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舵を取れ、その手で


 格子の前に佇む士官は、しばらくの間両手を身体の前で繋いでいた。彼はふと気づいたように、身体の後ろで組み直し、顔を上げて胸を張るようにした。

 そろそろ夜明けの時間に違いないが、この船の内部には、太陽光も月の光も届かない。ただ、ランプが置かれている。

「船長はどこですか。俺のことを何か言っていましたか」
「……船長?」
「サトー船長です。キャプテン・サトー」

 イリタニは、木でできた格子を掴んで、士官に向かって必死に聞いた。
 目の前の若い、王国の海軍士官は──制服のマークから、士官候補生から海尉へ上りたてだとわかる──冷たい目でイリタニを見た。彼は、海賊に対する怒りと嘲りを、その表情の下に隠していた。

 士官の制服が青く、薄暗がりにも冴えざえとしている。それに不釣り合いなここは、監獄船である。老朽化して航海に耐えなくなった船を、水上に浮かべ、その腹に罪人を閉じ込めておくのだ。

 帆を取り払い、マストもすべて奪われ繋がれた裸の船は、なすすべもなく海に浮かび、生まれた目的を忘れて死体のように揺れている。

「会えないでしょうか」

 海尉は、イリタニの言ったことを受けて、ゆっくりと優雅なしぐさで左側に顔を傾けた。そして手元の書類を繰り、リストを検めた。彼は、こんな監獄の番をしているのではなくて、海に出たいのだ。有能な艦長のいる強い艦に乗り、戦果を上げたいと思っているはずだった。

 イリタニの背後には、顔も知らない海賊たちがいる。捕まったのではない、進んでここへやってきた者たちだ。暗がりで座り、みんな俯いて、イリタニや海尉の方を見ようともしない。

「恩赦を受けたあと、馴染みの仲間と再び集うのが禁じられているのは知ってます。でも、もう一度海に出て何かをやらかそうだなんて思ってません。ただ……知りたいだけです」

 イリタニは精一杯の丁寧な口調で言った。海軍は全員いけすかない。見るからに貴族階級出身の、自分より十五は若い奴にへりくだるのは腹がたつ。

 しかし、ひとにものを頼むときは低姿勢でいるに限る。彼にそう教えたのはサトー船長だった。
 

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