序章
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出来るだけ早く英語に慣れる為にも、会話の言葉も全部英語にしよう、とマシューが提案した事により、会話文が全部英語になった。なんてこった。
ほとんど分からないけれど、多分最初はこんなもので良いんだと思う。うん、そう思うことで全てを誤魔化そう。大学で英語学専攻してたとかそんな事ないから。英語とか1ミリも勉強したこと無かったから。
「最初は服屋から行くか、その服装じゃ動きにくそうだしな」
ギュッと握った手を離さずにマシューを見上げ、目で訴える。
なんて言ったんですか。
「服、買う」
私の視線に気づいたマシューは、自分のスーツの襟を掴んでパタパタする。
服。buy、だから多分服を買うとかそんなんなのかな。
「服、買う…?」
「えらい。よく出来た」
同じように着ていたパーカーの胸元をパタパタして繰り返すと、嬉しそうに頭を撫でてくれた。私は元々あまり褒められた経験がないからか、こうして頭を撫でられるのは好きだった。
マシューがその扉を押すと、心地良い鐘の音が部屋に響いた。中はお高そうなドレスや礼服でいっぱいで、思わず目を丸くして見つめてしまう。
「こんにちは、マダム」
「あら、随分懐かしい顔ね。すっかりご無沙汰だから、もうウチには来ないのかと思ったわ」
ずんぐりとしたふくよかな女性は、マシューに話しかけられると振り向き、腰に手を当てる。怒っているのか、呆れているのか…恐らく表情的に後者だけれど…マシューに人差し指を突きつけている。
「すいません、最近はマグルのメーカーにお熱でね。また正式な場に出る時は服作りに来ますんで」
「いつになるのかしらね」
話がひと段落したのか肩を竦めたマダムはこちらに視線を移す。
「この子は? 隠し子?」
「仕事で保護してる子ですよ。この子の服をいくつか見繕ってもらいたくて。あ、普段着の方です」
ジッとこちらを見る女性に不安になって、マシューの足に擦り寄る。が、腰を落とした女性に視線を合わせられて結局近づくことになった。
「じゃあ服、選びに行こうか」
なんて言っているのかよく分からなかったけれど、手を差し出されている所を見ると、一緒に行こうと言われているようだ。
行っても良いのかマシューを見上げて視線で問うと、そっと背中を押された。逝ってよしの許可のようだ。
差し出された手に恐る恐る自分の手を重ねると、部屋の隅の方へ連れていかれる。
「あ、マダム! その子英語分からないので」
「大丈夫よ、服を選ぶだけなんだから」
マシューが後ろから何か言っていたけれど、彼女は振り向きもせずに答えた。
「どんなのが好みかしら? 着ているのはメンズね、それしかなかったのかしらね」
せかせかといくつかかけられている子供服の中から、私の背丈に合いそうな服をいくつも腕に抱える。そして試着室らしいところにその人と一緒に突っ込まれる。
あの、服くらい自分で着れるんですけど…。
思いはしても話す事は出来ないのであって。仕方なく私はそのままされるがままに服を着替えたのだった。
ちなみに服のチョイスは完全に彼女の趣味で、私の好みは全く反映されなかった事は先に言っておく。
十数分間彼女の着せ替え人形をした結果、いくつか候補を絞れたようで、マシューにお披露目した後全てお買い上げになった。
『え、え、全部買うんですか!?』
「当たり前だろ? これから少なくとも8年はこっちにいるんだし」
『英語で言われても分かんないですよぉ』
はっはっは、と笑って頭を撫でられたら黙るしかない。
結局ブラウスやスカート、ワンピースに上着等合わせて10着以上買われてしまった。しかもその場でクラシックなピンク色のワンピースに着替えさせられて、レグから借りた服は別な買い物袋に詰められた。
私はレグのパーカー、気に入ってたのに。
可愛らしいサンダルまで履かされて全くの別人と化した私を満足げに抱き上げてマシューはその店を後にした。
「ただいま帰りましたよぉーっと」
半日連れ回されてグダグダに疲れていた私は、マシューの明るい声に目を覚ます。疲れきって移動中に寝てしまっていたらしい。
肩に預けていた頭を起こして、眠気を飛ばそうと目を擦るものの、とろ…とした思考は働かない。
「おかえりなさい、随分時間がかかったのね…ってあら」
「凄い荷物ですね」
「あぁ、しばらく世話になるから色々買ってきた。ほら、レグルスの服」
「レイは結構気に入ってたんですけど、着替えさせたんですね」
「ブカブカだと動きにくそうだったからな」
「ありがとう、助かるわ」
「おう。あ、コイツの話なんだけど」
『う…?』
ぼんやりと頭を撫でられたような感覚に少し浮上する。重たい瞼を持ち上げると、すぐ視界が暗くなる。
『大丈夫だからもう少し寝とけ』
『ん』
マシューの言葉に小さく頷いて夢の中へ旅立つ。人肌ってどうしてこう安心するのだろうか。
「とりあえずレイを寝かせてくるわ。リビングにリックがいるからそこで待っててくれる?」
「分かった」
『……おやすみ、レイ』
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