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傷だらけの幸せ

部屋の空気が、急に張り詰めた。

楓の浮気相手が静かに入ってきたとき、その不穏な雰囲気に澪の胸が騒ぐ。

「おい、ちょっと待てよ」

その男の声が、強く響いた。

楓は少し驚いたように振り向いたが、すぐに不満げな顔を作った。

「お前、何で来たんだ?」

「俺、てっきりお前、フリーだと思ってたけど」

男は眉をひそめながら、周りを見渡した。

そして、目が澪にとまり、表情が一変する。

「……おい、これ、どういうことだ?」

澪は何も言わなかった。痛みで体が動かない。

男が楓を指さして、怒りを込めて言った。

「こいつ、DV男だったのか?」

その声は、普通の人間にはあり得ないほど冷たかった。

楓はすぐに言い訳をしようとしたが、その男の手が楓の胸ぐらを掴んだ。

「お前、どこまで最低なんだ?」

その男の怒りは、澪の目の前で楓に向けられた。

「お前、どんな顔してこいつに手を出してたんだよ」

「おい、ちょっと待て」

楓は何とか反論しようとしたが、男の拳が真っ直ぐに楓の顔に命中した。

ガッ!

その音が部屋に響き渡った。

「ぐっ……!」

楓がよろけて、壁にぶつかる。その顔が真っ赤に腫れ上がり、目を見開いていた。

「お前みたいなやつ、男でも何でもねぇ。こいつに手を上げる資格なんかない」

男は息を荒げながら、澪に目を向けた。

その目に、怒りと共に、心からの心配が滲んでいるのがわかる。

「君みたいな子が、こんな傷だらけでいるなんて、絶対に許せない」

男はそっと澪のもとに駆け寄り、痛む体を気遣いながら彼女の顔をじっと見た。

「本当に、こんなことがあっていいはずがないんだ」

その言葉が、澪の心に突き刺さる。

——誰も、こんな傷を受ける必要なんてない。

男は慎重に澪の傷を見つめ、少しずつ手を伸ばして彼女の顔に触れる。

その手は、まるで壊れ物に触れるように優しくて、まるでガラス細工を撫でるようだった。

「お前、大丈夫か?」

澪は何も言えない。涙が止まらず、ただ頷いた。

その男の手が、そっと澪の頬を撫でたとき、彼女は初めて、誰かが本当に自分の痛みを感じてくれるのだと実感した。

「ありがとう」

その言葉は、震えた声でようやく口から出た。

男は優しく微笑んで、もう一度澪に手を差し伸べた。

「もう大丈夫。俺がいるから」

その言葉は、澪の心を温かく包み込むようだった。
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