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舵を取れ、その手で


 では、船長自身はこの恩赦にあやからないつもりなのだ、とイリタニは思った。やはり、とも感じた。サトー船長は何よりも海がすきだ。冒険も、船も、仲間と乗り越える苦難の味も、愛している。

 王国の前に膝をついて恩赦を受けることなど、彼はよしとしない。常に自由の風とともにありたいと願う性質たちなのだ──絞首刑のためのロープが首にかかる、その瞬間まで。

 海賊にはもともと、名誉も何もない。しかし、罪が許され、追われなくなるというお墨付きをもらい、陸で生きていくよりは、海賊としての死を望む。サトー船長はそういう男だった。

 イリタニとは違った。イリタニにはもともと身寄りがなく、物心ついたときには盗みを働いていた。それから否応なく船に乗った。
 彼は、自分が船乗りになったのは成り行き上、それしかなかったからだと思っていたし、自分には他のことができないから、船に乗っているのだと知っていた。
 ロープの扱い方も、帆の操り方も、できるようにならなければいけなかったから、身についたものだ。進んでやりたいと感じたことはない。

 海の果てがどうとか、船はどうだとか金銀財宝がどうとか、自由の風が云々という情熱は、イリタニの心の底からは湧いてこない。
 ただ、サトーが海の果てに行ってみたいと言えば、自分も共に行ってみたいような気がしたし、金銀財宝の話に周りの船員がざわめけば、自分もときめくような気がした。自由が何より大事だとサトーが話していれば、それをいつまででも大事にさせてやりたいと思った。

 『お前は海が向いてるよ。他の奴らともうまくやる才能がある』。サトーにそう言われて初めて、他の船員といざこざを起こすことが、自分は少ないのだ、とイリタニは気づいた。
 他人の喧嘩の仲裁に入って、事態を収めることもできた。血の気の多い船乗りたちを、なんとなく宥めることができるのだ。みんなばらばらの気持ちを、同じ方向へと向かせることが得意だった。

 イリタニは自分のことを、ちょっと小賢しいと思った。剛毅なことを良しとする船乗りとしてはかなり、小狡い。けれどサトーはイリタニのことを、賢いと表現した。

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