また、来世で 《前》
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いや、別に来たかった訳じゃないんだよ?
本当に。
「では! 撮影準備を始めますので! 皆さんはこの紐より前に来ないでくださいねー!!」
ディレクターさんの声で見に来ていた観客はゾロゾロと移動し出す。
ここにいるほとんどの人が零感なんだろうなぁ。幽霊とか見えるタイプの人達はこんな番組見てらんないと思うし。
それか今日初めて身近で見るか。
巴の携帯を握りしめて周りを見渡す。
出来るだけ早く合流して、携帯を渡してこの場を離れたい…。
「あれ、環さん」
「なにぃ!? 環さんだとぅ!?」
私の心の声など聞こえていないかのようにクラスメイトの声がする。いや事実聞こえていないのだけれど。
まだ私の真後ろにいるから視界に入ってないし、このまま無視して移動しよう。
そう心に決めて足を踏み出したところでポンと肩を叩かれた。どうやら一歩遅かったらしい。
無視する訳にもいかず仕方なし振り向く。
「こ、ここここんばんは! 環さん!!」
「…こんばんは、浅野くん、小島くん」
どもりながら話しかけてきた浅野くんの方へ振り向くと、にっこにこの浅野くんとにっこにこの小島くん、そしていつも通り仏頂面の佐渡くんがいた。
「ごめん、佐渡くんもいたんだね。こんばんは」
「……あぁ」
全く表情も変えずに小さく返した彼に少しだけ苦笑する。本当に表情変わらないなぁ。
「でも驚いたな。環さんはこういうの興味無いのかと思った」
「え、どうして?」
パチリと瞬く。
え、私そう見えてる?
確かにこの世の全てに興味無いですって雰囲気出してるかもしれないけど。
「だってほら、この間青柳さんの事冷たい目で見てたでしょ」
「あぁ、アレ……」
先週のぶら霊の次の日のアレを見ていたらしい。まぁ、確かに冷たい目で見ていたけれども……。
「あれは音量が馬鹿になってたから……」
「あぁ確かに。青柳さんって、ちょっと啓吾に似てるよね」
「俺が青柳さんと!?」
「言っとくけど褒めてないから」
「なにぃ!?」
ニコニコと笑顔を崩さないまま、ポンポンと交わされる言葉に愛想笑いが浮かぶ。
小島くん、浅野くんを貶すのと同時に巴の事も貶してるけど、気付いてるのかな……。いやこれ分かってて言ってる気がする。
「あ、そういえば、巴知らない?」
「青柳さんを探してたんですね!! 青柳さんならあっちで見ました!!」
ふと目を離した隙に何故か取っ組み合いになっていたらしい。小島くんに寝技をかけられている浅野くんがこっちを見上げる。
「そうなんだ、ありがとう。じゃあ3人共楽しんでね」
「ありがとうございますぅ!!」
「ばいばい」
お礼を言って浅野くんの指した方へ向かう。
あぁ確かに人の間からかすかに見えるのが巴っぽい。
さぁ、さっさと携帯を渡して帰ろう、と駆け出した時だった。
「あ、さーせん……」
「わっご、ごめんなさい」
「いーえ、お気を付けて」
人でごった返す中、すれ違った知らない人に押しのけられて、近くにいた人に思い切りぶつかった。ほぼ反射的に謝ると軽い調子で返事をされる。
私を押した人は一度も振り向かず行ってしまった。流石にチラリと振り向いてくれても良いと思うんですけど……なんかよく分からない不幸に襲われて嘆け。
そう願いながらぶつかった人の横を通過して、思わず振り向く。
普通の人とは違う、人より死に近い匂いのする人物の気配がして、肌が粟立った。
そしてその気配というのは、果てしなく朽木さんに近いもので、イコールこの人も死神という括りの人間という事だ。
私が振り向いて自分を見ている気配を感じたのか通り過ぎたはずの彼もこちらを振り返り、帽子に隠れて見えないハズの彼と目が合ったような気がする。
緑の甚平に黒い羽織、帽子に隠れて見えない瞳に口元を隠す扇子、黒い杖と下駄を履いた少し変わった格好の彼……どう見ても浦原喜助ですねFA。
私の馬鹿野郎。なんで振り向いちゃったし。
ていうかなんで今も目を合わせたままなんだよ意味分かんないでも視線を外すなんて出来ない無理どうしよう助けて巴!
脳内プチパニックを起こしていると、彼の方が口を開く。
「何か?」
「……あ、いえ! あの、えっと、その、今どき、珍しい服装だなって、思いまして、ごめんなさい」
言葉を理解するのに数秒かかった。
途中でハッとして慌てて取り繕ってみたけれど、聡い彼なら私が服装を見ていなかった事くらい見抜いてしまっているのだろう。
「たまちゃん!! ってあれ? どうしたの?」
「あ……今ぶつかっちゃって……」
まるでタイミングを見ていたように私に駆け寄ってきた巴は、私と向き合っていた彼をジロジロと無遠慮に眺める。
そしてニパッと人好きのする笑顔を浮かべた。
「友達がすいません。大丈夫ですか?」
笑顔で私を隠すように立ち塞がって巴が彼を見上げる。彼は巴の乱入にも全く表情(といってもどんな顔をしているのかさえ分からないが……)も変えず、また軽い調子で答えを返した。
「ハイ、人が多いのでお友達には気をつけるように言ってください」
「ご心配ありがとうございます。良く言っておきますので」
それでは、とお互い笑顔で軽く会釈をして別れる。私は巴に腕を引かれながら彼に振り向き歩きながら会釈をして別れた。
「っはぁぁビックリしたぁ……」
さっきの彼から少し離れた場所……といっても多分聞き耳を立てていれば聞こえるくらいの距離だけれど……人の少なくなったそこで巴は膝に手をつく。
「ごめん。助けてくれてありがと。ちょっと困ってた」
「そーだよね。めっちゃ慌てたよ」
はぁーと大きく息を吐いて体を起こす巴の顔は少し青い。私の浦原喜助ドッキリが青ざめるほどビックリしたというのだろうか。
「大丈夫? なんか顔色悪い?」
「あ、うん……その、やっぱり見るの怖くなって来て」
「……そ、か」
今は何かブイブイ言っているだけなあの霊が、これから虚になる……と思ったら、巴は耐えられなくなったのだろう。なんだかんだ言って、幼馴染に似て優しいし。
はぁ、と大きく息を吐き出す。
「もう帰ろ。ウチ泊まってって良いからさ」
「え」
「ミサンガもまだ終わってないし、仕上げちゃお」
ぶわっと嬉しそうな顔をして大きく頷く巴の顔色はさっきよりずっと良くなっていて。
「今日は夜更かしだぁ」
「明日は学校ですよ」
「ぐぇぇ」
あぁやっぱり、巴がいないと駄目だなぁって。