脱色
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谷内 千鶴、15歳。職業は高校一年生。
私は知っている。ここがBLEACHという漫画の世界の中だと言うことを。
そして今、全く関わらないという私の信念が無に返った事を。
「いやぁホントすみません、ウチの子が」
「いえ、別にお気になさらず」
「まぁさか野球の真似事して遊んでた子供の玉が頭に直撃して気絶するとは思いませんでした」
私もだよ。
そしてさりげなく私の運動神経が壊滅的な事をディスるな。
アレは玉とかそんな可愛いモンじゃなかったんだよ、とんでもない豪速球だったんだ。想定外の場所から飛んできた豪速球に当たったら人間死ぬから。
この人はバッターがなんでヘルメット被ってるのか知らないのかな。可哀想に。
「子供のした事ですから」
「そっすかァ? そう言って貰えると助かるっス」
謝ってる癖に本気で謝っている態度ではないような、おどけた雰囲気で帽子をさらに深く被る彼に愛想笑いを返す。
そもそも普通謝る時は帽子被らないから。
というか私はもう何ともないし、謝罪も貰ったからもう帰りたいんだけど。
そんな私の心境を察したらしい目の前の彼は私を通り越した先を見つめて声を張り上げた。
「ジン太ぁそんな所に隠れてないでちゃんと謝ってください」
その言葉にパチリと瞬きをして彼の視線を追いかける。
すると確かにちょっとだけ開いた襖の隅から視線を感じる。よくこんなの気づいたな、と思ったところで彼が100年前は隊長をしていた事を思い出した。そりゃ霊圧探れば一発か。
ジッとこっちの様子を伺う襖の向こうの影に戸惑って、どうすればいいのかと保護者に視線を向けると、何が面白いのかくつくつと喉の奥で笑われた。
「ジン太、ほら悪い事したらどうするんでした?」
楽しそうに、でも優しく、柔らかい口調で襖の向こうの影を諭す彼は、それはもう優しい顔でなんだかこっちまで優しい気持ちになれそうだ。
すすす、と襖を開けて近付いて来た小さな影が私の前に正座して視線を下げる。
「ごめんなさい」
絞り出したような小さな声。
彼としては私が倒れた時本当に心配しただろう。もしかして殺してしまっただろうかと不安になったハズだ。
反省しているのがヒシヒシと伝わる。
でも。
「…駄目」
私の口から出た言葉に小さな彼は体を硬くする。
不思議とテーブルを挟んだ向こうの男は何も言わない。開かれた襖の向こうにはいつの間にか、心配そうな顔をした少女がこっちを見ていた。大丈夫だと微笑んで見せたら泣きそうに顔が歪んでしまってとても申し訳なくなる。
腕に力を入れて、目を強く瞑った目の前の彼に視線を落としてちょんと肩をつついてみる。大袈裟に肩が跳ねた。
ちょっと笑いそうになって、いや笑ったのが聞こえたらしい。彼が私を睨み上げて視線がかち合う。
「…やっと目が合った。ねぇ、謝る時ってどうするんだっけ?」
きょと、と目を丸くする彼がなんだか可愛く見えた。
「ご、ごめん、なさい。怪我、大丈夫ですか」
「ありがとう。もう全然平気だから心配しないで」
上目遣いでちゃんと目を合わせて言えた彼によく出来ました、と頭を撫でてやると茹でたタコの如く赤くなって「俺は子供じゃねぇ! 気をつけて帰れよ!」と叫び去って行った。
少女も彼の名前を呼んで振り向いた所で私に気づき小さく頭を下げてから走り去った。嵐のような子供たちだなぁ。
「しっかりしてますねぇ」
「すみません、ご迷惑でしたか?」
感心したように紡がれた言葉に振り向く。
「いやいや、助かりました。何しろジン太は跳ねっ返りが強くて素直じゃないので…」
「そうでしょうか…」
重いため息を零した目の前の人に首を傾げる。
彼はあまり身内を悪く言うようなこと、しないと思っていたのだけれど。
「自分の過ちをちゃんと反省して、間違いを指摘されれば実行する。素直な良い子じゃないですか。子供を素直に育てるのは難しいです。沢山褒めて大切にしてあげてください」
私は、こんなに大切にしてもらえなかったから。せめてこの子達がこれからも素直で真っ直ぐに育つ事が出来るように。
「もちろんっス」
彼は目を細めて嬉しそうに微笑んだ。
その後ジン太くんや雨ちゃんに懐かれ見つかると「寄ってけよ!」と浦原商店に連れ込まれ、色んな話を聞かされる事になるのは別の話だ。