外殻大地編 4
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それから二日。南下し続けて着いたカイツール。国境でもあるので、こちら側とあちら側で軍服の色が正反対なのが少し笑える。
その国境手前で、ツインテールの頭が振り回されていた。
あ、アニスだ。
「あれ、アニスじゃね?」
ルークも気付いたらしく、指差す。こら、人を指で指すな。べしっと腕を叩き落とすと、すっごい不機嫌な顔で睨まれた。
「証明書も旅券もなくしちゃったんですぅ。通してください、お願いしますぅ」
その猫撫で声が聞こえてくると、ルークは私からアニスの方に顔を向けた。タルタロスからこっち、落ちたことしか聞いていないからだろうか。そういえば私も俊哉もアニスがこの一行から離別した理由聞いてなかったな。聞いた方がいいのかな。
「残念ですが、お通しすることはできません」
「ふみゅぅ………」
猫撫で声にもぶりっ子にも動じない様子できっぱり断ったその兵士は、完璧な無表情だった。うん、兵の模範だな。
そんな兵士の様子に少し粘る様子を見せたアニスだったが、諦めたように肩を落として国境から背を向けた。顔を俯かせている所為か、私達には気付いた様子がない。そのまま門から離れ私達とそこまで距離が離れていないところで立ち止まると。
「月夜ばかりと思うなよ」
ひっっっっくい声で呟かれたそれは、少しだけ殺気も込められていた気がする。身を竦めるガイとは対照的に、何の反応も見せないジェイドとティア。ルークは何がなんだかという風で呆然としていた。イオンに至っては慣れている所為か、普通にアニスに声をかけている。
「アニス。ルークに聞かれちゃいますよ」
「ん?………きゃわーんvアニスの王子様ーv」
………変わり身の早いことで。
そのままルークに走り寄ったアニスは、大胆にも腰に抱き着く。勢いを殺しきることができなかったルークは、そのままその場で回転した。
まるで親が子供を振り回す『観覧車』とか『大車輪』とかみたいだ。正式な名前は知らないけれど。
「………女ってこえー」
私達の後ろで、ガイがぼそりと呟いた。うん、同意。私も女だけど。
思わず頷いた私達は後方だったので、アニスにはまだ気付かれていないようだった。
「ルーク様♡
ご無事で何よりでしたー!もう心配してましたよー!」
イオンに真っ先に傍から離れたことを謝らないってことは、自分の立場も役割も罪も理解していないということだ。まったく、こんなのが部下にいたら即座に首を切ってるぞ。
「こっちも心配してたぜ。魔物と戦ってタルタロスから墜落したって?」
「そうなんです………アニス、ちょっと怖かった………てへへ」
私の睨みに気付かないアニスは、そのままルークとの会話を楽しんでいる。呑気なことで。
すると突然イオンが低い声(アニスの真似)で話し出した。
「そうですよね、『ヤローてめーぶっ殺す!』って悲鳴あげてましたものね」
「イオン様は黙っててください!」
腰に手を当てて導師を黙らせる導師守護役(フォンマスターガーディアン)。この世界の常識だろうが日本の常識だろうが可笑しい構図なのは一目瞭然。
主を怒鳴る従者なんて、普通はあり得ない。あり得る状況になるなら、主が危険な目に遭うなどの緊急事態のみ。
この世界の従者は自分の立場を理解していなさすぎる。主が許していたとしても、気心知れた人間以外がいるところでもその状態を維持するのは厳禁だ。主の威厳が損なわれるのは、後々の支障になるから。
「ちゃんと親書だけは守りました。ルーク様、誉めて♡」
「ん、ああ、偉いな」
「きゃわん♡」
ルークに頭を撫でられて上機嫌のアニスは、可愛らしく(………)頬を紅く染める。姿形だけなら可愛い女の子なのだが、如何せん本性を知っている身としては違和感バリバリだ。
「無事で何よりです」
多少鳥肌を立たせていると、予想外の人物がアニスに声をかけた。
ジェイドだ。
予想外すぎる人物だが、こいつが素直に人を心配する筈もなく。『何を』心配したのかは、すぐにわかった。
「はわー♪
大佐も私のこと心配してくれたんですか?」
「ええ。親書がなくては話になりませんから」
ほらな。
その返答を聞いたアニスは、がっくりと肩を落とし。
「大佐って意地悪ですぅ………」
そう呟いた。
意地悪じゃないジェイドはジェイドじゃない気がする。