海を仰いで
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キラと別れ、私達がプラント、ディセンベルへ戻って来てから数日後にパトリックよりアスランとラクス・クラインの婚約が決まったと知らされた。ラクス・クラインといえばあの最高評議会シーゲル・クラインの娘であり、平和を愛する歌姫としてその名を知らない人はいない。
その婚約も婚姻統制によるもので、事前に調べた遺伝子情報から相性の良い人同士を結婚させるシステムだった。あまりに突然の事だったのと、私としては好きな人ではなく決められた人と結婚するなんて、と最初は思ったが本人であるアスランも断る理由がないといった満更でもない様子だし私が口出しすることではないな、と思った。
更に婚約が決まったその数日後には両家の顔合わせが決まった。公の場に出るのは元引き籠りにはハードルが高すぎるが家の事だし今回はただの食事会よ、とレノアさんに宥められてしまえば私からは何も言えなかった。
食事会当日、ホテルへ向かう車の中で私は顔合わせとなる本人よりも緊張していた。だってあの「ラクス・クライン」だよ!?なんて身をソワソワさせるが落ち着かない理由はもう一つある。そう、人生初のドレスだ。
今までこういったものに参加したことなど一度もなかったので、私も食事会に行くことが決まった際にレノアさんが「エミリアのドレスを仕立てに行きましょう!」と意気揚々と街へ連れ出されたのは記憶に新しい。
娘と買い物に行くの夢だったのよ、アスランは何でも似合うとしか言わないんだから!と頬を少し膨らませた彼女の表情を見て「やっぱり食事会へ行くのやめます」だなんて言えるわけもなく、
内心焦りながらも街まで来たわけだが、せめてもの抵抗としてドレスはわざわざ仕立てず買ったものにしてくれと頼み、レノアさんも残念そうな顔をするも承諾してくれた。
一番大変だったのは予想はしていたが店内に入ってからであった。以前、実父ダリルの休みに家族三人でショッピングに行った時に着せ替え人形状態になりグッタリとなったのだ。母も母で父に対抗して「白も似合いますけど黄色も可愛らしいわよ」と張り合って止める人がいなかったのだ。
その日は私が真っ先に折れて「白にする!白がいい!」と言いきったことでなんとか終わったが今日もその時同然の事が起きそうでならない。
…とは思っていたが案の定、私は次々母や店員に運ばれてくるドレスを身に着けることになった。更衣室のカーテンを開いては閉じを繰り返し、何十着も着た頃には私はもう好きにしてくれ、と白旗を振るような気持ちになっていた。
「うーん、どれも似合うから困っちゃうわねぇ…」
「さようでございますね。お嬢様はお色が白くどんなドレスも栄えますし…こちらはいかがでしょうか?」
「そのデザインもいいわねぇ…」
なんてレノアさんと店員さんの会話を尻目に溜息を零すとふと視界に入ったアイスブルーですっきりとしたマーメイドラインのロングドレスが目に映った。単に綺麗だな、なんて思って見ているといつの間にかすぐ傍まで来ていたレノアさんに「気に入ったのがあったのかしら?…あら、あれもいいわね気に入ったならあのドレスにしましょうか」なんて即決されてしまった。
「ま、待ってレノアさん!私にはその、大人っぽすぎるし…」ともごもごとしていると迷わずに切り返される。
「大丈夫、エミリアちゃんはどこにお嫁に出しても恥ずかしくない素敵なレディよ」
なんて言われてしまえば恥ずかしながら私も「じゃああれで、お願いします…」としか言えなかった。その後はそのドレスにあうアクセサリーやパンプスも合わせて購入し岐路に着いた。
車の中で改めて自分の姿を見る。どこか変ではないだろうか、少し大胆なデザイン過ぎやしないか、そもそも主役であるラクス様より目立ったドレスになってやしないだろうか。頭の中でグルグルと考えていると「エミリア。」と突然呼ばれた。首を向けるとアスランが少しおかしそうにしていた。
「お前、さっきから凄い百面相だぞ?」
「だ、だってこういったことに参加したことないし、こんなドレスも着たことないから…!」
「ぷっ…それ俺の緊張を解そうとわざとしてるのか?」
「なっ、わざとじゃないし、というか笑わないでよ!こっちは真剣に悩んでるんだから!」
「大丈夫だよ、エミリアは普段通りにしていれば。それに…そのドレスもよく似合ってるよ。」
クスっと笑いながらも私に掛けてくれた言葉に顔から火が出そうになりながらも「ありがとね!馬子にも衣装でしょ!」なんて可愛げのない返事だけして窓の外へ視線を反らした。
ーーー
顔合わせの会場であるホテルへ着くとこちらです、と早くも案内されてしまった。とうとう対面か!と思いドキドキしながら案内された部屋へ入るとまだ誰も着席していなかった。
少し拍子抜けするももうすぐ来るのだと気持ちを切り替える。好印象、とまではいかずともポカさない限り少なくともマイナスにはならないはずだ。なんとしてもそれだけは死守しなければ。
そう着席した机のしたでグッと手を握りしめると「クライン様がご到着されました」と声をかけられた。一瞬でさっきまで考えていたことが飛び、真っ白になってしまったがハッとなりアスラン達に続いて席を立つ。
静かに扉が開かれるとそこにはとても優しげで柔らかそうに微笑んでいるシーゲル・クラインとそのすぐ後ろにピンクのこれまた柔らかいウェーブと雰囲気を纏った少女、ラクス・クラインがいた。
両家向かい合った形で食事会が開始された。席の一番端から様子を伺いながらラクス様を盗み見るが何を1つとっても綺麗で同じ女とは思えない。私自身と勝手に比べて自分に幻滅しつつも話を聞いているとその彼女から突然話掛けられた。
「初めまして、エミリアさん。わたくしはラクス・クラインと申します。わたくし、今日は貴女ともお会いできるのを楽しみにしておりましたのよ」
「へっ、わ、私にですか?」
あまりに急なことでどもってしまった。そんな返事にも「えぇ、そうです」と笑いかけてくださる。
「わたくし、同い年のお友達がおりませんの…エミリアさんさえ宜しければわたくしとお友達になってくださいませんか?」
なんて申し出だ!!正直にそう思った。横に座るシーゲルさんも「そうだ、私からもお願いしたい、どうかな?」なんて言われる。
「…滅相もございません。このようなお申し出、私には勿体ないくらいです。
…ですがこんな私で宜しければぜひご友人になっていただきたいです。」
そういうと「もちろんですわ!では今日からわたくしとエミリアさんは”お友達”、ですわね」と本当に嬉しそうに微笑まれ、私はその表情に見惚れてはいと返事するので精一杯だった。
食事も終え、帰りの車内で改めて今日の事を思い返す。噂通り、いやむしろそれ以上にラクス様はそれはそれは可憐な方で、アスランには勿体ない!なんて思いながらもこれまた喧嘩になるだけなので黙って窓の外を眺めた。
その時、食事会の時にも思ったがラクス様のお顔をどこかで見たことがあるような気がしたのだが、あの有名な方のお顔ぐらい雑誌か何かで見たのだろうと思うことにした。
ーーー
そうこうしている内に私とアスランは15歳になっていた。もう気付けば生前とほぼ同じ年になってしまったが中身は16歳で産まれたのだから今の私は実質21歳だ。正直この学校の制服を着るのも憚られる。
とはいえそうも言ってられないので袖に腕を通し、身支度を整えてダイニングへ向かうとそこにはもう今にも出かけようとする母と今しがた座ったばかりと思われるアスランがいた。少し目が合いおはようと言われたのでおはようとだけ返す。
因みに父パトリックの姿は今日も今日とて朝から見えない。その理由は先日設けられたプラントと地球連合との交渉の場にて起きた爆発テロを切っ掛けに地球連合からプラントへの宣戦布告、それによる処置や議論で日々大慌てなのだ。
我が父ダリルもいつも言っていたが何故同じ人間同士、いがみあう事しか出来ないのだろうか。ましてや話し合いの場でそんなことをするなんて、と思うが所詮同じ生き物でも考え方は違うのだ。だからこそ相手を理解しそして自身を理解してもらうということが難しく、わからないからこそお互いを恐れるのだ。そんないろんな人間をまとめようとしているのだからパトリックさんは凄い。
今季節は2月だ。母レノアは朝早くからプラント、ユニウスセブンで自身の農学分野の仕事で呼ばれており、朝早くからシャトルに乗り込む為ロングの上着を着込んだところだ。着込むといってもプラントなのである程度の四季もあり気温管理をしているので凍え死ぬほどの寒さではない。
「おはよう2人とも。私はこれからユニウスセブンに行って、帰りは少し遅くなっちゃうからお夕食は先に済ませてね。」
「おはよう、大丈夫よレノアさん。もう私やアスランも子供じゃないんだから」
「そう、それならいいのだけど…」
母の心配そうな表情に笑いかける。因みにもちろん生前では成人年齢は20歳とされていたがこちらの世界では時代の変化、そしてコーディネーターの身体能力の高さから成人年齢が15歳に設定されている。
その為私やアスランも世間的にはもう立派な成人なのだ。私からすればまだまだアスランなんて子供だと思うけどこれを本人に言うとまたつまらぬ喧嘩になるだけなので言わないでおく。
レノアさんが出発しようとドアに手をかけた後、ふと何かを思ったのか私に近づいてきた。横まで来るとこそこそと話始めたので耳をそばだてる。
「…ねぇエミリア、まだ難しいならいいのだけど、気持ちの整理がついたらでいいの。いつか私をお母さんと呼んでね。」
まさかその事を言われると思っておらず驚いた。レノアさんはそれだけ言うと私の横をするりと抜けて静かに部屋を出て行った。
自身も意図していた訳ではないがレノアさんが母親呼びを気にしていたなんて微塵も気が付かなかった。よくよく思えば私が5歳の時、この家に養子として引き取られてから一度もレノアさんを「お母さん」と呼んだことがなかった。
身寄りのない私にあんなに良くしてくれたレノアさんに私はなんてことをしていたんだ。何よりも無意識にしていたというのが尚の事質が悪い。私はこの数年間分の後悔が胸に残った。考えてみると当たり前だ、彼女も母親なのだ。それが養子であれ何であれ「お母さん」と呼んでほしかったに決まっている。
思うが否か私はダイニングを飛び出した。常々廊下は走らない、と言われているが今日だけは見逃してくれ、侍女長よ…!私は廊下を駆けぬけ急いで玄関へ向かう。するとまさに首にマフラーを巻き終えたレノアが扉に手をかけたところだった。
「お、お母さん…!!」
突然の呼び止めるような叫び声、そして今まで耳に聞き慣じんだ声から発せられたお母さん呼び、その二重の意味で驚いたと思われるレノアがまさか、といった顔つきで振り向いた。
「あの、えっと、…いってらっしゃい、ぉかあさん…」
要は勢いだ。アレコレと考えるから恥ずかしくなってしまうのだ、と頭では理解し、堂々と言い切るつもりだったがどんどん尻すぼみになってしまった。今この状況が恥ずかしい。
当のレノア本人は目を丸くして呆けているが数秒経った後、少し瞳を滲ませながら微笑んだ。
「…えぇ、いってきます。」
マフラーを抑えながら母が玄関を潜り抜けていった。
…まさかここまで緊張するとは思わなかった。母が出て閉じられた扉を見ながら胸を撫で下ろす。とはいえ目的を達したので今度はゆっくりとした足取りでダイニングへと戻る。少し顔が熱い気もするがこれはこれで悪くないなぁ、なんて思いながら”お母さん”の帰りのことを考えながら朝食を済ませた。
ーーー
学校で午前中の講義を済ませ、残る午後に向けて学食へ来た。私の通う学校は大きいので人も多い。今日の日替わり定食は何だっただろうか、と張り出されていたメニュー表を思い出しながら一先ずウォーターサーバーで水を汲み、グラス片手に席を確保しに向かうと学食の壁面に掛けられた大きなモニターに「緊急速報!!」の文字と大きな音が鳴り響いた。
私を含め食堂にいた殆どの人が何事かと”それ”へ注目する中、特設で作られたであろうセットの中でアナウンサーが記事を読み上げ始めた。
『緊急速報です。たった今入った情報によると先日より行われている地球軍との衝突ですが地球軍艦隊による”核攻撃”がプラント、ユニウスセブンへ直撃した模様。被害規模は現在確認中ですがプラント自体がほぼ壊滅状態により生存者はゼロに等しい、とのことです。繰り返します、地球軍艦隊による…』
私の手から水の入ったグラスが滑り落ちた。
食堂の中が騒然となり一人の少女の叫び声を皮切りに一斉にその場のニュースを聞いていた者たちが騒ぎ立て始めた。
周りの人の騒ぎに私も今このプラントの外でとんでもないことが起こっているのだと漸く理解出来たと同時に、朝玄関で見送った”母”の姿を思い出した。
私はいてもたってもいられず鞄を乱暴に引っ掴んで家までの道を走った。家まではかなりの距離があるがスクールバスを待っている時間と余裕など微塵もなかった。
ひたすらに走ったが道中思うのは仕事で向かった母の事ばかりであった。頭を振り乱しながらも帰り着くと既にアスランも帰宅していた。
「…ねぇアスラン、昼のニュース、嘘だよね…?」
アスランもその場にいた使用人たちも何も言わなかった。そのまま電源が付いていたテレビを視界に入れると続報の文字があった。食い入るようにしてテレビに張り付くとアナウンサーが喋りだした。
『続報をお知らせいたします!先ほどお知らせいたしましたニュースですがユニウスセブンへの核攻撃は命中、死者は凡そ渡航者を含め24万人に上るとのことです!これはユニウスセブンの人口を上回る人数で…」
アナウンサーは話を続けるがテレビで何か言っているが全く理解が追い付かない。母は朝少し照れくさそうな仕草でマフラーを押さえて出かけて行ったのだ。
私のお母さん呼びに喜び綻んでいたあの母が死んだ…?そんなわけがないと頭を振る。すると横から絞り出したような声が聞こえた。
「クソッ、奴らはなんでこんなことを…!母さんが、俺たちが何をしたっていうんだ!」
拳を握りしめ俯くアスラン。私よりも辛いはずだ、実の母親が死んだのだ、悲しくないわけがない。そしてそのワードが頭に流れて改めて現実を思い知った。そう、レノアは死んだのだ。
夜遅くにパトリックが一度帰ってきたが私は俯いたままだ。アスランが控えめに傍に近づいたが表情を見て察したのか歩を止めた。
「…忌まわしきナチュラルめ…!!こんな非道が許されるわけがない!!」
机を殴り今まで見たことも無いような表情をするパトリック。背を見つめるも何も声を掛けることが出来ない。言葉が見つからないのだ。何故こんなことに、何故、何故、と自身の頭で何度も繰り返す。
重い空気が流れ誰もが口を閉ざす中、アスランが何か意を決したような瞳でパトリックに向かい合った。
「…お父様。俺を、俺にZ.A.F.Tへ志願する許可をください。」
「アスラン…わかった、手続きはこちらで済ませる。士官学校で学んで来い。」
「はい、わかりました。」
トントン拍子に話が進んでいくがとんでもない内容だった。アスランがZ.A.F.T軍に?そんなのいくらアスランが頭が良くコーディネーターとしても優秀なのはわかるがそんなの死にに行くようなものだ。
唖然としているとアスランが部屋を出て行ってしまった。慌ててその後を追う。
「アスラン、待ってよアスラン!」
駆け足に気付いたアスランが止まるが顔は前を向いたままだ。
「…何もアスランが志願しなくてもいいじゃない。今までだって、」
そう言葉を続けようとしたところへ「何も変わらないからだよ!」と怒鳴られ言葉を切る。
「そうだよ、エミリアの言う通り今までは俺たちコーディネーターとナチュラルの問題とは言えどこか別の話だと思ってた。でも今は違う!俺たちがこうして暮らす間もナチュラルは手を差し伸べようとする俺たちに”核”を向けたんだ!
…確かに一部の人がやったことかもしれない。だが今回の事はそんな話では済まないんだ!母さんが死んだんだぞ!?なぜ母さんが殺されなければならない!
それに母さんだけじゃない。今回の核攻撃はユニウスセブンに当たった。あのプラントは農業プラントで何の罪もない民間人ばかりが住んでいたんだぞ!それを知らないなど奴らに言わせはしない。」
もう何を言っても聞かないといった目だった。だがアスランの言うことは最もだ。母やユニウスセブンの人達の命を奪っていい理由などない。それも”核”だなんて…
アスランは黙り込んだ私を見てそのまま自らの部屋へと戻っていった。廊下に立ち尽くした私は少し考えた後踵を返して元いた部屋へ入っていった。
部屋へ戻ると引き続きニュースが続いている。モニターには「今回の痛ましい事件は”血のバレンタイン”と呼ばれ…」とアナウンサーが話している。それを聞いて何かが引っ掛かった。そうだ、これまでも何回かあったこのつっかかりはなんだ。
今までの事を思い返してみる。私がこの世界に産まれ、ブルーコスモスのテロ、ザラ家の養子になりアスランと兄妹になったこと、コペルニクスで出会ったキラと過ごした日々、アスランとラクスの婚約、そして今回の事件・血のバレンタイン…私はこれらを知っている、どこかで、見たことがある…?
そこまで考えてハッとなった。そうだ、生前に兄と、そして受験の合間に見たアニメだ。あれはこの世界にとても酷似している。人種も世界も私の周りの人物も。
なんてことだ、今までの事は全てあの物語通りだったというのか。じゃあ母レノアは私が気付けていれば守れたということか…?私はなんてことをしてしまったんだ。私が覚えていて、せめてユニウスセブンへ行く日をずらせればこんなことには、母レノアは死ななかった…!
とんでもない事実に気付き唇を噛み締めて俯いている中、パトリックに声を掛けられた。
「…そこで立っていないで今日はもう休みなさい。」
その言葉にハッと現実に引き戻されるがその父の言葉にパトリックの顔を見る。そうだ、この人も最後には…
そこまで私は思い、考え直し、ある1つの答えに辿り着いた。
「…お父様、私からもお願いがあります。
私も士官学校へ行くこと、Z.A.F.Tへ志願することお許しいただけませんか。」
私に出来ることは限られているかもしれない。でも、だからといってこれから失われるかもしれない命を黙って見過ごせない。その時に何も出来ないのは嫌だ。だが今の私には何の力もない。
パトリックさんのように政治に口出し出来るわけもないしましてや私は養子だ。
そうだ、私も変わらねばならないんだ。
アスランがそう決断したように私も。
私に出来ることは全てやらなければ。
私の発言に少し驚いたそぶりを見せつつもすぐいつもの表情に戻ったパトリックから言われる。
「士官学校もZ.A.F.Tも、戦争はそんな甘いものではない。それでもやるんだな?」
私に本当にその覚悟があるのか、と言われた気がした。
だがもう後には引けないし引くつもりもない。
私は誰かを、みんなを、大切な人たちを守るための力が欲しいのだ。
「もちろんです。二言はありません。お願いします。」
そうもう一度深く頭を下げる。
すると「わかった。お前の分も手続きしておこう。」と言われた。
ありがとうございますと伝え、部屋を出る。
侍女長が慌てた様子でエミリア様、とついてきたがそれが普通の反応だろう。まさかあのパトリックでも女の子が軍に志願してOKを出すとは思わなかったのだろう。
「ごめんなさいね、これから忙しくなるけどよろしくね。」
そう告げると少しの間が空いた後にもちろんでございます、とだけ返ってきた。
部屋へ戻ると本当に久しぶりに精神統一をした。深く深呼吸をし、気を静める。
だいじょうぶ、できる。
そう暗示ながら落ち着かせると私は明日からの為にベッドへ潜り込んだ。
ー私の意思ー