プロローグ(過去編)
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昼過ぎから話し始めて、今は既に夕方。しかも少し夜に近い。
大体のことを説明し終わったがしかし、この世界のことを話す気にはなれなかった。本の中での世界とも言い換えても、どちらにせよ人為的に作られた世界だということに変わりはなく。けれど既に陛下の名前を言い当ててしまった状態だったので、『夢の中での』世界とした。無意識下の、下手したら空想上の世界だ、と。
話すだけ話して疲れた私は、俊哉の肩を借りて少し休んでいた。肩の高さが丁度いいのもあるが、唯一の味方である俊哉の存在が精神安定剤代わりになっているらしい。
「………質問、いいか?」
話し終えてからずっと熟考していた二人の内、陛下が声を上げた。声を出すのも億劫だったので頷くだけに留めると、陛下は考えながらも口を開いた。
「………お前達は、帰りたいか?」
ゆっくりと紡がれたその言葉に、思わず固まった。最初に出た質問が予想外の方向からだったのもあるが、言われるまで帰りたいとか考えていなかった。
「私は、帰ったところで将来に希望が見えません。けれど、七年後に起こるであろう騒動とその中心人物であるルーク・フォン・ファブレの支えができるこのチャンスを、私は活かしたいんです」
「俺も、瑠璃と同じです。一番辛い思いをして世界を救った人間が、一番自分を犠牲にしてしまった。心も、身体も。レプリカという身体で無理をしてしまったから、乖離は遠くない未来に来ていたかもしれない。けれどルークの乖離の場合は自然に起こったものじゃない、周りに自己犠牲を強いられ続けたからだ。心を殺された人間が、何故自己犠牲をしなきゃならない。ルークと、同じく死を要求されたアッシュを救えるなら、元の世界に帰れなくていい」
その言葉で私達の思いの強さを推し量った陛下は口を噤んだ。
最初に口にした質問が帰るか帰らないかということは、トリップしてきたことは納得したのだろうか。突拍子のないことだと理解していたので、一発で納得するとは思ってなかった。
「納得、したんですか?別の世界からの来たんですよ?普通だったら頭おかしい奴だとか言われても仕方ないんですよ?」
「正直、全てを納得できた訳じゃない。だが元いた世界から放り出されて一番不安なのは、お前達だろう。マルクトに落ちたのは何かの運命かもしれんな」
少し遠いところを見るような視線になった陛下だったが、それもすぐに戻ってきた。そして私達を見たあと、微笑んだ。
「お前達二人の身の保証は俺がしよう。皇族としての権力は使えずとも、各所に顔は利かせることはできる。とりあえず二人は………ここに住まわせることは可能か?アスラン」
「ええ、可能です。この世界で生きていくのであれば、文字の読み書きは最低限できなければなりませんね」
「ああ、そこの問題もあるな。口の固そうな家庭教師雇うか?」
「殿下が教えて差し上げないのですか?」
「俺に教師役は勤まらんだろう。かといって使用人達に教えさせるわけにもいかんしな」
「田舎から出てきたところを保護したという設定では?」
「今時田舎でも最低限は教えられるだろう。取引もできんし、本を読むなどの娯楽もできなくなるからな」
「では口外する恐れのない人物を雇い、文字の読み書きを教えさせるということで?」
「そのほうがいいな。言葉が通じるのは………まあ会話しかしてこなかったということにしておこう。読み書きができなかったのは親の教育不足ということにしておけ」
何故か私達を抜きで住居から勉学の話しになっていった。いや確かに読み書きができないのはキツいから助かるけどさ、住居がここ?
「へ、陛下」
「ん?ああ俺のことはピーニと呼べ。ピオニーの名前だけは知れ渡ってるんだ」
「あ、はい。………じゃなくて!私達ここに住むんですか!?」
「ああ。ここなら俺もアスランもいるから何かあれば対処しやすいしな。読み書きを覚えて仕事をして、収入を得るようになれば自由にしていい。それまでは甘えておけ」
大人としての当たり前のことのようだったが、唐突に決定された方は追い付いていない。そしてそのまま衣類の話に移った二人は、フリングス将軍が明日に休暇を取ることに決定していた。言わずもがな、私達の服を買う為に。
そうして半ば強引に決定した衣食住に呆然としながらも、部屋に案内されたあとは泥のように眠った。