晴れの日に傘をさしませう
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「どぉーもー 松本でぇーす」
隊首室の掃除も大方終わり、後は配置を変えるだけになった。
配置、と言っても本棚はこっちの方がええな、机はもう少しこう、副官の机はこっち、と大した模様替えでもない。しかも本棚にも机にも何も入っていないのだから移動させるのも正直楽だ。
本来なら私や他の席官でやっておくべき仕事だろうに、通常業務が滞っている事を知っているのか平子隊長が移動を手伝ってくださる。
平子隊長はその細い体のどこにそんな力があるのかと言いたくなるほど力の強い方だった。
そういう所も市丸隊長にそっくりだ。市丸隊長も以前私の腕を掴んで何をしても離れない程の怪力だった。
そうやって机を部屋の隅に寄せて、せーので本棚を持ち上げたところで冒頭に戻る。
隊首室の扉が乱暴に開かれ、入ってきたのは上機嫌な松本副隊長。あまりにも強く開かれた扉はとても痛そうな音をたてて壁にぶつかった。
そしてそれを呆然と見ていた平子隊長の頭の上にどこかから落ちてきた本の角が直撃して、平子隊長の手が離れた本棚の重さに耐えきれず前屈みになった私は本棚の側面に思いっきり顔面をぶつけた。
これが阿鼻叫喚って奴なのでしょうか。
「もー何してんの。大丈夫ー?」
「大丈夫なわけあらへんやろ!! 何やねん急に! 隊首室入る時はちゃんとノックして静かに入って来ぃ!!」
あまりの衝撃に目の前がグラグラして座り込んだ私を心配して駆け寄った松本副隊長に、ビシィっと音がつきそうな程人差し指を突きつけて平子隊長が怒る。…いやこれは怒ってるっていうか、なんか日番谷隊長が怒ってるのに似てるというか…。
普段から日番谷隊長に怒られてる松本副隊長に、そんな怒り方は通用しない気がする。
「あ、確かこの間の…」
「おー平子 真子や。よろしゅうな」
何かを思い出したような顔をする松本副隊長には彼の心当たりがあるらしい。
「あたしは十番隊副隊長の松本 乱菊ですーよろしくお願いしまーす」と随分軽い挨拶をした松本副隊長は大変楽しそうだ。
「あ、それでなんですけど…」
珍しく雑談をせず本題に入った松本副隊長は、嬉々として話した。
今夜の新隊長歓迎の飲み会について。
新隊長は全員強制参加で、その他隊長副隊長は自由参加らしい。誘われれば他席官や隊士も参加可能だとか。
「あたし他の隊も回らなくちゃいけないからまた夜にねー!」
開けっ放しになっていた扉を、また大きな音をたてながら閉じて松本副隊長の霊圧が遠ざかっていく。
あの人、本当に飲み会の話だけして去って行った。
「騒がしいやっちゃな…」
「相変わらず、嵐のような方でしたね…」
2人して松本副隊長の去って行った扉を見つめてしばらく動けなかった。それぐらい松本副隊長の衝撃は大きかったのだと察して欲しい。
「ほんで智世はどないすんねん」
「…はい?」
平子隊長は未だに持っていた本を適当に本棚に突っ込んでそう聞いてくる。どうするって何がだ。というかそもそも下の名前で呼ぶって距離感が近い。この瀞霊廷内で私の事を名前で呼ぶ人はいないからなんだか気味が悪いな。
「今の飲み会や。俺は強制参加やけど、副隊長おらんし参加するならお前やろ」
ほらそっち持ち、と再び本棚に手をかける平子隊長に合わせて私も本棚を持つ。せーので持ち上げて運びながら口を開いた。
「すいません、私はまだ十番隊から引き継いだ書類の片付けが終わっておりませんので。それにお酒は控えてるんです」
「ん、さよけ」
少しつまらなさそうな返事が部屋に響く。私にお酒を飲ませてみたかったのか?あぁそれとも同伴が欲しかったとか。それならば適任がいる。
本棚を所定の位置に下ろして立ち上がった所でちょうど扉に辿り着いた霊圧に声をかける。
「犬伏四席」
「呼びました?」
「うぉ!?」
私の呼びかけにひょっこり顔を出した四席はいつものにこにこ顔をしている。私の呼びかけにすぐに反応出来て嬉しかったのだろうか。そんな彼を見て平子隊長は大袈裟に驚く。
「お前いつからそこにおったんや」
「今です隊長! ちょうどノックしようとした所で三席に呼ばれました」
「あ! 自分は犬伏 太樹四席です。平子隊長!」とにっこにこで平子隊長に詰め寄る四席に、平子隊長はタジタジしながら「おう、よろしゅうな…」と返事していた。意外とこの2人、気が合いそうなんだよなぁ。
「犬伏四席、今夜空いてますか?」
「今夜ですか? まぁ空けられますよ。別に今日中にやらなきゃいけない書類はもうないんで」
「それなら私の代わりに新隊長就任祝いの飲み会行ってきてくれませんか?」
きょとん、としていた彼は私の言葉に表情を明るくする。後ろから光が指していそうだ。
「え、良いんですか!? やったぁ、ここ暫く飲みに行く暇もなかったんですよぉ」
「…という訳なので、うちは副隊長、三席は欠席で、平子隊長と四席で参加して来てください」
大変不服だという表情を浮かべこそすれど、四席のはしゃぎ様に水をさすことが出来なかったらしく、平子隊長はこっくりと頷く事しか出来なかった。
私の完全勝利と言えるだろう。
平子隊長に初めてにして唯一の白星だった。