海を仰いで
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「今日はこの後自由か」
「そうだね、少し早く切り上げちゃったし。」
「何かする?少しは遊びてえよ~」
食事を食べ終えたアスランが確認のためとみんなに声をかける。エミリアが同意する中ラスティがもう限界だとばかりに言い張る。特にラスティは昨日から勉強尽くめだ、そろそろ息抜きしたいのだろう、盛大に溜息を零しながら机に項垂れている。
「ラスティは自業自得だろう。遊ぶ元気があるなら勉強するか?」
「そうね、元気ならまた稽古つけようか?」
「なんでそうなるの!遊びたいの、俺は!少しくらいいいじゃん、な!」
ラスティの言うように少しなら、と思いつつも冗談めかして言えばラスティがもうやだー!とニコルに縋り付く。
その様子を見ながらもどうするか、と思案していたところ抱きつかれたニコルがひっぺがしながらすみません、と声を出した。
「僕少し次のコンサートの準備をしたいんですが…」
ニコルはラスティを退けたのち僅かに片手を上げながら部屋に戻って楽譜読み込んだりなにやらしたいようだ。
エミリアはコンサートと聞いて思い当たるものはあるがニコルが?と首を傾けた。
「コンサート?」
「あぁ、エミリアは知らないっけ。ニコルはピアニストなんだよ。」
「アマチュアですけどね。」
「そうなんだ、ニコルのピアノ聴いてみたいな…」
エミリアがぼそっと呟くとディアッカが立ち上がる。
「隣の部屋にピアノあるからニコルそこ使えよ。」
「いいんですか…!ありがとうございますディアッカ」
「その代わり聴かせてくれよ。なあ、エミリアも聴きたいもんな」
「うん、ニコルがいいなら聴いてみたいな。」
「もちろん、僕の演奏でよければ。」
「ニコルの演奏が、いいのよ。」
そう言えば嬉しそうに微笑んだニコルが楽譜取ってきますね、と足早に部屋を出た。
遊ぶとまではいかないがラスティには丁度良い気晴らしになるだろう。
そう思いつつも散々稽古をつけられて心身ともに疲れたはずのラスティが真っ先にリビングを出て行った。
隣の部屋へ移動するとみんなもぞろぞろとついてきた。ニコルのピアノが聴きたいと口にするものもいれば素直じゃない人は「まぁたまにはいいか」などと話している。
ニコルがピアノの前に着席すると今度のコンサートで演奏するであろう楽曲の楽譜を乗せる。
一息吐き呼吸を整えたのち始まる旋律。
しっとりとしたスタートからスタッカートを効かせたメロディ、サビでは穏やかな曲調でありながらもテンポ良く弾いていくのがとても心地良い。
素人ながらラクスのコンサートにも行ったことがあったエミリアはラクスの伴奏を担当していた人の事を思い出し、ピアノ本来が弾く人によってこんなにも変わるものなのだな、と改めて感じていた。
ニコルの根がしっかりしたところ、少し大人びた雰囲気もありながらまだ僅かに感じられる子供のようなお茶目なところ、そして溢れ出る優しさを感じることが出来る演奏にエミリアもみんなも聴き入っていた。
曲の最後にポーンと音が響き、そして名残惜しいその音も消えていく。
曲が終わり、ニコルがピアノから腕を下ろす時には自然と拍手が起きた。
「すごいよ、ニコル!」
「上手いもんだなー」
「ありがとうございます。」
みんなに褒められて嬉し恥ずかしそうな笑みを浮かべるニコルも満更ではなさそうだ。
「ニコルのピアノ聴けて本当によかった」
「エミリアにそういっていただけて嬉しいです。」
「また機会があれば聴かせてほしいな」
「もちろん、僕はいつでも構いませんよ。」
照れ笑いを浮かべながらもそうハッキリと約束してくれたニコルの言葉に返事を返すと、横ではうとうとしているアスランの姿があった。
「もー、ちょっとアスラン!起きて」
「ん…ッ、すまないニコル!心地良くてつい…」
「気にしなくていいですよ。アスランにとって心地よかったのなら尚更です。」
「そ、そうか…」
申し訳なさそうに謝るアスランだが寝入ってしまったことも大方の予想がつく。
恐らくラスティに付きっきりで勉強教えていた分、自分は昨夜部屋で遅くまで勉強していたはずだ。
寝不足気味だったところへ演奏を聴き、思わず聴きながら眠ってしまったのだろう。
昔から周りに厳しくも断ることが出来ない優しい彼だからこそ今回も断れずにいたのだろう。ラスティが唸りつつも説明を受け「わかった!」と喜べば彼も微笑んでいた。
そんななんだかんだ優しいところは変わらないな、なんてエミリアが考えているところへ次のコンサートが近いことを聞く。
ニコルがアスランにはぜひ来てほしいですね、なんて言えば面目無さそうに「ぜひ」とだけ答えた。
その後は談笑しているうちに夜も更けたので解散、就寝となった。このメンバーといる時は時間が経つのが早いとエミリアはベッドの中で改めて感じる。
「やっぱり友達っていいね…」
むずがゆくなりながらも以前はあまりいなかった友人との時間に胸を温めながら眠りについた。
---
翌朝、今日も今日とて早朝から稽古のために庭に出るとラスティがそこにいた。
見るからに準備万端です、というような服装で仁王立ちする姿に察したが、一応挨拶も含めて声をかける。
「…おはよう、ラスティ。朝は苦手なんじゃなかったの?」
「おはよー。勉強はやっぱ好きじゃないから長所伸ばそうと思って。」
言い終えるか、というところで欠伸を浮かべるラスティ。しかし心構えは流石アカデミーに入るだけあるな、という印象だ。
勉強が好きじゃないというところも素直でラスティらしいと思う。
もちろん断る理由もなかったので2人でやる事にした。要所要所で注意をすれば「鬼教官〜!」と言うので脚をかけて倒してやる。
数時間経ったのち、昨日より朝稽古を早く切り上げてシャワーを浴びることにする。ラスティがやはり眠いようだったので先にシャワーを浴びるように促せば素直に「悪い、じゃあ先もらって少し寝るわ…」と二度寝を宣言してシャワーへと向かった。
それもまた早々に出てきてくれたのでシャワーから出てきたことを告げにきたラスティを見送ったのちにエミリアもシャワーを浴びるべくお風呂へ向かう。
朝から稽古に相手がいてくれてよかった。やはり1人でやるには限界があるし、相手がいるからこそ対人訓練になるのだ。
…そう浴室で朝の稽古に満足気に回想したのち、今日は少し早く切り上げたしまだ朝早いので誰も来ないだろう。そう考えて浴槽に張られたお湯に浸かる。
勉強では肩や首が凝るし朝稽古後だったので全身バキバキだ。浴槽の中で手足を伸ばして広々と使う。
思えばこんなに綺麗で広い浴室を独り占め出来ることなど早々ない。最終日に堪能出来て良かった、と思いながら手で掬ったお湯を顔にかける。
するとそのタイミングで脱衣所から音がした。誰か起きてきた…?と思いつつも出るわけにもいかない。そうこうするうちに音が止んだので気のせいだったかと思うようにし、エミリアも逆上せたり他の人が来ないうちに出ようと思い浴室から出る。
身体にタオルを巻いて扉を開き脱衣所に脚を踏み入れると、そこには戸を開けるまで音も小さく気付けなかったが歯磨きをしていたイザークと目が合った。
「…ヒッ」
「…ッ!オイ待て、」
「イヤーーーーーーー!!!」
何かを察したイザークの制止を聞かずに、平面同士がぶつかり合う時にするような、それでいて乾いた大きな平手音が脱衣所に響く。
何が何だかわからぬ内に平手打ちをかましたエミリアは思わず浴室へ戻り戸を閉める。
「ッ〜〜!オイ貴様!見ればわかるだろうが!!この俺に平手打ちなど!!」
「うるさいうるさいうるさい!なんでそこにいんのよ!!変態!!えっち!!!」
「お前が勝手に風呂に入って勝手に出てきたんだろうが!!」
扉越しにがなりあう2人にそうこうする内に脱衣所の外から音がしてきた。それに気付いたイザークは今はどう見ても部が悪いと顔を青ざめて急いで口を濯いで出ようとするが、それも虚しく口元を拭いたところで戸が開く。
「おい、開けるぞ!何が合った、んだ…」
頬に紅葉模様をつけたイザークと目が合うアスラン率いた一行はすぐに合点がいってラスティとディアッカはすぐさま腹を抱えて笑いだす。
「だっはっは!!ひー、お前見事なもんもらってんな」
「やべー!ぼくぅ、イザークくんがそんな事する人だなんて思わなかったですぅ〜」
説明する間も無くゲラゲラと笑いおちょくる2人にもちろんイザークは怒りを露わにし怒鳴る。
「アイツが悪い!!そもそも俺は声を掛けてからここで歯を磨いていたのに聞かずにアイツが出てきた!!」
「朝から何かと思えばお前ら…」
「女性の入浴中に脱衣所入るのはちょっと…」
「だ〜か〜ら〜!声を掛けたと言ってるだろう!!」
アスランとニコルにまで呆れた顔をされる。「とりあえずいつまでもここにいたらエミリアが出られないからリビングに行くぞ」とアスランに言われ一同ぞろぞろと部屋を出る。
パタンと戸が閉まる音と話し声が遠ざかっていく事でみんなが脱衣所から出たことを察したエミリアも恐る恐る浴室から出てくる。
「もう、なんなのよ…ばか、変態…」
しかしイザークは何か言っていたな、とも思うがこちらからすれば覗きではなくともあの場にいれば皆誰しも平手打ちの一つや二つお見舞いしていたことだろう。
身支度を整えてから恐る恐る喋り声のするリビングへと顔を覗かせると中では相変わらずイザークが真っ向から対面して怒鳴っていた。
「だから!俺は声を掛けたのに出てきたアイツが悪い!誰が好き好んで入るか馬鹿者!」
「歯磨きくらい後ででもいいじゃんな?」
「俺たまに忘れちゃうよ」
「それはそれで問題のような…」
「…ともかく、イザークの言い分もわかったしお前がそんなことする奴じゃないって事はわかってる。だが、中にいるのがわかっていたのに入ったのは完全にお前が悪い。」
「俺には俺の時間の使い方がある。アイツに合わせてとやかく言われる覚えはない!」
「あっ、エミリアおはよー。災難だったな」
こちらに気付いたラスティが発したことで皆一斉にこちらを見る。弱くおはようございます…と返せば相変わらずアスランは呆れ顔をしていた。
入りづらいなどと言ってられないのでリビングへ入るとくっきりとした紅葉模様を携えたイザークがそこに立っていた。
「貴様!この頬どうしてくれる!」
「い、イザークが悪いんでしょ!あんな所にいたら誰だって驚いて平手の一発くらい…」
「お前は力加減というものを知らんのか!!第一、声を掛けたのに無視したのはお前だろう!」
「聞こえなかったから気付かなかったんだもの仕方ないでしょ!それに!声を掛けたら使っててもいい、なんてまかり通るわけないじゃない!」
「誰が好き好んでお前の風呂を覗くか!」
「はぁ!?最低!イザークのすけべ!むっつり!」
そう言えば貴様ァ!と手をワナワナさせたイザークが今にも噴火しそうだがディアッカが後ろから羽交締めにしてどうどう、と止めてくれる。
ひとまずお互い謝る気はこれっぽっちも無さそうなので朝ご飯が食いたいとのラスティの言葉にみんなも同意し、エミリアはここ数日の日課となりつつある食事の用意をする。
エミリアとディアッカが食事の用意をする中、リビングではニコルがイザークの頬に湿布を貼って手当てをしている。
確かに実際には覗いた訳でもないし少しやり過ぎたかな、と冷静になって思う。…いやしかし女性の入浴中に入ってくる方が悪い!と改めて思い直す。
朝食の準備をする中悶々と考えてると横から「まぁアイツもわざとじゃなかったからさ、許してやってよ」と言うディアッカに免じて渋々許すことにした。
朝食後は軽めにサンドイッチにした。食べながらで行儀はあまりよくは無いが今日この後の話をする。
思えば今日が最終日で夕方前には寮へ戻る予定だった。となれば別荘を出る前に手荷物の準備をするがそれまでの間まだ時間がある。
その為その時間までまた勉強することとなり、終わる頃には「もう卒業までの一生分勉強したような気分だわ」とラスティが零していた、大変気が早い。
昼食も食べ終えた後荷造りと掃除をする。やはりイザークは何か文句を言っていたが使わせてもらった部屋の掃除くらいするべきなのでみんな個々の部屋へと向かえば、渋々というのを背中に背負ったような雰囲気で掃除へ向かった。
各自掃除が終わった後にリビングに集まり休憩といって紅茶を飲む。欲しいといったニコルやアスランにも淹れてあげた。
「案外終わるの早かったな、合宿」
「そうですね、たまにはこういうのも良いと思います。」
「俺はもうしたくない」
「イザークは掃除とか料理とか慣れないことさせられたから不満なんでしょ。手巻き寿司作ったの感謝してよね」
「巻いたのは俺だ」
ディアッカの言葉にみな賛同する中イザークは1人こんな事せずに一人で勉強したかった、と言っている。
寿司の話を持ち出せばいつものように切り返してきたので相手にするのも疲れるだけだと放っておいた。
そうこうしているうちに出立の時間が迫ってくる。アスランのじゃあ荷物を積むか、と言う言葉に賛成してみな準備を整える。
荷物を背負って玄関前に停めていた車までいけばみんなも持ち寄ったカバンを後ろのトランクへと積んでいる。
さり気なくディアッカが手を出してくるのでエミリアの荷物も積んでくれるのだろう。ありがとう、と言い渡せばなんてこと無い、という顔で笑ってくれた。
「行きは俺運転したからやだ。」
「お前の運転は荒い、元よりこっちから願い下げだ」
「わかってたのに乗った俺らも馬鹿だったよなあ」
「運転してやったのに失礼だな!帰りも運転してやろうか!」
「はぁ…わかった、じゃあ帰り道は俺が運転するからみんな乗ってくれ。」
「よっしゃ、回避」
「助かるよ、サンキューアスラン」
こう言えばアスランが言いだしてくれると分かってたのかラスティとディアッカが軽くハイタッチしてる。俺がやる俺がやる、じゃあ俺が、と出てくればどうぞどうぞ、というアレだ。前世でもテレビで見たことあるぞ。
アスランは仕方なしと運転席に乗り込む。それを見たエミリア達も車へと乗り込む。それならば、とニコルが助手席に乗るので2列並んでいる後部座席の真ん中にディアッカのラスティが乗り込み車内で食べるお菓子はどれにするなどと話している。
…となれば隣が必然的にイザークになるわけで、お互い朝のことがあり少し気にかかるが渋々隣同士に座る。
「みんな乗ったか?安全ベルトも締めろよ」
「でた、アスラン母さん!」
「振り落とされたくなきゃベルト締めるんだな」
「母さんこわーい」
ラスティとアスラン母さんの会話に自然と笑いつつもエミリアもベルトを締める。
動きだした車の中では最初はうるさかったラスティやそれに乗せられたディアッカもいつのまにか寝てしまったようだった。
アスランとニコルは静かに、それでいてアカデミーの話や今度行われる訓練の話など、様々な話をしているようだった。
それに比べて3列目のエミリア達はしんとしていた。
まだ朝のことを引きずっている事も確かで、今でもイザークの頬には大きな湿布が貼られている。
横目でチラリと見れば何とも痛ましい。自分が被害者のつもりだったがどんどんこちらが悪いことをしたような気持ちになる。
謝ろうかどうしようか、と悩んでいると「さっきからなんだ貴様」と話しかけられる。
「いや、何でもないというか…」
「チラチラと鬱陶しい。言いたい事があるなら言え」
「なによ、イザークだってあるでしょ」
「俺は今朝声をかけた。確認もせず無防備に出てきたのはそっちだろう」
「なによそれ、あんな朝早くに誰か来ると思わないでしょ」
「それがそもそも甘いんだ。こんな男だらけの合宿に何故参加した。もっと危機感を持てと前の実地訓練でも言っただろうが」
「男って言ってもイザーク達だし、別に一緒にお風呂入るわけじゃないんだし…」
「それが甘いと言ってるんだ。何があるかわからないんだぞ、もっと対策を取るなり不参加にするなりやりようはあったはずだ。」
「……ごめん、私の良いように解釈するとイザークは私のこと心配してる?」
「はぁ!?誰がするか、貴様のようなやつを!」
「だってさっきからイザーク達だって男なんだから気をつけろ、って言ってるわけでしょ?訓練の時の話もそうだし。」
そう言えばイザークはぐ、と黙ってしまった。しかし全く悪い気はしない。
そうか、今回の合宿中不機嫌な事が多かったけど心配してくれてたのか。
そう思えばここ3日間の言動にも合点がいく。
「そっか…イザーク、頬思い切り叩いてごめんね、痛かったよね」
「…別に。このくらいなんともない」
「さっきはどうしてくれる!って怒鳴ったくせに。それも顔に…ごめんね」
「男の顔の傷なんぞあっても気にせん。」
「そういや私ナイフ戦の初日にも頬やったよね、ごめんね」
「謝ってばかりで鬱陶しい。俺が良いと言ってるんだ、何度も言うな!」
はいはい、それならいいです、と言って改めてイザークを見るが窓の外を見ていた。まぁ口悪いし不器用だけど心配してくれたのだな、と思うと嬉しくなりながら自身もイザークとは逆側の窓の外を見る。
そういえばなんでイザークは心配してくれるのだろうか。ライバル視してるが級友だからか?単に女だとまだ甘く見てるのだろうか?しかしそんな素振りは入学当初以降ない。となれば何故?
そんなことを考えるも全くわからない。ラクスにも言ったがイザークは自分にも他人にも厳しい。それに今は私もだがプラントのために技術や知恵を身につけなければいけない場面だ。
あのイザークに限って、それも私に色恋だのということがあるわけがない。
となればやはり級友だからか、と考えをまとめる。もちろん今後戦地へ出ることになるならばお互い赤を着るもの同士で同じ場で働くことになるかもしれない。
そうなれば足手纏いは私としても願い下げだ。それならば今から不安要素を無くすため嫌々でも助言はするだろう、そう考える事にした。
何だかんだ自分のためとはいえ優しいんだな、と過ぎ行く外の風景を見ながら改めて足手纏いなんかにならない為にも帰ったらまた特訓だな、と意気込むのであった。
ーこの時をまた過ごせたならー
おまけ
「おい、寮に着いたから起きろラスティ」
「母ちゃん、あと5分…」
「お前の母さんになった覚えはない!」
「じゃあ僕が父さんですかね」
「え、私姉?」
「ディアッカは兄ですかね」
「え、何、俺末っ子嫌なんだけど!イザーク三男な!」
「巻き込むな、こんな兄はいらん」
「つかそもそもイザークに兄弟って想像つかないよな」
「それ。イザークは根っからの一人っ子って感じ。」
「でもエミリアは姉というより妹だよなぁ」
「そうですね、少しおっちょこちょいですし」
「え、みんなにはそう見えてるの!?」
「だってエミリア移動教科の時に教科書教室に忘れたりするじゃん」
「それで教官に指されないように願ってんのな」
「あと授業中ぼけっとしてることも多いですよね」
「こないだ靴紐解けてたのに気付かなくてつんのめってたの俺見たよ」
「もーやめて、お願いします」
そう口々にエミリアの醜態を上げるのでエミリアは両手で顔を隠す。
その横でディアッカはというと
(ま、教科書見せてやったり授業中音読場所教えてやったり、靴紐解けて転けそうになったのをキャッチしたのも全部イザークなんだよなぁ…)
とのほほんと思い出しては微笑ましく2人を見るのだった。