外殻大地編 4
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瑠璃side
「ティアの譜歌がユリアの譜歌?」
障気を吸った翌日、回復した私はカイツールに向かう道すがらフーブラス川でティアが使った譜歌の説明を受けていた。
「ええ。以前から不思議には思っていましたが、イオン様の話ではティアが使う譜歌はユリアの譜歌だとか」
「だから?」
「譜歌の中でも特別なやつってことさ。そもそも譜歌は、譜術における詠唱部分だけを旋律と組み合わせて発動する術だ。ぶっちゃけ、譜術と比べると威力は強くない」
ルークがイライラしながら先を促すと、ガイが説明する。確かに譜歌によっては威力の幅はあれど、譜術と比べてしまうと弱い。音律士(クルーナー)が少ないのはその所為だ。身を護る術が譜歌以外では投擲や棒術などの護身術程度の体術が多くなるから。
「ところがユリアの譜歌は違います。彼女が遺した譜歌は、譜術と同等の力を持つそうです」
イオンの説明にティアへ視線が集中する。その視線に負けたのか(多分ジェイドの無言の圧力も加わる)、ティアが口を開いた。
「………確かに私の使う譜歌は、ユリアの譜歌です」
ユリアの譜歌自体は、ほぼ全員が知っている一般常識だ。だが旋律を知っている者・詠える者はこの広い世界でもほんの一握りしかいない。
イオンが旋律を知っていたのは何故だろう。ヴァンから聞かされていたのか、はたまた導師としての教養か。どちらにせよ、第二譜歌のフォースフィールドを使ったあとにこの話が出てくるのはおかしいのだ。
第一譜歌のナイトメアは今まで何度も使っていたにも関わらず、ユリアの譜歌だと指摘していないのだから。知識が片寄っているとは思えない。導師の教養であるならば、虫食いの状態が気になってくる。
「ユリアの譜歌は、譜と旋律だけでは意味をなさないと聞きましたが」
「そうなのか?ただ詠えばいいんじゃねえの?」
ジェイドが思案する横で、ルークがどうでもよさげに口を挟んだ。確かに興味のない人間は知っておく必要もないだろう。私でもそこまで詳しく覚えたりはしていない。………音律士(クルーナー)の資格はあるけれど。
「譜に込められた意味と象徴を正しく理解し、旋律に乗せるときに隠された英知の地図を作る」
「は?」
「って話だ。一子相伝らしいな」
ガイの説明に驚いたのはティアだ。家系的に関係はあれど、ティアはまだガイの正体も自分の家のことも知らないのだから、仕方ないといえば仕方ないけれど。
「え、ええ。その通りよ。よく知っているのね」
「昔、聞いたことがあってね」
ヴァンに、ね。それとも二人の父母からだろうか。もしくは彼の父親か。
この時点で聞くことはできないけれど。
「貴女は何故、ユリアの譜歌を詠うことができるのですか?誰から学んだのですか?」
矢継ぎ早に質問するジェイドの目は好奇心に輝いている。知的好奇心とでもいうのか。その所為で自身の師を殺したというのに、まだ懲りていないのか。
ジェイドの質問に、ティアは言いにくそうにしている。血筋の所為か、普段と違うジェイドの様子の所為か。
「………私の一族がユリアの血を引いているから、という話です。本当かどうかは、私にもわかりません」
本来ならば公にしていいものではない。モースにでも知られていたら、お人形として飾り付けられていただろう。ユリアの譜歌を詠う、ユリアの生まれ変わりとして。七年前に預言(スコア)に詠まれて以降、所在の掴めない女神の代用として。
「ユリアの子孫………成程」
「ってことは、師匠もユリアの子孫ってことか!?すっげぇ!流石俺の師匠!カッコいいぜ!」
やっと納得して頷いたジェイドの横で、興奮したルークが騒ぐ。確かにユリアの子孫であり大譜歌を詠うことができるが、あの声だとなぁ………。聞きたいとは思えない。
「ありがとうございます。いずれ機会があれば、譜歌のことを詳しく伺いたいですね。特に『大譜歌』について」
わざとらしく付け加えたそれに反応したのは、ティアとガイだ。とはいえそこまであからさまではなく、気付いたのは私と俊哉、ジェイドぐらいだろう。
「『大譜歌』?なんだそれ」
「ユリアがローレライと契約した証であり、その力を振るうときに使ったという譜歌のことです」
イオンもそれ以上のことは知らないのか、大譜歌の内容までは言わなかった。それもそうだろう、ユリアの譜歌自体が一子相伝のものなのだ。大譜歌の全ての節を知っているのは、現時点では私と俊哉、そしてヴァンの三人だけだろう。
「………そろそろ先に進みましょう。もう疑問にはお答えできたと思います」
早めに切り上げたいのか、言ったと同時に踵を返したティアの背中を追う。後ろでは思案顔のジェイドがいたが、このまま考えていても答えが得られるわけではないとわかったらしく諦めたように肩を竦めて歩き出したのが気配でわかった。
カイツールの白い門が近くなる。
もうすぐで、アニスと会える。
気を付けなくちゃ、ならなくなる。