序章
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「お、坊主。ちゃんとお兄ちゃんしてんじゃねぇか」
「やかましいです」
女の人が出て行ってから十数分。彼女は今度は男の人を連れてきた。
彼は私と手を繋いでいる少年を見てニヤニヤと声を掛けてくるが、少年にピシャリと断られて少しシュンとしている。
何故私たちが手を繋いでいるのかと言えば、ソワソワと落ち着きなく周りを見渡していたら、何故か手を握られ微笑まれたと言うだけだ。どこへ行きそうだと思われたのだろうか。
まぁそうして連れてこられた男の人は二、三少年と話した後、しゃがんで私と目を合わせる。
「どこから来たの?」
あ、これ中一くらいの教科書でやったやつ。
「日本」
『君日本人か。旅行かい? イギリスは初めて?』
小声で返した言葉に即座に反応して出てきた言葉は今まで聞いてきたよく分からない言葉じゃなくて、私が良く慣れ親しんだ母国語であった。
思わず目を瞬かせてまじまじと彼を見る。少なくとも日本人ではない顔だけれど、話している言葉は流暢な日本語だ。
『旅行、じゃないけど、イギリスは初めて…です』
『へぇ、じゃあ移住してきたのかな。家はどの辺? ご両親とははぐれちゃったのかな』
『あ…えっと…違くて……』
私が話しやすいようにだろうニコニコ顔で私に返事を促す彼をよそに、私の頭は混乱した。
これ、私の事話しちゃって良いのだろうか。信じて貰えないと思うし正直私が考えても頭おかしいんじゃないかと思うんだけど…。
でもニコニコ笑顔の視線の圧力から逃れられない…。
『うっ…あの、私、なんでここにいるのか分からなくて…』
『…記憶がないって事?』
首を横に振って、両手の指先を合わせて俯く。
『さっきまで、日本にいた』
「さっきまで…?」
眉を寄せて顎に手を当てる。そうして少し考えた後、確認するように話しかけてくる。
『じゃあ飛行機に乗ったわけでも船に乗ったわけでもないんだね? イギリスに入国した訳じゃない?』
『ん』
上目に彼を見つつコックリと頷く。確かに私は瞬きでイギリスに入国した。
「駄目だな、これは明日からウチで調べなきゃなんねぇ案件だ」
さっきの親子の方へ振り向きながら、真剣な声色で声をかける。私の手を握ったままだった少年がチラリとこちらを見て目が合った。少し苦しそうな顔をした彼の手に力が入って、ちょっと痛い。
「え、貴方が調べなきゃならないような事だったの…?」
「いやもしかしたらだけどな。俺必要な奴らに声掛けてくるから、しばらくコイツ任せても良いか?」
「えぇ、任せて」
「リックには俺から先に言っとくから」
んじゃな、と言うように私の頭を撫でて彼は去って行った。
というかイギリスに入国してないんだって言っただけなんだけど、何なんだろ。ていうかどうなるんだろう。
「えぇと、とりあえずうちに来てもらって…って感じかな…」
「言葉通じませんけど、どうするんですか」
「それは、なんかこう…身振り手振りで?」
私には全く聞き取れない会話を繰り広げる2人に不安になって少年の手を引く。振り向いた少年は困ったように微笑んで頭を撫でてくれた。
「えーと、僕はレグルス・ローレンです」
「る…れぐるす…?」
「レグで良いですよ。呼んでみて」
「レグ」
彼はレグと言うらしい。彼の名を呼べば、嬉しそうにまた頭を撫でてくれる。
「私はユーニス・ローレン。彼のお母さん」
「…うー?」
「ユ ー ニ ス」
女の人は自分を指さしてゆっくりと名前を繰り返す。彼女の名前はユーニスらしい。ちょっと発音しにくい。
それとやっぱりこの2人は親子だったらしい。髪の色といい雰囲気といい、正直あんまり似ていないような気はするけど。
「じゃあとりあえず帰りましょうか」
「分かりました。ほら、行きましょう」
立ち上がったレグに手を引かれて同じく立ち上がる。そして2人を見上げてふと思い出す。
『あの』
私の声に立ち止まり振り向く。咄嗟に浮かぶ英語なんて何にもなかった。
「レイ…レイ・イワツル」
きょとん、と音がしそうな程数秒固まり、それから何か納得したように大きく頷く。
「レイ…可愛い名前ね」
「よろしくお願いしますね」
……しゅき。