外殻大地編 2
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街に戻るのもなんなので、その場で輪になって座った。
その際、アリエッタに頼まれたので胡座をかいたその上に座らせる。後ろから抱き込むように腕を回せば、満足したのかリラックスして身を凭れ掛けてきた。
それを見たシンクが何故か私の背後に回り、ぼすっと抱き付い………もとい凭れ掛かってきた。腕を組んだ状態を、私のうなじに引っ掻けるようにしているらしい。肘掛けか私は。
「シンク、流石に肘が痛いんだけど」
「我慢すればー」
「むしろそのまま肩揉んで」
「一回5000ガルド」
「金を取るのか!」
まあシンクが何の見返りもなくやる訳ないけど。育て方間違えたのか、どうあってもこういう性格になるのか、判断がつかない。
「まあいいや。んじゃディスト、椅子から降りろ」
「わかってますよ」
空飛ぶ譜業椅子から降りたディストは、私達と同じように地べたに座る。昔に比べるととっつきやすくなったから助かるわ。
「研究に関しては手詰まり状態です。そもそも前例がない」
「だよなー。仕方ない、じゃあこっちの案の譜業作ってほしいんだけど」
「これは………なるほど、理論上は可能です。しかし施す相手に多大なリスクがある。そこはどうする気ですか?」
「時間をかけて慣れてもらうしかない。その方が急激な変化よりもリスクは格段に少なくなる」
一気に変わってその変化に対応できなかったら、最悪消える。それは私達が望む結果ではない。
「では装着してすぐに効果が現れるようにするのではなく、長期間による変化をということですね」
「そうそう。調節は私がやるから、最初の設定は弱くしておいて」
「わかりました。説明書などは要りますか?」
「提案者は誰?」
「冗談ですよ睨まないでください」
馬鹿にしてんのかこの野郎。思わずぎろりと睨めば、ディストは微笑んで流した。こいつも性格変わったな。
続いてアリエッタからの報告。
「ファーズは元気、です。病気も治って、早く姉様に会いたいって言ってた」
「おお、よかったー。全快に二年もかかるとは思わなかったけど、結果よければ全てよし!まあ次に会うのは数ヵ月先かな。鳩は飛ばしておくよ」
「はい、です」
にこりと微笑むアリエッタを抱き締めて、髪に頬を寄せる。柔らかい桃色は、手入れをするように言ってあるから花の香りがする。女の子はやっぱりこうだよね(偏見)
次にシンク。
「兄弟達の様子が少しおかしい。ディストの診断によれば、もう駄目らしい」
その報告に、思わず前にいるディストを見つめる。その視線を正しく理解したディストは、眼鏡を押さえながら頷いた。
「元々一年前に宣告していました。それを大幅に越えている現在、いつそうなってもおかしくはなかった」
「あいつらもアンタに感謝してたよ。ファーズも立ち合うって言ってたから、寂しくはないと思うよ」
「………そう。悪いことしたなあ」
拾ったのは私。育てたのも私。こんな時期でなければ、戻ったのに。戻れたのに。
「あいつらから伝言。ウィンはウィンがやりたいことをやって。僕らのことは気にしないで。今までありがとう、母さん」
あの子達と同じ声だからか、それともシンクが似せたのか。どちらにせよ、その言葉で涙腺が緩んだ。嗚咽すら漏らさず静かに泣く私を、アリエッタは心配そうに振り返り、シンクは首元に抱き着いてきて、ディストは眼鏡の反射で表情を隠した。
「まともに、帰れてない状態だったのに、母さんって呼んでくれてたんだね」
「本人達は恥ずかしくて、目の前では言えなかったみたいだけどね」
「ふふ、シンクの性格が移ったかな。それともファーズ?」
「僕もファーズも変わんないじゃん」
「じゃあ両方だな」
泣きながらも笑えた私に、シンクが密かに息を吐いたのがわかった。こんなに密着しているのだから、意味はないのだが。
「よし、今度は私の報告ね」
気持ちを入れ換えるようにぐしぐしとローブの袖で目元を拭う。生地が固いローブでは目元の柔らかい皮膚を傷付けるとディストに叱られたが、私が怪我に頓着しない性格なのは三人とも重々わかっている。拭い終わって顔を上げたら、三人とも苦笑した。案の定目元が赤くなったらしい。
流石にシンクは大人しくなかったが。脳天に軽くチョップされた。痛い。
「んまあ、邪魔も入らず滞りなく進んでるよ。終わったあとは残るように伝えてある。指示を出したら一ヶ所に集まり、待機。それを私がフォローする。そういう流れ」
「貴女がフォローするって、待機してる人数は?」
「ざっと二十人かな。他は護衛しつつ帰還するから」
「多くないですか?実験ではまだ十五人までしかやってませんよ?」
「だけどこれ以上少なくしたら流石に怪しまれる。不自然に見えない程度にするにはこの人数が少なくともいるんだ」
「友達、手伝わせる、です?」
「その申し出はありがたいけど、あいつらが誤って殺しかねない程状況は切羽詰まってる。無闇に警戒をさせたくはないから、ごめんね」
折角の提案を無下にすることを詫びれば、ぷるぷると首を振る。彼女は私達のように理解してくれる人が少数派なのを理解している。そして作戦実行時の説明のしようもない緊張感も。
「じゃあ手伝えることはないわけ?」
「こればっかりはどうしようもないね。シンクはあっちに参加するんでしょ?」
「そーなんだよねー。面倒臭いー」
「ぶーたれるなよ。私達の為の布石だ、多すぎて困りはしない。少ないと逆に困るけどな」
「まあ我慢するけどさー」
「全部終わったら何やってもいいから」
「本当?本当に?」
「姉様、アリエッタは?」
「私もですよ?」
「わかったわかった、全員な。ただし全部が終わったあとだ。それまでは気も手も抜かないこと。いいね?」
「わかりました」
「わかった、です」
「付き合ってあげるよ」
素直な返事(約一名は素直じゃない)を聞いて一安心。ディストもアリエッタもシンクも、心配は要らない。
心配なのは、ファーズとシンクの兄弟達だ。まさか私が離れているときに時期が来るとは思わなかった。いや、考えないようにしてたと言う方が正しいか。戻った後、会いに行かなきゃな。
「よし、今回のところはこれで終わりにしよう。このあとは合流できる機会が少ないから、何かあったら鳩を飛ばして………」
「あ、忘れてました。これもできてます」
「これ、………早く出せや!」
アリエッタを立ち上がらせシンクも離れさせ、さあ行くかと腰を上げかけたところでそう言われたので思わず怒鳴れば、ひぃと身を竦めるディスト。本質は変わらなかったか。いやまあそれは置いといて。
「何で解散ってときに渡すんだよ説明するのに時間かかるんだけど馬鹿野郎」
「ごめんなさい真面目に忘れてました」
「真面目の意味が違うわ阿呆」
アリエッタやシンクに顔が見えないようにしながら、ディストを睨む。いつまでも話していると、リグレットとラルゴが戻ってくる可能性がある。仕方なくアリエッタを座らせて(今度は地べた。ごめんね)、シンクも私の背後に立ったままにさせた。
「手早く説明して」
「ええ。これにそれぞれの音素振動数を登録してあります。勿論フレイもファーズも登録しています。個人認証もしているので、持ち主以外は使えません。自分の代わりに誰かに使わせたいときは、自分を認証させた後であれば、渡して使わせることができます」
「へー、便利だね」
「会話・手紙は送れますが、送る際のエネルギーは使用者の音素力(フォンパワー)を消費するので、あまり長時間使用するのはお勧めできません。戦闘にも影響しますからね。これを持っているのはウィンが仲間と認めた人間のみ。我々は個人行動が多いので各々持ちますが、フレイは持たせますか?」
「作ってはあるんでしょ?」
「ええまあ」
「なら渡しておくよ。私達は使い方はわかってるから、他の人への説明はディストに任せた」
「わかりました」
ファーズにはまだ渡してないのか、名前が上がらなかった。ので、説明は任せることにした。これで今度こそ終わりになったらしくディストも服を払いながら立ち上がった。それにつられてアリエッタと私も立ち上がる。
受け取ったそれをフードの中で腰に着けたポーチの中に突っ込む。俊哉の分も。
「よし、今後はこれで連絡な。アリエッタ、川には近付くなよ」
「はい、です」
フーブラス川ではアリエッタが障気にあてられて倒れる。前々から私達がフーブラス川に行くときは来ないように言い聞かせてあるから、心配しなくてもいいとは思うけど。
「よし、んじゃあ解散ね。………死ぬんじゃないよ?」
「わかってる、です」
「わかってるよ」
「わかってますよ」
ハイタッチを交わし、遠くに停泊しているタルタロスに戻っていく三人を見送った後私もセントビナーに戻る。睨んでくる三人にどう説明したらいいんだろう。まあある程度は正直に言おうかな。素早くフードを被り直し、思考を巡らせながらゆっくりと歩いた。