また、来世で 《前》
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「ぼはははは!!」
おはよう、と挨拶した次の瞬間に見せられたコレに呆然と固まる。
間違えて音量MAXにしたイヤホンで音楽を聞いた直後の様に頭がキーンとしていた。
コイツの喉馬鹿になってるんじゃないのか…?
そんな抗議的な視線を感じたのか巴はちぇーと言いながら手を下ろした。
「ノリ悪いなぁ」
「いや、 だってブラ霊見てんの……?」
ジトリとした視線に正気かよ、という副音声を付けて巴にお見舞いする。それを見て心底信じられないという顔を浮かべる巴を私は信じられないよ。
「逆に見てないの!? 見えてるのに!?」
「いや待って声大きい。私何も見えないOK?」
「おっけー」
ヒステリックな叫び声をあげた巴の口を慌てて塞ごうとする。
いや辞めてホント私零感なんだから…。見えるだけで本当は零感なんだよ。
きょろ、と自分の周りを見渡して巴はホッと息を着いた。周りの人たちもみんな自分と同じく友達とブラ霊の話をしていてこちらを気にしていなかった事に安堵したらしい。
「たまちゃんも好きでしょ? ホラー番組」
巴は先ほどよりトーンを落として世間話に入る。
確かにホラーは嫌いではないけど、大丈夫なホラーと駄目なホラーがあるのだ。そしてそれは見てみないと分からないという博打であって、私の意思でどうにかできるものでは無い。
「あの番組のあの人はガチだから私は見たくない……」
う、と番組を思い出して顔を歪める。
あの人の"除霊"というものは、ただの霊を苦しめるもので、霊の悲鳴が響き渡るあの番組を、私は見ていられなかった。
「あの番組、そんなヤバかった?」
「あの、悲鳴が……ね」
母がブラ霊を見ていた時の、初めて聞いたあの悲鳴は、思い出すだけで鳥肌が立つ。死に手招きされている者の断末魔に、私もつられてしまいそうだった。
「あぁ……あたしは流石にテレビの中の悲鳴までは分かんないからなぁ……」
「実物見たらきっと逃げ出したくなるよ……」
逆にちょっと聞いてみたいかも……なんて言う巴に「聞こえないなら聞こえない方が良いと思う……」と返す。いや、私は普通の人よりもそっちに近いから引きずられそうなだけで、巴は大丈夫なのかもしれないけれども。
「じゃあ来週のブラ霊は見に行かないんだね」
顔に残念、と書かれた彼女に1つため息をついて頷く。
「お母さんは行くかもだけど、私は行きたくない、かなぁ。どこだっけ?」
「廃病院」
「あぁ、あのガラ悪い地縛霊がいる…」
「え、知ってんの?」
「うん。入口のとこにいるから外からでも見えるよ」
「へぇ……先回りして取材して来ようかな」
「ガラ悪い地縛霊と話したいなら行けば良いと思う。でもあそこ立ち入り禁止のチェーン張られてるよ」
ワクワクと瞳を輝かせる巴にため息を吐いた。
駄目だ、この子完全に不法侵入する気だ。
ブラ霊が空座町に来るのがそんなに嬉しいのか、巴を含めてクラス全体が浮ついている気がする。変な事しなければ良いけれど。
「そういえばなんだけど」
「なに?」
「昔さ、まだあたしとたまちゃんがあんまり仲良くなかった頃あったじゃん?」
「うん。あの事があった後くらいの頃ね」
言いづらそうに口にした巴になんでもないように返事をする。
中学1年のあの頃、とある出来事をきっかけに彼女は私に良く絡むようになった。それはある意味で贖罪のようで、私にはとても居心地の悪いものだった気がする。
私が何気なく言った"あの事"に過剰に反応して何とも言えない顔でこちらを見る巴を見上げた。
嫌だなぁ、アレは私が好きでやった事なのに、そんな罪悪感とか後悔とか、勝手に抱かれても困る。
「その頃に、ミサンガくれたでしょ?」
はて、そんな物をあげただろうか。
全く記憶になくて首を傾げる。
何せこの人生で1番グレていて、疲れていて、投げやりだった頃だ。記憶に残っている場面の方が少ない。…まぁ少ない分強烈なんだけれど。
「ほら、白とピンクと茶色の…あぁもうこれ」
口で説明しようとして、途中で諦めたらしい彼女は左手の手首に付けたミサンガを見せてくる。酷くボロボロになったそれには、確かに見覚えがあった。
「あぁ、それが切れたら私が死ぬって呪いをかけながら作った奴…まだ持ってたんだね」
「え!? 待ってそんな願い事込めてたの!? めっちゃ大事にしてて良かった!!」
はは、と薄暗い笑みを浮かべてみせると、巴はミサンガに手を当ててズザァと私から逃げた。
「もうそれ捨てなよ、また新しく作ってあげるからさ」
「え、作ってくれるの!? いや駄目駄目。たまちゃんが初めてくれた物だもん」
「はじ…!?」
いやいやいや、なんでそんなの覚えてるの!? 私そんな事完全に忘れてたんだけど!?
というか、人が作った物をそんなに大事そうに抱えられるとなんというか、なんか、心の奥がムズムズするというか、正直にいうと照れる。
「そ、そんな大事にするならお揃いの奴作るからそれもう捨ててよ」
「やだぁーお揃い欲しいけどこれは大事にするもんママぁー」
2人揃って裏声でヤダヤダするなんて周りから見たらヤバい奴にしか見えないだろう。
スン、と一瞬で無表情に戻った私に、巴はケタケタと楽しそうな笑い声をあげる。
「そうだ、本題を忘れてた。それでね、ミサンガの作り方教えて欲しくて」
予鈴が鳴った瞬間に思い出したようにそう口にする。本題にたどり着くまでが長かった、なんて眉を下げて苦笑してみせる。
「じゃあ一緒に作ろうか」