外殻大地編 3
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俊哉side
アリエッタを庇い、気を失った瑠璃の近くに行きたかった。しかし地震の揺れの激しさによって足元を掬われ、駆け寄ることができない。
そんな状態の中、地盤沈下まで起きた。瑠璃とアリエッタのすぐ傍の地面が少し沈んだのをきっかけに、障気が更に溢れだし周囲を覆い尽くす。俺達も、勿論瑠璃とアリエッタも。
「っ………」
迷ったような表情を見せたティアが、すぐに顔をあげて歌い出す。止めようとしたジェイドをイオンが制し、傍観するように努めさせた。
やがて完成した譜歌によって張られたフォースフィールドで俺達も瑠璃達も無事だ。駆け寄る最中瑠璃の下から這い出たアリエッタが、泣きながら瑠璃を起こそうと揺する。傍まで来た俺に気が付くと、アリエッタは泣きながらも気丈に顔を上げた。
「フレイ兄様………言いつけ守らなかったから、ウィン姉様が………」
「障気は吸っただろうが、即死する訳じゃない。暫く不調になりはするだろうが………」
説明しながらも瑠璃を抱き起こし、脈を計ったり顔色を見たりする。流石に顔色は悪いが、脈に命の危険を訴える程の異常は見られない。障気の所為で乱れ気味ではあるが、これなら休めばすぐによくなるだろう。
「私の所為、です。姉様がよくなるまで、一緒にいていい、ですか?」
「俺一人で決めるわけには………」
ちらりと背後に固まるルーク達を見る。瑠璃を気にしているルークとイオンはこちらに来たそうだが、俺がいるからかアリエッタがいるからか、はたまた両方か、とりあえず傍には来ないようだった。
俺は初対面時があれだったし、アリエッタは現在進行形で邪魔をしてくる六神将の一人。近寄りがたいのはまあ理解できる。
アリエッタも瑠璃からの言いつけであまりルーク達に接触をしないように言い含められていて、今回の言いつけを守らなかったことで「言いつけを守らない=瑠璃や俺に迷惑がかかる」という方程式ができていそうだ。
瑠璃をアリエッタと無事に戻ってきたライガに任せ、ルーク達に聞いてくる為に立ち上がろうとする。と、アリエッタが不安げに俺の方へ振り向き、マントの裾を弱く握ってきた。
俺が立ち上がる理由が、置いていこうとする行為に見えたのだろうか。瑠璃との旅の癖で言葉少なになった自分を殴りたい。
瑠璃とは幼い頃からの幼馴染みなだけに、言葉を交わさなくてもある程度の行動パターンが読めてしまうから、お互い行動するときは大概が無言のまま。だが他の仲間に関してはまだ五年前後の付き合いだから(しかもそれはずっとではないから)、言葉で説明しなければならないときが多い。
「アリエッタは瑠璃を見ててくれ。俺はあいつらに説明して、アリエッタが瑠璃の目覚めまで一緒にいられるようにしてもらうから」
「わかった、です。俊哉兄様」
小声で説明する俺に、アリエッタも小声で答えた。俺達の本名を言っていいのは、瑠璃が仲間と認めた者の前だけだということをきちんと守っているらしい。
ぽんぽんと軽く頭を撫でてから、今度こそ立ち上がる。声が聞き取りづらい距離にいるルーク達に向かって歩くと、すぐに気付いたルークとイオンが振り向いた。
「フレイ、ウィンの様子はどうですか?」
「障気吸っちまったのか?」
「ああ、意識は今はない。ルーク、アリエッタがウィンのことを気に病んでるんだ。ウィンが目覚めるまででいいから、一緒に連れてっちゃ駄目か?」
この団体の主力はルークだ。だからこそルークに聞いた。なのにだ。
「今現在、事実上の敵である六神将の一人を連れて歩けと?私達は先を急ぐ身ですよ。これ以上足止めを食らうのはごめんです」
余計な大人がしゃしゃり出やがった。だから初期のこいつら嫌いなんだよ。
「お前なんかに聞いてねえよ。この場で決定権があるのは、俺が聞いたルークか立場が一番上のイオンだけだ。空気読め」
不機嫌丸出しの態度で突き放せば、ジェイドは黙り込んだ。正論だというのもあるだろうが、ムカついたんだろうな。多少雰囲気が変化する程度には。
そんなジェイドは放っておいて、ルークに向き直る。再び視線を向けられたルークは、分かりやすい程に挙動不審で少し笑える。口許が緩んだのがわかったのか、少し落ち着いた様子になったところで口を開いた。
「俺は別にいいぜ。ウィンが好きみたいだから、一緒にいた方が安心するんだろ?」
「僕も、そうしていただけると助かります。アリエッタは元々導師守護役(フォンマスターガーディアン)で、実力はありますからウィンを守りながら進むことは可能だと思いますよ」
「助かる。実際問題、俺が前線に出るとウィンを背負う奴がいなくなるんだよな」
流石にジェイドに背負わせるなんて嫌だし、かといってルークに背負わせたら後で俺が瑠璃に文句言われそうだし。ガイは論外。ティアとイオンは除外。
なのでアリエッタのお友達に背負ってもらえるなら助かるのだ。
「じゃあそう伝えてくる」
そう言ってルーク達に背を向け歩き出す。と、何故かルークも着いてきた。
「どうした?」
「いや、大丈夫なのかって思って………」
少し照れ臭そうではあるが、本当に心配してくれているらしいルークに感心する。成程、瑠璃が構いたがるわけだ。この小さな感動は共に行動していないと味わえない。
「顔色は最悪だけどな。休んでれば問題はない。意識が戻ってはないだろうが、息はしてるよ」
そのままルークを連れて瑠璃の近くに戻ってきた。気付いたアリエッタが顔を上げた瞬間、ルークにビックリしたように目を見開いた。
「アリエッタ、ルークは知ってるか?」
「はい、です。タルタロスで、多分」
「あー、まあ直接話してねえから覚えてねえのは仕方ねーな。ルーク・フォン・ファブレだ」
「神託の盾(オラクル)騎士団、第三師団師団長、アリエッタ、です」
「おー、よく言えたな」
帽子を叩き落とさないように注意しながら、桃色の髪を撫でる。アリエッタは育った環境故に言葉が今でも拙い。
根気よく教えているのは主にファーズと瑠璃だが、たまにシンクも教えている。意外にもまともに教えるのがディストで、研究や音機関弄りの傍ら教えていることは多々ある。だからか、ディストの研究室兼私室の一角には、アリエッタ用の机と本があったりする。
「噛まずに、言えた?」
「おお、ウィンが起きたら教えてやらなきゃな。きっと抱っこしてくれるぞ」
「姉様のだっこ、嬉しい、です。暖かくて、柔らかいから」
男が言ったら即アウトな単語が出てきたが、アリエッタの感想はいつもストレートなのでスルーする。だが慣れてないらしいルークは、何を想像したのか真っ赤になった。
「アリエッタの感想をそのまま受け取ってたらキリないぞ。もしくは慣れろ、青少年」
真っ赤のまま固まったルークの肩をポンと叩くと、解凍したルークが慣れるかと怒鳴る。理由がわからないアリエッタは、真っ赤になったルークとそれをからかう俺を交互に見て困惑していた。