海を仰いで
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勉強合宿後にあったテストではみんな見事な成績を修め、やばいやばいと連呼していたラスティも降格を免れむしろ良い成績を出していた。もちろんのように成績上位者であったイザークやアスランはそれで当たり前だと口では言ってはいたが降格することにならず安心したはずだ。
そもそも赤で、ひいてはコーディネーターであるエミリアたちが勉強が出来ないという理由で降格するはずがないのだ。つい生前テスト前に慌てていた友人を思い出したがよくよく考えてみれば心配など必要なかったと思い、やはりラスティがみんなで遊ぶ口実が欲しかったのか?とも思ったが何にせよ勉強にも訓練にもなりそして思い出にもなった。
少なからず遠くない未来でエミリアたちは戦士として戦場を駆けることになる。その時には思い出なんか作る暇など時間も心の余裕もないはずだ。
そう、今だけなのだから少しくらい楽しんでも良いと私は思う。
「いやー、本当みんなありがとう」
「ラスティ、お前はやればできるんだ、手を抜かずきちんとやれ。」
「わかってるよ、今後は気を付けますってアスラン殿。」
「全く…」
いつものおどけた様子を見てこいつは、と少し呆れた風のアスラン。一緒になって話に混ざっているニコルもどこか微笑ましそうにしていた。
そこでエミリアはふと思い出しニコルへ話を振る。
「あ、そうだニコル。来週の日曜夜って時間ある?」
「来週ですか?恐らく空いてますよ、どうかしましたか?」
「良かったらラクス・クラインのコンサート行かない?チケット貰ったんだけどもう一枚あるからどうかな、って。」
「ラクス・クラインのですか?チケット入手困難なのに凄いですね!」
「そ、そう?私も貰っただけなんだけれど…どうかな?」
「もちろん、僕で良ければ…」
「おい!ラクス・クラインと言ったか!?」
エミリアとニコルが話しているところへ急にイザークが割って入ってきた。そもそもこのチケットはラクスが私とアスランに、とくれたものだが生憎アスランはお父様に呼ばれていて予定がある、とのことだった。
婚約者のコンサートなのだから優先させてあげればいいのにとは思うもののお父様に口出し出来る訳もなく大人しく黙っていた。
しかしチケットは2枚あるし私もラクスのコンサートへは久々に行きたい。ここ数日会えていないラクスのご機嫌取りではない、断じて。
そして先日の勉強合宿でニコルのピアノを聴き、音楽が好きで携わる者ならばきっとラクスのコンサートも興味があるのでは?と考えニコルを誘った…のだが、なぜかイザークが《ラクス・クラインのコンサート》と聞いて目を輝かせてきた。
「な、なによイザーク、藪から棒に…」
「あぁ、イザークはラクス・クラインのファンなんですよ」
「ファンではない、…が興味はある」
「…あーなるほど。じゃあイザークはこのチケットが喉から手が出るほどほしいわけだ」
ひらひらっと目の前でチラつかせればぐぬぬ、と顔を顰めるイザーク。その姿を見たニコルが少し考えたそぶりをしたのち話しだした。
「…すみませんエミリア、そういえばその日は僕も用事がありました。」
「え、でもさっき僕で良ければって…」
「用事があったのを今思い出したんです。ですからエミリアとイザークで行ってはどうですか?」
「は?イザークと?別にいいけどニコルはいいの?」
「はい、ラクス・クラインの歌声は聴きたかったのですが用事があっては仕方ありません。ぜひお二人で楽しんで来てください。」
「ニコルがそう言うなら…。」
そうして図らずしもこのご満悦な我が物顔をしてるイザークとコンサートへ行くこととなった。
「俺が部屋で話した時は怒鳴ったくせに。イザークはやっぱラクス・クラインのファンなんじゃん」
隠すことねーのに、とディアッカが言えば何故それを今ここで言うんだ!と言わんばかりに当の本人が騒ぎ立ててる。
ニコルには申し訳ないがまたチケットを用意することが出来たら誘うことにしよう。図らずもイザークはラクスのファンだと言うしきっと喜んでくれるだろう。
やはり少しでも興味のある人、好きな人と言った方が楽しいしこちらも誘って良かったと思えるはずだ。
恥ずかしそうにぎゃあぎゃあと言ってるが内心喜んでいるだろうしたまにはいいか、と視線のあったニコルに肩をすくめてみせるのだった。
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「ここまでで大丈夫です、ありがとう運転手さん」
「いえ、私もこんなお綺麗な方をお送りすることが出来て嬉しかったです。どうぞ、お気をつけて。」
簡単に車内で話したのち会計を済ませてタクシーから降りるエミリア。
今日は以前話に出たラクスのコンサート当日。会場前に簡単ながらも正装で行かねばと思い一度実家に帰るとエミリアの久々の帰京に侍女達は大層喜んだ。
そしてラクスのコンサートへ行くことを伝えると「アスラン様は旦那様と出掛けられましたがお一人で?」と同行者を聞かれたので級友(で間違いないはず)と行くと伝えれば血相を変えて部屋へ押し込められた。
「それならば私が失礼ながら着替えのお手伝いさせていただきます。」
「いや、そんなに気合い入れなくても…。ラクスに会いに行くようなものだし…」
「なりません!殿方とご一緒するのであれば尚の事手は抜けません!以前からエミリア様はあまり着飾るのがお好きではないようでしたので申しませんでした。…ですがもう立派な女性として身嗜みに気を使っていただきませんと、」
「あーわかった、わかったよ。好きにしていいから…」
「もちろんにございます。手の空いてるものを呼んで参りますのでお召し物お選びになってお待ちください。」
「はーい…」
そうした話があり、あれよあれよとドレスやアクセサリーを選び着用したのちメイクや髪をいじられてあっという間に出来上がったその姿は、普段アカデミーで対人訓練で級友を投げ飛ばしてるとは思えない女性となった。
「すごい、綺麗になった…なんか、雰囲気いつもと違うね」
「エミリア様はお顔立ちがお母様に似てきましたね」
「えっ」
「娘は母に似るものです。共に家族として過ごしたのですから当たり前ですわ」
そう微笑まれてお母さんを思い浮かべる。自らの母は2人いてもちろん産みの母親に似るものだが育ての母であるレノアさんに似てると言われてこそばゆくなった。
「レノア様がエミリア様とお買い物に行った際にご一緒に購入された髪留めを本日は付けさせていただきました。」
「綺麗…ありがとうエリザベス。これそのままもらってもいいかしら?」
「勿論でございます。エミリア様に持っていただけた方がレノア様もお喜びになります。」
「ありがとう。」
そうして中央が深い宇宙のような青色をした宝石のついた髪留めを付け、普段は纏めている髪を緩く巻き下ろした。
ドレスは以前購入したものでも良かったが侍女長の勧めもあり髪留めに合う濃いブルーから裾にかけて薄いブルーになるグラデーションのかかった膝丈のフィッシュテールドレスにした。
オフショルになってるのでデコルテが出るが星型のシルバーネックレスをつけたのでワンポイントになったはずだ。
慣れない服や靴に戸惑っていると侍女長がすかさず「デート楽しんできてくださいね」と滅多に見せない茶化しを入れてきたので「違うわよ!」と顔を背けて家を出てきたのだった。
そして身支度を整えて会場まできた、というわけだ。自分の事のように嬉々として準備を手伝ってくれたが内心私の反応を見て楽しんでいたのでは?とさえ思えるほど良い笑顔で見送られたものだ。
さて、とポーチから携帯を取り出す。イザークと連絡先を交換してはいたので車の中でもうすぐ着くと一報入れておいたがイザークは既に着いてるとの事だった。
ラクスに会える、聴けると思い早く着いてしまったんだろうなと小学生が遠足を楽しみにしていたような感じだと想像して一人笑う。
会場入り口の扉を開くとエントランスには大勢いたが柱の近くに立っていたイザークにすぐ気付いた。彼の容姿や出で立ちは他とは比べものにならないほど整っているので見つけることは容易であった。
ツカツカとイザークの目の前まで来るとようやく気付いたのか目を合わせてきた。
「遅い」
「これでも開演20分前なんだけれど?」
「俺が来てから10分は待った。」
「30分待つつもり?ラクスファンの鑑ね、あなた。」
「ファン、ではない」
目を一度合わせた後逸らしたかと思えばエントランスに席があったのでそこへ移動して座るイザーク。
何も言わないし一応女性なのだからエスコートしてくれてもいいのに、と思いながらもそんな仲ではないしイザーク相手にアレコレとやきもきしても仕方ないとエミリアも続いて席につく。
「それで?イザークは今日楽しみで早くきてしまったようだけど?昨晩は眠れた?」
「おちょくるな!体調を整えて万全の状態で聴かねば真の意味でラクス・クラインの曲を聴くことはできない!」
「あーはいはい…」
相当な意気込みで今日へと臨んだ事を察してこれ以上ツッコむのをやめた。
しかしイザークがこれほどまでにラクスのファンであるとは知らなかった。本人は否定しているが恐らく随分気に入ってるのだろう。
それを知っていたら友達として会わせてあげても良かったかな?と思うものの下手な気遣いや特別扱いはイザークは嫌がるだろうしラクスにも失礼か、と思い直す。
そう考えている間にもラクスの歌声についてやら語っているイザークに適当に相槌を打つ。
イザークはそんなにラクスのこと好きだったんだ、と思ったところで何か胸がちくっとした。着慣れないドレスのせいか?と思うが一瞬の事だったので気のせいと思うことにした。
そうこうしているうちに開演時間が差し迫ったのでホール内へと移動する。ラクスから受け取ったチケットの席番号を確認すると舞台のほぼ真下、センターだった。
こんないい席のチケットをホイホイくれただなんて…!前世なら転売されて何十万という値が付いたに違いない、と少し見当違いな事を考えてたところイザークも「こんないい席のチケットをどうやって手に入れたんだ!」と食いついてきた。
出所を喋っても私自身問題はないが質問攻めが増えると思い、コンサートが終わってからなら教えてもいいと話をそらしたところでホール内の照明が落とされた。
「本日は御来場いただき、誠にありがとうございます。これよりプラントの歌姫、ラクス・クラインによるソロコンサートを開演いたします。皆さまどうぞ最後までお楽しみ下さいませ。」
アナウンスが鳴り響き舞台のカーテンが左右に揺れ動きながらはけていくと中央に人影が見える。スポットライトが差し込むように人物を照らすとそこにラクス・クラインがいた。
静かに一歩、二歩と舞台から席の近くまで来たところでオーケストラの前奏が始まる。とうとう始まったその時にエミリアはホール内に着席している全員が息を飲むのを感じた。
静かなこの夜に 貴方を待ってるの
あの時、忘れた ほほえみを取りに来て
あれから少しだけ時間が過ぎて
思い出が優しくなったね
星の降る場所で 貴方が笑っていることを
いつも願ってた いま遠くても
また会えるよね…
いつからほほえみは こんなに儚くて
一つの間違いで 壊れてしまうから
大切なものだけを 光に変えて
遠い空超えて行く強さで
星の降る場所へ 想いを貴方に届けたい
いつもそばにいる その冷たさを抱きしめるから
今遠くても きっと会えるよね
静かな夜に…
何曲か歌い終えたあとアンコールと鳴り止まない歓声の中、再度現れたラクスが選んだ曲は静かな夜にだった。
アンコールも歌い終えると観客から拍手が沸き起こる。横目に見やると漏れなくイザークも目を輝かせていた。
「皆さま、本日はお越しいただきありがとうございます。わたくしも皆さまとこうして過ごすのを楽しみにしておりました。また、どうかお会いできる事を楽しみにしておりますわ」
そう舞台上で挨拶をした時にエミリアを見つけていたのかハッキリと目が合う。ぱちんと効果音が聞こえそうな柔らかな笑みを浮かべながらラクスからウィンクを贈られた。
周辺の席に着いていた来場者は自分が受けたファンサだと勘違いしているのか色めき立っているがアレは私宛でこのあと元より伺う予定だった楽屋へ必ず来てね、という合図だろう。
あんな事までされては逃れられないな、と思いつつも今日誘ってくれたお礼と労いの言葉を伝えるつもりでいたのでもちろんだよ、と意味を込めてエミリアもウィンクを返す。
左右中央と会釈をするとラクスは舞台袖へはけて行き、幕が降りた。それを合図に閉園のアナウンスが場内へ響く。
今の時間、帰路へ着くべく席を立ったばかりの観客で混んでいるであろうエントランスへは行かず、ラクスには終わって早々で申し訳ないが早いうちに挨拶を済ませようとエミリアも席を立つとイザークも続けて立ち上がった。
「おい、今すぐ帰ろうとしても混んでる。エントランスで休憩してから帰るぞ」
「そうしたいところだけど挨拶行かなきゃいけないから先に帰っていいわよ。」
「挨拶?知り合いでも来ているのか。」
「まぁね。開演前に話したの覚えてる?」
「チケットの出所の話か?そいつがこの会場に来ているとでも?」
「その通り。その人にお礼言いたいからちょっと行ってくる。だから少し待ってて。」
「ならば俺も行く。今日俺が来れたのはその者のお陰だ。俺からも一言伝えたい。」
「あー、多分ダメじゃないんだけど…」
「なんだ、歯切れ悪いな。何か後ろめたいことでもあるのか?」
ぎゃあぎゃあと騒ぎ出したイザークに降参とばかりに「わかったから。会わせるけどここからは他言無用で騒ぎ立てないでね、絶対に。」と口酸っぱく伝えると苛立ちながらも了承したイザークが早くその者の所へ連れて行けとせがんだ。
なんだかんだ言いつつもイザークはラクスのファンのようだし、今回のチケットの礼を伝えたいのは最もだがその当の本人とこれから会うと言ったら大丈夫だろうか?否、大丈夫ではない気がする。
少なくともラクスの前では大丈夫であってものちに質問攻めに合うだろう、とこれから悩みのタネが生まれることに気付いてしまいながらも楽屋へと進む足を緩めることは許されない様子だった。
楽屋前まで辿り着くと流石にイザークも「関係者だったのか?」「この部屋の中には誰がいるんだ?」と怪訝な顔つきをしている。
この先の質問攻めを回避することは出来ないならもう当たって砕けるほかないので楽屋の扉を叩き名前を告げる。
「エミリアです。入ってもいい?」
「どうぞ」
軽やかなかつ聞き覚えのある声に隣でビクつくイザークを他所に扉を開けて中へ入ると先程まで壇上にいたラクスが鏡面の前に備え付けられた椅子に座っていた。
「エミリア、お久しぶりですわ。今日は来てくれるかずっとドキドキしておりました。」
「久しぶり。あの人は来れなかったけど私がラクスに会いたかったからね。チケットありがとう、そしてお疲れ様。とても良かったよ」
まぁ、それは嬉しい。とラクスが両の掌を口元で合わせて綻ぶように笑いかけてくれる。
そこであら?と後ろの人物に気付いたようでそちらを見た。
「貴方は…」
「この人は私の…「申し遅れました!私はイザーク・ジュールと申します。この度お招きいただき大変有難く存じます。貴女の歌声をこれほどお近くでお聴きする事が出来て嬉しく思います。」
…と言うわけで級友?のイザーク。今回誘った人の代わりに彼が来たの。終わって疲れてる所に押しかけてごめんね。」
「まぁ、ジュール様の御子息様ですわね。わたくしはラクス・クラインです。本日はありがとうございます。」
「とんでもありません!私こそラクス様とエミリアさんのご好意によりコンサートへ来ることが出来ました。コンサート、本当に素晴らしかったです。」
ラクスを前にして一度は固まるもののこのような挨拶は慣れているのかイザークはペラペラと饒舌に話し出した。なんだ、エミリアさんって。普段そんな呼び方どころかお前、貴様と言うくせに虫がいいな、と少しムッとする。
「エミリアからお話は伺っております。アカデミーでエミリア仲良くしてくださってるのでしょう?」
「もちろんです。アカデミーは遊ぶ場ではありませんが過酷な中でも級友達と苦楽を共にしております。」
「ふふ、イザーク様がエミリアへ大事に接してくださってるようでわたくし安心いたしました。」
「どうかな、外面用で猫被ってるよ今のイザークは。」
「先程から口の利き方には気をつけるんだなエミリア。ラクス様の御前だぞ」
「良いのです。だってわたくしとエミリアはお友達ですもの…ね、エミリア」
「そう言うことよイザーク。」
ふふん、と得意げに鼻を鳴らせばムッとした顔をされる。何よ、ラクスの前だからっていい顔しようったってそうはいかないんだから。
イザークは少し腑に落ちないといった顔をするもすぐ切り替えてラクスへ今回のコンサートの事、普段のラクスがしている活動や音楽活動の事など自分の見解を織り交ぜながら話し出した。
ラクスは気にしていない様子で相槌やお礼を述べながらイザークの話を聞いている。そんなイザークは嬉々として話し続けていて話がわかるとは言えなんだか私だけ外野にいるようだった。
普段誰が誰と話す、ましてやイザーやラクスが級友やアスランなど他の人と話していても全く思わないのに何故か今日はモヤモヤとする。
開演前にあった胸にチクリとした痛みと少し似ているこの感じはなんだろう。自身はコーディネーターとして産まれたこともあり病にも強い。
それでも何故だか今日は胸がざわつくのだ。何か悪いものを食べたか?と思い返してみたりするもいつもと変わらない生活だったな、と独りごちる。
そして数分間2人は話していたが流石にエミリアが我慢の限界だった。
(会うまではファンじゃないとか言ってたけど会わせた途端こんなデレデレじゃ説得力ないわ)
そう思いながら話に割って入った。
「イザーク、ファンだから舞い上がるのも無理ないけどラクスもコンサート後で疲れてるだろうから帰るわよ。」
「はっ、申し訳ありません。ついお伝えしなければと常々思ってましたのでお引止めしてしまいました。お疲れのところお時間いただきありがとうございます。」
「いえ、いいんです。エミリアも拗ねないで?わたくしはとったりしませんわ」
「そんなんじゃない…」
そのまま扉を開けて出ると不躾だな!とイザークが会釈と挨拶をしてエミリアに続いて出る。その様子をラクスはふふっ、と微笑みながら「おやすみなさいませ」と送り出した。
楽屋から数分歩いたところでイザークが怒鳴る。
「貴様!ラクス様に失礼だろうが!それに何故先にチケットを下さったのがラクス様だと言わんのだ!!大体に何故貴様がラクス様と友人だというんだ!」
「馬鹿、イザークに関係ないでしょ。ラクスは親同士が仲良いからよ、私もラクスも友達の1人や2人いるわよ」
「そういう問題ではないだろう!お前みたいなガサツなやつがラクス様と友人だなんてあの場を見なければ誰が信じるか!」
相変わらず予想通りにギャアギャアと騒ぎ出す。私とラクスが友達として不釣り合いって言いたいの?それにチケットくれたのはラクスだけどその内一枚を譲ったのは私なのにさっきからラクス様ラクス様、って。
「…猫かぶり終わった途端がならないでよ。もう知らない、じゃあね」
「はぁ!?貴様、おい待て!」
イザークの制止を聞かずにタクシーを拾って乗り込む。コンサート会場から車が発進するとバックミラー越しに会場入り口にイザークがポツリと立っている姿が映って見えた。
今はそれすらも腹が立って仕方ない。視界に入れぬよう反対の窓の外を見ながらエミリアは寮へと帰ったのであった。
ーまだ知らないことー