また、来世で 《前》
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「たまちゃんご飯食べに行こー」
「…転入生は良いの?」
お昼休みが始まった瞬間に机に突っ込んでくる茶髪の友人、巴に目を向ける。
「え? あぁいーのいーの。どうせ一護と秘密のお話するんだろうし、お昼行こう」
「そ。今日はどこ行く?」
「あたし外のベンチがいー」
「じゃあそこで」
「ひゃっふー!!」
大袈裟に喜んでお弁当を振り回す巴を横目に鞄からお弁当を引っ張り出し、席から立ち上がる。
突然だが私たち2人は所謂前世の記憶というものがある。
それはこの世界の死神が仕事をし損ねたという話ではなく、恐らく別世界から転生してしまったというものだ。
それぞれ世代も違うし、死んだ歳も違う。でも2人に通づる共通点はいくつかあった。
まず、お互いの世界にBLEACHという漫画があった事。
そして2人共その漫画が好きだった事。
その夢小説を読んでいた事。
他にもまぁいくつか。
そして幸い、私たちはこれからこの世界に起きる出来事、つまり原作を知っているわけで、そうなるとやる事は一つ。
「という訳で会議をしたいと思います」
「司会進行は全部巴で」
「えぇ!? …まぁ良いけどさ」
手入れされていない雑草がバサバサしている中庭のベンチに座ってお弁当を広げる。
見ての通り草が生い茂っている中庭にわざわざお弁当を食べに来る生徒は少なく、こういう内緒話をするにはもってこいの場所で、私たちがここに来る時もそういう話をする時だけだ。
まぁたまに告白現場にぶち当たって気まずくなるけれど。
「まぁルキアちゃんが来た事で分かったと思うけど、ちょうど昨日原作が始まりました」
「どんどんぱふぱふ」
「…で、偶然にも黒崎家でお泊まりをしていたあたしは巻き込まれまして」
「わーすっごい偶然ー」
「これからどうするかについて悩んだのでこの会議を開きました。質問は?」
「ないでーす」
深刻そうに述べられた言葉に棒読みで相槌を打つ。
あ、今日のだし巻き美味しい。
「昨日黒崎家にいて、よく今日朝から学校いたよね。黒崎くん遅刻じゃん」
「あぁ、家の片付けしてから行くって言ってた。あたしも手伝うって言ったんだけど、いーからって追い出されてさぁ……。昨日ボロ雑巾みたいにやられたのが記憶に残ってんのかな……」
「んふっ!! えほっげっほ!!」
「え!? ちょ、大丈夫!?」
美味しいだし巻き玉子が喉につっかえて大袈裟にむせる。涙が出るほどむせて、慌てて麦茶を流し込んだ。泣きそう。
背中をさすってくれていた巴は、私が落ち着いてきたのを見計らって顔を覗き込む。
「大丈夫?」
「なん、とか……てか、ボロ雑巾って何? 聞いてないんだけど……」
「いや今その話するとこじゃん……」
じとりと睨みあげると誤魔化すように視線を逸らされる。そんな巴の体を隅から隅まで舐め回すように眺めた。
見える限りの場所に包帯とかの怪我はない。痣も見当たらない。今のところ動きがぎこちなかったりすることも無い。朝から昼までの間に違和感も特になかった。
大した怪我は残っていないみたいでホッと一息つく。
「原作になかったけどさ、急にリビングで襲われてね。一心さんが身を呈して庇ってくれたんだけど、逃げる暇なくて。せめて遊子ちゃんと夏梨ちゃんは逃がそうと思ったんだけど……」
困ったように眉を下げてそういう巴に、強い怒りが湧いて口を引き結ぶ。口を開いたら、きっと怒鳴ってしまうから。
だから巴から目を離して、お弁当に箸をつけた。
「……怒ってる?」
「当たり前でしょ」
様子を伺うようにかけられた言葉に、ピシャリと返す。
なにを当たり前のこと聞いてんだ。私に命は大事にしろって耳にタコができるほど言ってきた巴が、そんな命をドブに捨てるようなことをすると思っていなかった。だってあの事件は、巴が介入しなくたって黒崎くんが解決することであって、わざわざ巴が命をかなぐり捨ててまで出る幕ではないのだ。
「巴は原作にいないんだから、そこで死んでたかもしれないんだよ」
「う……それは、ごめん……」
「また私が勝手に死のうとしても良いわけ?」
「や、駄目!! ……駄目、だけど……だって、気付いたら体が動いてたんだもん……」
弱々しくしょぼくれる姿にため息が出る。巴の幼馴染である黒崎くんや有沢さんは、幼少期から空手を習っていてそこそこ強い。その上、2人には護る者がいる。だからこそその正義感を振りかざしても問題ない訳であって、私と同じく……と言ったら巴に失礼だが、黒崎くんや有沢さんほど強くない巴が、2人と同じ正義感を振りかざしてどうなるか。そんなの分かりきっている。
「"見えてる"もの全部救おうとするなんて、私たちには無理だよ。力がないんだから」
知っていても、見えていても、救うことが出来ない事なんて沢山ある。こういうのはできる人がすればいいし、時には諦めも大事なのだ。
私よりも歳上なのだから、それくらいの事は弁えているだろう。
そう視線で訴えかければ、巴は力なく微笑む。
「でもあたし、せっかく一護の幼馴染になれて、たつきより霊感強いんだからって思っちゃうんだ。だからごめん……」
申し訳なさそうにまつ毛を震わせた巴と目が合う。
「なんの相談もせずにルキアちゃんに「昨日のアレ、何だったの?」って直接聞いたのは謝るよ! ごめんね!!」
「ん゙っ!!」
悪びれることなく笑顔で告げられたそれに、飲みかけの麦茶が鼻に入った。もう泣くほど痛い。思わず口元を抑えてうずくまると、巴がアタフタする気配がする。そうして目の前に差し出されたのは飲みかけのいちごオレで、脱力するやら虚無感やらで叫びたい気持ちになった。