晴れの日に傘をさしませう
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新しい隊長が就任した。
どこかふわっとしていてすぐにどこかへ行ってしまいそうな儚さと、面倒臭そうな緩い雰囲気。藍染隊長が作り上げたキッチリとした隊の雰囲気をぶち壊してしまいそうな人だ。
「平子 真子ですぅ。100年くらい前までここで隊長しとりましたぁ。どうぞよろしゅう」
なんてどうにも胡散臭そうな笑みを浮かべて言った彼が、一体何を考えているのか私には分からない。
「副隊長は?」
「雛森副隊長は未だ傷が癒えておらず現在も休職中です。何か御用がありましたら三席の私にお申し付けください」
いつもより早口で、しかもハッキリと言葉を吐き出す。周りの隊士が一斉に私を見た気がした。もしかしたら刺々しい発言だったかもしれない。
少しだけ反省しつつ彼を見つめる。
金髪で、ストレートで、おかっぱで、前髪が斜め。身長は…猫背だからかもしれないけど、藍染隊長より少し小さそうな感じ。ひょろりとした細身の体は藍染隊長よりも弱々しく感じる。この細さと訛りは、市丸隊長を連想して私は少し嫌だな。
目はとても眠そうで、口元は「へ」の字に曲がっている。元がこんな顔なのか、はたまた私の発言に納得がいっていないのか分からないけれど、ちょっと不満そうだと感じた。
「ま、ええわ。じゃあ三席は隊首室に来ぃ。他は通常業務や」
「はい」
ややキレはないものの、きちんとみんな返事をしたのを見て新しい隊長…平子隊長は踵を返した。四席に視線で隊の事は頼んだ、と訴えかけると分かりました!! と言わんばかりにウインクを返してくる。…ちょっと心配だけど、隊のことは彼に任せて私は隊首室に向かう事にした。
「隊長、絹傘…三席です」
「おー入りー」
「失礼致します」
ノックをして中に声を掛けてからドアを開ける。
中にはこちらに背を向けて立っている平子隊長。
窓が開いているらしくザァ…と葉の擦れる音と共に長い隊長羽織が風になびいた。まるでそこに藍染隊長がいるかのようなそんな幻覚を見る。ほんの数秒が、何分も何時間もの時間に感じられた。
そんな幻もひとつ瞬きをすれば消えてしまう。今私の目の前に立つのはキラキラと太陽の光を反射して眩しい平子隊長であって、栗羊羹色の柔らかい藍染隊長ではないのだ。
そう唇を噛み締めて平子隊長に一歩近づく。
「さっきも言うたけど、平子 真子や。今日から俺が隊長んなる。あんた名前は?」
距離を詰めた事がわかったのだろう。顔だけで振り向いた平子隊長に、そう言えばまだ名乗ってなかった事を思い出した。
「失礼致しました。五番隊三席を任されております絹傘 智世と申します。今後ともどうぞよろしくお願い致します」
深く頭を下げて挨拶すると、小さく「またお堅い奴かいな…」と文句…?が聞こえてきた。見た目通り緩い性格らしい。顔を上げた瞬間、一瞬だけ目が合う。
すぐに逸らされてしまったが切れ長の目に収まった綺麗な薄茶色の瞳は、私を見透かそうとしているようで、お腹を探られたような気持ち悪い感覚に襲われる。詮索されるのはあまり好きではない。
私の考えていることが分かったのか、平子隊長は話題を変えるようにぐるりと部屋を見回した。
「なんや殺風景な部屋やのぉ。惣右介は真面目やな」
「…いえ、以前はもう少し物も置いてあったのですが、藍染隊長の物品は隠密の方々が回収して行かれましたし、雛森副隊長の私物は一度全て雛森副隊長の私室へ戻されましたので、ここにあるのは備品のみとなっております」
へぇ…と興味なさそうな声色で相槌をうち、平子隊長は本棚に指を滑らせた。ジッと指を見ている辺り、埃が溜まり始めているのが気になったのだろう。
「掃除が行き届いていなくて申し訳ありません」
「あぁ、ええってそんなん。昨日まで立ち入り禁止やったんやろ」
「…えぇ、まぁ」
私が聞いた話だと、同じく隊長が瀞霊廷を裏切った三番隊と九番隊はとっくに立ち入り禁止が解かれていたらしい。うちの隊がここまで長引いたのはきっと、藍染隊長が親玉だったと言うのと、他所と違って副隊長がまだ動けないから。隊長も副隊長も居ないのなら隊首室なんて使わなくても仕事が出来るから、だから後回しにされていたのだと思う。
「さぁて、ほんなら始めよか」
「え」
急にこちらを振り向いてニヤリと笑みを浮かべた平子隊長に困惑する。ずっとダルそうな表情を浮かべていた彼にこんな悪どい…と言ったら失礼かもしれないが…怪しい笑みも出来るのかと驚く。そしてそれと共に、一体何を始めるつもりなのかさっぱり分からないと眉を下げる。
「なんやその顔。新しい隊長がする事なんて1つやろ」
「はぁ…無知で申し訳ありません。入隊してから一度も藍染隊長以外の隊長を見た事がないもので…」
お互い訳分からないと顔を見合わせ、私が事情を説明すると納得のいったように頷いた。
「なるほどなぁ。三席やったら他所の隊首室見る機会もそんなあらへんしのぉ。隊首室っちゅうんは隊長がそれぞれ使いやすいように模様替えすんねん」
「模様替え…」
「十二番隊なんか見ると分かりやすいんやろうけど見たことないやろ」
「そ、そうですね…十二番隊はちょっと…十番隊でしたら機密書類を肩代わりして頂いていたので何度か見た事がありますが、その…あまりうちと変わらないように見えましたので…」
十番隊って誰やっけ?
日番谷隊長です。
んー?
あの、白い髪で少し身長が…
あぁ、あのガキやな。
が、ガキ…
等と日番谷隊長が聞いたらとても怒りそうな会話を交わす。機密書類をこなして下さってる日番谷隊長に失礼だ…とは思うが、公私混同は良くないのでわざわざ聞かなかった事にする。
彼は雛森副隊長の幼馴染だから、本来雛森副隊長が背負うはずの重荷を肩代わりしてくれているつもりなのだろう。それに彼自身なんだかんだ面倒見の良いところがあるから、それで…というのもあるのかもしれないが。
「ま、そんな訳やからここ模様替えすんで。ええな?」
「平子隊長の部屋ですから、お好きにどうぞ。力には自信ありますのでお手伝い致します」
「おおきにな」
さてどうするか…と部屋の間取りを考え始めた平子隊長を横目に雑巾とバケツを取りに行く。
まずは拭き掃除からだろう。