんて、随分とナメたことしてくれたよね」
「貴様には地獄すら、生温い罰を与えねばならぬ。覚悟せよ」
ベルゼブブの喉元にポセイドンの槍とロキの短剣が宛てがわれるが、彼は表情を一切崩さず、それどころか、楽しげに緩く笑みを浮かべてみせる。
「ああ、ごめんね。今まで失敗作の相手ばかりさせてしまって……」
その時、出し抜けに真横の窓を叩き割り、何かが転がり込んで来た。一瞬、そちらへ注意を向けるロキと咄嗟に千栄理を腕に抱えるポセイドン。
飛び込んで来たのは、一見すると、真っ黒な羽毛の塊に見えた。しかし、塊の下に猛禽類と同じ力強く、太い足が生えているのが見て取れる。また新たな実験生物かと身構える二柱の前に、それは自身の身を守っていた翼を広げ、口を利いた。
「よぉ、ベル。美味しいご飯が来たって聞いたからさぁ……。超特急で帰って来てやったぞ」
翼を広げたそこには頭と胴は人間の男の体、その他は大きな怪鳥の体を持つ、顎くらいの黒髪をオールバックにした美しい顔のハーピーがいた。いつの間にか二柱の刃から距離を取っていたベルゼブブが嗤う。
「今度は成功作だからさ」
「いくら失敗作の処理を兼ねているとはいえ、これだけの数をこんなに早く死滅させるなんて、つくづく化け物染みているなぁ」
ここに本神達がいたら、「その化け物を生み出した奴に言われたくない」と言うだろう。あまりにも高い戦闘力を見て、ここに辿り着くのにもそう時間は掛からないだろうと踏んだベルゼブブは、あることを決めた。
「うん。この分なら、あれを投入しても良いかもしれない」
その方が面白そうだ。表情だけでそう言った彼は、また何かのコードを入力し、ある部屋の扉を開けさせた。
怪物達が皆跡形もなく溶け、床に汚泥のように広がり、異様な臭気が立ち込める。先を急ぐ為、扉をこじ開けようとポセイドンが一歩踏み出したその時、扉が独りでに開き、また異形の怪物達が姿を現した。まず、目につくのは天井に貼り付いているエイだろう。その頭には人間の頭と胴が付いており、排泄孔からは大量の小さな虫が汚らしい粘液に塗れて零れている。時折、ぶるぶると全身を痙攣させると、ぼたぼたと虫が落ちてくる。通路には何本もの人間の足を繋ぎ合わせ、百足のような形態になった異様に大きな口の付いた巨大なナメクジが何体もいたが、皆何をするでもなく、ぼうっと佇んでいる。そして、一番奥には扉を守るように立っている巨人のような頭の無い怪物がいた。青白い継ぎ接ぎだらけの肌に通路を塞ぐ程の巨躯、体の表面には人間の脳や目玉や耳、口が出鱈目に配置され、埋まっている。と、巨人の肌に埋め込まれている口が一斉に怨嗟の声を上げた。
「いたい、いたいよぉ」
「かえしてぇ……」
「たすけてぇ」
「こんなはずじゃ……」
「だれかぁ」
「なにもみえない」
「こわい」
「……何これ」
「かえりたい」
「お゛があ゛ざぁ゛ん゛」
「先を急ぐ」
「やだよぉ」
「うで……おれのうでがぁ……!」
「やめてぇ」
「ゆる……ゆるざ、ないぃいいいいいい」
「ころしてくれぇええ」
「あくま、このあくまめぇ……!!」
「悪趣味ってレベルじゃない。イカレてるよ」
目の前の光景は果たして現実なのか。嫌悪感を顕にして目を背けるロキに、ポセイドンは至って冷静に返す。
「あれは悪魔と契約した愚か者の成れの果てだ。余らが救ってやる義理は無い。…………何より、千栄理をあれらと同等にされてなるものか。構えよ、ロキ」
「え?」
いつの間に目の前にいたのか、巨大ナメクジが目前まで迫っており、ロキはそのまま壁に弾き飛ばされていた。体当たりをされる際、肩に噛み付かれ、肉を食いちぎられる。
「ぐっ……!?」
そのまま巨体に壁に押し付けられ、押し潰そうと圧迫してくる。と同時に、壁の中からあの巨人の化け物と同じように微かな声がいくつもいくつも聞こえてきた。
「くらい」
「こわい」
「さみしい」
「だして」
「たすけて」
「かみさま」
「……うるさい。うるさいっ。何なんだよっ! ここは!!」
怖気が走り、武器を振るうも、リーチが長いせいで却って当たらない。足で押し返そうとしても、身はぐにゃぐにゃしていて、且つ気味の悪いぬらぬらとした粘液で滑り、全く手応えが無かった。まずい。本能的に身の危険を察知したが、どうすることもできない。更に抵抗しようと、武器を引き寄せようとした時だった。どちゅっ、と鈍い音がし、ナメクジが全身を痙攣させてがくんと頭を下ろす。背後からの一撃で白い体液を溢れさせ、ナメクジは息絶えていた。漸く壁から脱出できたロキはポセイドンを見やる。
「……なんで助けてくれたの?」
槍に付着した体液を払い、前を向いたポセイドンはただ一言放った。
「彼奴なら、千栄理なら、そう言うからだ」
千栄理。今、ポセイドンを突き動かしているのは、あの人間唯一人だ。あのお人好しで、グズでのろまなただの人間。でも、今ポセイドンに誰よりも想われている人間。あの人間が、冷酷だったポセイドンを変えたのだ。そう考えると、ロキは悔しいのか何なのか、言葉にできない思いが込み上げ、きゅっと唇を引き結んだ。
最後の項目を埋め、満足そうに笑んだベルゼブブはつらつらと独り言を呟き始める。
「君は不思議な人間だね。生育環境で変わっているところと言えば、父親がいないくらいだ。なのに、歪みもせず、品行方正。五体満足で健康的且つ、根は素直で真っ直ぐに育ち、故に魂の純度が高い。そんな君がある日突然、自らの死という運命を本能的に察知し、海神ポセイドンの許へ来た……。おかしいと思わない? この生き方、死に方はまるで……」
そこで改めて千栄理を見つめ、ベルゼブブは口を開く。
「神嫁になる為に生まれてきたようなものじゃないか」
「うぅ……」
「ああ、いいんだよ。君の言いたいことは分かってるから。自分の未来を知りたいんだろう? 前置きでも言ったけど、異類婚姻譚というのは、必ず人間と人外に永遠の別れが訪れる。君の故郷にもいくつかあったよね。ほら、天女の羽衣伝説とか、雪女や狐、二口女の話なんかがそうだ。理由は何であれ、彼らは一度は夫婦となり、愛を育む。でも、最後には必ず袂を分かってしまう。それは、人外側が秘密を暴かれて一緒にいられなくなったり、人間側が死んだり。この法則でいくと、君とあの海神の間にも、いずれは彼らと同じように永遠の別れが訪れると言っても良いんじゃないかなって。それとも、君はそんな運命からどんな手を使っても逃れるつもりかな? ……僕から見れば、君にそんな力があるとは到底思えない。君はそれ程、か弱く、儚い、まるで水中の泡のような存在だ。肉体を持っていた頃は虫程度の命でも、ここではそれ以下になる。でもね、長年君達人間と関わっていると、それなりに評価は変化するもので、たとえ生まれてくることに何の意味も無い、ボウフラのような君達でも、時には目を見張るような抵抗をしてくれる者がいる」
千栄理の話などまるで聞く気のない彼は、そこで一旦切り、彼女の顔の横に両手を付いた。だんっ、といきなり出された大きな音に千栄理はびくりと震える。
「僕は君に期待をしているんだよ、春川千栄理。これから訪れる死の未来に君は当然、抗ってくれるよね? 君みたいな純度の高い魂を堕とし、穢し、貪り食うのは簡単だし、大好きだけど、同時に君のこれからの行動にも凄く興味がある。ああ、でも、まずは君のその魂の純度について暴きたいな。それには前世も関わってくるから、遺伝子から記憶を抽出しないといけない。細胞の一部さえ貰えればいいんだ。もちろん、君は了承してくれるよね」
ふ、とベルゼブブから全ての表情が消えた。ただ、その瞳に宿る深淵だけが千栄理をいつまでも見つめていた。
「僕は君の全てを知りたい」
「……なんか」
「ん? 何かな?」
ばちんっと激しい打音が響き、ベルゼブブの顔が横を向く。打たれたと彼が認識すると同時に、千栄理ははっきりと言い放った。
「あなたなんか、大嫌いっ!!!!」
「消えろ。雑魚が」
急に視界からベルゼブブが消え、代わりに槍を携えたポセイドンの姿が現れる。千栄理は彼の名を言ったつもりだったが、またしても言葉として意味を成さなかった。彼のすぐ後ろにはロキの姿もある。千栄理は漸く安心できたのか、気が緩んで涙が滲み、精神的な疲労からそのまま意識を失う。
ポセイドンに蹴り飛ばされ、モニターに突っ込んだベルゼブブは咳き込みながらも、ゆっくり立ち上がる。その額からは夥しい量の血が流れていた。
「ひどいな。[[rb:他人 > ひと]]を蹴り飛ばすなんて……」
「避けたか。貴様の首を飛ばすつもりだったが」
「まさか、あれだけの数をこんなに早く倒して来るなんて、恐れ入ったよ。流石は最恐神と狡知の神と言われるだけはある」
「ベルゼブブさぁ、ボク相手に契約破るなんて、随分とナメたことしてくれたよね」
「貴様には地獄すら、生温い罰を与えねばならぬ。覚悟せよ」
ベルゼブブの喉元にポセイドンの槍とロキの短剣が宛てがわれるが、彼は表情を一切崩さず、それどころか、楽しげに緩く笑みを浮かべてみせる。
「ああ、ごめんね。今まで失敗作の相手ばかりさせてしまって……」
その時、出し抜けに真横の窓を叩き割り、何かが転がり込んで来た。一瞬、そちらへ注意を向けるロキと咄嗟に千栄理を腕に抱えるポセイドン。
飛び込んで来たのは、一見すると、真っ黒な羽毛の塊に見えた。しかし、塊の下に猛禽類と同じ力強く、太い足が生えているのが見て取れる。また新たな実験生物かと身構える二柱の前に、それは自身の身を守っていた翼を広げ、口を利いた。
「よぉ、ベル。美味しいご飯が来たって聞いたからさぁ……。超特急で帰って来てやったぞ」
翼を広げたそこには頭と胴は人間の男の体、その他は大きな怪鳥の体を持つ、顎くらいの黒髪をオールバックにした美しい顔のハーピーがいた。いつの間にか二柱の刃から距離を取っていたベルゼブブが嗤う。
「今度は成功作だからさ」
