外殻大地編 1
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そして。そいつはバチカルへの道程の間同行することになった。
具合の悪いイオンを気遣ったジェイドが、このままここで野宿にすると言って準備を始める。それに倣い他の奴等も始めるが、俺はタタル渓谷から今までは馬車や宿、タルタロスで夜を過ごしていたので、野宿は初めてだ。準備などどうすればいいかわからず、立ち往生していると。
「どうした?」
さっきの奴が話しかけてきた。
咄嗟にどう接すればいいのかわからなかったが、こいつに野宿のことを聞けばいいと思い至った。
「な、野宿って何すんだ?」
「ん?そうだな………。ただ寝るだけだが、寝ている間に魔物が襲ってきたり盗賊に遇わないよう一人か二人を見張りにさせるんだ。で、見張りは交代制。ずっと寝ずの番させるのは、その人の次の日の調子を著しく下げてしまうからな」
「そうか………」
「んで、まあ寝ずの番は基本戦える者がやる。襲われても対処できる者がな。対処できないのに寝ずの番されても、何かあったときに後手の対処しかできないからな」
「あ、そうか。何もできないと起こすだけしかないのか」
「そうだ。そのタイムロスは緊急時には痛手にしかならない。余計な怪我を負わすことにもなる。だから基本は戦える者が見張りなんだよ。これでいいかな?」
「おう、わかった」
こいつの説明を受けている間、ずっとガイとジェイドが睨んでいたが、こいつ自身は何処吹く風といった感じで気にする様子もない。
俺としては馬鹿にする様子もなくただ普通に説明してくれるこいつの方が好感が持てた。ジェイドもティアも説明するときは、声が少し呆れたような感じだから。あまり進んで説明を受けようとは思わなかったから。
「で、何やりゃいいんだ?」
「ん、準備のことか?」
「ああ」
「そうだな………マルクト軍人と金髪は薪拾ってるし、治療してくれた女の子は料理の準備してるし………特にやることはないな」
「なんだそれ」
最後の一言を軽い感じで言われて、思わず笑った。隣で会話を聞いていたイオンも、緊張した様子もなくクスクスと笑う。
俺とイオンだけは、こいつになんの警戒心も持たなかったらしい。それを感じたのか、そいつは急に真面目な声で話し始めた。
「なあ、言えたもんじゃないが警戒しなさすぎじゃねえ?軍人や金髪みたいに睨んでもおかしくないんだぞ?」
「でも、貴方からは殺意も悪意も感じません」
「そう感じさせないだけかもしれないだろ」
「仮にそうだとしても、態々疑えと言いません。貴方のようにはね」
「そうだぜ。そんなわざと疑えなんて言われても、説得力ねーって」
そう二人で言えば、そいつはぽかんと口を開いたまま数秒停止したかと思えば。
「………ぶっ、ふ、くっ、あは、あはははははは!」
噴き出して笑いやがった。
突然笑い出したそいつに驚いたのか、ジェイド達もそいつを見つめる。そんなことはお構いなしに、そいつは遂に腹を抱えてしまった。
「ははは、あはははは!そっか、意味ないか!ははは、げほ、あー笑った笑った」
そう言って目元を擦る仕草をする。笑いすぎて泣いたなこいつ。未だクスクスと笑い続けるこいつには、やっぱり警戒心なんか沸かなくて。
不思議と笑いが込み上げてきた。
「ふ、ははは。お前楽しいな」
「む、それは馬鹿にしてる?」
「してねーって。なんかお前といると安心するっつーか」
「おいおい、こいつは一応疑われてるんだぜ?もうちょっと警戒しろよ」
そこで思わずといったガイが注意してきた。確かに怪しいから警戒するっていうのはわかるけど。
「俺はこいつのこと嫌いじゃねえんだよな」
「はあ?おいルーク、だからって警戒しなきゃ突然襲われても対応できないぞ?」
「こいつはそんな奴じゃねえって」
な!とイオンと顔を見合わせると、はい!と返事が返ってきた。イオンも既に警戒する気配ゼロらしい。
それがわかったのか、フードの奴はまたクスクスと笑い出した。そして。
「ふふ、仕方ない。君とイオン様に免じて二つだけ教えてあげる。私は女で、名前は偽名でウィン。この偽名は五年前ぐらいから使ってるから、殆ど本名みたいなもんだよ」
「って偽名かよ」
「本当は性別も偽名も教える気はなかったからね。ちなみにセントビナーで会う連れも偽名でフレイ。立場は私と一緒。連れていくかいかないかはそちらが決めればいい」
後半の言葉はガイとジェイドに向けられたものらしい。考え込むジェイドを視界に入れつつ、そいつ………ウィンに質問した。
「フレイって奴も戦えんのか?」
「戦えるよー。そもそも私とフレイであちこち旅をしてるからね。どれだけ戦えるかって基準は………そうだな、二人でロニール雪山に一週間籠れるぐらい?」
「ロニール雪山………ですか。それに一週間も」
突然ジェイドが、驚いたように声を上げた。振り向くと、視線を受けたジェイドが説明を始めた。
「ロニール雪山とは、マルクト領内のケテルブルグという街の近くに聳え立つ山です。寒さは厳しく、雪崩も起きることから地元の人間どころか軍人ですらあまり寄り付かないことで有名です」
「え」
「じゃあつまり、ウィンもフレイもかなり強いってことになるじゃないか!」
ウィンの実力を想像したガイが叫ぶ。だから先程ジェイドとガイに刃物を突きつけられても大して動じなかったわけだと納得してしまった。
「ご飯ができたわよ」
そこで飯の支度をしていたティアが俺達を呼んだ。