海を仰いで
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「頼むアスラン!勉強教えてくれ!」
実地訓練から半月が経ち、5月の暖かく過ごしやすい季節になってきた頃、それは唐突に始まった。
猛烈な勢いで手を合わせてアスランへ頭を下げるラスティ。突然大きな声で言うものだから何事かと思えばそんなことか、と思った。
正直ラスティも赤服を着るだけはあって成績は良い。しかし先日の実地訓練の後にあった小テストでは訓練でまずまずの成績をもらったことと、実地訓練直後のテストだったためか気を抜いてしまい、それはそれは酷い点数のようだった。流石に彼もこれはまずいと思ったのかアスランにそれこそ縋るような思いで頼んだ次第である。
「聞いてはいたが今回の小テストそんなに点数悪かったのか?」
「悪いなんてもんじゃないよ…こうしてこの教室でアスラン達とも話せるのは今日が最後になるかもしれない…」
「なんだ、静かになって丁度良い。それに貴様が腑抜けた結果だろう。」
「じゃあ今後イザークのこと誰が面倒みるんだよ!」
「なぜ俺が貴様に面倒見られねばならんのだ!」
そうこうしている内にいつものように話が逸れてきた。つまるところラスティは点数が悪く、もうじきある中間試験前に勉強して挽回したいということだろう。アスランは「別に構わないが…」と言うがイザークが「自分のことは自分でやらねば何れそれが原因で死ぬぞ!」と言っている。何故そこまで話を飛躍させるんだ、と思いながらも今後戦地へ赴く私達にとってはそれが命取りになる可能性があることも事実だ。
そこで今まで様子を見ているとニコルが話し出した。
「ではこうしませんか?ラスティはみんなから教わる、みんなももうじきある中間試験に向けて勉強し、わからないところはみんなから教えてもらえる。そしてラスティにも得意科目はありますしそれを教えたり練習相手になる。これでギブアンドテイクです。」
「なるほど、そりゃ俺も助かるわ。」
俺賛成、とディアッカが頭の後ろで手を組む。今回の中間試験では今後のアカデミー卒業にも関係してくる重要な試験で、いつもより念を入れて試験に臨まなければならない。その勉強会は私としても助かるし賛成だな、と控えめに「私も」とディアッカ続き挙手する。
「…わかった、教えればいいんだろう?でもこれだけの人数で資料室を使うのは迷惑だが他に集まれる場所もないし、寮ではエミリアが使用出来ないがどうするんだ?」
「そこなんですよね…」
当たり前のように集まるメンバーの中に私を入れてくれているアスランの優しさに嬉しく思う。しかしアスランの疑問にニコルも頭を傾げてどこが良いか考え込んでしまった。するとすぐにディアッカが何か閃いた、というように発した。
「それならさ、ここから近いし俺ん家の別荘使えよ。親父には俺から言っておくし、広いから全員で使うのに困んねえからさ。それにすぐ横は私有地だから対人戦くらいの組手とかならそこで練習も出来るけどどうよ?」
「ディアッカナイス!そうすりゃ丸く収まるじゃん!」
「丸く収まるのはお前が勉強できていれば良かった話だろうが!」
「まぁまぁいいんじゃない、たまにはさ。ここんところ授業ばっかりだったし実地訓練で疲れてるし。少しくらい息抜きも必要だって。それにただ遊ぶわけじゃないんだからいいじゃん。これでイザークもアスラン抜けるかもよ?」
「うるさい!言われなくても次回の試験ではアイツを叩き落してやる!」
ディアッカの提案にノリノリで騒ぎ出すラスティとそれでもまだ文句あり気に口を挟んだイザークだったがすぐディアッカに発破をかけられ上手くのせられてしまったようだ。寮では同じ部屋だと聞くしディアッカはイザークの扱いに馴れたもんだな、と少し微笑ましく笑った。
しかし問題なのは仮にその別荘を借りれたとしても泊まり込みでやるほどの時間が私たちにあるのだろうか?そう思っていたら案の定ラスティが「というかそれいつやんの?」と首を傾げていた。
「それなら問題ない。今度の週末アカデミーの開校記念日で金曜日が休みらしい。金土日とみっちり出来るからやるならその3日間だと思うがみんなの予定は?」
「へーアスラン良く知ってんね!俺は教えてもらう身分なんで予定は死ぬ気でずらしとくから問題ない!」
「僕もその日なら大丈夫ですよ。」
アスランの話で早速週末集まることになりそうだ。それを聞いたディアッカは「じゃあその日借りれるか聞いとくわ」と早々に教室を出ていった。恐らく早速父親に連絡しに行ったのだろう。
「じゃあ週末もこの騒がしいメンバーで集まるのね」
「そんなこと言うなよエミリア~。俺はエミリアからも体術教わりたいんだからな!頼むぜ、ほんと!」
「それはいいけど途中で音を上げてもやめないからね?」
「それはお手柔らかにお願いシマス…」
尻すぼみになっていく声にクスっと笑いながらも「まぁ程々にね」とだけ返した。合宿なんて生前もしたことがないので大人数でお泊り会だなんてワクワクするなぁ、とエミリアは少し本来の目的とは違う意味で週末が楽しみになったのであった。
そして翌朝、教室へ入ってきたディアッカが早速朝の挨拶のように「大丈夫だってよ」との言葉に何を示してるか察した一同はホッとしながらラスティの「ヤッター!これで降格回避だ!」を聞いていた。
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「んじゃ荷物は個室あっからそこに置いてきて。準備出来たやつからリビング集合ね。」
金曜日の早朝、ご厚意により借りれた別荘に着いた。その別荘の大きさに驚きつつも彼の家もまた評議員の一員であり、交流目的で用意された別荘の1つなのだろう、と深く考えるとラチがあかないのでやめた。今はこの広く綺麗な与えられた個室に感謝しよう。そう考え部屋の中を十分に観察し終えると荷物をベッド際に置き、すぐにディアッカの指示通りリビングへと降りた。
「あれ、エミリア早いな。女子なのに荷物少ないし。」
「たった3日だし行き帰りにそんなに重い物持ち運びたくないから最低限の物しか持ってきてないの。」
「なるほどね。でもそれなら野郎はいっぱいいるんだし持ってもらえばいいのに。どうせ寮までの行き来なんだからさ。」
「自分の荷物くらい自分で持つわよ。」
リビングへ着くと既に荷物を置いてきたであろうディアッカが1人待っていたが一番乗りでリビングへ降りてきたのが私だった事に驚いたらしく、声をかけてきた。雑談をしてるとニコルとアスランも降りてきたが2人ともディアッカと同じように私が降りてくるのが早い事に驚いていた。
この世界に来てからというものの、この人達の女の子への扱いが随分優しくてスマートすぎる。生前の世界であれば英国式?とも言えるレディファーストっぷりに日本育ちの私には慣れずこそばゆくなるばかりだ。
そうこうしている内に階段からギャーギャーと声が聞こえてきたのでラスティとイザークが揉めながら降りてきた。きっとまた碌でもない内容だろう事に察しがついたリビングの面々は「この後どうしますか?」というニコルの言葉を皮切りにディアッカが「それなんだけどさ…」と話し出した。騒ぎの連中はリビングに着き、ディアッカのセリフを聞いて何が始まるのかと一時休戦というような感じでソファへと静かに着いた。
「それなんだけどさ、今回ここ借りれた時に親父に条件出されててそれをみんなにも協力してもらいたいんだよね〜」
「そうなんですか、無理を言ってすみませんディアッカ。」
「そうだよ、謝る事ないって!むしろ喜んで手伝わせていただきます!」
「もちろん。ラスティ、お前は強制参加だよ」
ひでぇ!とラスティが言うものの今回の勉強合宿がほぼラスティの為に行われるのだ、その彼の為にこの別荘を借りた際の条件ならば無理もないと苦笑いを浮かべた。
「それで、その条件とはなんなんだ?」
「しょうもない事だったらただじゃおかんぞ。」
「絶対イザークが嫌いな事だけどやってもらうからよろしく」
少し悪戯っ子のような笑みで話し続けるディアッカ。
「まず、今回2つ条件があって1つ目は全員参加。今回の別荘借りるにあたってわざわざ人採ってないからハウスキーパーがいないんだよ。俺たちの為だけに雇うのも、ってわけで食事の準備は自分たちでやる事。」
「え!まじ!?俺カレーしか作れないんだけど!」
「すみません、僕も得意料理とかそう言ったものはありません…」
「大丈夫、そもそも期待してねーから。…まぁそんなわけで飯の事はみんなで協力して作ろうな、って話。」
「なるほどね。みんなで分担してやれば早く出来るだろうしいいんじゃない?私もやるし。」
「お前、料理出来るのか…?」
「イザークにだけは言われたくないわ!!」
まぁまぁ、と諌めるニコルの言葉に渋々引くが絶対イザークには言われたくない。イザークこそ料理のさしすせそなどわからない、包丁も持った事ない坊っちゃんだろうに!ともう一度イザークにだけは言われたくない!と思いながらもディアッカの話の続きを聞く。
「ま、そんなわけなんでこの後3日分の食糧調達しに行きたいわけよ。食事に関してはそんなとこ。んでその買い出しグループともう一つ別グループに分かれて欲しくて、そこが今回2つ目の条件。」
「俺嫌な予感するわ…」
「来る時になんとなく察したわよね」
「その別グループにはこの別荘の掃除をお願いしまーす!」
「俺はやらんぞ!」
ディアッカの発言に真っ先に拒否を示したイザークを見て想像付いていたのかディアッカははいはいとアッサリ受け流した。
そして私やラスティが察していたというのは家に入る前、玄関脇から見えていた庭が手入れが不行きなようで草が長く伸びている場所もあったし、別荘というのとハウスキーパーが居ない話から定期的に掃除はしていたものの、普段使いではない為に室内も掃除が行き届いて居ないのだろう。
リビングと個室自体は綺麗だったが恐らく今日の為に最低限そこだけは掃除したのだと思われる。
「ま、イザークはそんなこと言ってるけどどちらにしろ来た以上強制参加だから。」
「元より知っていたら来なかった!」
「あったりまえじゃん、言ったらお前こねーもん」
とカラっと笑いながら言うのでディアッカはイザークの扱いに慣れていると改めて感じながらもアスランが「これだけ広いと掃除する人数足りるか?」と最もらしい事を言う。
「つーわけで買い出し班が行ってる間に掃除してもらって、買い出し班も戻り次第そのまま昼飯の準備してもらおうかなって。そんだけ時間あれば掃除も大体終わるだろ。」
「なるほど。では早速グループ別れましょうか。」
「もちろん唯一俺がこの別荘の物の場所とかわかるから俺掃除グループね、したくねーけど。」
「じゃあ俺も掃除する。買い出し行っても何買えばいいのかわかんねーし。」
「俺はどっちもせんぞ。」
「俺はどちらでも構わないが…」
「僕もです」
そうみんな口々に希望を言うが買い出しに行きたくない理由が重い物を持ちたくないだとか、料理が出来ないばっかりに行ったところで何を買ったらいいかわからない、とのことだった。
「エミリア、お前買い出しに行ってくれ。お前料理得意だろう?」
「え、そうなの?じゃあエミリア買い出しよろしく!…つかなんでアスランがエミリアが料理得意って知ってんの?」
ラスティの当然とも言える問いにアスランはしまった!と顔をしかめたが今更遅い。みんなもなんで?もしかして仲良い?って顔をしている。
「得意って言っても手伝い程度だから期待しないでね。…それにアスランには前に焼きすぎたから友達にあげるクッキーを毒味してもらっただけよ。」
「あれは毒味だったのか!?」
そう言って先日ラクスにアカデミー入学をバラした事を理由つけてラクスへの手土産に焼いて持っていったクッキーを予め食べてもらった話をした。すると「なんだ、そういうことか」「俺も食べたかった〜!」と言い出しみんなそこまで気に留めてない様子で深堀りされなくてよかった、とホッとした。
「ではエミリアには買い出しに行ってもらいましょう。それなら僕荷物持ちでついて行きますよ。」
「荷物持ちならイザークに任せろよ、コイツに草むしりとか無理だし。」
「草ぐらいむしれるわ!」
「あはは、じゃあイザークに荷物持ちお願いしようかな。ついでに足になってよね。」
別荘から近くのスーパーまで車で行く事になるし3日分の食糧ではさぞ大荷物になるだろう事は容易に想像出来た。それならば車がなければ到底無理だろうし車があるならば荷物持ちでそう何人も一緒に行くことはない。掃除班に人数を裂けたほうが良いだろうしイザークが掃除するよりもニコルが掃除した方がより丁寧で綺麗だろう、という判断だ。そう告げるとイザークが横で何か言っていたがアスランも納得し、ラスティは「じゃあエミリアとイザーク買い出しいってらっしゃい。あ、ついでにお菓子買ってきてくれよ!」と早速注文つけてきた。
「じゃあ2人とも買い出しよろしく。車は表にあるやつ使っていいから。ケンカすんなよー。」
そう言ってディアッカはイザークに鍵を投げ渡すと早速掃除すっかなーと準備運動よろしく両腕を上へ伸ばした。
「そういえば何か食べたいものある?もちろん私に作れれば、だけど。」
「ロールキャベツ」
「俺ナポリタン!」
「僕は何でもいいですよ。」
「こういう時は言っといた方がいいぜ〜?とはいえ俺は肉料理なら何でもいいよ。」
「ではシチューをお願いします。」
みんな各々言ってくるが真っ先にロールキャベツと言ったアスランには笑いそうになった。相変わらずだな、と思いながらみんなに「りょーかい」とだけ返す。
「じゃあ買い出し行くけど何かあったら連絡ちょうだい。スーパー出てから言われても買わないから何か買って欲しい物があるなら早めに連絡してよね」
「いってらっしゃい!」
未だ勉強前で遊び感覚が抜けてないラスティに見送られ2人はリビングを後にした。個室へ財布やカバン取ってくる、とイザークに伝えると先に車に行ってる、と言われたので了解と返す。
荷物を取り玄関を出た先には既にエレカにエンジンをかけて待っているイザークがいた。相変わらず黙っていれば絵になるなぁ、と思っていると「来たなら早く乗れ」と急かされる。喋ると台無しだ、と思いながらも「はいはい、お待たせしました。」とエミリアもエレカに乗り込んだ。
車が走り出して数分後すぐにディアッカから電話がきたので出ると、スーパーもそうだが近くに市場があるらしく、そこが今の時間なら朝市をやっているから買い出しついでに見てきたら、との事だった。場所も聞いた上で電話を切りイザークに伝えるとわざわざスーパーよりも遠くに行くのか、と言われたが「早く帰るとその分草むしりさせられるんじゃない?」と言えばすぐにどっちだ、と市場の場所を聞いてきたのでこういう時は素直だな、と笑いながら教わった通り道案内した。
「運転お疲れ様。凄い賑わってるね。」
「そうだな、朝から凄い人だかりだ…」
なんだか人が多くて気分悪そうにしていたので聞くと静かな場所が好きなんだとか。普段うるさい部類に入るイザークがそんな事を言うとは、と思うものの、彼はどちらかと言えば本を読んだり部屋で一人静かに過ごすのが好きなんだろうというのも理解できたのでこれまた口を開かなければ、なんて思ったが言わずにおいた。
「それで、あいつらが言ってた料理をお前は本当に作るれるのか?」
「手の込んだ料理は言ってなかったし平気。そういえばイザークこそ何か食べたいのある?」
「…別にない。」
「何よ、歯切れ悪いわね。あるなら言ってよね、また買い出しくるの面倒なんだから。」
「…スシというのが食べてみたい。お前なら知ってるか?日本では一般的な料理だったらしいが俺は食べたことがないから興味がある。それから朝は軽いものがいい。」
まさかあのイザークの口から寿司が出てくるとは思ってなかった。だが自分も久し振りにお米を食べたい…とは思ったがあの大人数、それも男ばかりの大所帯で寿司は向かないしそもそもエミリアが上手く握れるとは到底思えなかった。
「ごめんイザーク、寿司は確かに一般的ではあるけど職人が握るからこそ美味しいし初心者が作るには難しい料理なの。」
「そうか、ならなんでもいい。」
なんだか気を悪くさせてしまった気がするしそうあからさまに出来ないならいい、という感じで言われると負けん気が出てきてしまう…。それなら、とエミリアは代案を言った。
「じゃあ寿司には派生料理があるからそれにしよう。それなら私にも作れるしきっとみんなも楽しく食べれるはず。」
「そんなものがあるのか?」
「うんあるよ。するなら今日のお夕飯かな。よし、そうと決まれば買い出しするよ!沢山買うから覚悟してよね!」
「来たからには仕方がないから持ってやる。だが貴様も持つんだからな!」
何かしら理由が無い限りタダでは持たなそうなイザークが寿司を作ってもらえるとわかったからか素直に荷物持ちしてくれるようで、先ほども思ったが案外分かりやすい性格だな、と思いながらエミリア達は市場を散策しだした。
「とりあえずみんなの希望メニューはロールキャベツ、ナポリタン、シチュー、肉料理、寿司だよね?」
肉料理って何がいいんだろう、私にも作れるものならばハンバーグが妥当だろうか、と1人考える。 同じことをイザークも考えてたのか「希望があれば、と言ったのに肉料理とは単に肉が食いたいだけだろう。適当に焼いた肉でも与えておけ」とあからさまに適当な扱いに笑ってしまう。
すると近くの店のおばさんが声をかけてきた。
「あら、仲良いカップルね。良かったら野菜買って行きなさい、サービスするわよ〜」
「なっ、違う!どう見たらそう見えるんだ!」
「あらそうなの?仲良く話してたからそうなのかと思ったわ。ま、それはいいから、ほら見てって!」
お似合いなのに、なんて言って店前に並んだ野菜達を見せながらおばさんはイザークの言葉に特に気にもしてないように自身の店を推してくる。
「そうなんです〜やっぱりそう見えますか?彼照れ屋なんで。」
「貴様!何を…!」
「いいから、適当に合わせといて」
軽く肘で横っ腹を小突き、腕に抱きつくと「はぁ!?」という顔をするがそれを聞いたおばさんは「やだ、そうなの?やっぱりね〜!」とゲラゲラ笑っている。
「早速なんですけどこれとこれを3個ずつ、キャベツ1玉とあと人参ときゅうりを2本ずつくださいな。」
「あら、何かパーティでもするの?」
「そうなんです、彼の友人が家に泊まりにきてるので沢山買い出ししなくてはならなくて。」
「そういうことかい!じゃあこれも入れといてあげるよ!んじゃ合計だとこんくらいね。」
「おばさまありがとう!はいお金。」
毎度あり!と元気な声を返してくれたおばさんに手を振りながら店を後にする。適当に話を合わせるだけで料金をオマケしてくれただけでなく野菜を幾つか多く入れてくれた、有難いことだ。数歩先で腕を解くと先ほどまでの様子を見てたイザークが「お前凄いな……」と若干引いた顔をしながら荷物を持ってくれる。
「こういう時は適当でもそれらしくしてるだけでああいった歳のおばさんは喜んでくれるし自分の店でまた買い物してくれるなら、ってオマケしてくれるのよ。」
そういうものなのか、とイザークは野菜なんて買いに出たことがないんだろうが納得してくれた。
「さ、次行くわよ!まだまだ買うもの沢山あるんだから!」
そう言ってイザークの腕を引きながら市場をくまなく散策して残りの材料を買い足していく。申し訳程度に市場近くにあったスーパーにも寄って飲み物やラスティ用にお菓子も数個買ってやる。もちろん後でお菓子代はラスティへ直接徴収するつもりだ。
昼前くらいになったところでイザークが「もういいか…」といつもの元気はなく両手に荷物をどっさり抱えていたので自身の荷物も多くて疲れたのもあったので帰る事になった。もし何か買い出しがあればまた買いに来よう、と別荘を出る前とは全く真逆の事を考えながら車へと乗り込み出発した。
「じゃあ帰るぞ。」
「うん、再度運転よろしく。」
「貴様も免許あるだろうが」
「あれ、知ってた?」
「こないだ実地訓練で「運転荒い!私ならこんな運転しない!」って言っていただろう。」
ラスティの運転にそんな事を言ったような気もするが覚えていない。しかしそんな一瞬の事を覚えてたのか、と感心する。もう戻るだけのあの場面で気が抜けたのも事実だ。ましてや仲間しか乗っていない車での何気ない発言だったのでそれをまさか覚えてるなんて、と思ったところでエミリアもふとある事を思い出した。
「そういえばイザーク私の変装に凄い反応してたわよね。本当に髪切ったと思ったの?」
ラスティが運転し集合場所へと戻る車の中で話した事を聞く。あの時確かみんなに髪どうしたとか身長少し大きくないか、とかアレコレ聞かれた気がする。
「わざわざ訓練で切るのは勿体ないと思っただけだ。」
「ふーん。…じゃあイザークは髪短い私と長い私、どっちが好き?」
「はぁ?そんな事を聞いてどうする。」
「別に。今後の参考までに。」
実際訓練の時とか髪長いの邪魔なのよね、と零すとすかさず返ってきた。
「…そのままがいい。別に深い意味はないからな。」
「…そっか、じゃあ切らない。」
なんかイザークがそっぽ向いてるような気もするがなんだか興味ないようで見てくれてたんだな、とほっこりしながら自身の下ろしていた髪を弄る。すると話を変えたいのかイザークが話し出した。
「そういえば貴様アスランと仲良いが以前から知り合いだったのか。」
「ううん、初めましてだよ。まぁ共通の話題があって仲良くなった、ってところかな。」
「その割にはクッキー渡すような仲なんだろう?」
「さっきも言ったけどあれは毒味だったよ?」
「ふん、どうだかな。」
なんでイザークがクッキー1つでそんなに不機嫌そうなのだろうか、と思いながらもシレッとアスランとの仲を否定しておく。もちろんアスランには後で改めてバラすなって言ったよね、と念押ししておくつもりだ。今言った共通の話題というのもラクスの話だ、あながち嘘でもない。
ここまで来るといちいち隠すのも面倒だしアカデミーの仲が良い人たちにはアスランとは義理の兄妹であると話してもいい気もしたが一人に漏らせば情報はたちまち100人に広まると思った方が良い、慎重にならねばと改めて思い黙っておいた。
そしてそう話した後のイザークが黙ってるのでそんなにクッキー好きだったのかな、と不思議に思いながら窓の外の景色を見ると海辺を走っていたので潮風が気持ちいい。
「この風景、地球だともっと綺麗なんだろうな…」
何気なくそう呟くと「所詮プラントはプラントだ。地球の本来の自然とは比べものにならん」とさも当たり前だ、と返ってきた。イザークは民俗学を好むようだしプラントはの事もだがきっと地球の事にも興味はあるんだろう。その内戦争が終わればその趣味に没頭することも出来る。
その為にもまた私はあの戦争での被害を出来るだけ無くしたい、と今後のことを思いながら目先である中間試験の試験範囲を思い出していた。
ー教えて、アスラン先生!ー