第一章 海神と迷子
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頬を神速の槍が掠っていく。と思えば、いつ戻したのか全く分からない速さで第二、第三の刺突が繰り出される。否、最早第二、第三という表現すら遥か遠くなる程多くの攻撃を受けても尚、ロキは神であるが故に避け続けることができていた。人間であれば、あっという間に肉の破片すら残らないだろう。
「ちょっと……っ! 待って! 待ってってばっ!!」
漸く発することができた言葉も飲み込もうとするかのように、容赦なくあらゆる方向と角度から槍が突き出される。いつしかその様はロキを囲むようにドーム状になっており、彼はその中で全ての刺突を避けていた。避けながらも、確実にポセイドンとの距離を詰め、やっとの思いで槍を持っている手首を掴むことができた。
「待ってって言ってるでしょっ!! ポセイドンさんっ!!」
手首を掴まれたことで漸く攻撃の手が止まり、ポセイドンは不機嫌をこれでもかと顕にしながらロキを見る。
「言い訳など聞かぬ」
「そうじゃなくて! おかしいんだよ! 予定ではすぐ戻って来る筈なんだよ、あいつは!」
「……どういうことだ」
ロキの説明では、今回のことはベルゼブブとロキの取引が原因らしい。ロキは千栄理を少し怖い目に遭わせてやりたい。ベルゼブブは彼女と話をしたいという利害が一致した故に招いた事態だと。そこで再度槍を構えるポセイドンをロキは何とか宥め、違和感を覚えた点も説明した。
「話を聞くだけって聞いてたから、すぐ戻って来ると思ってたのに、全然戻って来ないなんて、思ってなかったから……」
「簡潔に言え。余は急いでいる」
槍を握る手にギリギリと力を込めているポセイドンに、一つ溜息を零してから、ロキも彼に負けず劣らずの殺気を放ち始める。
「契約違反しやがったあいつを、ぶっ飛ばしに行きたい」
「ならば、来い」
「命令しないでよ」
ポセイドンを先頭にロキも後に続こうとしたが、ふと瞳のことを思い出し、くるりと振り返る。
「瞳はそこで待ってて。この基地、ぶっ壊すから」
「お気を付けて」
深々と一礼だけする瞳に、ロキは振り返らずにポセイドンの待つ大きな扉の前に向かった。
一方、ポセイドンは固く閉ざされた扉の前に佇んでいたかと思うと、徐に槍を構え、鋭い突きを一撃。扉は槍の一撃により、まるで羊羹か何かのようにぽっかりと穴が空く。破壊できると分かった途端、粉々にする勢いでポセイドンは突きの雨を見舞い、扉を破壊する。遠慮の無い破壊行為に、ロキの精神も昂り始めたのか、鎖鎌に持ち替え、通路に並ぶ扉を片っ端から壊しにかかった。
施設内にけたたましい警戒音が響く。その音にベルゼブブは手近なモニターにちょっと目をやったくらいで、特に慌てた様子は無い。強いて言えば、まだ訊きたいことがあるから邪魔をしないで欲しいくらいしか思っていない。ふと、モニターに映っている二柱の神に何かを思い出したらしく、椅子から立ち上がってパソコンを操作し始めた。
画面には侵入者対策警備システムの命令表示が出ており、彼は至って冷静に命令を入力していく。それが一通り終わると、また同じように横になっている千栄理の方へ向き直った。
「ん? ……ああ、実験だよ。この施設の警備システムが神二柱に対してどこまで対処できるかってところ。ついでに彼らの戦闘データも取れるから、君には感謝しないとね」
彼女の表情から何かを察したベルゼブブは、千栄理にもモニターが見えるように少し退いてやる。そこに映っている姿に、彼女の口から叫びに似た声が上がるも、言葉にならない。そんな彼女に、ベルゼブブは「あれ?」と零した。
「君達、別に恋人同士じゃないって聞いてたんだけど、それでも契約相手のことは気になるんだ? ふぅん……益々興味が出てきたよ。じゃあ、次の質問行くね」
「うぅ〜……っ!!」
目の前で涙を流し、何かを訴える彼女などまるで見えていないかのように、ベルゼブブは至極淡々と質問を続ける。その間にも地響きは続いており、二柱の怒りが伝わってくるようだった。
ロキの鎖鎌で手当り次第に目につく扉を壊し、ポセイドンはひたすらに目の前に立ち塞がるオリハルコン製の扉を粉微塵にしていく。何度か繰り返していると、施設の警備システムのせいか、妙なロボットがぞろぞろと現れた。見ようによっては人型に見えなくもないシルエットをしているそのロボット達の脚部には反重力装置が着いており、床から数センチ浮いている。両の腕部には銃器が装着されており、二柱に向かって弾丸の雨を降らせた。が、それらはたった一閃のもとに両断され、壁に激突し、ただの鉄屑の山となる。
「ちっ。何なの、この基地。構造がさっきと全然違う」
ロキがぼやいている間にも施設内はどんどんと形を変え、ロボット達の他に壁面からいきなりガトリングガンの銃口が飛び出してくることもあったが、二柱は顔色一つ変えずに壁ごと抉り取る。普通の建物なら、とっくの昔に支えを失い、倒壊している筈だが、壁の内部は思っているよりずっと複雑な構造をしているのか、全く崩れる気配が無い。それに加え、言葉にはしないものの、二柱は妙な気配をずっと感じていた。この基地に侵入してからその気配は強くなり、気味が悪い。
第一波のロボット達を一体残らず鉄屑に変えたポセイドンは、目の前の扉に槍を突き立てる。ぐりっ、と柄を回し、無理矢理こじ開けた先には、身長はポセイドンの腰くらいしかないものの、ぶよぶよとしたヒキガエルのような体を持ち、頭に相当する部分には、人間の腕だけがいくつも生えている怪物が一匹だけ通路の奥の方に縮こまるようにしていた。蛍光灯の光に照らされ、曖昧な線を作っているそれはまるで普通の蛙のように、どこからか「るぅうう……るぅうう……」という声を上げている。異星の快楽主義者ムーンビーストにも造形が似ているが、あれとは全く違う知能も何も感じない出来損ないのような者だった。
「うわっ! キモッ!!」
「悪趣味な……」
おぞましい実験生物に二柱は顔を歪め、武器を構える。怪物は一拍遅れて漸く二柱の存在に気付いたのか、「るぅうう……るぅうう……」と静かに鳴いていた声が次第に鳴りを潜め、「るぅお゛お゛お゛おおおおおおおおおっ!!」と興奮したように人の腕部を振り乱しながら、突進してくる。ぶしゅっと腕部の根元から黒みがかった紫と緑がかった山吹色の膿のような液体が噴出し、ガソリンに似た臭いを振り撒いてくる。そのまま突き殺そうとしたポセイドンとは対照的に、何かに気付いたロキが警告した。
「ポセイドンさん、避けて! そいつと距離取って!」
その叫びにポセイドンも思うところがあったのか、珍しく彼の言う事を聞き入れ、槍を下ろし、突進してきた怪物を避ける。そのまま怪物は依然として雄叫びを上げながら、外へ出て行こうとする。その背後からロキが投擲した瓦礫を頭に受けた瞬間、怪物はドブ色の粘液を勢い良く噴出させながらぼちゅんっという音をさせて破裂した。床に粘液が広がり、じゅうじゅうと湯気を立てる。その様を見て、二柱は理解した。こいつは特攻要員だ。動くものに対して本能的に突進し、何か刺激を受ければ、爆弾のように破裂する。幸い、体内の粘液は金属を溶かす程のものではなさそうだが、まともに受ければ、ただでは済まないだろう。一匹目が溶け死ぬ様を見、前方へ向き直った二柱の目の前には、同じような怪物が所狭しと溢れ返っていた。
「人間というのは、よく僕らと契約してくれるんだ。よく言うだろう? 『悪魔に魂を売った』とか、『悪魔と取引した』とか。そして、人智を超えた力を手に入れた人間っていうのはね。欲をかいて必ず僕らと同じところに堕ちてきてくれるんだ」
モニターを眺めながら、ベルゼブブは椅子に凭れ、こちらをうっとりとした目付きで見つめる。
「そうやって僕に身を捧げてくれた彼らを無下にする訳にはいかないだろう? だから、僕は彼らの魂を最も有効に使ってあげるんだ」
またパソコンに何か打ち込み、アラートを消す。
「まぁ、本当はもっと上手く作ってあげるつもりだったんだけど……失敗しちゃったからね。でも、失敗は成功に近づく為に必要なプロセスだ。そういう意味では、研究の役に立てたんだから、彼らも本望だと思うよ」
ふと、パソコンから視線を外し、ベルゼブブは真っ直ぐにこちらを見た。その瞳の奥には、何も無い。虚無の闇だけがこちらを見据えている。
「ねぇ、君もそう思うだろう?」
「ちょっと……っ! 待って! 待ってってばっ!!」
漸く発することができた言葉も飲み込もうとするかのように、容赦なくあらゆる方向と角度から槍が突き出される。いつしかその様はロキを囲むようにドーム状になっており、彼はその中で全ての刺突を避けていた。避けながらも、確実にポセイドンとの距離を詰め、やっとの思いで槍を持っている手首を掴むことができた。
「待ってって言ってるでしょっ!! ポセイドンさんっ!!」
手首を掴まれたことで漸く攻撃の手が止まり、ポセイドンは不機嫌をこれでもかと顕にしながらロキを見る。
「言い訳など聞かぬ」
「そうじゃなくて! おかしいんだよ! 予定ではすぐ戻って来る筈なんだよ、あいつは!」
「……どういうことだ」
ロキの説明では、今回のことはベルゼブブとロキの取引が原因らしい。ロキは千栄理を少し怖い目に遭わせてやりたい。ベルゼブブは彼女と話をしたいという利害が一致した故に招いた事態だと。そこで再度槍を構えるポセイドンをロキは何とか宥め、違和感を覚えた点も説明した。
「話を聞くだけって聞いてたから、すぐ戻って来ると思ってたのに、全然戻って来ないなんて、思ってなかったから……」
「簡潔に言え。余は急いでいる」
槍を握る手にギリギリと力を込めているポセイドンに、一つ溜息を零してから、ロキも彼に負けず劣らずの殺気を放ち始める。
「契約違反しやがったあいつを、ぶっ飛ばしに行きたい」
「ならば、来い」
「命令しないでよ」
ポセイドンを先頭にロキも後に続こうとしたが、ふと瞳のことを思い出し、くるりと振り返る。
「瞳はそこで待ってて。この基地、ぶっ壊すから」
「お気を付けて」
深々と一礼だけする瞳に、ロキは振り返らずにポセイドンの待つ大きな扉の前に向かった。
一方、ポセイドンは固く閉ざされた扉の前に佇んでいたかと思うと、徐に槍を構え、鋭い突きを一撃。扉は槍の一撃により、まるで羊羹か何かのようにぽっかりと穴が空く。破壊できると分かった途端、粉々にする勢いでポセイドンは突きの雨を見舞い、扉を破壊する。遠慮の無い破壊行為に、ロキの精神も昂り始めたのか、鎖鎌に持ち替え、通路に並ぶ扉を片っ端から壊しにかかった。
施設内にけたたましい警戒音が響く。その音にベルゼブブは手近なモニターにちょっと目をやったくらいで、特に慌てた様子は無い。強いて言えば、まだ訊きたいことがあるから邪魔をしないで欲しいくらいしか思っていない。ふと、モニターに映っている二柱の神に何かを思い出したらしく、椅子から立ち上がってパソコンを操作し始めた。
画面には侵入者対策警備システムの命令表示が出ており、彼は至って冷静に命令を入力していく。それが一通り終わると、また同じように横になっている千栄理の方へ向き直った。
「ん? ……ああ、実験だよ。この施設の警備システムが神二柱に対してどこまで対処できるかってところ。ついでに彼らの戦闘データも取れるから、君には感謝しないとね」
彼女の表情から何かを察したベルゼブブは、千栄理にもモニターが見えるように少し退いてやる。そこに映っている姿に、彼女の口から叫びに似た声が上がるも、言葉にならない。そんな彼女に、ベルゼブブは「あれ?」と零した。
「君達、別に恋人同士じゃないって聞いてたんだけど、それでも契約相手のことは気になるんだ? ふぅん……益々興味が出てきたよ。じゃあ、次の質問行くね」
「うぅ〜……っ!!」
目の前で涙を流し、何かを訴える彼女などまるで見えていないかのように、ベルゼブブは至極淡々と質問を続ける。その間にも地響きは続いており、二柱の怒りが伝わってくるようだった。
ロキの鎖鎌で手当り次第に目につく扉を壊し、ポセイドンはひたすらに目の前に立ち塞がるオリハルコン製の扉を粉微塵にしていく。何度か繰り返していると、施設の警備システムのせいか、妙なロボットがぞろぞろと現れた。見ようによっては人型に見えなくもないシルエットをしているそのロボット達の脚部には反重力装置が着いており、床から数センチ浮いている。両の腕部には銃器が装着されており、二柱に向かって弾丸の雨を降らせた。が、それらはたった一閃のもとに両断され、壁に激突し、ただの鉄屑の山となる。
「ちっ。何なの、この基地。構造がさっきと全然違う」
ロキがぼやいている間にも施設内はどんどんと形を変え、ロボット達の他に壁面からいきなりガトリングガンの銃口が飛び出してくることもあったが、二柱は顔色一つ変えずに壁ごと抉り取る。普通の建物なら、とっくの昔に支えを失い、倒壊している筈だが、壁の内部は思っているよりずっと複雑な構造をしているのか、全く崩れる気配が無い。それに加え、言葉にはしないものの、二柱は妙な気配をずっと感じていた。この基地に侵入してからその気配は強くなり、気味が悪い。
第一波のロボット達を一体残らず鉄屑に変えたポセイドンは、目の前の扉に槍を突き立てる。ぐりっ、と柄を回し、無理矢理こじ開けた先には、身長はポセイドンの腰くらいしかないものの、ぶよぶよとしたヒキガエルのような体を持ち、頭に相当する部分には、人間の腕だけがいくつも生えている怪物が一匹だけ通路の奥の方に縮こまるようにしていた。蛍光灯の光に照らされ、曖昧な線を作っているそれはまるで普通の蛙のように、どこからか「るぅうう……るぅうう……」という声を上げている。異星の快楽主義者ムーンビーストにも造形が似ているが、あれとは全く違う知能も何も感じない出来損ないのような者だった。
「うわっ! キモッ!!」
「悪趣味な……」
おぞましい実験生物に二柱は顔を歪め、武器を構える。怪物は一拍遅れて漸く二柱の存在に気付いたのか、「るぅうう……るぅうう……」と静かに鳴いていた声が次第に鳴りを潜め、「るぅお゛お゛お゛おおおおおおおおおっ!!」と興奮したように人の腕部を振り乱しながら、突進してくる。ぶしゅっと腕部の根元から黒みがかった紫と緑がかった山吹色の膿のような液体が噴出し、ガソリンに似た臭いを振り撒いてくる。そのまま突き殺そうとしたポセイドンとは対照的に、何かに気付いたロキが警告した。
「ポセイドンさん、避けて! そいつと距離取って!」
その叫びにポセイドンも思うところがあったのか、珍しく彼の言う事を聞き入れ、槍を下ろし、突進してきた怪物を避ける。そのまま怪物は依然として雄叫びを上げながら、外へ出て行こうとする。その背後からロキが投擲した瓦礫を頭に受けた瞬間、怪物はドブ色の粘液を勢い良く噴出させながらぼちゅんっという音をさせて破裂した。床に粘液が広がり、じゅうじゅうと湯気を立てる。その様を見て、二柱は理解した。こいつは特攻要員だ。動くものに対して本能的に突進し、何か刺激を受ければ、爆弾のように破裂する。幸い、体内の粘液は金属を溶かす程のものではなさそうだが、まともに受ければ、ただでは済まないだろう。一匹目が溶け死ぬ様を見、前方へ向き直った二柱の目の前には、同じような怪物が所狭しと溢れ返っていた。
「人間というのは、よく僕らと契約してくれるんだ。よく言うだろう? 『悪魔に魂を売った』とか、『悪魔と取引した』とか。そして、人智を超えた力を手に入れた人間っていうのはね。欲をかいて必ず僕らと同じところに堕ちてきてくれるんだ」
モニターを眺めながら、ベルゼブブは椅子に凭れ、こちらをうっとりとした目付きで見つめる。
「そうやって僕に身を捧げてくれた彼らを無下にする訳にはいかないだろう? だから、僕は彼らの魂を最も有効に使ってあげるんだ」
またパソコンに何か打ち込み、アラートを消す。
「まぁ、本当はもっと上手く作ってあげるつもりだったんだけど……失敗しちゃったからね。でも、失敗は成功に近づく為に必要なプロセスだ。そういう意味では、研究の役に立てたんだから、彼らも本望だと思うよ」
ふと、パソコンから視線を外し、ベルゼブブは真っ直ぐにこちらを見た。その瞳の奥には、何も無い。虚無の闇だけがこちらを見据えている。
「ねぇ、君もそう思うだろう?」
