人はいいぞ
「ほら、このコだよ」
「やだ!こっち見てる!かわいいね〜!」
二人はスタバで話している。ハロウィンの時期限定のフラペチーノは一瞬で次の味に変わってしまうので、ハロウィンが二人のもとに百回訪れたとしても、実際に味わえるのは二回くらいがせいぜいだ。
清正は、ウルィーュル・テヘーヤートース・田中・ルフスカラヌァ・プロースペピピ=オ=ソヒョン・シュヌップハーゼ・ジミンメュリア・シュマルシュティムヮ・マッユィレーニ・アダ=チ・クヲヲが差し出したスマートフォンの画面を覗いて目を輝かせた。
清正は、目の前の同種族の名前の、後ろの方に『アダチク』が入っているので、この友人のことを人間に紹介するときは足立区と呼んでいる。足立区さんだよ〜!
「でも、身の丈に合わないところへすぐ行こうとする」
ウルィーュル・テヘーヤートース・田中……足立区はほとんど表情を動かさずにそう言った。
「どこへ行っちゃうの?」
「山の上。3000メートルもあるところ」
「えっ心配〜。やんちゃさん!そういうコは元気いっぱいだよね。丈夫なタイプ?」
「まだ若いから、検診以外で病院に連れていったこともない」
二人は、ほぼ不老、おおよそ不死の長命種である。雌雄の別はない。
長命種は人間に触れると、生命の大切さだとか、時間の重要さ、有限の命の温かさなどを思い出すことができる。人間と暮らすと、大変なこともあるけれど癒される。長久な人生の中で潤いを感じるために、人間と暮らすことは推奨されている。
「相手を見つけてあげようかと思ってる」
「いいかもねっ!人間は結婚させてあげると、そういうとこには行かなくなるコが多いって聞いたよ」
「ものによるけど、もしかしたら繁殖するかも」
「じゃあ生まれたら見せてね。ちっちゃいうち見たいなぁ〜」
足立区がふと顔を窓の外へ向けたので、清正は目線を追って振り向いた。
「あれ!松本くん!」
「迎えに来たみたい」
スタバのウィンドウの向こうで店の中を覗き込んでいるのは、清正が家族に迎えている人間の松本だった。
人間の男のコで、36歳だ。誰にでも愛想を振り撒くタイプではないが、清正にとって、世界でいちばんの人間だった。インスタを見ても、YouTubeを見ても、どんな美人さんだと言われた人間を見ても、松本には敵わない。この前清正は、松本の36歳の誕生日をパーティして祝ったばかりだ。
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