番外編
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グランコクマに向けてローテルロー橋から歩き続けて三日目。立て続く野宿に加え魔物との戦闘で重なる疲労で、女性陣の表情の疲労が濃くなってきた頃にルークが休憩を提案した。
「少し休もうぜ。イオンも少し顔色悪くなってきたし」
「ルーク、僕はまだ大丈夫ですよ」
「いけませんイオン様!顔色があまりよくないですよぅ!」
「しかし………」
もう何時間ぐらい歩けば確かに街に着ける。だけど今のイオンの顔色を見る限り、恐らく一時間も持たない。
「イオン、先を進みたい気持ちはわかるが体調を考慮するのも大切だよ。無理をして倒れたらどうするの」
「………わかりました」
諭すように話しかければ、渋々ながらも了承してくれた。それにジェイド達も賛成したので、少し歩いたところで休憩することにした。丁度いい岩や木陰で思い思いに過ごす中、ルークだけがみんなから離れていく。少し気になった私は俊哉に断りを入れ、ルークを追いかけた。
「ルーク」
「!なんだ、瑠璃か………」
みんなに背を向ける状態で樹に凭れて座っていたルークに、背後から話しかけたら肩を跳ね上げて振り向いた。相手が私だとわかると、肩の緊張を解いて再び脱力したように樹に背を預ける。その隣に少し間を開けて座れば、ぼんやりと空を見上げたルークが口を開いた。
「俊哉は?」
「向こうに置いてきた。護衛兼見張りとしてね」
イオンの護衛と、他がこちらに来ないようにする見張り。そう言えば、ルークは苦笑した。
「お見通しってことか」
「わかりやすいからね」
ダアトでの合流からまだそんなに日は経っておらず、けれど雰囲気はゲームの時よりギスギスしていない。どちらかといえば、あちらの方がどう接していいのかと戸惑っているような感じである。
その感情を機敏に察したのか、休憩や野宿のときなどに一人離れることが多い。それを私か俊哉が護衛につくという形になっているのが常だ。
「イオンの傍にいなくていいの?心配、なんでしょ?」
「それはそうなんだけど、俊哉がいるだろうから」
それは暗に俊哉を信頼しているということで。少しくすぐったくなった。
私達のエゴでアクゼリュスを落とすことになってしまったのに、それをルークは責めなかった。むしろ住民を助けてくれたことに礼を言い、私の部下達のことを心配してくれた。障気蝕害(インテルナルオーガン)を発症していないかが気がかりだったようで、そちらは全員検査中だと伝える。
「結果来たら教えてくれよ」
「勿論。あいつらもルークを気にかけてたからね、それもちゃんと伝えなきゃね」
「グランコクマで会えるかな?」
「どうかな。陛下の命令がなかったらグランコクマにいるだろうけど、検査で問題なしとなったらセントビナーに行くかもね。連絡はしてあるから」
そう言って腰のポーチを軽く叩くと、理解したらしく軽く頷いた。陛下が受け取ったという連絡が来たのは大分前で、バチカルに着く前だった。アリエッタから受け取ったらしい。
そこからは両者口を開くことなくぼーっと過ごす。暫くそうしていると、隣の朱色がふらふらし始めた。振り返ると、船を漕いでいる。
「ルーク?」
「んぁ?あー………眠い」
「最近寝れてないみたいだしね」
「………やっぱ知ってたか」
アクゼリュスからこっち、ルークが眠れない日々が続いているのは知っていた。ゲームで知っていたというのもあるが、実際見るのとでは感慨が違う。そもそも不眠の原因は私達だ。だから私と俊哉はルークに悟られることなく付き合って、起き続ける日々が続いていた。
ただ徹夜というわけでもなく、深夜を大幅に過ぎた時間に眠りに着くルークを見届けてから眠るだけだ。宿だとしても俊哉が同室を買って出る。眠りについたことを連絡で受けとれば、それで済んだ。私達は成人したから、睡眠時間が少なかろうとそう支障は出ない。
だがルークは実質七歳。睡眠は足りないのだろう、時折酷く眠そうに目を擦る場面をよく見かけた。それに今日は中々の陽気だ。眠くもなる。
「眠いなら貸すよ?」
「?何を?」
「ほれ」
そう言ってぺちぺち叩くのは、自分の太股。つまり、膝枕をしようではないか、ということで。
意味を理解したらしい瞬間、髪の色と顔の色が同じになった。境目がわからん。
「ななななんでそうなるんだよ!」
「眠れるときに寝ないとこの先ずっと寝不足だよ?それに寝るときに人の体温に触れてると普段より安眠できるって聞いたし」
「だ、だからって何も膝枕じゃなくても………」
「ふふん、ルークは私達の仲間だからね。できる限り甘やかしちゃうよー♪」
にーっこり笑うと、ルークは顔を赤くしながら苦笑する。前に俊哉から私はスキンシップが好きだと聞いた、と伝え聞いているからそのことを思い出しているのだろう。
散々躊躇してから恐る恐る横になった。それでも頭を完全に預けるのに遠慮しているらしく、少し浮かしている。
「寝るのに頭浮かすってありえないか、ら!」
「あでっ!」
べしっと額を叩いて完全に寝かせる。ふわふわした朱色の髪を撫でると、次第にうとうとし始めた。完全に眠れるよう子守唄を口ずさむ。
「眠れ眠れ
可愛(めぐ)し緑子(わくご)
母君(ははぎみ)に
抱(いだ)かれつ
ここちよき
歌声に
むすばずや
美し夢
眠れ眠れ
慈愛(めぐみ)あつき
母君の
袖のうち
夜(よ)もすがら
月さえて
汝(な)が夢を
護(まも)りなん
眠れ眠れ
疾(と)く眠りて
朝まだき
覚(さめ)て見よ
麗(うるわ)しき
百合の花
微笑(ほほえ)まん
枕もと」
地球ではドイツの子守唄となるが、私は日本の童謡や子守唄を調べると同時に国外のも調べたことがある。昔覚えたものの、七年経った今では覚えているものは少なくなってしまった。
緑四人育てるときに必死に思い出したのは日本の子守唄とこの子守唄だけだ。
鎮魂歌はここに来た当初から歌っているから思い出すまでもない。
気付けばルークは完全に寝入っていた。ふわふわと頭を撫でていると、近くに小石が落ちてきた。
小石が空から落ちてくるわけもないので、少し離れたところにいる俊哉達の方を振り向く。すると、何故か寝ているみんなを見付けた。
思わず驚くと、俊哉が携帯を取り出して耳に当てる仕種をする。それに倣い携帯をポーチから取り出す。そのタイミングで鳴り出したので、即座に通話ボタンを押して耳に当てた。
『お前今子守唄歌ったろ』
「?うん」
『それ聞いてたら寝やがったんだけど』
「うそぉ」
本気で驚きだ。よく見れば女性陣は三人でお互いを支えるように背を合わせているし、ガイは岩に凭れて刀を抱えて座っていた。イオンはミュウと共に寝転がっていて、ジェイドは木の影で本を膝の上で開いているようだったが、まさか。
「全員寝てるの?」
『ああ。お前自分の力をいい加減自覚しろよ』
「いや、してるっちゃーしてるんだけど」
『してるなら軽々と歌うな。意味を正確に理解してるお前が歌うと、世界が違えどそれは譜歌と同じだ。お陰でジェイドもぐっすりだ』
「ご、ごめん。まさか届くとは思わなくて」
『こっちは風下なんだよ。風に乗って聞こえてきた。もう仕方ねえから夜営の準備でもするわ。お前はそのままルークの枕になっとけ』
「わかった。頼む」
そう言うと俊哉は頷き、携帯を耳から離した。ぷちりと通話が切れたのでこちらも切り、ポーチに戻した。
即座に動き出す俊哉にジェスチャーで謝ると、気にすんなと返ってきた。そのまま薪を探しに行く背中を見送り、周囲に結界を張った。俊哉は通過できるので別に問題はないだろう。
「まさかジェイドにまで効くとはなぁ。今度実験してみようかな」
とりあえず鎮魂歌で。あいつ死霊遣い(ネクロマンサー)なんて呼ばれるぐらい殺してるだろうから、少なからず憑かれてそうだし。試し試し。
そんなお気楽な計画を立てつつ、ルークの髪を撫で続ける。今だけはゆっくり寝られるように。そう願い、再び子守唄を口ずさみ始めた。
「眠れ眠れ
可愛(めぐ)し緑子(わくご)
母君(ははぎみ)に
抱(いだ)かれつ
ここちよき
歌声に
むすばずや
美し夢
眠れ眠れ
慈愛(めぐみ)あつき
母君の
袖のうち
夜(よ)もすがら
月さえて
汝(な)が夢を
護(まも)りなん
眠れ眠れ
疾(と)く眠りて
朝まだき
覚(さめ)て見よ
麗(うるわ)しき
百合の花
微笑(ほほえ)まん
枕もと」
ゆっくりとしたテンポで紡がれるその歌は、俊哉が戻ってくるまで続けた。
みんなが起きたのはそれから五時間以上経ったあとで、それからは交代で寝ずの番をした。
けれどルークだけはわざと起こさず、翌日朝まで私はルークの枕になり続けた。