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傷だらけの幸せ

大地の手が楓の腕を掴んだ瞬間、店内の空気が張り詰めた。

楓の目が鋭く細められる。

「……お前、調子乗んなよ?」

「調子に乗ってるのはお前のほうだろ」

大地は怯まなかった。でも、澪の心臓は早鐘のように鳴っていた。

——どうしよう、どうしよう、どうしよう。

大地が楓を止めてくれる。それは本当は嬉しいはずなのに、頭のどこかで警鐘が鳴っていた。

——このままじゃ、もっと悪いことになる。

「……大地、いいから」

「は?」

「私、大丈夫だから……楓と帰る」

「……澪?」

大地の声が困惑に染まる。

「帰る、ってお前——」

「ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇよ」

楓が勝ち誇ったように澪の手を強く引いた。

「……っ」

さっきよりも強い力。

大地の視線が痛いほど突き刺さる。

澪は唇を噛みしめながら、店を出た。

大地が何か言おうとした気配を感じた。でも、振り返ることはできなかった。

***

楓の家に着いた瞬間、玄関のドアが乱暴に閉められた。

ドンッ!!

壁に響く音に、体がびくっと跳ねる。

「……お前、ふざけてんの?」

楓の低い声が耳元で響いた。

「何、他の男と会ってんだよ」

「……違う、大地はただの友達で——」

「は?」

バチンッ!!!

視界が揺れた。

瞬間、頬に燃えるような痛みが走る。

「っ……!」

床に崩れ落ちそうになるのを必死に堪えた。

でも、楓は容赦しなかった。

「俺がどんな気持ちでお前を迎えに行ったと思ってんの?」

「だ、か、ら……っ」

言いかけた言葉が、次の衝撃で喉の奥に押し込まれる。

腹に、強い衝撃。

肺の空気が押し出される。

——息が、できない。

床に倒れ込んだ澪を、楓は冷めた目で見下ろしていた。

「二度と他の男とつるんでんじゃねぇぞ」

声が遠くなる。

涙が止まらないのに、手足が動かない。

痛い、苦しい。

だけど、それよりも、澪の心をえぐったのは——

「……なんで、こんなことするの……?」

楓の瞳に、一瞬、何の感情も浮かばなかった。

「お前が悪いんだよ」

その言葉を最後に、澪の意識はふっと途切れた。
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