外殻大地編 1
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翌日。
朝食を済ませた後、今後の移動をどうするかという話になった。その内容は、俺とイオンを護る前提のもので。護られる立場ということに酷く焦った俺は、そのまま出立しようとするみんなの背を叫ぶように呼び止めた。
「ま、待ってくれ!」
俺の声に振り返ったのは、ガイとイオンとウィンだけ。軍属二人は、振り向かなかった。
「どうしたんですか?」
イオンが優しく聞いてくるが、今の俺に優しさは響かなかった。これからの覚悟を決める為だったから。
深呼吸をして、拳を強く握った。
「………俺も、戦う」
「人を殺すのが怖いんでしょう?」
結構勇気を振り絞ったにも関わらず、ジェイドに速攻で叩き落とされた。図星を突かれた俺は一瞬言葉に詰まるが、ぎっとジェイドを睨み付けるように見据えて口を開いた。
「………怖くなんかねぇ」
否定を口にするが、あまり強く言えていないのは自覚している。けれど挫けるわけにもいかないから。腹の底に力を入れて、震えそうになる声を抑える。
「無理しない方がいいわ」
「本当だ!………そりゃ、やっぱちっとは怖ぇとかあるけど。戦わなきゃ身を守れないなら、戦うしかねぇだろ。俺だけ隠れて、なんていられるか!」
ティアの冷静な声に反抗して即座に否定するが、向けられた視線に思わず失速する。しかしこれだけは譲れないからと少しだけ素直に本心を晒しつつも決心は曲げないという意思表示をする。
と、足元にいたブタザルが騒ぐように高く跳び跳ね始めた。
「ご主人様、偉いですの!」
「お前は黙ってろ!ったく………とにかくもう、決めたんだ。これからは躊躇しねぇで戦う」
高く跳んだ位置でブタザルを腕で弾いたあと前方に向き直って言い切ると、暫くみんなは沈黙した。すると徐にティアが近付いてくる。歩みを止めない彼女は、結構な至近距離でやっと止まった。
下から睨み上げるように見つめるティアが、そのまま口を開いた。
「………人を殺すということは、相手の可能性を奪うということよ。それが身を守る為でも」
「………恨みを買うことだってある」
「………それがたとえ、完全な自己防衛であったとしてもね」
ティアの言葉に続くガイの表情は暗く、ウィンに至っては表情が分かりにくいものの口許は固く強張っていた。
その様子から二人は人を殺すことに対して割り切りはしていないようだ。けれど死にたくないから、護るべきものがあるから剣を手に取っている。
「貴方、それを受け止めることができる?逃げ出さず、言い訳せず、自分の責任を見つめることができる?」
目の前で俺に詰め寄るティアも、同じだろう。一番最初のイメージと、今のイメージは少しだけだが違っているように感じた。
「お前も言ってたろ。好きで殺してる訳じゃねえって。ウィンも、そうみたいだし。………決心したんだ。みんなに迷惑はかけられないし、ちゃんと俺も責任を背負う」
「………っでも………」
「やめなさい、ルーク。貴方は軍人でもないどころか、今まで屋敷の外に出たことのない一般人だった。貴方の出奔は自分の意思じゃないのに、その上戦闘まで………」
「いいじゃありませんか。………ルークの決心とやら、見せてもらいましょう」
未だ止めようとしたティアとウィンを、ジェイドが多少どころじゃなく含んだ笑顔で遮った。それに反応したのは俺じゃなく、俺を未だ引き留めようとするウィンだった。
「アンタ、本当に軍属なの?王族を護るのが軍属の義務じゃないの?」
「本人が決心したものを覆せと?」
「アンタは最初っからルークを戦わせようとしていたように見えるけどね。護るべき対象を護らず、むしろ前線に出して死ににいかせるような真似をさせるアンタが信じられない」
「理解していただこうなどとは思っていません」
「っなんだと、このっ………」
怒った雰囲気を纏ったウィンは、何故か尋常じゃないぐらい怖かった。それは近くにいたガイとイオンが少し距離を置く程に。庇われている俺でも怖かったが、止めるのは俺しかいないだろう。彼女は俺の為にこんなにも怒っているんだから。
「ウィン、もういいから。大丈夫だから」
「………ルーク………」
予想通り俺が止めると、今までウィンを包んでいた気配が掻き消え。振り向き悲しそうな声色で俺を呼ぶウィンに無理矢理の微笑みを向け、再度深呼吸する。そんな俺に近付いてきたガイが、肩に手を置いてきた。
「無理すんなよ、ルーク」
優しい声に、返事を返せそうになくて。頷くだけにとどめた。
ウィンが悔しさで唇を噛み締めすぎて、血を流していることにも気付かずに。