また、来世で 《前》
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「すいませんねぇ、こんな事…」
「いいえーこちらこそいつもうちの子を泊まらせていただいて」
「いえいえ! うちこそ巴ちゃんにはいつも良くしていただいてぇ」
「たまちゃん! 部屋案内するよー」
目の前で繰り広げられる保護者の御礼合戦を丸っと無視して巴が私の手を握る。
チラリと目を向ければ、微笑ましそうに手を振る母と目が合って、何となく照れながら巴に手を引かれて行った。
「いやぁ、初めてだね! たまちゃんが来てくれるの!! こっちがお風呂で、1階のトイレはこっちね!シャンプーとかは使う時にまた教えるよー」
巴は、私が適当に相槌を打っている事にも気付かないくらい嬉しそうに跳ね回る。
もういい歳なんだから飛び跳ねたら床が抜けるぞ。
「ふぅ、これで一回りしたね」
「なんか途中いらない所あった気がするけど、まぁ良いとしよう」
うん、途中お母様の趣味で集めてるお宝(同人誌)を漁ったり、お父様の趣味の写真のアルバムを見せられたり、その中で私は見たことの無い黒崎母の写真を見つけてしんみりしたり色々あったけれど、何とか無事巴の部屋にたどり着いた。
巴の部屋は、随分と可愛らしい感じに纏められていた。
具体的に言うと、ピンクとか、赤とか、茶色とか……バレンタインを連想するようなカラーバリエーションで纏められている。
前世で死んだ時が28だったとは思えない乙女な部屋に、思わず固まったのは仕方の無い事だと思う。
「あ、あの……お母さんがね、可愛い可愛いって、買ってきてね……気付いたらこう、なってました……」
やめて見ないで恥ずかしいー!!!! と両手で顔を覆う彼女に一言。
来るのが分かってたんだから、この部屋に入れないようにするか模様替えすれば良かっただろうに……。
「ちなみにうちの部屋の窓から黒崎姉妹の部屋が覗ける」
「お前転んでもタダじゃ起きないよな」
片手で顔を隠しながら窓を開ける巴に大きく息を吐いた。君はそういう奴だよ、分かっていたさ。
「ここで生活していると姉妹と一日が始まるんだ……」
……軽蔑の視線は仕方がないと思います。
「たまちゃんってさ」
私の視線をものともせず、ケロッとした顔でベットに腰を下ろした巴は、自分の隣をぽふぽふ叩く。どうやら座れよという指示らしく、大人しく隣に腰掛けた。
「お母さんがいなくても普通に暮らしてそうだけど、わざわざしばらくうちに泊まってくの、なんか意外」
「……あぁ、それね」
平然を装って応えたつもりだったけれど、口から出たのはいつもよりワントーン低い声だった。なんて説明しようか考えて目を伏せる。
「お母さんがいないと、何か起こるんだよね」
「へ?」
「お父さんの仕事の関係で出かけてる時に体育で捻挫したり、旅行で出かけてる間に階段から落っこちたり、仕事で数日家空けてる間に……飛び降りちゃったしで、何かしら起きてるから」
目をつぶって、息を吐く。
お母さんがいない時に限って、いつも何かしらあるんだよな。
中学1年の曇りのあの日だってそうだ。
何故あんな事をしたのかと言われたら、すべてが嫌になっていたからとしか言えない。
あのタイミングだった事にも特に意味はない。
……なんか引き付けてんのかな、私。
なんか鳥肌立ってきたからそれを考えるのはやめよう。
「私、今信用ないから、さ。信用取り戻せるように、手伝ってくれると、うれしーなー、なんて……は??」
無理矢理口角を釣り上げて振り向く。なんか暗い話になった気がするし、巴が暗くなりがちな飛んだ時の話題を出したから、誤魔化そうと努めて明るい口調にした。
なのに、さっきまで真面目な顔をしていた巴は消えて無くなっている。代わりに隣にいるのは何故か大泣きする巴で、普通に困惑した。
「え、ちょっと……なんで泣いてんの……」
「お、お母様の、気持ちになったら、なんか止まんなぐで……うっ」
感情移入しすぎでは?
ナイトテーブルにあった巴のボックスティッシュを渡すと、それで鼻をかみながら巴は花が咲くように笑む。
「えへへ、一緒に乗り切ろうね」