また、来世で 《前》
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澄んだ青い空。
程々に暑くて、空気も澄んでいる今日は、実に飛び降り日和である。
「あ、巴! 環さん!」
昇降口で靴を履き替える巴を昇降口の外で待っていたら、どこか聞き覚えのある声がして振り向く。体育館の方から柔道着のようなものを着た黒髪の人が手を振りながらこちらへ走って来ていた。
「たつき! 今から部活?」
その声に反応した巴が私の横まで駆け寄ってきた為、必然的にその人は私の前で立ち止まった。
なんでや、私じゃなくて2人で話せば良いだろ巻き込むなよ。
友達が友達と話してるところに居合わせるのって気まずくない? ギャグ漫画日和かよ。
私とあなたは友達じゃないけど、あなたの友達と私は友達、みたいな?
「そう、2人は今から帰るの?」
「そうだよーこれからデートなの」
「毎日デートしてるだろ」
確かに。
隣で深く頷く私に「そこ! 納得しない!」と突っ込む。巴がツッコミするとは珍しい。
「てかたつき、急いでたんじゃないの?」
「そうだった!」
じゃあ! と有沢さんは爽やかに手を挙げて去っていく。なんの用だったんだろうか。
「なんか……」
「うん?」
こちらに背を向けて走り去る有沢さんの後ろ姿を見つめていた巴が、こちらを見ずに口を開く。
「なんか、嫌な予感がする……」
「……うん」
嫌な予感って、当たるものだよね。巴に引き摺られたのかザワつく胸を抑えて、小さく頷いた。
「あ、いたいた。おーい!」
巴が大きく手を振ると、その子は振り向いて花の咲くような笑みを浮かべた。
「お姉ちゃん!! 今日も来てくれたんだね!」
茶色の髪をツインテールにした小学生くらいの女の子は、パタパタと駆けてきての腰あたりに巴に抱きつく。可愛いな。
「今日は1人じゃないんだね? お姉さんはだぁれ?」
「この子はあたしの親友のたまちゃん!」
「ちょっと巴……」
首を傾げた可愛らしい女の子に巴が私の肩を叩いてみせる。いや、私たまちゃんって名前じゃないんだけど……と抗議しようと口を開いた。
「たまちゃん……! 可愛い名前だね!!」
しかし、女の子があまりにも可愛い笑みを浮かべるものだから、振り上げた拳を振り下ろす事が出来ず……。
「うん、たまちゃんだよ……」
「たまちゃんが負けた……!!」
白旗を掲げることになった。
「あ、そうだ。はい、これプレゼント」
「わぁ……! なぁに?」
ため息をつく私をよそに、巴は制服のポケットから何かを取り出して女の子に見せる。女の子はしゃがみ込んだ巴の手元を嬉々とした顔で覗き込んだ。
「……可愛い、紐?」
「そう、ミサンガって言うんだ。たまちゃんに教えて貰いながら作ったの」
「願いを込めて手首とか足首に巻いて、自然に切れたら願が叶うっておまじないがあるんだ」
「あたし達も色違いで作ったんだ。お揃い」
袖をまくって手首のミサンガを見せる。巴が言った通り、それぞれ3つとも違う色だ。
「だから、寂しくないよ。向こうに行っても、コレであたし達繋がってるでしょ?」
巴が女の子の手首にミサンガを縛りながら顔を覗き込む。女の子は少しだけ不安そうに瞳を揺らしたが、ミサンガに手を添えて嬉しそうに微笑んだ。
「んじゃ、あとは黒崎くんに頼むだけだね」
「って行っても、一護今日は忙しいから明日って言ってたからなぁ……何の用事だろうね?」
首を傾げた巴と同じく首を曲げようとして、固まる。
嫌な感じがする。
そう、例えるならば、黒板を引っ掻いた音を聞いた時に体の奥がゾワゾワするような、本能的に嫌だと思う限界のような、そんな感覚。
"死"の気配の漂う人? そんなレベルじゃない。そんなの比べ物にならない。
たった一体、その辺を我が物顔で闊歩する虚とも違う。だって彼等はこんなに濃厚な"死"の感覚を呼び起こすものじゃない。
なら、それならこれは、一体……?
「たまちゃん……」
同じように顔を凍らせた巴が私の制服の裾を引っ張る。小刻みに震える瞳と目が合って、まるでパズルのピースがハマるように唐突に閃いた。
「……今日! 疑似餌の日だ……!!」
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