海を仰いで
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「待ってよアスラン!」
「エミリアを待ってたら遅刻しちゃうだろ。」
「そんなこと言っても待っててくれるからアスラン優しいよね」
「はいはい2人とも気を付けてね。今日も遅くなりそうだからキラ君家にいてね。」
「はーい、いってきまーす!」
月面都市コペルニクスに着いて既に7年が経ち、私達はあっという間に13歳になった。それでもまたいつテロが起こるかわからないので移住してきた当初と同様に身分を隠して今も静かに暮らしている。その中でも母レノアさんの友達のカリダさんの勧めもあって私とアスランは幼年学校に通っていた。そこで出会ったカリダさんの息子、キラ君とほぼ毎日三人で飽きもせず過ごしていた。
アスランはなんだかんだ玄関を出たところで待っててくれた。
「ありがと、それじゃいこっか」
「これで遅刻したら母さんに言うからな」
「そんなに言わないでよ!今日はちょっと寝癖が手強かったったんだもの…」
「そんなのいつもだろう」
半ば呆れた様子で返すアスランの横に並んで2人で歩き始める。数分後公園の柵にもたれこむ姿が見え私は手を挙げて声を出す。
「キラー!おはよう!」
「あ、おはようエミリア、アスラン。今日は少し遅かったね?」
「あぁエミリアがぐずってな。」
「なにそれ、私が赤ちゃんみたいな言い方!」
「ふふ、相変わらず仲良いね2人とも。」
「昔はこんなんじゃなかったんだけどな…」
「ほんとそう!アスランもっと可愛かったんだから」
「そんなことない!それを言ったらエミリアだって…」
「はいはいわかったから学校行こう?置いていっちゃうよ?」
アスランと言い合いしている内に気付けば数歩先に進み始めていたキラに置いてかれていた。待ってよー!と言い横に並ぶ。結局学校に着くまでアスランとの昔は可愛かった、の言い合いが続いた。
ーーー
キーンコーンカーンコーン……
学校の終業の鐘が鳴ると私はキラの席へと向かう。
「キラー。今日もレノアさん遅くなるからって。」
「うん、いいよ。母さんもわかってると思うし。」
「いつも悪いな」
「そんな今更気にしないでいいよ。…あ、今日夕飯ロールキャベツにするって朝から母さん言ってたよ」
「な、本当か!」
「やったー!カリダさんのロールキャベツすき!」
「うん、僕も。」
「こうしちゃいられない、早く帰って手伝おう」
「あはは、アスラン気が早すぎ!キラー、鞄家に置いたらすぐそっち行くね!」
「うん、待ってるよ」
そう言って教室を駆け足で出ていく。廊下の反対側から「走らない!」と叫んでいる先生の声が聞こえる気がするが一刻も早く家に行かねば、と気持ちが足を急かした。
荷物を置き、数分の場所にあるキラの家に2人で行く。ここコペルニクスへ来てからは母レノアの植物についての研究が多忙で帰りが遅くなることが多々あり、放課後は専ら友人であるカリダさんにお願いし遅くなる日は私達をヤマト家で預かるのだ。
私とアスランは留学生として学校へ通っているがほぼ朝から晩までキラと一緒に過ごしており、最早3人とも兄弟のような関係になっていた。
夕飯作りにはまだ早いのでキラの部屋で今日の課題を済ませるのもこの頃の日課だ。
「ねぇキラ、ここ今日習った公式使って組み込んだんだけどなんか動かなくて…なんでかわかる?」
「お前…自分の課題は自分でやれ。」
「やったけどわからないから聞いてるんでしょー。アスランに聞いてもどうせ断られるし。」
「あはは。ちょっと見せてみて。」
「わーい、ありがとキラ!」
「キラ、エミリアを甘やかさないでくれ。」
「普段課題見てくれたりもするからね、このくらいいいんだよ。」
「キラやっさしー。誰かさんとは大違い。」
「お前なぁ…!」
アスランが立ち上がろうとしてた瞬間に私はわざとらしくきゃーお兄ちゃんこわーい、といいながらキラの後ろに隠れる。間に挟まれた当の本人は笑いながら私の組み立てていた犬の小型ロボットの機板をいじっている。
「…ほらエミリア、この線を右奥に付けなおして、それから今空いたこのスペースにこれ繋げてから公式も少し打ち直せば…」
『ワンワンっ!』
「あ!吠えた!キラありがとう~!」
「どういたしまして。…ところでアスラン、僕こそ君に見てもらいたいんだけれど…」
「キラが言うなんて珍しいな…どこがおかしいんだ?」
「ここなんだけど…どうしても配列変えると胴体に入りきらないし、可動域が変わっちゃうんだよね…」
「キラが言う時だけ素直に教えてずるーい」
「お前とは普段の行いに差があるんだよ。…この配線は変えてみたか?」
「うん、もう試したけどこっちの方が動き滑らかになるし値もこっちの方が高いから戻したところ。」
「なるほど。じゃあ…」
段々と話がややこしい機械オタクな内容になってきた。私も一応キラやアスランと同じように機械工学を専攻しているがその理由は身分を隠してまで移住してきた家族の子供がバラバラに通うのはリスクが高いという人生2度目を迎えている私がこれでも精一杯考えた結果だった。
もちろん最初は無理に学校に通ったり機械工学を選ばなくても、と言われたが元々活発であった方なので家でジッとしていられるわけがない、と我ながら判断して今に至る。
話し込んでしまうと2人は長いのがここ数年でよーーくわかっているので2人へ「私はカリダさんのところに行ってるね」と軽く声をかけて3人分のジュースの空いたコップを持って部屋を出た。
「カリダさーん、お手伝いすることありますか?」
「あらエミリアちゃん、コップありがとうね。そうねぇ、じゃあ少し早いけどお夕飯作り手伝ってくれるかしら?」
「はい!」
返事と共にもうヤマト家のキッチンに常駐となってしまったエミリア専用の踏み台を取り出して先ほど持ってきたコップを一先ず洗いだす。これを使うのもそろそろ卒業かな、と思うほど大きくなった。おむつ替えに内心ヒイヒイ言ってた頃からだいぶ長かったなぁ、と感慨深く干渉に浸っていると横から同じように感慨深げにカリダさんが話してきた。
「私もこんないい子で可愛い娘が欲しかったわ~」
「私もカリダさんみたいなお料理上手なお母さんだったら嬉しいです!」
「やだ、嬉しい!今日エミリアちゃんのデザート多めにしてあげるわね。お手伝いのお礼も兼ねて」
そう言いながらウィンクを飛ばしてくれる姿は茶目っ気あって可愛らしい。私も素直にやったー!と喜んでそのまま作業を始めた。
1時間程した頃にはアスランが喜んでいたロールキャベツとその他サラダやスープも食卓に並んだ。するとどこから沸いたのか、とも言いたくなるが匂いにつられて部屋に籠っていた2人がダイニングに来た。
「もー、今頃来たの2人とも。どうせ私が抜けてたのも気付いてなかったんでしょ。」
「ふふ、そう言わないであげて。さ、2人は先に手を洗ってらっしゃい。」
「あとでお皿洗いするね、母さん」
「俺もします…!」
そう言い残して手を洗いに行く。私とカリダさんは手間が省けたわねと目を合わせて笑い先に席に着いた。するとまだ数分しか経っていないが2人が手をぱたぱたさせながら戻って来て、これまた所定の位置となりつつある席へ着いた
「じゃ、いただきまーす!2人ともよーく味わって食べてね!」
「?それどういうこと?」
「ふふっわかるかしらねーエミリアちゃん」
「私は気付かないに一票!」
「なんなんだ全く……ん?これ…」
皿に乗るロールキャベツを見て何か勘づいたのか観察したのち小さく切ったロールキャベツを口に含んで飲み込んだ。
「え、アスラン何か気付いたの!?」
「僕わからなかったよ、すごいねアスラン」
「このロールキャベツ…もしかしてエミリアが作ったのか?」
「げ、なんでわかったの!すぐバレちゃったカリダさん~」
あらあら何でかしらね~というカリダを余所にアスランが続ける。
「そもそも形が悪い。カリダさんのはもっと綺麗に巻かれてるし今日のは心なしか味が濃いから凡そエミリアが目分量で調味料でも入れたんだろう?」
「うわー聞いといてアレだけど聞かなきゃよかった!というかアスランはロールキャベツ好きすぎ!」
「まぁまぁエミリア。僕はエミリアが作ったロールキャベツもとっても美味しいと思うよ。」
「キラァ…!私キラと結婚する」
というとすぐさまアスランが咽返った。キラではなく何故アスランが、と思っているとキラ自身は少し顔を赤らめるも僕には勿体ないなぁ、なんて言っている。
「エミリアは良くてもキラが良くないだろう!お前の面倒がどれだけ大変なことか…!」
「え!?子ども扱いしてる!?女の方が精神年齢上なんだからね!」
なんて言い合いが始まり、またいつものが始まったなぁ、とキラとカリダは食事を進める。数分後にたまたま早く仕事が終わり家に迎えに来たレノアさんに止められるまでこの言い合いは続いた。
レノアの迎えが来て家に戻るとアスランが手にキラの課題であるロボットを持っている。帰り道に聞いたがどうにもキラはプログラミングは得意だがこういった機械工作に関しては苦手としているようで結局アスランが作ってあげることにしたそうだ。
「それ提出までに間に合いそう?」
「もちろん。キラのプログラミングは済んでるしあとは俺が組み立てるだけだからすぐ出来るさ。」
「へー、私には難しくてさっぱり。」
「エミリアは面倒くさがっているだけだろう、やれば出来るんだからやればいいものを。」
「はいはい、頑張りますって。」
軽く返すと帰宅してすぐに別室に行っていた母レノアが私たちのいる部屋に来た。何やら深刻そうな顔をしていたので思わず背筋が伸びる。
私達の前まで来ると屈んで少し申し訳なさそうに話し出した。
「アスラン、エミリア本当に急な話なんだけど今週末にはプラントへ戻るとこになったわ。」
私とアスランは信じられないといったように話を聞いた。
「このコペルニクスでもまた怪しい動きがあって、テロや戦争が起きるかもしれないの。だから今のうちにプラントへ戻るように、って。折角キラ君とも仲良くなったのに急にごめんなさいね…」
レノアの言葉に私たちは静かに頷くしかなかった。
挨拶しておくのよ、と言われたがなんと言えばいいのか。考えてはみたが別れという衝撃が強くて何も浮かばない。別れの言葉など言ったことがないのだ、詰まっても仕方がない。
その夜はその後どう過ごしたかわからないが寝入る前に久しぶりに少し泣いた気がした。
ーーー
数日後、シャトルに乗る時間が迫る中、私たちはキラと会っていた。
「…やっぱり残れないのかな…」
「無茶言うなって。それに永遠の別れじゃないんだ、きっとまたいつか会えるさ、そうだろキラ。」
「…うん。だからそれまで僕と友達でいてくれる?」
「そんなの…!当たり前じゃん…!」
思わずわぁっとキラの腕にしがみ付いた。キラも何も言わず私の肩に手を置いてくれた。
ほら出来たよ、とキラの手の平に出来上がったロボット、トリィを渡しながらアスランが話す。
「そうだよエミリア、キラ。本当に戦争になるなんてことはないよ、プラントと地球で。」
避難なんて意味ないと思うけど、と続けて言う。
「キラもそのうちプラントに来るんだろう?」
「…わからないけど、きっとまた会えるって僕は信じてるよ。」
「…あぁそうだな、待ってるよエミリアと。宙で。」
その言葉を信じたいものの少し心許ないな、だなんて思っている時に思い付いたと言わんばかりに自分が身に着けていた帽子についていた星の形をしたブローチを外しキラの手に無理やり握らせる。
「えっ、エミリア?」
「私待ってるから!これ大事にしてるんだから!きちんと返しに来なかったらまた課題もって押し掛けるんだからね…!」
「ふふ、わかったよエミリア。待ってってね、きっと行くから。」
キラはブローチを握りしめる。その言葉の後私とアスランはプラント行きのシャトルへ乗り込んだ。
その後、私たちはあの瞬間まで再会することはなかった。
ー月と星と宙ー